アクナイ二次~TSドクターの受難~   作:よるめく

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(あらすじ)
外勤任務を終えたドクターは、ガヴィルとふたりで酒場に来ていた。カウンセリングついでに今朝のことを語って笑われていたところに、サルカズの傭兵たちがやってくる。

なんでも許せる人向け。
TSもの恒例、力で勝てない自分に打ちのめされる展開……と思いきやドクター元からだいぶ非力やんけ!
アークナイツは女の子の方が強いゲームです。


非力

「アッハハハハハハハ! それでお前、妙に凹んでたのかよ!」

 

「笑いごとじゃないんだよ、ガヴィル」

 

 外勤任務終了後に寄った酒場で、ドクターは肩を落としながら首を振る。

 

 医療と強襲、ついでに女体化したドクターの経過観察も担当することとなったガヴィルは、笑い声に驚いて振り返ってきた店中の客に手を振り返した。

 

 端の方でふたりっきり、カウンセリングついでに酒を嗜みつつ、ガヴィルはメンタルケアの用紙をしまう。

 

「ま、その辺のことは、ケルシー先生には黙っててやるよ。アーミヤからバレるかもしれねーけど」

 

「昨日の今日で、一体何を言われるんだ……?」

 

「さあな。案外何も言えなくなったりするんじゃねえか?」

 

「無言のケルシーか。それはそれで怖いな」

 

 いつもの無表情で無言のプレッシャーをかけてくるケルシーの姿を想像し、ドクターは軽く身震いをした。

 

 ただ、それは一旦脇に置く。イメージのケルシーが恐ろしいのは確かだが、差し迫った問題が別にある。

 

「それで、アーミヤになんて言えばいいと思う?」

 

「あー? んー……拳を交わすとかか?」

 

「まあ、君ならそう言うとは思ったよ」

 

 殴り合い上等のアカフラの民らしい発言に苦笑する。

 

 丁重に却下すると、故郷の仲間を軒並み殴り倒して出奔した大族長は不服そうな表情をした。

 

 しかしガヴィルには悪いが、それで解決するような問題ではない。アーミヤともどもそういう性格ではないというのはもちろんなのだが……。

 

 ガヴィルはジョッキを豪快に煽り、卓に叩きつけると、冗談めかして言った。

 

「にしてもすっかり乙女だな、ドクター? アーミヤに下着見られたくらいで悲鳴あげちまうとは」

 

「やめてくれ……違うんだ、あれはその、なんというか……」

 

 ドクターは急激に赤くなってきた顔を俯ける。酒のせいと誤魔化したいが、残念ながら無理だった。

 

 今朝、アーミヤに下着をつけたほうがいいと進言された後、ドクターは非常に躊躇いつつもエクシアたちに押し付けられた下着を手にした。

 

 改めて、布面積はそれなりながら、黒百合の模様をあしらったセクシーなデザインのそれを身に着けることに、凄まじい葛藤を感じながら取り組んだ。

 

 けれど履くだけのショーツはともかく、ブラなど当然着用した経験がない。背後でホックを引っかけるのにかなり苦労している最中に、悲劇は起こった。

 

 フランカの乱入である。

 

「お前もツイてねーよなぁ。よりにもよって、リスカムが一緒じゃない時によ」

 

「全くだ……」

 

 というより、リスカムが朝のトレーニングをしている隙を突いたらしい。

 

 ロドス艦内をぶらついていたフランカは、ドクターの部屋の前で待っていたアーミヤとミヅキを発見。ふたりの制止をのらりくらりとかわして、ドクターの部屋の扉を開け放った。

 

 結果、ドクターは下着をつけている瞬間を、ミヅキとアーミヤにも見られてしまい、アーミヤとそろって悲鳴を上げる羽目になったのだ。

 

 結局フランカの申し出により、彼女の手を借りて下着はつけられたものの、途中脇腹をなぞられるわ、首筋をくすぐられるわ、悪戯も散々受けてしまった。その時のやりとりの声を聞いたらしいアーミヤは、一切目を合わせてくれなくなった。

 

 ―――リスカムはアーツを使うたび、フランカのあんな悪戯に耐えていたのか。

 

 ―――出来る限り、彼女のアーツを使うような状況は避けなければ。

 

 実体験から来る同情していると、ふたりの座る席に幾人か近づく者たちがいた。

 

 見たところ、流れの傭兵たちらしい。既に酒が入っているのか、見るからに荒くれ者といった顔立ちを赤くしながら、ガヴィルを見下ろす。

 

「よお、姉ちゃん。そんな端っこで陰気に飲むタイプにゃ見えねえが」

 

「どうだ、俺たちと飲み比べて見るのは。あんたが勝ったらここはおごるぜ?」

 

「へえ。万が一にもあり得ねぇけど、アタシが負けたら?」

 

 どっかりと背中を預け、挑発的に問いかけるガヴィル。剛毅で勝気な笑顔から繰り出された質問に、答えは無かった。ぎらぎらと好色に輝く瞳がその代わりだろう。

 

 立派な体格と、使いこまれながらも手入れの怠っていない武器を見るに、どうやらそれなりに修羅場を潜った傭兵たちらしい。マットな光沢のある角を見るに、種族はサルカズ。

 

 ―――ガヴィルに挑むとは、命知らずな。

 

 ドクターは無言でグラスを傾け、舌の上に転がる言葉と一緒に飲み込む。

 

 粉をかけられても、別にガヴィルを心配することはない。ガヴィルの喧嘩で勝てる相手などそうはいないし、何より彼女は元々フリーの傭兵だ。あしらうのも慣れたものだろう。

 

 そんな風に考えていると、傭兵のひとりがドクターの方に目を向けた。

 

「……ん? よく見たら、あんた……結構な美人だな?」

 

「うん? ……は?」

 

 一瞬何を言われたのかわからず、ドクターは目を丸くして顔を上げた。

 

 気付けば、傭兵たちの中でもだいぶ若く細身の青年が、顎をさすりながら値踏みするようにドクターを見つめている。つられて二人ほど、視線がさらに加わる。

 

「本当だな。顔よく見えなかったが、こうしてみるとなかなか……」

 

「ちょっとお前、フード取ってみろよ」

 

「な、ちょっと……!」

 

 すっと伸びてくる手を払おうとするが、あっさりと手首をつかまれてしまう。振り払おうにも、力が強い。

 

 フードを脱がされ、ついでのように金属マスクも奪われて素顔を晒されると、傭兵たちは低い声で歓声を上げる。

 

「っ、こいつは……」

 

「……へえ」

 

 不可思議な視線を注がれ、ドクターは背筋が粟立つ感覚と共に顔を背けた。

 

 男の顔を見て何が楽しいのかという反抗心の下、つかまれた手を振りほどこうとするが、腕は少しも動かせない。

 

 傭兵の手に籠もる力が増し、あわや引っ立てられると思ったその直後、ドクターの目の前でテーブルが轟音とともに砕け散った。

 

 拳を振り下ろし、テーブルを破砕した勢いで立ち上がったガヴィルは、サルカズ傭兵たちを睨んだ。

 

「おい。そいつから、手ぇ離せ。次はこいつの顎に行く」

 

 水を打ったように静まり返る店内で、ガヴィルに指さされた傭兵の生唾を飲み込む音がした。

 

 歴戦の傭兵は、先の一撃でガヴィルの実力を悟ったと見え、ゆっくりとホールドアップしたのち、若い衆に顎で指示を出した。

 

 ドクターから手が離される。すぐさまフードとマスクを着け直したドクターの腕をつかむと、ガヴィルは足早に店内を後にする。

 

 傭兵たちの眼差しは、去り際に店員へ財布を投げつけたガヴィルではなく、ドクターの後ろ姿に向けられていた。

 

 そのうち、リーダー格と思しき男は、自分より少し年上の部下に問いかける。

 

「……あのフード被った女の方、サルカズじゃあなかったよな」

 

「だな。角は生えていなかった。ブラッドブルードって可能性もあるが」

 

「ブラッドブルード……いや、まさかな」

 

 傭兵は首を振ると、恐る恐るやってきた店員に軽く応対して、ふたりが座っていた席の辺りで飲み始めた。

 

 

 

 酒場を出たふたりは、足早に通りを歩く。

 

 日はとっくに沈んでいて、道は静かだ。空には星が煌めいていて、酒で火照った頬に当たる風が心地よい。

 

 ガヴィルは既にドクターから手を離し、歩調を合わせていた。時々背後を振り返るが、あの傭兵たちが追ってきているような気配はない。あっても、恐らくガヴィルひとりでどうにかなる。先に宿へ帰らせたオペレーターたちがいなくても大丈夫だろう。

 

 横目で視線を配ると、ドクターは握られていた手首に触れている。彼自身は気にしていないようだが、ガヴィルはひとつ気になったことを口にした。

 

「なあ、ドクター。あいつら知り合いか?」

 

「いいや。……どうして?」

 

「なんでもねぇ、違うならいい。にしてもよー、やっぱ非力すぎねぇか? 最近鍛えてるって言ってたよな」

 

「シデロカとドーベルマンにしごかれてる」

 

「パンチ……いや、あの状況なら蹴るか投げるかだな。どっちか教えてもらえ」

 

「あれを? 私が?」

 

 ドクターはあからさまに渋い表情を作る。

 

 サルカズの傭兵たちは高身長で、肩幅も拾い。おまけに武装までしているのだ。総重量が100キロあってもおかしくはない。

 

 元より非力で虚弱、加えて医療部の世話になっている患者の身。鍛えているからと言って、サルカズ傭兵をどうこうできるようになるのは、いつになることか。

 

 それを聞いたガヴィルは、盛大に溜め息を吐いた。

 

「本格的に、護身術のひとつぐらい習っといた方がいいぜ? アタシが付きっ切りってわけにはいかねぇだろ。ってか、もしかして、女になって筋力まで落ちてんじゃねえだろうな……?」

 

 ドクターの足がギクッと動きを止めた。

 

 視線を落とすと、胸の膨らみが視界を遮る。マスク越しに顔に触れ、さっきのことを思い出す。

 

 男の顔を見て何が面白いのか、と想ったこと。サルカズ傭兵たちの言葉。妙な反応。

 

 色々なことがあって頭から抜けていたが、まさかひと目で元男だとわからないような見た目になっているのだろうか。

 

「……ガヴィル、ひとついいか」

 

「あん?」

 

「私は……もしかして、女顔か?」

 

「元からじゃなかったか? ちょっとこっち来て顔見せてみろ」

 

「いや、いい」

 

 伸びてくるガヴィルの手から逃れ、足早に歩き始める。ガヴィルはいきなりどうしたとか、変な奴だとかぶつぶつ言いながらもついて、隣に並んだ。

 

 胸の奥、深いところに、激しく形を変える黒い霧のような不安が生まれる。

 

 少し雲の出てきた星空の下、ドクターはその不安の正体を恐れた。

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