元悪幹部の女性が闇堕ちした魔法少女達を救うお話 作:ギル・B・ヤマト
それは世界に終わりを告げる巨大な闇だった。
空に大きな穴が開いている。
厳密には穴ではなく、純粋たる闇の塊そのものだが。
ブラックホールを思わせる程に黒く、重力や光さえも吸い込んでしまう圧倒的な闇は、見た者に空に浮かんだ大穴だと勘違いさせそうだ。
だがその中で、闇の塊よりも遥かに──暗黒に染まった者がいた。
『世界の支配者である闇の帝王ジャーマンは、今復活した!』
暗黒世界の中心に居座る山の如き闇の化身……魔神が産声を上げた。
奴の周りに存在する底が見えない闇が彼の誕生を祝福するように、世界を暗闇に染めてその元凶たる主人の存在を世界各地へ響き渡せる。
「あれは……!?」
「何よコレ、何が起きてるの!?」
ニューヨーク、東京、パリなど世界各地で突然空に映し出された映像。
科学では無く異世界の魔法によって生み出されたソレは、見た者を混乱の渦へ陥れていた。
不安、絶望、悲しみ、憎悪……見るだけで人の心を掻き乱す魔神の名は闇の帝王ジャーマン。
全てを壊す暗黒魔神である。
『そして我が宿願も達成する時はすぐ目の前となった!』
ジャーマンの宿願とはこの世界全てを邪悪に染める事。
そこに大きな理由などない。過去に誰かを失ったから、復讐をする為だとか闇の魔神にそんな動機は存在しない。
彼は
『思い返してみれば長い年月だった。前の世界から我を邪魔する光の使徒。忌々しい奴らとの戦いにも終止符を打てるわ……!』
元々ジャーマンはこの世界の者ではない。
妖精界という別世界からやってきた者だ。
妖精界で
その世界こそ魔法が存在せず科学によって文明を発展させた惑星──地球だった。
そしてジャーマンは気付く。
魔法無きこの世界でも暗き感情を持つ者達がいると。
人間……ジャーマンは己が生み出した手下を使い、彼らの憎悪や後悔と言った負の感情を集めていた。
負の感情こそジャーマンにとっての娯楽、いや命の源だ。故に仕事や生活で疲れている存在──人間とは彼にとって格好の餌だったのだ。
最初は残り滓みたいに微弱でも、助長させれば大きく美味しい塊へと変わる。
ジャーマンはそうして負の感情を増幅させた人間の心を捕食し、封印されながらも徐々に力を溜めていた。
そして何度も繰り返した末に……ジャーマンは復活を遂げたのだった。
魔神である奴は名前の通り格別に強い。
復活直後だというのに世界を闇で覆い、奴自身から放たれるオーラで絶望する人間を増やしていく。
闇が広がれば絶望している人間の数が増えて、それを捕食しまた強くなる。文字通り負の連鎖だ。
このままでは世界は闇の魔神に支配されてしまうだろう。
だが同時に人間達は知っていた。
魔神とその手下達へ挑んでいたヒーローという存在を。
いつも闇の手先から世界を守ってくれた救いのヒーローがいる事を人間達は知っていた。
その名を『マジェスティックレディース』
魔法の鎧を身に纏った可憐な三人の少女達。
それぞれ赤、青、黄色をトレードマークにする彼女達は、少女とは思えない屈強な身体能力と諦めない心で今まで何度も世界を救ってきた。
人類は彼女達に助けられ、時に共闘して壁を乗り越えてきた。
しかしその希望は今──
『まずは世界を支配する第一歩として貴様らを使うとしよう──
──
──かつてない絶望へと変わる。
暗闇から新たに現れた少女三人。
いつも着ていた魔法少女らしい服装は黒に染まり、輝かしい光は邪悪なオーラへと変わってしまった。
その姿にかつてあった守護の象徴は存在せず、禍々しい闇だけが健在していた。常に力強く輝いていた彼女達の目にも光が無い。
黒き体から発せられるオーラは凍える吹雪の様に冷たく、優しさなんて一欠片も残っていなかった。
マジェスティックレディースは……魔の手に堕ちてしまったのだ。
『フハハハハハハ!!! 世界の悲鳴がよく聞こえるわ。とても心地よいぞ……!』
物言わぬ人形となった彼女達の後ろで人類を蔑む様に魔神は笑う。
生物の域を越えて神と同等であるジャーマンは遥か遠くで逃げ惑う人間達を感じ取っていた。
それがとても気持ちよくてしょうがない。
『絶望の闇よ……世界を飲み込んでいくが良い!』
そして広がる闇の世界。
ジャーマン達がいる黒の塊が周りの山を飲み込んでいく。
「嘘だろ、あの子達が敵になったのか!?」
「もう世界は終わりだぁ!」
モニターからその光景を見て混乱の拍車がさらに掛かる人類。
彼女達が敵に回ってしまったら誰もジャーマンを倒す者などいない。
そしてジャーマンが完全復活した今、暗黒の時代が到来するのも時間の問題となっていた。
『マジェスティックレディースよ! 貴様らが守ってきたこの世界を貴様ら自身で破壊のかぎりを尽くすがいい!!!』
「「「はい……全ては闇の帝王ジャーマン様の為に」」」
ジャーマンの命令に忠実な彼女達を見て満足気な笑顔をみせたジャーマンは次の行動に移そうとして──闇の世界へと迫る気配を察知して止めた。
『……ほう、何か来るな……虫にも劣るもの達だが』
光の戦士以外にも勇敢な者はいるらしい。
現実に打ちのめされる者達が多く存在する中、それでもと戦う者達は存在していた。
歪に笑う魔神の目に映るは空を駆ける銀色の流星。
妖精界には存在しなかった鉄の塊、しかし魔法無しにも関わらず音速で空を翔ける摩訶不思議なもの。
それが四十以上の数で迫ってきていた。
『こちらアルファ1。目標を確認』
戦闘機。
マジェスティックレディース達が現れる前までは人類の主力として活躍していた兵器だ。
『了解。……よしお前ら。相手は闇の魔神だ。言うまでもないが今まで以上に厳しい戦いになるだろう』
いつもならとても頼もしい存在だろう。
しかし今の闇の帝王は完全体。
彼らだってその事はわかっている。
分かっているが──それがどうした。
『俺達には守るべき存在がいるんだ! いつまで経っても少女達に世界の命運を任せていられない!』
俺達が動かなければ妻や子供達は誰が守る?
俺達より先に命を掛けて守ってくれた少女達がいた。
小さな体で多くの人達を守って来たヒーローがいた。
なら大人達の自分達が勝てない相手だからだと逃げるわけにはいかない。魔神に立ち向かう者達全員が、決死の覚悟で来ていた。
『お前ら、奴らに人類の力を見せつけてやれ!』
隊長が無線でそう叫べば全ての戦闘機からミサイルが発射され、空に浮かぶ闇の塊に突撃して行く。
『ミサイル。目標に命中!』
八十を超える数で迫ってくるそれはまるで鉄の雨のようで、周りにある山の木達を過激に揺らす衝撃を生み出した。
だがそんな攻撃も、爆煙から現れた無傷の闇を見て無意味だったと思い知らされてしまう。人類の攻撃を嘲笑うように、ただただ闇の領域を広げていた。
『無様だなぁ……少しはゆっくりしていこうかと思ったが』
ジャーマンがつまらなさそうに呟いたと思えばパイロット達の視界が暗転した。広がる闇の速度が加速して、晴天の空、緑一色の山、そしてパイロット達を、ジャーマンが支配する暗黒世界へ引き摺り込んだのだ。
『どうなってるんだこれ!?』
『いきなり世界が変わりやがった!』
『お前ら攻撃に備え──ッ!?』
歴戦のパイロット達も未曾有の事態に狼狽えてしまうが、戦闘機に飛び降りた脅威がそれ以上の困惑を許さなかった。
部下の混乱を解こうとする隊長の前に、
『お前……いや君はっ!?』
マッハを超える戦闘機に平然と着地した敵の姿に隊長はひどく見覚えがある。
服が殆ど黒に染まりながらも……僅かに残っている赤色のラインが、隊長に『マジェスティックレディース』のリーダー:レッドだと教えてくれた。
目に光はない。
共に戦った時に見た優しさある光は闇に消えた。
どこまでも沈んでいく暗くて冷たい目で隊長を見下していた。
『殺せ……命を奪え……かつて人を助けたヒーローが人殺しをする。その素晴らしい光景を私に見せろ』
「はい……ジャーマン様」
魔神に忠実なレッドは拳に魔力の炎を宿して狙いを定めている。
言われるまでもなく隊長に向けて。
(まずい!)
なんとか逃げようとする隊長だが間に合う訳もなく、少女の拳が命を刈り取ろうとして……
『待ちなさい』
出来なかった。
『何……?』
闇の結界を突き破って一筋の光が差し込む。
「───!」
光に、というより侵入者を見て固まったレッドが吹き飛ばされる。
新たにやって来た侵入者──黒の衣服を見に纏った少女に蹴飛ばされたのだ。
「アンタは……なんでこんな所に?」
そして隊長も
闇に差し込む一筋の光。
壊れた闇の結界が侵略者の周りへと降っていき、光に当てられガラス片の粒子となる。
そして光の粒子に囲まれた彼女はまるで『マジェスティックレディーズ』と同じ希望の象徴のよう。
だが隊長は良く知っていた。
彼女はその
「…………言いたい事はいろいろあると思います」
隊長に声をかけられ振り返った少女の表情は大分変わっていた。
前は目も暗く生気を感じなかったが今は輝いている。
闇のように冷たかった彼女が今では、戦友としての頼もしさと一人のヒーローとしての暖かさを持っている。
「今は逃げてください。ここは私がなんとかします」
しかし悔しいが、今の自分達に出来ることが無いことを隊長はよく分かっていた。
疑問は残る。
彼女にここを任せていいのか不安もあった。
だが不思議と、隊長は彼女に希望を託そうと思った。
「……分かった。情けないが俺達じゃ何もできなさそうだしな」
「………………」
「だから後でお礼させてくれ。それぐらいの事をしなきゃ妻に怒られちまう」
「……フフッ。分かりました、楽しみにしてます」
ジャーマン達は去っていく戦闘機達には何もしない。
奴らは闇の帝王にとって居ても居なくても変わらない存在だ。
正直に言ってどうでもいい。
それよりも目の前の
どうでもいい奴より少しだけでも興味があるならそっちを見るのが当然だろう。
『貴様は……』
目の前にいる闇の衣装を身に纏った少女。
髪の毛は青白く目は赤い。
その姿は正義のヒーローというよりむしろ逆、悪の幹部を体現した女性だった。
『誰かと思えばマジェスティックレディースに負けた
事実、彼女は悪の幹部
ジャーマンは嘲笑う様に名前を呼ぶ。
彼女の名をミラル。
悪の組織の幹部としてマジェスティックレディースと何度も敵対した宿敵にして──
──心のぶつかり合いの果てに消え去ったはずの一人の少女だった。
しかしそんな予想外の敵が現れてもジャーマンの余裕は崩れない。
当然だ。戦闘力が違いすぎる。
ミラルはマジェスティックレディースに負けた雑魚。
そしてマジェスティックレディースは今、闇の帝王ジャーマンの手に落ちている。
この戦力差をどうにかする事はできない。
それにだ。
闇を浄化する光の力が無ければジャーマンを倒す事は絶対不可能であり、闇の化身であるミラルでは当然倒すことは出来ない。
故にマジェスティックレディースが闇に堕ちた事は世界の終わりを意味するのだ。
『今更現れて何をするというのだ? もしや世界の支配者になった我にもう一度手下にしてくれと懇願するか?』
卑劣な笑みを浮かべながらジャーマンはそう言う。
しかしミラルは全く動じることなく、光を秘めた瞳をまっすぐ見つめながら凛々しく言葉を返す。
「違う。私は貴方を倒しにきたの」
「何……?」
ジャーマンは己の目を疑った。
何故ならミラルの手にはマジェスティックレディースしか持つことが許されない道具があったからだ。
彼女達が変身する時に使う伝説の道具を。
「正確には彼女達に恩返しを……だけどね────」
今まで無機質な表情を浮かべていたミラルが笑顔を見せた。
ミラルが思い浮かべるのはこれから起こる決戦ではなく、今の自分を形作った心ある過去。
闇の化身として生まれ。
他の幹部達と協力。
うっかり光の使徒達と仲良くなってしまい。
だけどぶつかり合って消えて。
やがて一人の
そして
『古の光よ……今ここに!!!』
その言葉を放った瞬間、彼女は白い光に包まれた。
『まさか、お前が……』
黒一色のドレスに白の線が加えられ、ドレスそのものも邪悪から神秘的な姿へと変えていく。生まれ変わる彼女の姿は間違いなく、今まで戦って来たマジェスティックレディーズそのものだ。
それもただのマジェスティックレディーズではなく……
『よりにもよってその力を手に入れるとはな……!』
白い光に影が差し込んでいる。
闇と光、相反している二つの要素を兼ね備え、それでいて完成している。まるでその姿は彼女の
光の中から生まれた伝説の戦士。
彼女は瞳を閉じながら覚悟を決める。
『私はメビウスの元幹部ミラル。そして』
そして目を開けて──
『マジェスティックグレイ!!』
光と闇の戦いが始まった。
今後はどんなストーリーが見たい? No.2(ミラル)メインの物語は確定で書きますが、それ以外で追加があれば……。
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No.2(ミラル)の物語だけを見たい。
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メビウス側の物語も一緒に見たい。
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魔法少女達の物語も一緒に見たい。
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全部!