宇宙戦艦ヤマト2202β ―瞬光の土星― 作:さいおーま工廠
また各所、設定が異なっている点などは本文中にて順次、紹介していく予定です。
濛々と上がる土煙、むせかえる血臭。
あちらこちらで火災が起き、時おり遠くで爆発音が聞こえる。
そんな生き地獄ともいえる状況の中で、この星の駐屯軍―第七空間騎兵連隊長斎藤一一佐は、重い瞼をあけた。
「俺は…生きているのか?」
少しずつ、体を動かしてみる。
指先、あし、腹にも力を入れてみる。
最後にヘルメットを手で触ってみるが、大きな損傷はないようだ。
どうやら命拾いしたらしい事を確認し、斎藤はゆっくりとした動作で体を起こした。
多少あたまを打ったのか、フラつくが、なんとかもう一度地面に耐えれるようなことなく持ちこたえる。
そして座った体制のまま、状況を確認するように、周りを見渡した。
「ちくしょう…っ!」
残念ながら、近くに人はいないようだ。
ヘルメットのバイタルスコープに、生物らしき熱源は映らない。
どこかに隠れているのか、あるいは全滅してしまったのか…
場所を移動しようと立ち上がりかけたところで、爆音が聞こえる。
「ちっ、またカブトガニが来やがったか!」
咄嗟に近くのガレキに身を隠す。
刹那、黄緑色のカブトガニのような形をした航空機が、頭上をかすめていった。
あれこそが、今回の敵。
「ガトランティスの畜生めっ!」
彼らのことは、再乙に限らずよく分かっていない。
西暦2199年に宇宙戦艦ヤマトが、イスカンダルへの旅の道中に遭遇した敵性国家の一つ。
ガミラス戦役後に情報共有された情報を、僅かに知るのみだ。
彼らについては、先に戦端を開いていたというガミラスさえ知りえないことが多い。
大帝と呼ばれる国家元首のもと、ワープ技術を持つ好戦的国家であるということ。
そしてガミラスの版図に当たる小マゼラン外縁部で、たびたび小競り合いが起きていた事。
そのガトランティスが何故、遠く離れた太陽系に、どうやって進出してきたのかは分からない。
分かっているのは、突然膨大な数の艦隊がここ、第11番惑星二―ベルに強襲をかけてきたこと。
そして地球方面へ超空間通信で救援要請を送ろうとしたときには、既に通信不能にされていたことぐらいだ。
その後、あのカブトガニのような爆撃機が無数にあらわれ、周到にレーダー設備や艦船の集まる宇宙港を破壊していったのである。
そのあとは、住民たちの住む街へも情け容赦ない無差別爆撃が始まった。
出来れば今通過していった奴も、見過ごさず撃ち落としてやりたい気分だ。
しかし今はグッとこらえ、周囲を注意深く観察して破壊された町を歩く。
「だれか、誰かいないか…っ!」
歩く道すがら至る所、人や人だったものが転がっているのばかりが鼻にも目にも付く。
むろん呼びかけに返事はない。
昨日までのクリスマス祭の喧騒が嘘のように町は静まり返り、炎と血で真っ赤に染め上げられていた。
まるで、3年前に月で孤立した時のようだと斎藤は思った。
時おり通過する爆撃機や無人機をかわしつつ、斎藤はあてどなく街を歩いた。
どれくらいの時間、歩いただろうか。
ふと、斎藤の目に青い肌の人物の姿が映った。
このニーベルには地球からの人間以外、ガミラスからも一定数の住民が移り住んでいる。
彼らの肌は地球人のそれと違い、スミレのように青い色をしていた。
彼女は崩れ落ちた建物の前で、呆然と立ち尽くしているようだった。
「おい、無事か!」
少女は声のした方―斎藤の方へ首をまわし目を合わせた。
遠目にみたところ、大きな外傷などはないようだ。
なぜ、この地獄の中であんな少女が無事なのか、という事より生きた人に出会あえたという嬉しさの方が上回った。
だが束の間の嬉しさも、その背後から迫る無人機が現れたことですぐに絶望へ変わる。
「あぶねぇ、伏せろ!」
「?」
少女は自分の身に何が起きようとしているか、分かって居ないようだった。
彼女を助けたい一心でガレキの中を一生懸命走るが、ガトランティスの無人機は少女の目の前だ。
どうやら彼女も存在に気が付いたのか後ずさりを始めるが、とても逃げ切れそうにはない。
駆け付けたところで、ロクな武器も持ち合わせていない斎藤に、なす術はない。
だがせっかく生き残っているのだ、なんとか助かってほしい一心で走る。
刹那の瞬間、無人機が赤く光り、その双腕を少女に向け―
同時に、すさまじい銃撃音と同時に無人機の腕が吹き飛ばされた。
無人機は銃撃のあった方向へ頭部をもたげるが、そこへも情け容赦ない銃撃が浴びせられ、程なく無人機は光を失い、その胴体をガレキに横たえた。
少女に、怪我はない。
しかし誰が銃撃を―斎藤がそう思うや否や、建物の陰からホバーバイクに乗った空間騎兵達が姿を現し、少女を取り囲んだ。
「お嬢ちゃん大丈夫?ケガはしてないかい?」
「?」
「へへっ、こんな場所で丸1日生きてたなんて、このガキ相当ツイてるぜ!」
「すぐ奴らが来る、保護したらズラかるぞ!」
「お前ら…生きてたのか!」
少女のほかに人がいると思っていなかったのか、空間騎兵たちはびくりと体を震わす。
しかし声の主―斎藤―の姿を見るや、安堵と共に感極まった様子で彼に走り寄った。
「隊長っ、よくぞ御無事で!!」
「もう死んじまったって思ってましたよ、今までどこに居たんすか隊長!」
「隊長、お怪我はありませんか!?」
「永倉、倉田、古橋、おめーらもよく無事だったな!」
彼らは斎藤の現在の部下で、ガミラス戦役時代からの戦友でもある。
今回の襲撃で隊はチリヂリになってしまい現在、どれほどの戦力が残っているのかすら分からない。
そんな中で、こうして偶然巡りえたのは奇跡と言っても過言ではない。
しかし状況が状況だ。
再会を喜んでばかりもいられない。
「今の戦況はっ!? 司令部はどうなってる」
斎藤の問いかけに、再会を喜んでいた永倉たちの表情が一斉に曇る。
無人機がのさばっている時点で分かっていたが、状況は切迫しているようだ。
「私たちも何とかかんとか、身を隠しながら生きてきました。司令部が今どうなっているのか、分かりません」
「バックパックの通信機を所々において、救援要請は送っていますが…」
永倉の報告にかぶせるように、倉田が更に表情を沈める。
丸1日、彼らはさっきそう言っていた。
それだけの間、彼らはこの地獄の中を生き抜いたうえで、出来る最善をやり遂げたのだ。
斎藤は鼓舞するように、彼の肩を持った。
「諦めるんじゃねぇ! 命ある限りけして諦めない、それが空間騎兵魂だろうが!! 二度ダメなら三度、千回ダメなら一万回でも送り続けんだよ!!」
「は、はいっ!」
沈んでいた顔に生気が戻り、斎藤もそれを見て満足する。
戦場では、諦めた奴から死ぬのだ。
今はとにかく、一人でも多く生き残ることが勝利につながる。
そのためには、少女と共にこの戦場を脱出する必要性があった。
「ところでお前ら、何処に潜伏していたんだ? ほかに生存者は?」
「2ブロック先に研究所があるんです、そこの研究ラボが恐ろしく頑丈に出来ていて、生き残った住民を集めてます」
「そうか!」
どうやら生存者が自分たちだけではないことに、斎藤は今日一、安堵する。
2日も音信不通になれば、さすがの地球本星も異変に気付くはずだ。
増援が来れば、助かる見込みは十分にある。
すぐにその研究施設とやらへ向かおうとする斎藤たちの元に、爆音が聞こえ始めた。
先ほどの銃撃のせいか、それとも無人機が壊されたのが発覚したのか。
カブトガニ型の3機が編隊を組んで遥か遠くから、こちらへ向かってくるのが見えた。
それに随伴するように、多くの無人機もこちらに向かってくる。
永倉たちはホバーバイクに積んでいたランチャーなどを持ち出し、構え始めた。
斎藤も残った武器を持ち出そうとして、永倉に止められる。
「隊長は、その女の子を連れて逃げてください!」
「なっ、なんだと!?」
「ここで全員死んだら、それで終わりです! ここは我々に任せて、民間人保護を優先してください」
永倉の言っていることは至極もっともだ。
だが部下を置いて隊長が逃げ出すなど、斎藤の考えにはない。
「バカヤロウ、そういうのは男の俺に任せて、お前は…!」
「私が女だからなんだって言うんです!? 我々には隊長が必要なんです、ラボにこもっている民間人も隊員にも、指揮が出来る人間が必要なんです!」
「隊長はどっしり構えて、俺らに命令したら良いんすよ。ここは任せたってね!」
すまねぇ、と言い残して斎藤は少女の手を引っ張り、一目散に研究施設のある方向へ走り出した。
大人の足と子供の足で歩幅も違うので、少女は無理やりひかされているようになっているが、気を配っている余裕はない。
そうしているうちに、背後で銃撃が始まった。
「ねぇオジちゃん、ヤマトは来ないの?」
「な、なに?」
息を切らしながら、少女は悲痛な面持ちで斎藤を見上げてくる。
「お兄ちゃんが言ってたよ、悪い奴らはヤマトがやっつけてくれるんだって」
宇宙戦艦ヤマトはかつて、地球が滅亡の淵に立たされた際に決死の覚悟で、往復33万6千光年の旅へ出た。
その道中で、ガミラス本星バレラスへ落下した第2バレラスをヤマトが破壊し、結果的にバレラスの民を救ったのは有名な話だ。
しかし地球の船がこうしてガミラスの子供に、正義の味方のように言われるのは不思議な気分である。
しかし、悪い気分ではない。
「ああ、来るさ。ヤマトは来る、必ずな!」
自分に言い聞かせるように、走りながらも斎藤はそう宣言した。
実際にヤマトが来るかどうかは関係ない、それでも救援が来るという希望は必要だ。
そのために部下たちが戦っている、この子は死なせはしない、この命に代えても必ず!
だが斎藤の決意をあざ笑うように、こちらの存在に気が付いた無人機のいくらかが、進路を変え接近してくる。
永倉たちが救援に向かってくるが、間に合いそうにない。
せめてこの少女だけでも―、斎藤は少女に覆いかぶさるようにその体を丸めた。
程なくして、大きな振動と共に爆発音が響いた。
しかし斎藤の予想とは違い、身体を貫くような衝撃ではない。
軽く顔を上げると、こちらに向かってきていた永倉たちは、呆気にとられるように空を見上げていた。
なにかあるのか―?
そう思い恐る恐る、顔を上げた先には、月で一度見た、上半分が灰色下半分が赤色に塗られた宇宙戦艦がその砲火で次々にガトランティスを叩き落としていくのが見えた。
「来やがった―本当に、来やがった!!」
「ヤマトだ!」
少女は満面の笑みを浮かべ、現れた救世主の名を呼んだ。
第1話以降の公開時期は、現時点で未定です。(本年度中を目指しています)
よろしくお願いします。