電脳虚数異聞録 電脳戦記Vドライバーズ   作:翁長希守

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蒼い瞳にうつるモノ

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蒼い瞳にうつるモノ

another eye in another world

 

「おーい」

 カンナはドアを数回ノックした。だが、反応はない。

「起きてくださーい」

 もう一度ノックしてみる。今度は少し強めにだ。が、これもまた反応はない。

「……」

 少し思案したカンナは、ドアノブに手をかけてみることにした。

(開いてるか……)

 ドアノブをひねって少しばかりドアを引く。どうやら鍵はかかってないようだ。

「失礼しまーす……」

 小声でひっそりとそう言いながらカンナは入室した。

「……」

 だだっ広い部屋の隅に、キングサイズのベッドがある。そこには布団があり、誰が見ても、その中でうずくまっているであろう隆起が見て取れた。

「ルミナス様」

 カンナが名前を呼ぶが、反応は無い。

「起きてください、ルミナス様」

 今度は布団がもこりと動く。どうやら包まった布団の中で寝返りをしたようだ。だが、起きる気配は全くない。

「……仕方ない」

 カンナは強硬策に打って出た。

「そらっ!」

 カンナは布団を思い切り剥ぎ取った。

「うあぁっ……!」

 布団を引っ剥がされたと同時に、それにくるまっていた少女の軽い悲鳴が出た。

「!」

 そしてカンナは気付く。

「あうう……」

 その少女のあまりにも無防備な姿を目にしてしまった。

 はだけた大柄のパジャマから露出したぶかぶかのキャミソール、そしてそこからちらりと見えてしまっている、まだ小さいながらも膨らみかけた胸とその頂。更に下半身は、小ぶりで純白なショーツだけ。しかも上半身ははだけ、下半身の下着はフィットしすぎているのか、華奢で幼気な体躯がほぼそのまま現れている。

 思わずその姿を見て顔を紅潮させるカンナ。彼もまた一人の男である、興奮するのもやむなし。

「カンナさんのえっち……」

 寝ぼけた声で少女はカンナに言葉をぶつける。

「誰がそうさせたんですか、誰が」

 カンナは顔を赤めらせたまま反論するも、それ以上の反論はしなかったし、できなかった。彼女のあられもない姿を見て興奮しているのは事実だから。

「ふあぁ」

 少女は上半身をゆっくりと起こして、大きなあくびをかきつつ、肩から外れたキャミソールの紐を戻し、寝ぼけまなこをこすりながらベッドから降りた。

「カンナさん」

「何か?」

「お着替えしますから、出てってくれますか?」

「……分かりました」

 何か文句を言いたげな表情で少女の寝室を出るために入り口へ戻るカンナ。

「はぁ……おやすみなさぁい」

 と、少女は再び布団に突っ伏してしまった。

「だぁーかぁーらぁー!」

 少女の態度に、振り返って声を荒げるカンナであったが、彼女の寝ぼけが吹っ切れるはずがなかった。

「もう少し寝かせてください……」

「もう時間がないんですってば」

「今何時?」

「午前の九時と半です。シャングリラ行きのシャトルは二時間後ほど、ギガ・フロートまでお見送りするのにある程度時間かかりますから、ギリギリなんですよ」

「わかりましたぁ……」

 今度は自発的に起きた少女。と思いきや――。

「でもだめぇ……」

「こらー!」

 三度突っ伏した少女に、声をさらに荒げるカンナ。

 ――この少女の名は『ルミナス』。

 今は寝惚けてはいるが、『この世界』において重要な責を負うモノの一人である。

 

 着替えを済ませ、寝癖を直し、歯磨きを済ませ、顔を洗って、身支度を調えたルミナスは、カンナに一台の車の前に連れられてきた。

「さ、早くお乗りください」

「んー……」

 カンナは自らの愛車の助手席側のドアを開けると、ルミナスに乗り込むように促した――のだが、等のルミナス本人は何やら嫌そうな顔を浮かべ、不本意そうにしていていた。

「どうしたのです?」

 訝しんだカンナはルミナスに訊く。

「カンナさん」

「何でしょう?」

「別のクルマはありませんか?」

「私のクルマでは不満なので?」

「はい」

 堂々と淀みなく答えたルミナス。

「何故です?」

「そのクルマ、なんと言いましたか?」

「セリカのGT-FOUR、ST205ですが? まあ、旧世界の遺産ではなく模造品ではありますが――」

「いつ見ても、モノズキが好きそうなクルマですから」

「確かに私は物好きです。伊達や酔狂も大好きです。だからこそ自分の好きなクルマに乗っているんです」

「それがイヤなんです。乗り心地が悪くてクルマの中で眠れません」

「確かにサスペンション等の足回りに手を加えているのは事実ですがそこまでバンピーなカスタムは行ってません。それにルミナス様、毎度今と同じ事を言っておいていつも座席でぐっすりと眠ってらっしゃるのは何故ですか?」

「眠いからです」

「ではクルマの中でゆっくりと寝てください」

「寝心地が悪いんです」

「お気持ちは分かりますが今は人が出払っていて暇があるのは私ぐらいなのです。ご理解ください」

「ケチ」

 そうルミナスはつぶやくと、渋々ながらカンナのクルマの後部座席へと乗り込んだ。

「全く、ワガママなお嬢様だこと」

「何でしょうか?」

「何でもありません」

 カンナも一口、愚痴を吐き捨てるとそそくさと運転席に乗り込み、エンジンをかける。

「では、参りますよ」

「よろしくお願いします」

 カンナは一度エンジンを空吹かしした後、それなりに『優しく』、世界樹の根元へと出発した。

 

 ――それからおよそ、三十分後のこと。

「……やっぱり寝てるじゃないか」

 カンナの予想は見事に当たっていた。

「ん……はぅ――」

 ルミナスは寝言をつきながら深々と眠りに入っていた。リアシートにてサイドウインドウに頭を擡げて、深々と。

「――まったく」

 まあ、まんざらでもないのがカンナの優しさからくる心境なのだろう。

 

「ルミナス様、起きてください、ルミナス様」

「……へ?」

 情けない声で返答するルミナス。大分熟睡していたので仕方がないと言えばそうなるか。

「ルミナス様、着きました」

「着いた? 何処に?」

「『世界樹の麓』です」

「せかいじゅのふもと……?」

「そうです」

 擡げた首を地面と垂直にする。そして窓から周囲の風景を見渡す。

 そこには純白に舗装された、特殊なセラミックで構成された無機質な広場が広がっていた。

 だが、よくよく見ると、その広場の向こうには幾つもの軍事施設らしき建造物が点々と。おおよそ、『世界樹の麓』なんていう様相は呈していない。

「『世界樹』なんてご大層なファンタジー要素、この世界にありましたっけ……?」

「まあ、確かにここはそんなファンタジックな世界ではありません。むしろ、どちらかと言えば西暦の延長線上の世界ですのでリアリティが勝ってますね」

「おかしいですね、そんな世界に『世界樹』なんて」

「そう呼びたがる人が多いんですよ。もとよりこの世界も、『現実』とか『リアル』なんてほど遠いところにあるんですから」

「ま、そうですね」

 ドアを丁重に開けて、ルミナスは白い特殊セラミックでできた大地に足を着く。

「くっ――」

 眩しい初夏の太陽の光がルミナスとカンナを照らす。

 思わず太陽光を遮るように、ルミナスは手をかざす。

 ――彼らはもう、この光を見ることができないのか。

 強い罪悪感がルミナスを襲う。

「ルミナス様」

「あ、何でしょう」

「あまり気負わずに」

 心ここにあらず――彼女の心をくみ取ったカンナはいつも察しがいい。

「失礼しました」

 そして、少女と青年はゆっくりと世界樹の麓へと向かっていった。少女の方は、過去を振り切るように。青年は少女を導くように。

 その向かう先は、世界樹の幹の中である。

 

 軌道エレベーター、またの名を『世界樹』。

 そして、そこより地球を見下ろすかのように造られた太陽光発電システムと居住区画、オービタルリングを、総じて『サンクチュアリ』。

 それはかつて人類の英知の結晶としてまつりあげられた、あまりにも巨大な一種の象徴。

 その基部には、巨大な港湾都市エリアが広がり、併設されるように新国際連合体『ユニオン』の、限定戦争執行部直轄の基地『ヘヴンズベース』が、この軌道エレベーターとオービタルリングを往来する船舶や物資を監視している。

 普段から地球圏内外から様々な交易船、旅客船、貨物船の監視も受け持つヘヴンズベースの警備は、今日はいつにも増して忙しく動いている。

 そこにはルミナスとカンナの姿もあった。二人が降り立った場所はヘヴンズベースの特別区画、極々一部の要人でなければ立ち入りが出来ない場所である。ここから世界樹の幹へ入ることが出来るのも限られるし、もとよりこの入り口の存在を知る者も大いに限られている。

 この入り口から入れば、特別エレベーターシャトルでサンクチュアリ上層にある宇宙港へ何ら苦労せずに向かうことが出来る。

「んー」

「ルミナス様、いかがなされましたか?」

 その道すがら、明らかに不機嫌そうな表情を浮かべているルミナスにカンナが訊く。

「随分と物々しいですね、今日は」

「それはそうでしょう」

 確かに、ルミナスとカンナがいる特別エリアから見渡せる一般区画エリアを覗いてみれば、ヘヴンズベースとはまた違ったベクトルで慌ただしく人々や警備部隊が動いている。端的に言えば、ヘヴンズベースよりも警戒が物々しくなっているのである。

「ご存じなんですか?」

「存じ上げているに決まっているでしょう、お忘れですか?」

「ふむ」

 知らないはずが無いのだが、ルミナスは知らぬ素振りをしている。それも明らかにわざとらしく。

「メタいこと言いますと、解説が必要かと」

「ルミナス様、そういうことを言わせないようにしてください」

 言ってはいけないと釘を刺すカンナ。

「まあ、言いますと――」

 それでも解説をするカンナ。

 翌日にユニオンの大規模総会が開かれる。

 その議題は、とある限定戦争にて現在発生している『問題』に関する会合である。その会合のため、ルミナスはその議会のあるユニオン直轄コロニー『シャングリラ』へと向かわなければならない。ルミナスの役目は、ある『確認』をすることである。

「――と、そんなところです」

「うーん」

「今度はなんですか?」

「わざわざ私がこうやって行かなきゃいけない理由って、なんでしょうか?」

 確かにこのご時世、わざわざ対面で顔合わせをして議会に臨む――なんていうことも古い慣習になってしまった今でそういうことを何故しなくてはならないのか? リモートトークや、デジタルバースもある上でわざわざ今回、それに拘るのには若干の理由がある。

「今回の議題は少しばかりデリケートで複雑な問題なんです」

 そうなのだ。

 対面しなければならないのは、それだけ重要な議題であるということなのだ。

「それもそうなんでしょうけど、私が行く意味、ありますか?」

「ルミナス様自らが直々に出向きたいと仰っていたのを私めは記憶していますが、記憶違いでありましょうか?」

 少しばかり威圧感を持たせた口ぶりで、カンナがルミナスに言葉をかける。

 『確認』にはルミナス自身の意志で選んだことだ。わざわざ蒸し返すのは変である。故のカンナの威圧である。

「これは失礼しました」

 それを受けてか否かは定かではないが、ルミナスは微笑みつつカンナに非礼の詫びをする。カンナに対しての瀬踏みともとれる一連のこの流れだが、ルミナスとカンナにとっては普段と変わらない一種のテンプレート的やりとりである。ある種の相互の意思確認といったところか。

 そんなやりとりをしている間に世界樹の幹に入るゲートに目をやる。

「? あそこにいるのは……」

 世界樹の幹の中へと続く特別ゲートの前に四名の女性の姿があった。

「モミジに、カエデ。ウルザ、あとの一人は――」

「ヒョウキ……」

 ルミナスにとってもカンナにとっても馴染みの顔である。

「カンナさん、コレ、どういうことなのです? 私の警護はカンナさん一人だと聞いていたのですが?」

「状況が若干変わったのです。ここからの警護は彼女らが担当します」

「状況が変わった?」

 ルミナスには解せなかった。

「モミジさんにカエデさんが就くのは分かります。それに加えてウルザも、しかし――」

「もう一人、つまり私ではかえって荷物になる、と」

 自虐的な言葉で、ルミナスの言葉を遮ったのはヒョウキだった。

「そうです」

 淀みなく肯定するルミナス。その言葉がヒョウキにとって多少の侮蔑も含まれるのだが、敢えてルミナスはそういう言葉遣いをした。

「片足の自由がきかないアナタに――」

「まあ、ルミナス様」

 少しばかり感情的になってしまっていたルミナスを宥めようとモミジが割に入った。

「いざ、というときのためです。ヒョウキと同じウルザもそのために来ていますから」

「……」

 理解はしたが、納得はいかないといった表情のルミナス。

「と、いうわけですルミナス様。以後は彼女らが案内と直衛をするので。モミジ、後は任せた」

「了解だ」

 笑みを浮かべてカンナの任務委譲を受けるモミジ。

「――さて、と。あとは詰めの作業だ」

 彼女らの後ろ姿を見送ったカンナは、次に控えている仕事に取りかかるため、再び愛車へと戻り帰路についた。

 

 かつて西暦と呼ばれる時代から『大破壊』と呼ばれる事象、そして『暗黒時代』『氷河期』を経て、暦を『新生紀元/ANE/All New Era』に改め、新たなる国際統合体『ユニオン』のもとで人類は一つになり、世界に平和が訪れた。

 ――かに見えた。

 全ては形骸だったのだ。

 軌道エレベーターとオービタルリング。ユニオンが主導となり、どの国も平等に設営に参加し、利用する権限を与えられた。本来ならば、これは世界が一つとなった証となるはずの代物である。

 その利権や主導権を求め、愚かにも軌道エレベーター、オービタルリングを舞台に幾度となく争いを続けたのである。

 そればかりではない。

 世界中の国家の全てが世界樹やサンクチュアリの恩恵を受けられるわけではなかった。力を持てない、持つことの出来ない数多くの中小国家が、その恩恵を受けることなく消滅していったし、下剋上とばかりに恩恵を受ける大手国家群への弱小国協同体による武力行使や無差別テロが横行していった。

 結局のところ、名ばかりの『ユニオン』は世界に連帯と統合を示すことは出来なかったのだ。

 そこにユニオンは一つの妥協案を提示した。

 ――『限定戦争』。

 人類は表面上の平和を求め、妥協案として『限定戦争』を提案した。

 ルールに則り、規定の条件の上で、戦争を行う――いわば競技のような解決手段である。

 それが現時点で人類がとれる最善の手段だということは、それが今の人類の限界であるのだ。

 『残虐』で『愚か』な『意味のない』競争行為を否定するために、『美しく』、『理想的』な『意義のある』殺し合いに明け暮れる。

 果たして、この二つに違いはあるのだろうか?

 多分、同じだ。

 ――揺らめく時空に産み落とされた、本来あるはずの無いもう一つの蒼い瞳が見つめるものはなんだろうか。

 ――そんな世界は、『紅い瞳』にはどう映るのだろうか?

 ――この世界を『姉妹たち』はどう思うのだろうか?

 ――あの世界を見捨て、どこともしれず消え去った、『真実の璧』は何を思うのだろうか?

 ――そして、その世界に生きていたモノたちは何を感じ、何を思うのだろうか?

 今、ここにいる『蒼い瞳』には答えを持ち合わせていない。

 ――否。

 自身の見解なんて答えるのもおこがましいし、答えなんてそもそもないのかもしれない。

「……」

「いかがいたしました、ルミナス様?」

 虚ろな表情で透過シールドの向こうに広がる地球の大地、どこまでも広がる宇宙空間、そして光り輝くオービタルリングを虚ろに見つめるルミナスに、モミジが心配して声をかけた。

「いえ、ちょっと物思いに耽っていただけです」

「そう、ですか」

 ルミナスは『問題ない』という意味で答えたが、モミジの表情は晴れない。

「何かありましたら私に言ってください。そのためにこうして貴方の傍にいるのですから」

「ありがとうございます。でもお気遣いは不要ですので――」

「……分かりました」

 

 シャングリラへ向かうシャトルから、十数キロメートルほど離れた暗礁宙域に潜む機影が幾つか。HMU(Humanoid Maneuver Unit)レッツォ――裏ルートで回されたこの機体は、パイロットであるテロリストの彼らにとっては非常に勿体の無いほど優れた機体である。

『どういうことだ? 護衛はユニオンのFAヴィジランスが六機、直接着いているはず……』

 暗礁宙域に潜むレッツォの隊長機、それに搭乗しているテロリストの頭目は、若干困惑していた。ある信用できる情報源によるリークと比べると、明らかに無防備だ。本来ならばユニオンが警備として、HMUの一種であるFA(Formula Assault)・ヴィジランスを六機直衛に当てているはずである。ヴィジランスの性能はレッツォ以上だが、数の上ではこちらが若干ではあるものの有利であり、センサーを欺瞞し一気呵成に突撃強襲をかけ、シャトルを墜とすという作戦目的上、更に有利であることこの上ない。

『護衛が減ったところで我々のなすべきことは変わりません、それに別動隊もしっかり『把握』できているようです』

 要人を乗せたシャトルの護衛戦力が、リークされた情報と違うのは気にかかるが、戦力が護衛機がいないのは願ってもないチャンスだ。

『そうか……』

 部下の報告を得て、頭目は心を決める。

『ならば、あとは往くのみ……!』

 と、鬨の声を上げた直後のこと。

『なんだ!? どこからの砲撃だ!』

 突如としたビームの雨が、不届き者たちを襲う。

『馬鹿な……そちらの方向に護衛は――!』

 予想だにせぬ何者かの介入に混乱するテロリスト。そしてその頭目も平静を装ってはいたものの、実際にのところ動揺は隠せなかった。だがそれも無理もない。

『隊長! 敵の艦隊がアステロイドの向こうに!』

『何だと……!?』

 要人を乗せた標的であるシャトルへの方向を正面十二時とすると、おおよそ三時方向つまり側面から無数の砲撃がテロリスト機を襲う。

 ルミナスを含む要人を乗せたシャトルとの間に分厚い弾幕が形成され、近づこうにも近づけないし、狙撃のために機体に射撃体勢を取らせて動きを止めればいい的になってしまう。現状、テロリストの擁する八機のレッツォ部隊は暗礁宙域の向こうにいるであろう艦隊の砲撃に釘付けにされてしまっている。このままでは身動きがとれない。

『た、隊長!』

『今度はなんだ!?』

 報告は観測を担当していたセンサー強化型の機体に乗っていた八番機のパイロットからだ。

『暗礁宙域方面から数機、高速で接近するHMU相当の機動兵器を確――』

『何……?』

 報告の最中、切断音と共に八番機との通信が途絶えた。後はノイズが残るのみ。

『一体何が……ぐっ!』

 一瞬の殺気――こちらを捉えてきた『何か』は、頭目の乗るレッツォのライフルの銃身ををぶった斬ってきた。

(掠めたのか……!)

 だがこれは、すんでの所で回避運動を行った結果である。もし、殺気に気付くのが遅れ、そのままこちらを貫いてこようとした殺意のままにやられていたら、下手をすれば機体ごと真っ二つになっていたことだろう。

『くっ――』

 どこでこの作戦にケチがついたのか? ここまでの伏兵を忍ばせてあったのは想定外だった。いや、多少の想定外――つまりはある程度の護衛戦力の増減は予想していた。もちろん信頼できる筋からの情報であった。そう思案するうちに、頭目はあることに気付く。

「――っ?」

 逆にこちらの動きがリークされた……? こちらへの情報提供者が、我々を炙り出すためにあえて情報を流したのか?

『隊長!』

『! どうした!』

 呆けている場合では無い。今一度状況を確認するべく、部下の声に意識を向ける。

『敵機が接近しています!』

『何だと!』

 頭目は即座に自機のレーダーを確認し、その敵機の姿を確認した。

『なんだこいつは……!』

 見たこともないような形状をした機動兵器が、レッツォの部隊へと迫りくる四つの機影。

『新型か……いや、違う、これは!?』

 敵がどんな兵装を持っているか分からない以上、迂闊に手を出すのは危険だ。ここはひとまず距離を取って――。

『隊長、奴はまさか……!』

『間違いない……ナンバーレスだ!』

 

「ナンバーレス、か……」

 ふとリッカが、傍受した通信を聞いて呟く。間がなく、随伴する三機のパイロット、カズキ、カナタ、ユーリィに指示を出す。

「カズキ、カナタ、先行して行けるか?」

「大丈夫です」「いつでもいけます!」

「バックアップは俺とユーリィでする。いくぞ」

「「「はい!」」」

 三人が了解の声を出す。それと同時にリッカのドラグーン以外――カズキのイェーガー、カナタのフェニクス、ユーリィのバサルトがそれぞれ迎撃行動に入った。一方、レッツォのテロリストたちは、目の前に現れた謎の機動兵器の群れに混乱していた。

 ――ナンバーレス。

 オープンで発するコールサイン『NO』から取られた彼らがひとたび戦場に現れると、『バーチャロイド』と呼ばれるHMUの圧倒的な戦闘能力に蹂躙される――今ここにいるテロリストだけで無く、限定戦争を荒らす戦場の無法者にとっては忌むべき、そして恐れられる存在だ。そして、その全貌を知る者はいない、更に言えば彼らと敵として出会って生きて帰ったものはいない。故にナンバーレスという名が、本来何を意味するのかも知る由も無いのだ。

『ッ……!』

 先の艦隊からと思われた砲撃は、この四機によるものなのか? 合点はいく。逆に言えばそうでもなければ説明がつかない。そんな思考を巡らせていた矢先の出来事だ。レッツォ五番機がすれ違いざまに白い機体によって袈裟懸けに切り裂かれ爆散した。戦況はテロリストにとって明らかかつ劇的に悪い方向へ向かっている。

『馬鹿な……!』

 三番機が咄嗟の回避運動をするも、右腕を切断される。今、何が起こったのか理解できないまま、混乱するテロリストたち。そのコックピットでは、パイロットたちの焦燥感が高まっていく。

「バカにすんなよ!」

 右腕を切断したのはカズキのイェーガーだった。両手に持っているビームソードでカズキはさらに追撃を行う。左足、左腕、右足と切断され、ダルマにされた三番機は文字通り手も足も出ない状態にされた。

『おのれ……!』

 僚機をやられ、頭に血が上ったレッツォ四番機が、味方のことなど考えずに攻撃してくる。が、それを見越して既にカナタはフォローに動いていた。

「遅い……!」

 すれ違いざまに、フェニクスの背部高機動ユニットに装備されているビームカッターよって、四番機は胴体を真っ二つにされ、爆散した。

『貴様ぁ……!』

 頭に血が上ったところでナンバーレスには関係はない。残った機体も既にユーリィのバサルトに捕捉されていた。

「敵機捕捉……いけぇ!」

 バサルトの背部シェル・ユニットからG-ERLが展開される。多用途無線半自律攻撃兵装G-ERLによって、六番機と七番機へとありとあらゆる方向から砲撃、その戦闘力を奪う。

『くらえぇ!!』

 部下の仇と言わんばかりに、頭目は憤怒の一撃をバサルトに放つ。が、頭目が放った射撃は虚しく空を切る。

「させない!」

 展開したG-ERLによって弾き返されたビームガンの一撃は、あらぬ方向――それも何の仕掛けか七番機をの頭部を貫いたのだ。

『これが、ナンバーレスの力だというのか……!』

 頭目の怨嗟にリッカは応えず、ただ黙って敵機を屠る。

「これでラストだ」

 最後の一人である頭目の一番機。両手両足、その頭部、センサーユニットを破壊した。残るはコックピットブロックがある胸部だけだ。

『くそ……!』

「無駄だ、お前たちに勝ち目はない。大人しく縛につけ」

 オープンチャンネルで生き残ったテロリストたちに降伏を促すリッカ。撃破されたのは二番、四番、八番機。生き残った

『ふ、ふふ……あははは!』

 気が触れでもしたのか、頭目は降伏勧告を嘲笑で返した。

『知っている……知っているぞ! お前たちが護衛しているのが、単なるデコイ、囮ってことをな!』

「! カズキ、カナタ。離れろ」

 リッカは何かに気付いたのか、拿捕の態勢に入っていたカズキとカナタに距離をとるように促した。その直後、頭目のレッツォは自爆したのだ。

「残念だが……」

 リッカがひとり呟く。

「本命も、対処済みなんだよ」

 

「どうやらリッカの方は何事もなく済んだようだな」

 迂回ルートを進んでいたもう一隻のシャトル。このシャトルにはカンナとハジメ、ツイが直掩にあたっていた。

「何事もなく、というのには少々語弊があるのでは? 襲撃を許したのは――」

「なーに言ってんの、政敵を炙り出すのが本来の目的でもあるんだから、このぐらいのことはへーきへーき」

 ハジメはあっけらかんとツイの問いにそう返した。

「さて、そろそろ本命のお客様だぞ」

 かなりの速度で近づく大型の高エネルギー体が一つ。

「センサー、起動」

 ツイは自機であるフォルトゥナのセンサーを最大稼働させる。それに伴い、機体各所のグラス・センサーが輝き始める。

「識別該当データあり、中型AA(Armored Attacker)『デリング』を確認」

「よし、来たか……!」

シャトルの護衛にあたる三機の機動兵器。そのうちの一機、ハジメの乗る機体アマツカミが迎撃に出る。

「敵性反応はデリング一機。他は確認できません」

「そうかい、じゃあさっさと片付けるとしますかね……!」

 AAデリングは中量級に分類される機体で直線機動力に優れており、武装は対艦戦を想定されている。おそらく、死なばもろともの一撃離脱、もしくは特攻を仕掛けてくるつもりだろう。

 そうさせるわけにはいかない。

「ハジメ。一気に決めるぞ」

 カンナが一気にメサイアのスラスターを噴射させ、突撃する。それに同調するようにハジメのアマツカミとツイのフォルトゥナが続く。

「狙い撃っちゃうぜ!」

 その加速力と、機体性能から繰り出される突進力を活かした超高速で、一直線に突っ込んでくるアマツカミ。それに構わず突撃し、交錯するデリングだが、運動性も機動性も残念ながらアマツカミのほうが上だ。一気に転回、接近し、相対速度を合わせると右腕に装備した大出力ビームランチャーを照射し、デリングに致命傷を与えた。

「とどめだ……!」

 そしてデリングの進行方向真正面に陣取っていたメサイアが、すれ違いざまに専用装備のハルバートで両断する。

「デリング内部に高エネルギー反応、これは――」

「こいつも自爆ってか?」

 致命傷を負ったデリングからさっさと距離を開けたアマツカミとメサイア。まもなくしてデリングは大爆発を起こした。

「爆薬でも積んでたのか」

「そのようですね」

 この爆発は尋常では無い。おそらく推進剤のほかにも、爆燃性の何かを搭載していたであろうことが予想できた。

「よし、このままシャトルの直掩を続ける。ツイ、見張っといてくれよ」

「了解」

 アマツカミ、メサイアがフォルトゥナと合流すると、彼らはアクティブステルスシステムを起動させ、再びシャトルの警護に戻った。

「ねえねえ」

「どうした?」

 ハジメがカンナに訊ねてきた。

「ルミナス様に顔出さなくていいの?」

 そう、直掩にあたっているこのシャトルにルミナスが乗っている。

「顔出したところでなあ」

 本来ならばカンナらの任務は極秘扱い、シャトルの乗員に護衛機の存在を知られることもご法度であるが、

「まあ、挨拶くらいはしておくか」

 

 また光った。

 シャトルの窓から閃光が見える。

「……」

 宇宙空間に一つの光が灯るたびに、一つの命が失われる。

 それがたとえ自分の命を狙うものであっても、心が締め付けられる。

 しかし、それを踏まえても彼らの命が糧となるであろう、未来を勝ち取るという、ルミナス、そして本来あるべき姿の『紅い瞳』が選んだ、二律背反の修羅の道。

 全ての者の望みを満たす道は無い――。

 だが、せめて望みを満たせなかった者にも、命の意義を見いだせる世界を――。

 そのためには、未来を見据え己が責を正面から受け止め、自らの手を汚すことを躊躇ってはならない――。

 ルミナスは自分の手のひらを見た。

 ――これで、いいんだよね?

 それは自問自答か、自己暗示か。

 そんなことはどうでもいい。

 再び、窓の外へと目をやる。

 すると――。

「あれは……」

 爆発の閃光とはまた違う光が、視界に入った。

「紅と、碧、それに――蒼……」

 色がそれぞれ違う信号弾か。

 三原色、それは彼女にとって、『三賢』を意味する光である。

 そして間が無く――。

「あれは……」

 モミジ、カエデ、ウルザ、ヒョウキも気付いたようだ。

 最後に蒼い閃光が走る。

「……」

 ルミナスは微笑みつつ、その閃光を見送った。

 

go to next stage.

 

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