電脳虚数異聞録 電脳戦記Vドライバーズ   作:翁長希守

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侵略者を討て!

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侵略者を討て!

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 侵略というものは、いつも唐突に始まるものだ。

 しかも、それが地球圏外からとなると、また話がこじれる。しかし、それを未然に防いだニュー・オーソドキシーは賞賛に値するだろう。

 ここから語られる一節は、ニュー・オーソドキシーの戦いの一幕である。

 

 いつもと変わらぬ東京の街並、人々の喧騒も風流の一つであった。そんな日常を、『非日常』で覆うのは簡単なことだ。

 そう、今、まさにこの街を侵略する宇宙人が現れたのだ。

「ハロー!地球人の皆さん、お元気ですか?」

 とても流暢な日本語で挨拶をした彼ら。

 突如として東京に飛来した飛行物体。そこから姿を現したのは、ほぼ人間と呼べる生命体。だが、その身体は大きく、まるで巨人のようだった。

「突然ですが、我々、皆様で言う「エンキ星人」は地球を侵略することにしました。」

 その言葉に驚く人々。まさか自分たちが狙われるとは思いもしなかっただろう。しかし、それも想定内であるかのように宇宙人は話を続ける。

「ただし、我々は平和的な解決を望んでいます。そこで、こちらの条件を呑んでいただければ、すぐにでもこの星との友好的な関係を約束しましょう。」

 その言葉を聞いた人々は安心した。宇宙人も話せば分かる生き物なのだと。だが、それは間違いであったとすぐに気づくことになる。

「条件は一つ、我々の下僕となり奴隷となることです。」

 その言葉に人々は戦慄した。まさか自分たちにそんなことを言ってくるとは思いもしなかっただろう。そして同時に恐怖を感じた。この宇宙人は本気で言っているのだと理解したのだ。

「さて、ご理解いただけたようで何よりです。では早速ですが、最初の命令といきましょうか……。」

 その言葉と同時に、宇宙人が手をかざす。すると、そこから眩い光が放たれた。

「うわあっ!?」

「きゃああ!!」

 悲鳴を上げる人々。だがそれも無理はないことだ。何故ならエンキ星人が放った一条の閃光は、瞬く間に新宿のビル群に奔り、それらを爆散させたのだ。エンキ星人の破壊光線だ。

 しかし、それだけでは終わらない。エンキ星人はさらに破壊光線を放つと、今度はそれを受けた建物が次々に崩壊していく。

「さて、これでも我々の下に降らないのですか?」

 エンキ星人の実質的な降伏要求だが、もとより話す相手が間違っている。圧倒的な武力をひけらかしたところで、一般市民たちに世界全体を今すぐ動かす決定権など持ち合わせていない。確かに、市民に対し力を見せることで、脅し、服従を迫るのはこれまで人類も行ってきた手段だ。だが、交渉もなしに今すぐ地球を屈服させる、というのはあまりにも性急すぎるし、日本、それも東京というピンポイントな侵略で、国際世論が大きく動くと思うのは頭が悪いとしか言えない。

 だが、そんな常識などエンキ星人には通じない。彼らの目的は支配であり、服従させるのは前提条件なのだ。ならばどうするか?答えは簡単だ。まずは力を見せつけるのである。圧倒的な力を知らしめて、恐怖と絶望を植え付けるのだ。そして、その後に命乞いをさせればそれでいいのだ。ただ、圧倒的に頭が良くないのだ。

「ここまでしてもわからないというのですか? む?」

 エンキ星人は遠方から何かしらの飛行物体が接近してくるのを確認した。

 自衛隊である。

 日本製FA「ホムラ」と「アカツキ」で構成された一個大隊が、侵略者迎撃に出動してきたのだ。

 彼らはこの街を守るために、そして市民を守るため、自らの命を犠牲にしてでもこの宇宙人を撃退しようと試みる。

 だがしかし、それは逆効果であった。

「ふっふっふ……なるほど、まだ抵抗するというのですね?ならば仕方がないですねぇ!」

 そう言ってエンキ星人が取り出したのはスマートフォンのような端末。そしてそれを操作して、あるプログラムを起動させた。

「ふんっ!」

 エンキ星人が端末を掲げると、そこから赤い光が放たれる。その光は自衛隊のホムラやアカツキに照射され、彼らを包んでいく。すると次の瞬間には、彼らはその動きを止めてしまったではないか!まるで人形のように動かなくなってしまった。

「この高エネルギーの奔流には逆らえなかろう」

 エンキ星人は不敵に嘲笑する。そう、彼らが受けたのは特殊な電磁波による妨害電波。しかも高度な技術によって作られたそれは、常人ならば絶対に抵抗できないほどの強力なものとなっていた。そしてそれを使いこなせるのがこのエンキ星人なのだ!

「さぁ、まずはこの街を壊滅させましょう!」

 そう言ってさらに端末を操作するエンキ星人はさらなる実力行使に出る。

「ぐああっ!」

「がはぁっ!!」

 エンキ星人が端末を操作するたびに、自衛隊のホムラやアカツキは次々に倒れていく。そしてそのまま機能を停止させられてしまうのだ。

「そ、そんなっ!?」「助けて!!」

 その光景を見ていた市民たちは絶望に打ちひしがれるしかない。彼らが持つ銃火器、そして何よりFAが手も足も出ない。通常兵器、そして自衛隊の主力機動兵器の武装が通用しない相手に、一般市民たちがどう立ち向かえというのか?

 と、どこからともなくエンキ星人の聴覚、いや、感覚に直接干渉が。

「――全く、せっかくの休日が台無しじゃあないか」

 それはどこか気怠そうな、足元で逃げ惑う市民の恐怖に駆られた悲鳴とは全く違う、超然とした声であった。

「! 何奴!?」

 その声に、エンキ星人は振り返る。すると高層ビルの屋上の端に、一人の少年が佇んでいたのだ。年端も行かぬ小柄な少年だが、その顔はどこか異質な雰囲気を放っていた。

「何者ですか?貴方は?」

「ふむ……俺は名乗るほどの者じゃないが――」

 少年はニヤリと口角を上げると、言った。

「まぁ……正義の味方ってところかな?」

「正義の味方、ですか?」

「ああ、そうだよ。あんたみたいな宇宙人が悪さをするからさ」

 少年はニヤリと笑うと、エンキ星人に向けて言う。

「――だから俺が来たってわけさ! とうっ!」

 少年はそう言い放つと、何を狂ったのかビルから身を投げたのだ。

「来い、ラグナロック!!」

 落下の最中、少年は叫んだ。同時に彼は懐からカードを地上方向へ放り投げた。

「何をしようというのです?」

 エンキ星人にもこの行為に何の意味があるのか、見当もつかなかった。しかし、次の瞬間に彼らは知ることになる。少年がとった行為の意味を。

 刹那、落下する少年を包み込むように、何かが電子的ノイズが発生し、そこから放たれる二進数、バーコード、DNAの遺伝子記号の羅列が弾けた。

 そして、閃光と共に、巨大な何かがエンキ星人の前に顕れた。

「こ、これは……!?」

 それは禍々しくも、神々しい、ホムラやアカツキとも違うFAがそこにいた。

「さあ、いくぞ。侵略者ども……バーチャロイド、ラグナロックが相手だ!」

 大見得を切ったラグナロック。だがエンキ星人は不敵にも見下した。

「そんな見掛け倒しのロボットに、我らエンキ星人の出鼻を挫いたつもりか?」

 エンキ星人は強気だ。

「破壊光線でスクラップにしてくれる!」

 エンキ星人は各飛行物体から光弾を放つ。それはラグナロックの全身に直撃する、が――。

「なっ!?」

 光が、いともあっさりと掻き消される。そしてそのまま平然と立つラグナロック。それどころか傷一つ付いていないではないか。

「……何をしたのかな?」

 驚愕するエンキ星人だが、ラグナロックは動じない。そして淡々とした口調で言うのだ。

「オレは別にまだ何もしていないぞ。そんな戦力で地球を頂いた、なんて呆れを通り越して笑いが出ちまうよ」

「な、なんだと!?」

 挑発されたエンキ星人は怒り狂う。しかしそれもそのはず、この巨大なロボットと対面したときから感じる謎の力に、エンキ星人の本能が警鐘を鳴らしていたのだ。この存在は危険だ、と――。だが、もう遅いのだ。

「ならばこちらも全力で相手をせねばなるまい! 出ろアズールグラス、ルージュグラス!」

 エンキ星人の一声によって後方で待機していた二隻の大型宇宙船から光が地上に向かって照射された。するとどうしたことか、照射された光の中から一匹ずつ、青と赤の二匹の、所謂「怪獣」が姿を現したのだ。

「グルオオオオオン!!」「グギャアアアアッ!」

 二匹の怪獣は咆哮を上げると、そのままラグナロックへと襲い掛かった。

「やれやれ、本当に血の気の多い連中だ」

 呆れたように言うラグナロックの乗り手だが、それは同時に彼らエンキ星人の短気さを象徴するものだった。彼らは自分たちよりも強い相手に対しては、なりふり構わず襲い掛かってくるのだ。まさに獣のような野蛮さを持っている。だが、その反面で知能は低いと言わざるを得ない。だからこうして挑発すれば、簡単に釣れるのだ。

「よし!やれ!」

 エンキ星人の命令を受け、二匹の怪獣がラグナロックに襲い掛かる。

 アズールグラスは極超低温の凍てつく咆哮を、ルージュグラスは逆に極超高温の燃え上がる叫びを放った。

 それらは融合して光弾となり、対消滅を引き起こす恐るべき一撃がラグナロックを今まさに襲おうというのだ。

「そんな攻撃は効かんよ!」

 少年の声が響く。ラグナロックは身動ぎひとつせず、光弾の直撃を受けた。着弾と同時に光弾は炸裂し、爆炎が周囲を包む。しかし、爆炎の向こうから某かの影が歩いてくるのを、エンキ星人は見た。そして絶句した。

「無傷だというのか……!?」

 そう、ラグナロックは対消滅を引き起こすほどのエネルギー弾の直撃を難なく耐えて見せたのだ。

「くそっ! やれ! やってしまえ!!」

 エンキ星人がアズールグラスとルージュグラスに攻撃を命令する。それぞれ冷気弾、火炎弾をひっきりなしに連射して、ラグナロックの動きを止めようとする。しかし、その巨体に似合わぬ素早い動きで回避行動に移り、全ての攻撃はあっさりとあさっての方向に飛んでいった。その巨体に見合わぬ俊敏な動きだ。そしてそのままアズールグラスの懐に潜り込むと、そのままの勢いで右の拳でボディブローを叩き込んだ。

「キシャアッ!」

 強烈な一撃に、思わず苦悶の声を上げるアズールグラス。だがそれだけでは終わらない。そのまま勢いに任せてもう一発左ストレートを頭部に叩き込むと、今度は蹴りを繰り出し、アズールグラスをふっ飛ばした。

「もう一匹ぃ!」

 そしてそのままルージュグラスにも攻撃を加えるラグナロック。ルージュグラスはとっさに防御しようと周囲に火球を吐き出しラグナロックの接近を阻止しようとするが、間に合わずまともにタックル攻撃を受けてしまった。

「グギャアアッ!」

 悲鳴を上げ、吹き飛ばされるルージュグラス。そしてそのままビルの壁面に叩きつけられてしまったのだ。

「――なるほど、侮れない相手だ」

 エンキ星人は舌打ちをする。まさかここまで強いとは予想外だった。今まで幾多の星々を侵略し、滅ぼしてきたエンキ星人だが、このラグナロックという機体の性能は今まで戦ったどの異星人の兵器よりも優れている。いや、下手をすればそれを上回るかもしれないのだ。

「なら仕方がない」

 エンキ星人は端末を操作し、更なる兵器を起動させる。それは二隻の大型宇宙船から射出された、大型のミサイルであった。だがただのミサイルではない、この爆発力、破壊力は他のどんな兵器にも負けない威力を誇るであろうことは明白だ。と、少なくとも、エンキ星人にはそうであろうという自信があった。

「これで決着をつけてやろう!」

 エンキ星人の宣言と共に、二隻の宇宙船から発射されたミサイルはラグナロックに襲い掛かる。

「おいおい、なんだよ?」

 それに驚くラグナロックの乗り手だが、もう遅い。既に目前にまで迫ってきているではないか。大型ミサイルの一発目は、左腕からのパンチで直撃こそ免れたものの、二発目は見事にラグナロックの頭部に直撃し、双方のミサイルが大爆発を起こした。

「これで終いだな」

 爆炎を見て、勝利を確信したエンキ星人。だが――。

 爆炎の向こう側から何某かの影が。

 ――炎の中から現れたラグナロックには傷一つ付いていなかったのだ。

「なっ……無傷だと!? そんな馬鹿な!」

「じゃあ、そろそろ決着をつけようか……!」

 ラグナロックの乗り手が宣言すると、彼はすぐさま行動に移った。

「ロケットパンチだ!」

 まだ怯んでいたルージュグラスの腹部を、射出された右腕が貫く。

「キィグアアア!」

 ロケットパンチで右腕が塞がっているラグナロックに一矢報いんと、アズールグラスが氷結弾を複数吐き出した。

「シャッタードウォール!」

 攻撃に気がついたラグナロックが左腕を氷結弾に向けてかかげると、左手から淡い光とともに空間が限定的に歪み、閃光の壁が展開された。その閃光の壁によって氷結弾は阻まれてしまった。

「アークフラッシュ!」

 アズールグラスに向き直ったラグナロックのデュアルアイから、二条の光線が放たれた。その二つの光はアズールグラスの首元に命中すると、鋭利な刃となった光がアズールグラスの首と体を切断した。アズールグラスは事切れたのか、バラバラと体を崩壊させ、動かなくなった。

「もう一匹!」

 アズールグラスを沈黙させた間に、ロケットパンチはもとの右腕に戻ってきた。胴体の貫かれたルージュグラスはダメージを受けつつも一矢報いんと火球を放つが最早虫の息状態。吐き出した火球はあらぬ方向に飛び、ラグナロックに当たることは無かった。

「トドメだ! マキシムシュート!」

 ラグナロックの全身に存在する動力機関が、放熱するように露出展開する。同時に、ラグナロックからモーターのような音が高鳴り始めた。そして、発生したパワーが右腕拳に集中していく。充填が済むと、ラグナロックは拳をルージュグラスに向かって突き出した。すると、その拳からエネルギーの奔流が放出された。

「ブギュアアアッ!」

 叩き込まれた一撃は、ルージュグラスの巨体に注ぎ込まれ、粉砕し、バラバラにして吹き飛ばした。

 こうして二匹の怪獣を打ち倒したラグナロックと乗り手であったが――まだ終わりではなかった。

(な……馬鹿な!?)

 エンキ星人は驚愕した。自分の用意した切り札、それを悉く破られてしまったからだ。残る手段はあと一つ、しかしこれはまだ使用するわけにはいかなかった。

(だが……このままでは不味いな……ならば!)

 そこでエンキ星人が取った行動は――逃走だった。

「戦略的撤退だ!」

「逃がすかよ!」

 エンキ星人の飛行物体群が逃げ出す前に、ラグナロックが瞬く間にまわり込み、仁王立ちして行く手を阻む。

「アンタラにゃ訊かなきゃならないことが山ほどある。さっさと投降しな」

「くっ……」

 周囲にはアズールグラスとルージュグラスとの戦闘の間に展開された自衛隊のFAがエンキ星人の飛行物体を取り囲んでいた。今度は数が違う。スクランブルで展開された自衛隊の部隊は一個中隊。しかし、ラグナロックとの戦闘の間に三個師団分の戦力が展開していたのだ。エンキ星人が目前の脅威にだけ対応していた視野の狭さが災いした。

「貴様たちは完全に包囲された。大人しく投降せよ。繰り返す、大人しく投降せよ」

 自衛隊の部隊長が投降をエンキ星人に勧告する。

「……投降する」

 勝ち目はないと察したのか、エンキ星人は降伏を宣言。戦意は無いことを確認した自衛隊機が、エンキ星人の飛行物体を拿捕すべく接近し、トラクタービームを照射しようとした、その時。

「! みんな、離れて!」

 ラグナロックの乗り手が自衛隊機に、エンキ星人の飛行物体から離れるように言った。

「馬鹿め! もう遅い!」

 エンキ星人が勝利を確信したように叫んだ。その瞬間、エンキ星人の飛行物体はもれなく自爆したのだ。

「なにっ!?」

 これには自衛隊のパイロットたちも驚愕し、そして慌てた。

「くっ……! 圧搾フィールド展開! 間に合えっ!」

 咄嗟にラグナロックが左手をかかげる。するとどうしたことか、空間が圧縮され、爆発は一瞬閃光となって炸裂したものの、周囲に一切の被害を与えることなく、後に残るはまるで何事も無かったかのように全てが消滅したまっさらな空間だけがそこに存在していた。

「これで終わりかな?」

「そこの機体、待ちたまえ!」

「バイバイ」

 全てが丸く収まったことを、ひとりごとのようにラグナロックの乗り手は呟くと、自衛隊の師団長の言葉を無視し別れ言葉を一言残し――。

「!? 消えた?」

 ――まるで、初めからそこにいなかったかのように、ラグナロックは忽然と姿を消してしまったのだった。

「今の現象……転送か?」

 残された自衛隊のパイロットたちは、ラグナロックが突如として消えた現象について分析を行っていた。

「この戦闘力にこの戦い方、彼はまさか――」

「ああ、まさかとは思うが……」

「――ナンバーレス、ニュー・オーソドキシー、ですか」

 

 ニュー・オーソドキシー本部のやたらとだだっ広い執務室に、コノエはカンナに呼び出されていた。

「今回の戦闘――何故独断で始めた?」

「えっと、うーんと、えへへ……」

 カンナに問いただされたコノエはただ、バツが悪そうにしていることしかできなかった。

「スクルドも何故自分を置いていったのか憤りを見せてたぞ」

「あ、あはは……」

 誤魔化し笑いを浮かべるコノエに、カンナは深い溜息を吐いた。

(まったく……困ったやつだ)

 コノエの独断専行は今に始まったことではない。しかも、その度にこのようにカンナやモミジたちにたしなめられる。

 コノエもバカではない。むしろ賢い方だ。まあ、彼なりの正義感がコノエ自身を駆り立てるのだろう。

「まあ、今回のことも不問に付す。ただ、俺達は一人で戦っているわけではない。そのこと、ゆめゆめ忘れるな」

「はい!」

 笑顔で返答するコノエにつられ、カンナの表情も綻ぶ。

(ルミナスが見たい、見たかったもの。こういうモノなんだろうな)

 コノエの笑顔を見ながら、カンナは毎度のこと心の中でそう思った。

(ただ……)

 執務室のテーブルの上に雑多に並べられている書類に目を移す。

「はてさて、どういいわけをつけたものか……」

 それは全て始末書の類。今回の戦闘で発生した都心部の物的被害をまとめた書類だった。

 結果的ではあるが、幸いコノエが敵対異星人の気を引いて結果的に時間稼ぎをしたため、その間に展開した警察機動隊と自衛隊が避難誘導を行ったため故人的被害はなし、しかし相次ぐ爆発やその衝撃波で戦域となった箇所、建物や道路と様々な部分に大小の損壊が発生した。その補償云々が延々と書き連ねられたのがこの書類の山、ということだ。

 ニュー・オーソドキシーとて無限の資産があるわけでは無い。

 日本政府とのパイプは内務省を通じて秘密裏に存在している。そこから日本国内における活動に際し様々な資金の授受が行われており、今回のケースでは内務省から先の戦闘における損害賠償請求のお達しが来たわけだ。

(あぁは言ったものの、少しは灸を据えなきゃならんかね)

 カンナは若干後悔していた。

「今月のコノエの小遣い、削らせてもらうか……」

 カンナは半分自分に言い聞かせるようにそう呟くと、執務室の椅子にもたれかかって一呼吸の後、始末書の処理に手をつけ始めた。

「今日は長くなるぞ……」

 ウンザリしつつも自らを奮い立たせカンナはデスクと正対しペンとキーボードとを走らせていくのだった。

 

invasion is not over.

 

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