召喚されたら使い魔だったので魔法を調べて帰ります 作:魔術馬鹿
エインは朝起きると木刀を振るう。趣味は間違いなく魔術探求のエインだが、ロイドの従者でいるために最低限の武芸にも通じる必要があるからだ。
ロイドとの仲に嫉妬するシルファの言い分なれど雇い主の王やロイド馬鹿の第二王子も認めている。戻って訛っていた場合、それで追い出されることはないだろうがシルファに数日は扱かれるだろう。なのでこうしてなまらない程度に体を動かす。
「精が出ますね」
と、シエスタがタオルを持ってくる。
そんな光景を面白くなさそうに見つめるルイズ。たまたま目が覚め、エインが何処かに向かうのを追ってみたのだが、メイドと仲良さそうに………!
「あ、そうだわ!」
彼はどうやら剣を使うらしい。メイジが剣を? と思わなくもないが、異国のメイジだ。そういうこともあるのだろう。母だって剣代わりにもなるレイピアのような杖を使っていたし。
「エイン! 街に出るわよ、準備しなさい!」
「ルイズ?」
王子の付き人であるエインは当然教養を求められる。滅多に我が儘の言わないロイドの我が儘だ。それだけで採用されたが、それはそれ、これはこれとして勉学、礼儀作法、その他諸々は当然教え込まれている。
なので馬に乗る程度も訳が無い。一部を除き城のメイドを魅了する貴公子然とした見事な乗馬で街に向かいながら……面倒臭いな、帰ってルイズに刻まれていた系統付与術式を解析したいと思っていた。
さて、そんな2人を追う大きな影があった。青い鱗の竜だ。その背に乗るのはタバサとキュルケ。休みである虚無の曜日にエインを誘惑しに行ったら、二人して出かける姿を見たキュルケがタバサに使い魔のシルフィードを借りようとしたら、ちょうどタバサもルイズ達を追おうとしていたのだ。
「それにしても貴方が男の子に興味を持つなんてね。ああいうのがタイプなの?」
「違う」
死んだ父親に似ている。それだけだ。
魔法が使えて感激に涙を流し抱き着いてきたルイズの頭を撫でる顔なんか特に………。
「………………」
もうこの世に居ない父の面影を持つ青年の顔を思い浮かべ、ルイズに対して嫉妬を覚える。彼が自分の使い魔として来てくれたなら、そう考え首をふる。
自分の使い魔という事は、自分の意見に巻き込むということだ。彼が自分の使い魔ではなくて良かった。
「せっま…………」
トリステイン城下町。老若男女取り混ぜに歩く5メートルしかない大通りを見て思わず呟くエイン。魔法の存在する中世のような世界。
エインの二度目の故郷であるサルームと似ているはずなのに、文化レベルは大きく差があるのか、路地裏からは悪臭がする。
魔法道具が一般にも普及し下水設備も現代と大差ないサルームと違い、この世界の魔法は貴族が独占しているからだろう。城もサルームに比べて小さいのは……まあ単純に国力の差だろうが。
「こっちよ」
ルイズの案内の下、路地裏に入る。ゴミや汚物が道端に転がっている。
ルイズは顔をしかめ進み、やがて一つの店を見つけた。剣の形をした看板が下がっている。あそこが武器屋だろう。
店の中は昼間だと言うのに薄暗く、ランプの明かりが灯っている。壁や棚に所狭しに並べられた剣や槍の質は、まあ低い。サルームの冒険者のような武具防具を求める者が少なく需要がないので発展していないのだろう。
「旦那、貴族の旦那、うちは真っ当な商売をしてまさあ。お上に目をつけられるようなことなんて、これっぽっちもありませんや」
幼いルイズを胡散臭げに睨んだ店主は、しかしマントと五芒星が刻まれたタイ留めに慌てて表情を変える。
「客よ」とルイズは腕を組んでいった。
「こりゃおったまげた! 貴族が剣を、おったまげた!」
大袈裟に驚いたふりをする店主。とはいえ、何でも最近土くれのフーケという盗賊が現れた平民に武器をもたせる貴族が増えたらしい。そう言いながら出されたレイピアを見てルイズはもっと大きくて太いのが良いと言う。
「お言葉ですが貴族様、そちらの召使にはこれぐらいがちょうどいいかと」
「もっと大きくて太いのが良いと言ったの」
店主はボソリと「素人が」と吐き捨て、やたら豪華な建を持ってきた。宝石が散りばめられた鏡のように美しい刀身の両刃の大剣。
「いらね」
エインは吐き捨てる。こんな剣を持って振るった日にはシルファに剣を細切れにされ執拗に木刀でぶっ叩かれる。
「ほほう、なかなか見る目があるじやねえか!」
と、不意に何処からともなく声が聞こえる。ルイズが辺りを見回すが、自分達以外に人影は見えない。ただ、エインだけは真っ直ぐ剣が積まれた場所に向かい、一本引き抜く。
錆まみれの大剣は、カチャカチャと柄の装飾品を動かしながら叫んだ。
「おでれーた! お前、使い手か!」
「使い手? いやそれより、喋る剣! しかも、あらかじめのプログラムではなく自我!?」
「おお!? オレっちを気に入ってくれんのか? 嬉しいね〜、オレはデルフリンガー! おい相棒、オレを買え!」
エインのテンションは瀑上がり。魔法で自我を作るなど、未だ確認されていない技術。Aという質問に対してB〜Fと解答を用意して会話もどきを成立させるならともかく、これは間違いなく自分で考え、言葉を放つ。どういう術式? 思考は何年持つ? 物事を記憶するのか?
興味が尽きない。
「ルイズ! これ、これ買ってくれ!」
「ええ〜? そんなのにするの?」
「店主! これ、いくらだ!」
因みに此処に来る前に宝石店で手持ちの宝石を換金しているエイン。ルイズが払わなくとも自分で払える。そうなればルイズが贈り物をしようとしていた意味がなくなるので、ルイズは仕方なく自分で払うことにした。
「ん?」
ルイズが金を払う中、エインは違和感を感じる。左手に刻まれたルーンが熱を持つ。身体能力が上がっている。出力のみならず、精度まで。そして脳にあふれる、剣技に関する知識。
「………ふうん、こっちはこっちで、面白そう」
とはいえこれに頼りだしたらシルファが怖い。剣にかんしては発動しないようにしておこう。後これ、精神操作機能もある。
まあエインの魔力が濃すぎて全然脳に侵入できてないが。
そしてその夜、何故かルイズとキュルケが決闘を始めた。放課後のエインの特別授業中にキュルケがエインに武器屋にあった宝剣をプレゼントしようとし、エインは断るもルイズが過剰に反応し、あれよあれよと決闘に。
「ううむ、ルイズは風のドットとはいえ、出力だけならこの中で一番。しかしキュルケもトライアングルだからね………」
ギーシュはどちらが勝つのだろうとハラハラ見守る。タバサは興味なさそうに本をめくる。シエスタはどうでも良いけど庭を荒さないでほしいなあ、と思っていた。
「ファイア・ボール!」
「エア・ハンマー!」
キュルケの炎弾をルイズの起こした突風が吹き飛ばす。が、連続して飛んでくる全ては無理なのか、何発かはそのまま向かい慌ててウィンドで逸らす。
その間に移動したキュルケが炎を放つと蛇のように地面をはいルイズを包む。炎の壁に視界を遮られたルイズに、キュルケは殺傷能力の低い土の塊を生み出し………
「ん?」
エインが別の魔力を感じた途端、ズウゥゥンと腹の底に響く轟音。誰もが固まる中、真っ先に動いたのはタバサ。
ルイズの周りの炎を消し、音の発生源に駆け出す。
「ちょ、ちょっとタバサ!?」
「あ、待ちなさいよ!」
キュルケも後を追い、ルイズも慌てて走り出す。わたわたしていたギーシュも女子3人が駆け出したのを見て自分もと走り出した。
音の正体は巨大なゴーレムが城の壁を殴る音だった。錬金で拳を鉄に変えるも、分厚い城壁は表面しか罅割れていない。
「チッ、やっぱり一撃じゃ無理か……」
物理攻撃に弱いと聞いて、それでも壁を見た時点で大型ゴーレムでも崩せないと解っていてもそれ以外の方法はなく、やるだけやってみたが後何発殴れば良いのか。
ゴーレムの肩に乗る盗賊、土くれのフーケは舌打ちしながらもう一度ゴーレムの拳を叩きつけようとする。と、空気の塊がゴーレムにぶつかり僅かに表面を崩す。
ねぼすけの当直がもう気付いたのかと見れば、かけてくるのは学生。すぐに炎も飛んでくるが、数多の貴族の屋敷に襲撃したフーケからすれば取るにたらな………
「!?」
正確に首を狙った氷の槍を回避するフーケ。一人、学生とは思えぬ手練れがいる。面倒だとフーケは標的を壁から生徒達に切り替える。
轟音とともに地面がめくれ上がり土煙が立つ。吹き飛ばされた桃色の髪の生徒を見て、踏み潰そうとゴーレムを操り………
「まったく、学園に侵入するとは随分と大胆な」
ゴーレムの足が斬られた。
「あれ、そういえばもう一つの剣は?」
遅れて現場に向かうギーシュはデルフリンガーしか持っていないことに気付きエインに尋ねる。エインはああ、と思い出したように呟いた。
「シエスタに持ってかれた」
「あのメイドに!? まさか、戦う気か!? 危険だ!」
「大丈夫だろ、だってシエスタは…………」
「…………え?」
ルイズの前に立つ黒髪のメイド。月光を浴び輝く宝剣を片手にゴーレムを睨む。何が起きた? ゴーレムの足が跳んだ。まさか、彼女が? でも、どうやって………。
「
昇り翔竜!!
ゴーレムに竜が巻き付いた。そう錯覚する、残像を残す速度の高速移動。しかもゴーレムをしっかりと切り裂く。
土くれの山の上にフワリと降りたシエスタはそのまま剣をフーケに向ける。
「礼節も弁えず、夜分遅くに暴れる賊め………我が剣技に沈め」
「大丈夫だろ、だってシエスタは………シルファぐらい強いし」
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