後期生徒会になって少しの時間がたった。公約も大したことはないし、楽だ。しかし、生徒会の権力が大きいという関係上、仕事はそれなりにある。だから、それなりの頻度で生徒会室に行くことになるのだが……
「なんで、先輩がいるんですか?」
「なんでいたら駄目なの?」
「先輩はもう生徒会役員じゃないですよね?」
「そうだね」
「じゃあなんでいるんですか?」
「静ちゃんに呼ばれたから。」
あいつ……。
ガチャリとドアを開ける音がする。振り返ると上坂がいた。
「おい、お前。なんでこの特級呪物を呼んだ?」
「そんなの、いなくなったら寂しいからに決まってるでしょ!!」
などと上坂は供述している。俺は全く寂しくない。
「ちょっと待ってよ、まず私が特級呪物であることを否定してよ!!」
この人はメタ認知ができないらしい。
「「いや……それは無理がある。」」
「先輩は私と同じく特級呪物ですよ。」
よかった上坂はメタ認知ができる人だった。
「特級呪物じゃなかったらどうして友達が私と田中しかいないんですか?」
上坂が追撃する。結構酷いな。
「俺は先輩と友達になった記憶はないけど、」
追撃をかける。
「なっ、なっ……」
先輩が珍しく動揺している。レアシーンだな。
「特級呪物でも私は先輩を必要としてますから。」
と優しい声音で上坂が言う。キラキラした瞳で先輩が上坂に抱きつく。
これDV男の構図と同じだけど大丈夫そ?
まあこんな感じで先輩は後期の間も大体生徒会室にいた。
しかし、先輩は受験生である。ある時、気になって聞いてみた。
「先輩は受験大丈夫なんですか?」
「当たり前じゃん!!科類一位だよ!!」
志望校あげろよ。……というか、科類?もしかして
「先輩、東大志望ですか?」
「そうだよ」
ふーん、なるほどね、そりゃ志望校上げないよね、上げるとこないもんね。
俺も東大志望なんだけど、相談したら何か聞いてくれるかな?………無理だな。あの人が真面目に答えるわけない。でも一応聞いてみるか。
「あの、俺も東大志望なんですけど、勉強するときに特に意識してる事とか、ありますか?」
「うーん、"才能"かな?どんな問題も解けちゃうから私、勉強してるときに才能を意識しちゃうわ。」
もう絶対聞かない。落ちればいいのに、そう心から思った。
ん?そういえばこの人がいるということは………
俺はパソコンを全て起動させる。
「あ、気づいちゃった〜?駄目じゃん勝手にホーム画変えたら〜。」
予想通り腹ペコサナダ虫のホームだ。この人がいなくなったから、せっかく初期設定に戻したのに。
他のも駄目だ。腹ペコ鈴木虫(教頭)
大きな橘(副校長)これは表紙のカブの部分が副校長の顔になっている。
最後のが一番酷い。赤ずきんちゃんなのに少女の顔がスターリンの顔になってる。思想強すぎる。アカずきんかよ。
恐ろしい。もう俺やめたくなってきた。
スターリンの顔をみて、激しくそう思った。
冬に入り、クリスマスになる。なんだかんだで今日も仕事がある。どうせあの馬鹿二人がコスプレをしているんだろう。
そう思って、中に入ると、トナカイとソリがあった。
いや、比喩とかコスプレとかじゃない。ガチのやつだ。頭が?で一杯になる。
しばらくして気づく、このトナカイ、動かないぞ。近づいて触ってみると、作り物であることがわかる。めちゃめちゃよくできた剥製だ。薄暗いのもあいまって本物かと思った。電気をつけようと思ってスイッチに手を伸ばすとバタンとドアが開く。
「ハハハハハハハハ」
大爆笑している上坂だ。
「めっちゃ面白かったよ。トナカイに驚いて、恐る恐る触ったとことか、ハハハハハハ、早く先輩に見せたい。」
こいつ、腹立つな。まあでも今更先輩に見せられたところでノーダメージだ。
「というかこんなもの持ってきて大丈夫なの?」
カメラも何処かに仕込まれてるだろうけど、というかカメラは大丈夫なのか?校則で禁止だったはず。
「大丈夫大丈夫、ここ、学校じゃないから。この生徒会室だけはOB、OG会のものだから校則が適用されないの。まあ、最近知ったんだけどね。」
そうなのか、知らなかった。てか、そんなのあるの?すごいね。でもこんな悪用されるとは思ってないんじゃないかな?
しばらくすると、先輩もやってきて俺の動画をみて大爆笑している。腹立つな。
二人ともソリに乗ってはしゃいでいる。何歳だよ。
後期も無事に終わり、今日は卒業式だ。教師のクソ長い話を適当に聞き流していたら終わった。先輩が何か言ってたけどそれも聞いてなかった。
さて、卒業式恒例の写真撮影だ。先輩も親に撮ってもらうんだろう。実際そういうやつが多い。一応写真を撮りたいと言われていたので先輩を探す。小さいから見つけづらいかと思ったが、すぐに見つかった。
よく見ると、一人で帰ろうとしている。追いかけて捕まえる。
「先輩、写真撮るんじゃないんですか?」
「ん?あ、ごめんね。親が急に出張入ってね。」
「じゃあ、撮影道具がないってことですか?」
「そうだね、今、静ちゃんがスマホとか使えるように交渉してるけど無理だろうね。」
「先輩、すみません、無理でした。」
そう言って珍しくしょんぼりして上坂が帰ってくる。
「仕方ないよ。」
「外で撮りますか?」
「うーん、学校の中で撮りたいよね。ホントは。友達とかいたら借りれるのに。」
そういう先輩はどこか寂しそうだ。高校時代の写真が手元にないのはつらいだろう。どうにかしてあげたい。なんだかんだでこの人のことは嫌いじゃない。でも友達がいないのだけは自業自得だと思う。
「許可なんて撮れなくても私が怒られれば済むから」
そう言って、上坂がスマホを取り出そうとする。それを先輩が止めて、
「だめだよ、来年以降の生徒会に、響くでしょ?」
そうだ。生徒会役員が校則を破ると来年の生徒会に、影響が出る。
「でも……でも……」
俺はあることを思いついた。
「先輩、生徒会室で写真撮りませんか?」
「なるほどね、確かにあそこなら撮れるね。行こうか。」
「あっ、そっかその手があった。」
と二人ともさっきまでのしんみりした雰囲気はどこへやら、ケロッとして行ってしまった。
掴みどころがないな。
その後、写真を生徒会室で撮った。
「でも、せっかくなら行事の個人的な写真も欲しいし、今日だってあのへんの目立つところで撮りたかった。」
そうボソッといったのを俺も、上坂も聞き逃さなかった。
春の優しい日差しが生徒会室を照らす。春になって、明るくなり、クリスマスのときのように電気をつけないと薄暗いなんてことはない。光が先輩を神秘的な様子にしている。この人見てくれはいいから。
上坂はお手洗いに行っていて今は先輩と二人きりだ。
「ねえ、田中はこの一年間、楽しかった?」
思えば約一年前か。この人にトイレノックを教えられたのは。今年の引き継ぎ式もひどかった。
………でも、退屈はしなかった。こんな人といて退屈するはずがないだろう。
「どうでしょうね、刺激的ではありましたね。」
「そっか、私は……楽しかったよ。私がいて、静ちゃんがいて、田中がいて……ずっとこのままがいいなって思ってた。でも、いつか終わるんだよね。わかってた。でもね、私は多分東大に受かってるし、静ちゃんも受かる。田中が東大に来れば、また一緒にいられるよ。だから、田中は東大に来てね。会長命令だよ。」
「もう、会長じゃないでしょ。」
その時の彼女の顔はすごく美しくて、不覚にもドキッとしてしまった。彼女は俺の腰に手を回して、ハグしながら、上目遣いで
「待ってるから。」
そう言った。顔だけは整ってるんだからそういうのはやめてほしい。