ラブコメなんて実際に起こり得ないことの証明   作:寿太郎

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30.手段と目的は入れ替わりがち

僕は小さい頃から恋愛感情というものが理解できなかった。小学校の高学年にもなれば、好きな人の一人や二人できてもいいものだが、周りの友達が

 

「私、〇〇君が好きなんだよねー」

 

「青ちゃんは?」

 

「え?私?私は……別にいないかな。」

 

「ふーん、」

 

といった感じで色恋沙汰とは縁遠い生活をしていた。特に活発な人間という訳でもなかったので、友達もそんなに多くなく、特に異性との関わりがなかったというのも一因かもしれないなどと思ったりもした。

 

僕の初恋は中学3年生の夏だった。非常に仲の良かった女子に恋したのだ。彼女は活発な子で、何故か僕を仲間に入れてくれた。何か彼女の琴線を震わせるものが僕にあったのか、それとも気まぐれかわからない。取り敢えず僕はその子と仲良かった。夏あたりに恋愛感情を感じて、正直ホッとしたのだ。ああ、私は普通なんだなと思った。

 

まあ、同性が好きなんてなかなかないから普通に振られた。普通だと思ったのは幻想だったらしい。それから、僕は色々考えた。考えた結果、取り敢えず男の子じゃないと駄目なんだろうとは思った。それから一人称を変えた。私を僕にした。そして、ちゃん付けで呼ばれるのをやめてもらった。高校の入学式の自己紹介でもちゃん付けで呼ぶのはやめてくれと言った。

 

僕は今日、中学3年生の時に振られたときの夢を見た。

木々の葉が緑から赤になって、そして、茶色になって裸になったぐらいの季節。少し制服だけだと肌寒い中、校舎裏に呼んで、

 

「えっと……〇〇ちゃん、好きです!!付き合ってください!!」

 

そういったときの相手の顔は見えなかった。下を向いて、言ったからだ。きっと、困惑した顔をしていたことだろう。もしかしたら、侮蔑したような顔だったかもしれない、どちらにせよ、僕はそれを見ていない。顔を上げたときには、彼女は僕に背中を向けて、

 

「ねぇ、冗談だよね?もう行っていい?」

 

と言って走って何処かへ行ってしまった。

ここで夢は終わった。

 

 

それからというもののなかなかひどい中学生活だった。やはり、中学生というものは精神的に幼く、また、公立中学校特有のなんというかあまり真面目とは言い難い人も一定数いたので、僕は完全に浮いてしまった。自分と違うものを排斥する感じといえばいいのだろうか。それが嫌でそれなりに勉強してこの学校に入学した。

どうして今更、こんな夢を見たのだろうか。

春奈に告白して、中学の時のようにならないかだけは心配だ、それが無意識下で夢になったのだろうか。

 

支度をして、いつも通りに登校する。

 

 

僕は学校について、春奈をデートに誘ってみる。

 

「日曜日、水族館に行かない?」

 

「いいよ」

 

こうして無事にデートの約束を取り付けた。

 

 

 

家に帰ってから一時間くらいたっただろうか、上坂先輩からラインが来た。

 

「今すぐにこの前のカフェに来て」

 

なんなんだ、一体何の用だ。

 

「わかりました」

 

と返事をして急いで向かう。あの人遅かったら機嫌が悪くなりそうだし、と思いながら、カフェに入る。カフェに入ると、上坂先輩がコーヒーを飲んでいるのが見える。今日は窓際の席に座っている。僕は向かいに腰掛ける。

 

「おそーい、」

 

案の定上坂先輩は不満げだ。これでも急いだんだけど。

 

「勘弁してください、急いで来たんですから。」

 

店員にコーヒーを頼んでから座ってしばらく待つ。この人はコーヒーが来るまで喋らないという確信があったので、しばらくはゆっくりできる。そう思ったら先輩は不機嫌そうに

 

「ねえ、青」

 

と腕組しながら話しかけてきた。驚いてよく見ると、既にコーヒーを2杯ぐらい飲んだ跡がある。かなり長い時間ここにいるのかもしれない。

 

「は、はい、なんですか?」

 

「貴方、今週末、春奈に告白するつもりでしょ?」

 

「な、なんでそれを?」

 

「わかるわよ、取り敢えずやめときなさい。」

 

そう言われるとは思わなかった。どうしたんだ?急に

 

「えっと、どうしてですか?」

 

「逆に聞くけど、貴方が今告白してうまくいくと思う?」

 

「いや、それは……」

 

まあ、確かにうまくいく可能性は低いかもだけど、

 

「青は五月ちゃんたちに影響を受けたのかもしれないけどね、あれはレアケースなの。そんな簡単に女の子同士の恋愛はうまくいかないの、それは貴方が一番わかってるでしょ?」

 

そのとおりだ、確かに五月たちに影響をうけてたかもしれない。先輩はコーヒーを口に含んで、嚥下してから続ける。

 

「それにね、青、この前聞いたこと覚えてる?」

 

そう言う先輩の目には何処か遠いところを見るかのような哀愁が漂っていた。

それにしても、前言ったこと?何だそれ、いや何か言ってたな。なんとか頭をフル回転して答えを弾き出す。

 

「恋愛と友情の違い?ですか?」

 

「おっ、ちゃんと覚えてたね、偉い偉い。」

 

そう言って、頭をナデナデしてくる。といっても向かいの席に座っているので、マトモに撫でられていない。子供じゃないんだから……先程の哀愁は何処へやら、

 

「それが、青にはわかる?」

 

「わからないですけど……でも、そんなのわからなくても」

 

「いや、きっとあなたはわからないといけない。だって……いや、この話は今はいいわね。」

 

なんか勿体ぶってるな、気になるんだけど。

 

「はあ、でも、僕が告白に失敗しても先輩には関係ないじゃないですか。」

 

「そんなことないよ、もうね、青がやってるスマホ利用の校則の改正は私の願いでもあるの、だから青が失敗して生徒会がなんかギスギスしちゃうの嫌なの。」

 

そうか、確かに。生徒会に入ったからにはもう責任ある立場だし、軽々しくそんなことできないな。僕、自分のことしか考えてなかった。反省しないと。

 

「ごめんね、私の我儘で」

 

そう言って、先輩は僕の近くまで歩いてきて、僕を抱きしめて頭を撫でる。貴方そんなことするタイプではないでしょう。と思いつつ、なされるがままにする。美人にこうされるのはなかなかいいものである。

 

空気を読んだのか知らないがコーヒーが来たのはその後しばらくたってからだった。

 

先輩の言うことは最もだ。僕個人の思いで生徒会の仕事を滞らせるわけにはいかない。元はと言えば春奈と一緒にいるための生徒会だったのに、手段と目的が入れ替わってるな……

 

 

 

この選択が誤りだったことはすぐに気づくことになる。何度も後悔した。けれども、こうせざるを得ない状況なのである。だから、おそらくもっと前から間違えていたのだろう。おそらくは春奈と一緒に居たいという不純な思いで生徒会なんてやるべきじゃなかったのだろう。でも、このときは先輩のことを心からありがたいと思えた。

 

そんなわけで春奈に告白するのはなくなって、ただ二人で遊ぶだけになった。楽しかった。

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