それはある春の日のことだった。その日は、俺が通う高校で壮絶な部活勧誘が繰り広げられていた。俺は中学時代、これといって何かの部活に入っていたわけでもない俺は何部に入るかを決めかねていた。中学時代に部活動をしていなかった俺は気づいたのである。部活がないと女子と仲良くなれないということに。
同じ部活の女子とキャッキャッウフフしてこそ青春だろう。
取り敢えず仮入部があるので女子が多そうな部活に顔を出そう。そう思って仮入部の日を迎えたのだが……
どうしてこうなった。俺は今周りをゴツい男3人に囲まれていた。怖い。彼らはラグビー部と書かれた看板を持っている。俺は身長は193cmと大きいが、体重が69kgしかないヒョロガキだぞ。ラグビーとか向いてないよ。
と思っていると、
「お前、名前は?」
と一人の男に聞かれたので
「権藤将太です。」
と正直に答えておく。
「ラグビー部に入らないか?」
「いや、ラグビーは……もっと女子と触れ合える部活がいいかなー、なんて……」
そう言って、逃走を試みた。しかし、当然のように阻まれて(流石はラグビー部)
「権藤、貴様は何もわかっていない。」
「ど、どいうことですか、、」
逃走を阻まれて完全に動揺してしまう。
「つまりは彼女がほしいということだろう?」
そのとおりだ!!
「今から俺が言うことは真理なのだが、部活が同じだというくらいで彼女ができるやつは部活に入らなくても彼女ができるぞ」
いや、わかっていた。わかってはいたのだが……
「権藤、ラグビー部に入れ、ラグビー部に入れば彼女ができるぞ」
え?どゆこと?
「どういうことですか?」
「いいか、権藤。女が好きになる人間はどんな人間だと思う?」
え、いや、知らんけど
と思って黙っていると、
「頼りがいのある人間だ、いいか、頼りがいのある人間とはどんな人間かわかるか?」
なるほど、頼りがいのある人間か、確かにそうかもしれない。でも、どんな人間かと聞かれればわからない。
「それはな、筋肉がある人間だよ。当然顔とかが良ければモテるが、それは今から変えられないだろ?今から変えられるのは筋肉だけだ。見ろ、俺たちを。この筋肉!!」
そう言って、ポージングをする。
「パワー!!」
後から思えば、頭のおかしい先輩3人。しかし、このときの俺は感動していた、そうか筋肉か、筋肉があればいいんだ、確かにそれならラグビー部は最適じゃないか?そう思ってしまった。
「それにな、権藤。三年生は全員彼女持ちだ。」
これを聞いた瞬間、俺は入部を決意した。後からわかったことだが三年生が全員彼女持ちなんて普通に嘘だった。
「先輩、是非入部させてください!!」
と言った瞬間先輩たちの口角が緩むのを感じた。
仮入部期間が終わり、蓋を開けてみると一年生は俺だけだった。そうか、ラグビー部の魅力に気づいたのは俺だけだったか……などと、気取っていたがうすうす気づきかけていた。俺が騙されていたことに。
ラグビー部の練習はキツかった。先輩達が筋肉隆々なことからもわかるようにかなりハードワークをこなすことになる。でも、楽しかった。先輩達がすごくいい人たちで俺にすごくよくしてくれて、可愛がってくれた。唯一の一年だということも大きかっただろう。まだ、彼女が実はいなかった件については許していないが。先輩達にはよく奢ってもらったし、ラグビーのことについても色々教えてくれた。ラグビーの楽しさに目覚め、俺はこの部をすっかり好きになっていた。
先輩たちはラグビーに真摯に向き合っていて、インターハイにどうやって出場するかについてよく練習時間外に話し合っていた。この県は有力な高校が二つあって、うちのような弱い高校が二つある。うちじゃないほうの高校は新設で勢いがあり、強豪ともいい勝負をする高校になりつつあった。一方でうちの高校は万年一回戦敗退。
確かに先輩たちはうまいけど、インターハイなんて行けるのかね、と思っていた。
ある時、先輩のうち一人が
「おー、権藤インハイなんて行けるわけないって顔してるな。」
「いえ、そんなことはないです。」
「隠さなくてもいい。実績から見たらそりゃそうだ。でもな、今年は行くぞ、インハイ。去年の先輩が意地張って去年の総体には出たけど、ホントなら今の3年で出るべきだったくらい今年の奴らはうまい。まあ、見とけって。」
とのことらしい。
総体は一回戦のカードが一番大事だ。一回戦で強豪と当たると、勝ち抜けるのはかなり難しい。逆に強豪とじゃなければ、勝ち抜けるのはかなり容易になる。
今日は運命のトーナメントが発表される日だ。
「これが今年のトーナメント表だ。」
そう言って、顧問がみんなに紙を渡す。
「おっしゃーー!!」
先輩達が狂喜乱舞している。どうやら強豪とは当たらなかったらしい。
そう思って紙を見ると、バッチリ強豪と当たっていた。
「え?先輩たちはなんで喜んでいるんですか?」
と聞く。話に聞けばその高校は新人戦で負けた高校らしい。リベンジできるのが嬉しいとのことだ。リベンジできるんか?
大会当日、試合が始まる。相手は明らかに二軍が大半で完全に舐められている。
実は俺はラグビーの試合というものを見たことがなくて、今日は楽しみにしてきたのだ。そう、何故か練習試合も組まれていなかった。ホントになんでなんだ。
そうこう考えていると、試合が始まる。相手がボールを持っており、パスをしようとする瞬間にそこにパスすることがわかっていたかのようにボールを奪い取り、カウンター。もうその流れが三回は繰り返されていた。お陰で二回トライを決めてかなりのリードを奪っていた。
相手の選手を見てホントに先輩たちはうまいんだなあと感心しながら手を叩く。
前半二十分が過ぎて、流石にこちらも只者ではないと気づいたのかあちらも選手を変えてくる。
「先輩達ってこんなにうまかったんですね」
と近くにいた二年生の先輩に言うと
「うまさは向こうの二軍と大きくは変わらないよ。こちらの方がうまいけれど、十回試合して七回勝てるくらいの実力差かな。」
「え、でもこんなに点差が。」
「そりゃ、こっちは勝ちに来てるからね。向こうの選手を研究し尽くしてる。相手の癖から何から何までね。さっきから同じやつからボールを奪ってるだろ?あいつはパスするときに癖があるんだ。だから簡単に奪える。」
へー、そうなのか。めっちゃ研究しとるやん。
「でも、一軍はそうは行かないだろうな。情報があるとはいえあちらがうまい。うまく捌かれてしまう。」
そういう先輩の言う通り前半はそのまま終わってしまった。
先輩たちは円陣を組んで気合を入れている。
「ただ情報のアドバンテージはこちらにある。練習試合をしなかった甲斐がある。」
「もしかして……相手に情報を渡さないようにするために練習試合はしなかったんですか?」
「そうだ、どうせ練習試合なんて大した回数できないし、こちらの情報は垂れ流すのに向こうの情報はとれないからな。それならやらずに情報を秘匿したほうがいいという結論になった。」
「実際、向こうのチームは焦ってなかなか自分のプレイが、できていない。」
後半に入って、相手に一回だけトライを入れられただけでまだリードしている。
そのまま試合が終わり、俺たちが勝った。
「俺たちの勝ちだー」
と俺が喜んでいると、
「まだだよ、俺たちの目標はインハイだからね。まだまだこれからだよ。」
と先輩に嗜められた。