先輩たちは勝利を喜んでいるが、数分で切り替えていた。目標はあくまでインハイらしい。
翌週、先週と同じ場所で決勝戦が始まった。この時期だというのに今日はかなり暑い。地球温暖化の影響か、はたまた先輩たちの熱量に起因するものか。夏はまだ来ていないのに夏のような暑さだ。
決勝戦が始まってすぐに俺は違和感に気づいた。向こうの選手たちも動揺しているらしい。
この前とポジションが違うのだ。
「あの、先輩。ポジションが。」
「そうだな、先週と違うな。相手チームは先週の試合しか俺達の試合を知らない。これは驚くぞ、チャンスに繋がりえる。」
先週の試合は本来と違うポジションでやったのか。
「先週は前半でリードが作れたから後は守るだけだったから何とかごまかせたんだよ。」
そういうものか。先輩たちはガチで情報戦してるな。
どうやらこのチームも研究済だったらしく、ポジションが変わったことで相手も動揺しているのか序盤はこちらが優位にすすめてトライを一つ決めることができた。しかし、流石は強豪ということで前半折り返しのあたりから順応してきて、逆に向こう有利になり、トライを一つ決められた。そのまま前半が終わる。
先輩達はかなり厳しそうな表情をしている。
今日の暑さもあってか先輩達はかなり体力が削られているようだ。
「かなり厳しいな。やはり、強豪とうちの一番の違いは選手層の厚さ。向こうは多分何人か交代してくるが、うちは交代できない。」
先輩の言葉通り後半はかなり厳しい展開が続いた。スクラムの精度、タックルの質、どれをとっても向こうのほうが上なのにこちらは体力的にもかなりキツイ。後半の中盤辺りにトライを決められてしまった。
遂にリードされて、先輩達にも焦りの表情が浮かぶ。時間は無情にも過ぎていく。そんななか、監督が
「交代だ、篠崎、準備はできてるな?」
篠崎とは二年生の先輩だ。
一応全員アップはしているのでいつでも出られる。
「喝を入れてこい。」
そう言って、先輩を送り出した。篠崎先輩はコートに入ると、大声で
「諦めるな!!インハイに行きたいって気持ちはそんなもんだったのか、命を燃やして戦えよ!!」
と叫んだ。
その声でギアが変わったのか後半の終盤はこちらのペースになった。そして、最後の最後でトライを決めた、そして、コンバージョンキック。コンバージョンキックは相手が一回、こちらは前回のトライでは決めれていないので、これを決めれば、同点。時間的にもう点数は入らないだろうから決めればくじ引きで勝者を決めることになるだろう。(高校ラグビーは同点の場合、くじ引きで勝者を決める)
先輩が、キックを蹴る。入りそう、入りそうだ、全身の血が沸騰したかのような興奮、歯を強く食いしばる。手に汗握る緊張。ボールは、ポールにあたり、ゴールとはならなかった。プレイが始まる。先輩達は落胆する様子もなく果敢に攻める。あと、5分。なかなか攻めあぐねているが、集中できていて、いい感じだ。そんな中、先輩が一人、ボールをもって抜け出した。相手ディフェンスが懸命に追いかけるが、既に遅い。ディフェンスを置いていって、一気にトライを決める。華麗なトライだった。スルスルといつの間にか抜け出して、トライ。コンバージョンキックは決まらなかったが、これで勝ったと思った。しかし、そう簡単にはいかなかった。ロスタイムで試合終了間近、疲れていたところを突かれて、トライを決められてしまった。
そしてすぐに試合終了。
負けたのだ。
まあ正直どちらが勝ってもおかしくなかったと思う。先輩達は試合が終わったあと、泣きながら
「インハイに、いぎだがっだ!!」
と言っていた。
その日はおんおん泣きながら先輩達は帰った。二年生の次期部長は
「勝とう、来年は。」
とだけ言ってその日は解散した。俺はまだその気持ちがわからなかった。まだ日も浅いしな。
その日から先輩達がいない練習が始まった。どこかにポッカリと穴が空いたような心持ちがして、しばらくは寂しいなどと思っていたが、
「おいおい、感傷に浸ってて余裕そうだな!!」
という先輩の声により練習がハードになり、そんなことも言ってられなくなった。新人戦までに俺は体重が10kg増えた。
新人戦では一回戦で勝利した。相手が強豪ではないということもあったが、初勝利はなかなかいいものだった。俺はいつの間にかラグビーにハマっていた。ラグビーの戦術などを自分で勉強して頭を使うようになったし、キツイ練習に楽しささえ見出していた。今ならインハイに行けなくて泣いた先輩の気持ちもわかる気がした。
次の年、一年生は入らなかった。そして、ある事件が起きる。
それは総体の一週間前だった。その日は、雨が降っていて、滑りやすかった。俺は急いでいたので走っていた。そして、階段に足をかけたとき、足が滑って転げ落ち、足の骨を折ってしまった。当然試合には出られない。人数は俺含めて丁度15人だから試合には出られなくなった。
先輩達が病室に来てくれた。先輩達の顔が見えたとき、やけにその姿がぼやけて見えた。
「先輩、すみません、俺…俺………。」
声にならない。申し訳ない。先輩達の努力を俺が台無しにしたんだ。
「いいんだ、権藤、お前が気に病むことはない。」
そう主将が優しく言葉をかけてくれる。
「でも……でも…俺、先輩の努力を……。」
「いいんだ、権藤。」
先輩も泣いていた。でも、先輩は俺を慰めてくれた、先輩達が一番辛いはずなのに。
「なあ、権藤、来年はインハイ、行ってくれよ。俺らの夢なんだ、インハイ。」
「はい……。」
その約束を忘れることは決してないだろう。先輩達は無理だとわかっているはずだ。きっと部員も入らないだろうし、部が存続するかさえ怪しい。でも先輩がその約束をしてくれたおかげで俺は助かったのだ。ただ許されるだけじゃ納得がいかなかった。
それから一年生が入部することもなく、新人戦にも出られなかった。
ある時、ヒョコっと上坂先輩という元生徒会副会長の人が部室にきた。色々話した感じどうやらラグビー部を応援してくれるらしい。
「生徒会の人が来ても予算を減らされたら抵抗するのよ、部活は勝つのが目的じゃないの!!って言えばなんとかなるから」
ということも教えてくれた。なるほど、案の定三日後くらいに生徒会の人が来たが突っぱねた。
ただ、一つ謎なのはサッカー部に対して
「いい?サッカー部は強いんだから、もっと予算をもらうべきなの!!自信をもって」
と言って上坂先輩がサッカー部に発破をかけていたところだ。何がしたいんだろう。