46.卒業式
今日は卒業式だ。三年生の先輩が卒業する。といっても知っている三年生の先輩なんて上坂先輩くらいしかいないけど。式自体は大したものじゃない。卒業証書を校長が渡して、何人かの偉い人と会長がお話して、終わり。
三年生の先輩達には泣いてる人もいた。彼らは三年間充実した毎日を送っていたんだろう。僕はニ年後どうやって卒業するのだろうか。泣いているだろうか、無表情だろうか。わからない。でも、少なくとも後悔はないようにしたいと思った。
卒業式が終われば、僕たち生徒会役員は片付けである。先輩達は外で写真を撮ってもらっている。上坂先輩は友達がいないらしいのでもう帰ったのではないだろうか。でも、元会長(田中先輩だっけ?)とは撮ってるかも。仲いいみたいだったし。春奈は副会長として何か仕事があるらしく、僕と高橋、五月の三人を置いて、どこかへ行ってしまった。
「じゃ、私、帰るね」
そう言って、五月が教室に戻った。荷物を取ってくるらしい。五月は大体愛梨と帰っている。今日もそうなのだろう。その後、僕は少しお花を摘みに行った。お花を摘み終わって、教室に向かう途中、遠坂先生に会って
「あー、小鳥遊さん。生徒会室もう使わないから鍵閉めておいて、僕これからちょっと用事があって」
と鍵を押し付けられた。まあ仕方がない。この人の頼みは断ったらあとが面倒くさそうだ。大人しく鍵を受け取って生徒会室に向かう。
生徒会室の窓が閉まっているか確認するためにドアを開けると、一人の美しい女性が机に突っ伏して寝ていた。窓からは斜陽が差し込み、彼女の美しい肌を照らしている。静かな寝息に合わせて体が動く様はまるで芸術作品のようだった。
言葉を発さず、時計が時を刻む音だけが響く部屋で、僕はしばらく彼女に見とれていた。
と、そこで僕はこの人がよく見知った顔である、上坂先輩であることに気がついた。僕は上坂先輩の側まで行って、上坂先輩に声をかけながら、体を揺らす。
「上坂先輩、起きてください」
「ん、うーん。」
上坂先輩が目を覚まして大きく伸びをする。伸びをすると、彼女の大きな双丘が強調されて、自分との格差を感じてしまう。
「あー、私、寝ちゃってたんだ。」
「おはようございます、なんでここにいたんですか?」
先輩は眠そうな目をこすりながら欠伸をして、
「いやー、写真とか撮りたかった人とは写真撮ってもらったからさー、みんなに挨拶をしたいなーと思ってここに来たんだけど、もうこんな時間かー。」
「まあ、もうみんな帰りましたね。」
「そっかー、まあじゃあいいか、帰ろー、青は荷物まだ教室にあるの?」
こくりと首肯すると、
「じゃあ取ってきなよ、待ってるから」
と言われたので大人しく教室に戻る。僕が荷物を持って生徒会室に戻ると、上坂先輩は書類をなにやら眺めていた。僕が戻ってきたのに気がつくと書類を何処かに置き、荷物をもって、
「じゃあ、帰ろうか」
と言って、生徒会室のドアを閉め、鍵をかけた。
「この鍵、私が返しに行ってもいいかな?」
そう彼女が言う。別に問題ないので職員室の前まで二人で行ってから先輩が鍵を返しに行く。ドアについている窓から上坂先輩が鍵を返しに行くのを見ていたが、心なしか鍵を大切なものを守るかのように持って、名残惜しそうに返していた。
職員室から先輩が出てくると、やはり名残惜しそうに校門まで歩く。
「…生徒会室が私の青春だからさ、碌なことしてなかったし、生徒会の仕事もうまくやれたわけではないけど、生徒会室でみんなとバカやってる時が一番楽しかった。だから、最後に生徒会室に行けて良かった。」
そう、ボソッと彼女に似合わず感傷的なセリフを吐いたのだった。
その後、しばらく無言で歩き続ける。思えばこの人はいつもうるさいから、無言なんてなかなかないことだ。黙ってたらただの美人なのに。勿体ない。そろそろ駅が見えてくるなーと思ったあたりで先輩が徐ろに口を開く。
「青は、春奈に告白するの?」
「はい、終業式の日にしようと思ってます。」
別に細かい日程まで決めていた訳では無いが、そう言葉が口をついて出た。
「そっか、まあうまくいくといいね」
「いつものやつはないんですか?いつもの、恋愛と友情の違いは?ってやつ」
「わかったの?」
「いや、わかりませんけど」
その後は無言で駅まで歩き続ける。駅からは僕と上坂先輩は方面が違うので別れることになる。
「じゃあね、青。」
「はい、お疲れ様です。」
そう言って、別れた。