ラブコメなんて実際に起こり得ないことの証明   作:寿太郎

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50.五月祭

翌朝、上坂先輩が

 

「ふぁ〜あ〜、青おはよう〜、あれ?青は?」

 

と言って、目を覚ました。僕は上坂先輩から逃れて結局ソファの上で寝た。寝れないんだもん、仕方ないね。案の定上坂先輩はご立腹だったが…

 

「もー、なんでソファに寝るのー。私、青と同衾したかったのにー。」

 

同衾って…今日日そんな単語ほとんど聞かないぞ。一緒に寝る、とかさ。もっとあるでしょ言い方。

こんな女子大生は嫌だランキング堂々の一位を更新した瞬間だった。

 

「よーし、私の意外に高い料理スキル、見せつけちゃうぞ。」

 

と言って、朝ごはんを作り始める。今から作るのかー。もう結構いい時間だけどなー。

先輩の意外に高い(らしい)料理スキルで作られた味噌汁をすすっていると、朝の9時になった。

 

「というか先輩はまだむこうに顔を出さなくていいんですか?」

 

「良いわけないじゃない」

 

と大爆笑している。はよ行け。後から聞いた話だとかなり真剣に怒られたらしい。

 

上坂先輩は戸締りを僕に頼んで五月祭に行った。

数十分後、僕はゆっくりと用意をしていざ外に出ると、気がついた。僕、東大までの道知らん。困った。上坂先輩の家の前でぼーっとしていると、

 

「あれー、青だー!!」

 

あまり聞き慣れない声がした。誰だ?その時、いつの間にか小さな美女が僕のすぐ近くに来ていたことに気がついた。確かこの人は文化祭のときに見た…

 

「永野先輩ですか?」

 

「そーだよ!!というか先輩なんてつけなくていいよ。学年被ってないでしょ?好きに呼んでよ。」

 

好きに呼んでよと言われても流石に呼び捨てで呼ぶことは憚られたので、

 

「わかりました、永野さん。」

 

「唯とかでいいのに。って、そんな場合じゃない!!静ちゃんは?まだ寝てる?」

 

まだ寝てるって、あの人どれだけマイペースだと思われてるんだ…と困惑しながら

 

「いえ、さっき出ていきましたよ。」

 

「あれー?すれ違った?もー。」

 

地団駄を踏んでいる。永野さんはかなり小柄で地団駄を踏む姿はすごく可愛らしい。

 

「永野さんは今から五月祭に行くんですか?」

 

「そーだよー、というかさっきまで東大にいたんだけどー、仲いい後輩から上坂が来てませんって顔真っ青にして来てー。もー、先輩をパシリに使うなんて……しかも静ちゃんいないし。」

 

永野さんは口を尖らせながら文句をグチグチと言っている。

 

「よかったー、僕東大までの道わかんなくて」

 

「えー、静ちゃんが教えてくれなかったの?もー、私が来なかったらどうするつもりだったのさ。」

 

まるで永野さんは上坂先輩の親みたいだ。田中先輩から聞いていた感じと全然違う。なんならこの前文化祭で会ったときともかなり違う。時間は人を変えるんだなー。心なしか大人びた様子の彼女を見て思った。

 

東京大学に着くと、かの有名な赤門をお目にかかった。なかなか大きい。ほへーっとしてると永野さんに

 

「ほら、はやくー急いでー、私もそろそろシフトの時間なのー」

 

と先輩に急かされて急いで先輩についていく。先輩についていくと、お好み焼きのお店があった。そこで上坂先輩が店番している。あの人店番なんてできたんだ…

 

「もー、宮坂ー。静ちゃんとすれ違ったじゃーん。」

 

「はい、すみません、ってホントは謝るべきなのあいつですけどね…」

 

と刺々しく上坂先輩を睨みつけている。なんか仲悪そう。

 

「それで、静ちゃんはちゃんと接客してるの?」

 

「うーん、まあ一応?かなり問題は起こしてますけど。まあ仕方ないのかなという感じです。ちゃらそうな男がナンパしてきたら、あら、あなた達暇なの?そんなに女と喋りたいならキャバクラでも行ったらどう?あなたたちみたいなカスでも金を払えば相手してくれるでしょう…とか5分間くらい罵倒して男の人が泣きながら帰ったり…」

 

そりゃやばい。もっと対応の仕方あるやろ。相手も相手だから情状酌量の余地はないけど。

 

「えーと、先輩。その横にいる子は誰ですか?」

 

「あー、この子ね。静ちゃんの友達の後輩。」

 

そう言った瞬間宮坂さんは顔を歪める。

 

「こんにちは、小鳥遊青と言います。よろしくお願いします。」

 

と言ってペコリと挨拶しておく。

 

「うわー、上坂と違ってちゃんとしてるね。てっきり上坂の高校には上坂みたいなやつしかいないのかと」

 

失礼な人だ

 

「あんなのと一緒にしないでください。」

 

と言った瞬間宮坂さんと、永野さんの顔が歪む。ん?

 

その瞬間世界が暗転する。息が苦しい。

 

「誰があんなのだってー?」

 

先輩にヘッドロックをかけられていることに気がついたのはその声が聞こえてきてからだった。

 

その後しばらく東大の中を先輩と一緒に回った。先輩は危険人物扱いされているらしく、各所で煙たがられていた。あんた何したんだ…。

 

日が傾いて、空が赤く染まる。そろそろ夕方だ。時計を見ると、5時を少し過ぎたところだった。

 

「先輩、僕7時の新幹線で帰るので、そろそろ戻りたいんですけど…」

 

「え?そうなの?てっきり明日もいるのかと思った。」

 

「いやいや、僕は明後日学校ですよ?」

 

「えー、利き酒とかやりたかったのに。」

 

いやいや、こちとら未成年ぞ?あなたもまだ酒飲めないでしょ。

 

その後、荷物を取りに帰って、すぐに上野駅に向かった。幸いにもまだ少し時間があったので、駅弁を買って

 

「じゃあ、先輩。ありがとうございました。」

 

「うん、じゃーねー」

 

と言葉を交わして帰った。

 

非日常から日常に帰っていく。日常から非日常に向かっていくのはワクワクして、落ち着かないものだが、非日常から日常に向かうのはあっさりだ。あっさり、なんの慣性もなく自然に戻っていく。楽しかったなあという思い出だけが残るのだ。その思い出があるからといって、友達が増えるわけでもなく。彼女ができるわけでもない。僕は依然としてボッチライフを過ごしていた。

 

 

 

七月、期末テストがあった。前みたいに勉強会なんかはしない。一人で黙々と勉強する。ボッチになって勉強することが増えた。やることが他にないから。中学のときもそうだった。そもそも勉強とは一人で己の精神と相対するものなのだ。

 

 

虚しい気持ちになりながら、いつもより圧倒的に良い成績表を眺めていた。学年トップ10か。本当に虚しい。

 

親は上坂先輩のおかげねと東大生の威光の強さに感心していた。んなわけないだろ。というツッコミは飲み込んでおいた。テストも終わったということで夏休みももうすぐだ。

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