僕はいつも昼食を自転車小屋の近くのベンチで食べている。そして、テストが終わったあとは帰る時間が早くなる。具体的には昼食を食べずに帰れる。つまり何が言いたいかというと、昼食をいつもの場所でいつもの時間に食べようとすると、大量の自転車通学の人の前で食べることになるわけだ。それは避けたい。かと言って教室でボッチは気まずい。そこで、僕はご飯を食べる時間をずらすことにした。
13時を回ってそろそろいいだろうというときに自転車置き場の近くにそそくさと行ってご飯を一人で食べていたのである。
今日もその例に漏れず一人で少し遅めの昼食を食べていた。
「ねー、知ってる?去年同じクラスだった小鳥遊さん、春奈に告ったんだってー」
「えー、告るってあれ?レズってやつ?w」
「生徒会入ったのもそういうこと?キモいわーw」
「てかさー、このまえ美紀が…」
脱兎のごとく走り出していた。自転車小屋とは反対方向に。慌ててトイレに駆け込む。熱いものが喉を通り過ぎて便器に吐き出す。苦しい。
その苦しさが心の痛みなのか、吐いたことによる苦しさなのか。僕には判別できなかった。
七月三十日。夏休みが始まって少したった。夏休みの間、僕はゲームと勉強に勤しんでいた。今日もいつも通りゲームをしていると、滅多にならないラインの通知がなった。親からご飯作っとけとかのメッセージだろう。そう思いながら開くと、予想外にも上坂先輩からだった。そういえばこの人帰ってきているんだろうか。
「今からあのカフェ来れる?」
どうやら、帰ってきているらしい。無機質な一文だったが、僕は当然暇していたので
「行きます」
と返事をして急いで家を出た。
カフェに着くと、上坂先輩が肘を付きながら本を読んでいるのを発見した。上坂先輩の目の前に座って、コーヒーを頼んでから
「上坂先輩、お久しぶりです」
と挨拶すると、上坂先輩は読んでいた本を閉じて
「おひさ~、最近どう?」
と言う。最近どう?と聞かれても特に言うことはないので少し逡巡して、
「いえ、特に何も。」
と答えておく。
「えー!何かないの?生徒会関係とかで」
生徒会という言葉に少し胸がチクリと痛む。
「いや、何もないです。そもそも僕は今生徒会役員じゃないですし。」
「え?そうなの?やればいいのに。向いてるよ?」
「いや…僕なんて」
そう言葉を切って黙り込んでしまう。その間上坂先輩は黙り込むのは許さないといった表情で僕の次の言葉を待ち続けている。僕が黙っている間に先程頼んだコーヒーが来た。僕としてはこのまま黙っていてもいいのだが、上坂先輩のその目は自然と僕の口を滑らかにした。
「僕は、その…春奈と一緒にいるために生徒会に入って、私物化しようとした…から。その駄目というか、なんというか。」
上坂先輩はその言葉を最後まで真面目くさった表情で聞いて、
「別に良くない?だって公約達成してるし」
「いや、でも、そんな僕は生徒会にいちゃいけないし、入るべきじゃなかったんです。」
そう言って黙ってコーヒーを一口飲む。少々冷めたコーヒーは苦かった。
上坂先輩は大きなため息を一つついて、携帯で誰かに電話し始めた
「あ、もしもし?私、私。ん?オレオレ詐欺じゃないって。今からカフェ来て?…そうそう学校の近くの」
誰かもう一人にも何やら電話をすると、
「いい、青?生徒会の仕事なんてね、動機なんてどうでもいいから高校を少しでも良くすれば誰でもいいのよ」
と上坂先輩が言うと、カフェに来店者が来た。この小洒落たカフェには似合わない汗だくの大男だ。この人は確か……ラグビー部のゲンドウ?だっけ?そんな息子をエヴァに乗せそうな名前だったっけ?
「あれー早いね。」
「たまたま偶然近くにいたので。」
たまたまと偶然って同じ意味じゃなかろうか。
「ふーん、とりあえずさ今、この青が自分は生徒会役員として相応しくなかったとか言ってるのよ。」
「そうなんですね、自分はそうは思いませんが。」
そう言って彼は僕の方を見て、
「君のおかげで俺は今年県総体に出ることができた。インターハイには行けなかったが、まだ頑張れることに幸せを感じている。君のおかげだ。ありがとう。」
そう言って深々と頭を下げた。この人こんなキャラだっけ?いつの間にやら来ていたサッカー部のいけ好かないイケメンが
「俺たちも君のおかげで練習がより良くなった。ありがとう」
そう言ってウインクをする。お前はいつの間に来た。それに、キモい。ラグビー部の名前を忘れた人が
「それにスマホ利用に関しての校則改正は素晴らしかったじゃないか。君が生徒会役員としてふさわしくないなんてことはない。胸を張れ。」
と続ける。いつの間にか、頬を熱いものが伝っていた。
「はい、じゃあありがとう、帰っていいよー」
「え?人使い荒くないですか?」
「五月蝿い、帰れ」
と言って上坂先輩は二人を帰らせた。
二人が帰ったあと
「ほら、わかった?青はグチグチと言ってないで胸を張りな?私みたいに胸はないけど…」
「はい……」
先輩たちのおかげでだいぶ救われたような気がした。さらっといじられた気がするが気にしない。
その後、先輩としばらくおしゃべりした。その時に飲んだ少し冷めたコーヒーは苦いんだけども味わい深い旨味を感じた。