電車が駅に止まる。あいも変わらずボロい電車だ。ところどころ塗装が剥げているし、東京の人からしたら信じられないが2両しかない。その2両しかない電車に乗り込むと、適当な開いている席に座る。電車の中は冷房が効きすぎていて少し肌寒い。こんな時期に冷房はいらないだろう、どう考えても。
街から離れていく電車の中で次にここに来るのはいつだろうか。恐らく来ないだろう。来る意味もないし。田舎の街なんて小さいもので10分弱も電車に揺られていればすぐに田園風景が広がる。この街はこんなに小さかっただろうか。すっかり東京に慣れてしまってそんなことも忘れていた。
上坂の目の前でバカップルがイチャついている。彼女ははぁとため息をこれ見よがしにつく。そして、髪を弄りながら深い思考に沈んでいく。
人はなぜ恋をするのか。それが上坂がいつの日からか持っていた解明したいテーマだった。繁殖のためなら恋なんてする必要はない。ではなぜか?恋によってその時代に合っていない人間を選別するためだろうか?それならば、恋が神聖で純粋である必要はない。少女マンガや、その他恋をテーマにして紡がれる物語のように恋を崇高なものとして崇め奉る必要はないではないか。と彼女は思っていた。彼女は自身が恋を神聖化しすぎているのを自覚していた。恋というのはそんなに崇高なものではなく、実際は物語の中のように純粋なものでもない。それは薄々わかっていた。しかし、フィクションの中とはいえ、純粋な恋が存在するならば、現実にもそれに近しいものがあるのではないか、と考えた。まあ実際のところ恋愛がここまで神格化されたのは明治以降に入ってきたキリスト教、つまり西洋的価値観が根底にあることは間違いないのだが。
上坂は恋をしたことがなかった。周りが〇〇君が好きーと言っているのを冷めた目で見ることしかしてこなかった。だからこそ、自分に手が届かないものにここまで執着するのかもしれない。もしくは……私が乙女だからかもしれない。そんなことを考えて、フフッ…と笑う。自分が乙女なんて。馬鹿みたいだ。それとも、これが恋なのかもしれない。恋に恋するとはよく言うが本当に恋に恋するとはこういうことなのかもしれない。恋に焦がれて、恋について考え、なんとか理解したいと思う。これが恋ならそれは悪くないな。
そういう意味でいうと小鳥遊青は、私とはまた別方向の病気で恋に依存しているというのが正しそうだ。ホストとか行ったら沼りそう。
電車が目的の駅に到着する。キキーッと甲高い音が鼓膜を刺激する。電車を降りて新幹線に乗り換える。その時にコーヒーを買っておく。こんな時期に東京に行く人たちは何を考えているんだろうか。それなりに人がいる。流石に席が埋まることはないが、指定席にしたほうが良かったかもしれない。そこで制服姿の高校生らしき人を見て後期試験に向かうのかと思いながら開いている席に座る。
私が現実に失望し始めたのはいつだっただろうか。高校生くらいだった気がする。周りが恋だの愛だのと言って彼氏、彼女を作ってイチャイチャしているのを冷めた目で見ていた。私には男は性欲の対象として、女は依存の対象として相手を見ているようにしか見えなかった。恋愛とはそんなものかと独りごちた。しかし、そんな現実を見ても私はフィクション作品だとわかっていても、ラブコメのような恋愛が存在すると信じて疑わなかった。そんなとき、中学時代の後輩が女子と付き合い始めたという話を聞いた。僥倖だった。そうか、この歪な互いの欲望の押し付け合いは男と女だから起きるものなのか。女と女、男と男であれば私が知りたいことが知れるかもしれない。そう思った。都合のいいことに女のことが好きな女はすぐに見つかった。
小鳥遊青だ。
私はすぐに違和感に気がついた。なんというか明らかに春奈のことを好きではないのだ。そのちょっと一歩引いたような態度に私は最初本当の恋とはこんな感じなのか、と目を輝かせた。しかし、すぐにそれが違うとわかった。彼女はやはり春奈に依存しているだけだ。ただ、他の人と違うのはちょっと頭がいいからそれが恋ではないと薄々感づいている。多分他の人から「好きなんでしょ?」みたいにいわれてこれが恋?というふうに勘違いしているだけだろう。それが如実に態度に表れている。ただ確信はなかった。だから追加実験をすることにした。
彼女を私に依存させてあちらが告白してくるかを確認するのだ。非常に非人道的な行為であるが私はそれを実行した。結果は案の定だった。色々やったんだけどなー。
大学生になって唯先輩が田中と付き合い始めた。それからの彼女の変化は凄まじかった。頭のネジが外れたような奇行は鳴りを潜め、奇行を続ける私の保護者的ポジションを確立したのだ。話に聞くところだと明らかに付き合い始めてから変わったらしい。恋というものはそこまで人を変えるのかと私は驚愕した。その出来事は私の恋への興味をさらに強固なものにした。
しかし、結局のところ私は未だ真の恋というものを理解できずにいる。取り敢えず今のところの私の結論は
ラブコメのような恋なんて存在しない。
というものだ。つまり、ラブコメなんて嘘っぱちで実際の人間の機微とは大きくかけ離れているということだ。一応男と男の恋も調べようとは思うが、結果として変わらないだろう。
そう結論づけてコーヒーを開ける。かなりヌルくなったコーヒーは私が長時間考えていたことを物語っていた。窓の外を見ると、景色は大きく変わっていてかなり街中に来ていた。
「もうこんなとこまで来たのか。」
考えに夢中で気が付かなかった。
コーヒーを飲みながら窓の外のだんだんと変わっていく景色を見て、せっかくなら恋愛についてレポートのような形式でまとめよう、と思った。スマホのメモアプリを起動して、早速書き始める。タイトルはどうしようか。しばらく考えて
「ラブコメなんて実際に起こり得ないことの証明」
と打った。
遂に完結になります。自分としては初めての作品が無事に完結できて大変嬉しいです。ここまで読んでくださりありがとうございました。