事件屋ウィステル   作:フッ軽布教女サッチ

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3章、開幕

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三章 紺碧の海原~鉄路を超えて~
二十三話 帰郷


「こんなところでガキが何してんだ」

 

隣に、女性が座り込む。

 

「……あなた、誰」

「誰だっていいだろ」

「不審者」

「あ? どこからどう見たって清廉な教会のシスターだろうが」

 

不良のような座り方をするシスターがこの世にいてたまるか。

そう言い返せば、彼女のゲンコツが頭に降り注いだ。

 

「痛いっ!」

「疑った天罰」

「私刑の間違いじゃないの!?」

「いーや、空の女神様からのありがたーい天罰だな」

「何よあなた、わけわかんない!」

 

そう叫べば、彼女は綺麗な翡翠色の瞳を不機嫌そうに伏せ、口をへの字に曲げた。

そして先ほどゲンコツを落としたばかりの頭をそっと撫でて、ぽつりと呟いた。

 

「バカでかい剣を背負ってるガキを見過ごせるわけないだろ。それ、どこで拾った」

「……家の物置。ホコリ被ってた」

「ひでぇ家。“古代遺物”にホコリ被せんなよ」

 

酷い家。

あぁそうだ、間違いなく酷い家だ。母さんを忘れた父さんのいる家なんか。

 

「行くところ、あるのか」

「……ない」

「じゃ、あたしらと一緒に行くか。他にも物理的も精神的にも冷たいオニーチャンとでっけぇおっさんが居るけど」

 

ほら、あそこ。

彼女が指差した先には、言った通り冷たそうなお兄さんとでっかいおじさんがいた。

たしかに、アテはない。衝動で飛び出してきたから。

適当に魔獣を倒して、セピスを売って過ごすつもりだったけれど。

 

「……うん、一緒に行く」

 

誘われた旅も、悪くないかもしれない。

差し出された手を握る。

すると女性はニィと笑い、私を引き上げた。

 

「お前、名前は?」

「……ラファエラ」

「へぇ、天使様か。いい名前だな」

「嫌いよ、こんな名前!……お姉さんは?」

「セリス。セリス・オルテシア。いい名前だろ?」

 

オルディスの路地裏に差し込む月の光が、燃えるような赤髪を照らす。

師との出会いは、綺麗な満月の夜のことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はァ〜〜…………」

「また大きなため息を……まずは背筋を伸ばすがよい」

「だってェ……」

 

帝都ヘイムダル駅を出て20分。

静かに赤い月のロゼを読むヨルダを膝に乗せ、事件屋は盛大に、それはそれは大きなため息をついていた。

周囲に座るのはエリオット、マキアス、フィー、ラウラの四人。イクスはマキアスの膝に乗ってピンとコインを弾いて遊んでいた。

 

乗っている列車の行き先は、海都オルディス。

紛うことなき、ラフィの故郷だった。

 

「お父さん、嫌いなんだっけ」

「嫌いも嫌い、大っ嫌い。あんな薄情者、2度と顔も見たくない」

「別にオルディスが実習場所じゃないんだから良くない?」

 

フィーの言葉に、項垂れながらも頷くラフィ。

ラウラとフィーの間に挟まるように座った彼女は、腕の中のヨルダの髪を器用にも編み込み始めた。よっぽどストレスが溜まっているらしい。

口端を引き攣らせるマキアスの襟をちょいちょいと引っ張り、イクスはこっそり耳打ちした。

 

「ラフィ、最近隣人トラブルってヤツで寝不足」

「隣人……あぁ、確か君たちはアパート暮らしだったな」

 

流石は帝都出身、その一言で全てを理解した。アパート暮らしで隣人トラブル、寝不足ということは騒音だろうか。

 

「毎朝アイツが血だらけでベランダから入ってくるからさ」

「それは本当に大丈夫な隣人か??」

「いつかすねの埋没毛ピンセットで全部抜いてやるって息巻いてるから多分だいじょーぶ」

「なぜ美容の面倒まで……!?」

 

昨夜、ストレスのあまりついにメルキオルのズボンの裾を捲り上げピンセットを構えたものの、彼の脛はつるつるのピカピカだった。「ネコもすることがあるから、よく剃ってるんだよね」と笑う青年にぷるぷると怒りに震え、「女子みたいなことしやがって」と叫び、結局弁慶の打ちどころをチョップするのみで終わったのだ。

二人がコソコソ話している間も、結局ストレスを発散できていないラフィの手はちまちまとヨルダの髪で三つ編みを続けている。

 

「今クソ親父にあったら爆散する自信ある」

「わかった、わかった。オルディスに着いたら真っ先に船乗り場に直行しよう」

「言ったな?約束だからな?破ったら針千本だぞ?」

「針千本か……フフ、それは痛そうだな」

 

見事なヘアアレンジを施されたヨルダの後頭部を眺め、幼い子供のように何度も確認する友人に、ラウラは久々に人の前で顔を綻ばせた。

その様子に目を丸くした男子二人。興味なさそうに欠伸したフィーは、そのままぼうっと流れ行く景色を見つめていた。

 

「そういえば、ラフィ。そなた、ブリオニア島については詳しいのか?」

「ん、まァ、それなりに。たまに街のガキどもと渡って秘密基地代わりにしてたし」

「遺跡を秘密基地にって、君なぁ……」

 

呆れるマキアスに「子供の頃の話だよ!」と軽く怒り、こほんと咳払いをしてリセットする。

 

「ブリオニア島は一言で言うと遺跡島だな。なんといっても特徴は島の裏に掘り出された巨大な騎士像だ」

「確か……A班の行ったノルド高原にも同じのがあるんだっけ」

「あァ。だからか知らねェけど、爺さん婆さんはみんなアレのことを騎士様だとか精霊様だとか呼んでるんだよな」

 

ブリオニア島にある遺跡は、基本的に島裏にある騎士像を中心に作られている。夏至祭の時期には参拝客も訪れるため、無人島にしては道はよく整備されている方だろう。

港、というか桟橋付近にはかつて秘密基地として改造に改造を重ねた小屋も建っている。ミルディーヌ曰く、近頃は定期的に訪れる学者が拠点にしているらしい。きっとまだ使えるはずだ。

 

「人はいないが、魔獣は出る。参道も魔獣避けは無いから、武器やら導力器の整備はしっかりな」

「街灯、ないんだ」

「そりゃ無人島だからな。普段は人がいないし、夏至祭前には運動会感覚で領邦軍が掃討してたんだよ」

「! なにそれ楽しそう」

 

フィーがようやく話に食いついた。

大会が加点方式であることや、ブリオニア島の作りが実際戦うであろう自然を縮めたようなものであることから、街勤の領邦軍兵にとってはいい訓練であることを解説すると「団のみんなと似たようなことした」と目を輝かせて話し始める。

 

「草陰からゼノのライフルが飛んできた時は死ぬかと思った」

「やべェなそのゼノって人。あたしらの方も一回オーレリアさんが全力で邪魔してくる回があってさ」

「黄金の羅刹が? そっか、ラマール州だっけあの人」

「そうそう。あの人当時新兵だったんだけど、それこそ岩山の上から斬撃が飛んできて……」

 

キャッキャと物騒な話題に花を咲かせる二人。その隣で打って変わって顔を顰めるラウラ。姉弟子であるらしい黄金の羅刹の話題が出た時は少し眉間の皺が緩んだが、フィーが話すターンになると再び深い谷が出来上がる。

 

────次は 終点 オルディス オルディスです

──────お降りのお客様は、忘れ物のないよう────

 

「ほ、ほら二人とも!ついたよ!」

「もうそんな時間か。ヨルダ、栞挟んで仕舞っとけ」

「はぁい」

 

ゴソゴソと荷物を整え始める女子たちに、エリオットとマキアスは顔を合わせてため息をついた。

間に何も知らない第三者を挟めば何とかなると思ったが、少ししか緩和できないようだ。

列車がホームに入り、終点だと告げる。完全に止まったことを確認して、一行は座席から立ち上がった。

 

「今度は捕まるなよ、マキアス」

「わかっている。 ……流石に大人しくしておくさ」

「え、マキアス捕まったの?」

「そういえば、前回の実習で領邦軍に捕らわれたと言っていたな」

「ええい、その話は今はいいだろう!!」

「アハハ! メガネサン怒った」

「なっ……笑ったな、イクス〜〜ッ!!」

 

揶揄うイクスを持ち上げて米俵のように抱え、なけなしの体力を使って猛ダッシュでマキアスは列車の外へ駆け出した。そのまま駅のホームでぐるぐるとぶん回されている。

きゃらきゃらと笑う弟にラフィは穏やかな気持ちになる。ここ数日荒んでいた心が浄化されていくようだった。

 

「ラフィ、わたしもだっこ」

「あ?仕方ねェな……よいしょっと」

 

抱っこを要求するヨルダをリュックごと持ち上げ、列車を後にする。

列車の出入り口からざぁっと潮風が吹く。懐かしい香りに思わす口端が緩む。浴びすぎるとベタベタするから、あまり長時間浴びるものではないが。

 

「改札はあちらだな」

「あァ、さっさと行こう」

 

ラウラの言葉に頷き、改札へと歩き出す。

サッと豪華絢爛なロビーを通り抜け、一歩街に足を踏み出せば、先ほどよりもずっと強い風がびゅうと一行に叩きつけられる。

思わず閉じた目を再び開ければ、目の前には美しい海がキラキラと輝き、穏やかな波音を立てて、そこに存在していた。

 

(あたしは、この美しい街から逃げた)

 

女は静かに目を閉じて、何も言わずに、皆の後をついて歩いた。

この街を愛している。愛しているのに、私は────

 

「ラフィ?」

 

一つ前を行くフィーの呼びかけに、前を向く。

今行く、とだけ呟いて、顔を隠すように俯きながら歩いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ブリオニア島、桟橋前の小屋。

ぽつねんと机の上に置かれていた課題の中身を引っ張り出す少年少女たちは、皆一様に口端を引き攣らせていた。

 

「魔獣退治だ」

「こっちも魔獣退治」

「街道の点検だよ」

「ふむ、騎士像の写真撮影だそうだ」

「…………これも、魔獣退治……」

 

課題の半分以上が魔獣退治。

時期的に、すでに掃討大会は終わっているはず。つまり。

 

「領邦軍じゃ倒せねェ手配魔獣押し付けたな、クソジジィ──────────ッ!!!!!」

 

絶叫がブリオニア島へと響き渡り、小鳥が一斉に島から飛び立った。

6月26日。雨季の帝国では珍しい、スカッと晴れた日のことだった。




界が迫ってきてるおかげで最近自我を保てなくなってきました

追記 事件屋FF14DQ10もろもろの落書きを放り投げてるアカウント作りました
Twitter(強固な意志)での更新報告もここで行っています
https://x.com/Satiko_Rakugaki
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