事件屋ウィステル   作:フッ軽布教女サッチ

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二十四話 陽の当たらぬ道

高さ80アージュ。苔生してはいるが、繊細な彫刻の施された巨像は、オルディスに背を向けて守るように海を睨んでいる。

幼い頃、何度も見た光景だ。夜中にユーシスとパトリック、アンゼリカを連れ出して見せに来たこともある。

 

「だぁっ!疲れたー!」

「イクス、うるさい」

「でも確かに……強かったね……」

 

その足元で、皆疲弊して座り込んでいた。

手配魔獣その1、通称ギガントササパンダー。異常成長したササパンダーが群れの長となり、島中のササパンダーを纏めて騎士像付近で幅を利かせていたのだ。

お陰で巡礼順路に支障が出ていたのだが────これ幸いと、Ⅶ組へと押し付けられたというわけだ。

 

長を倒せば周辺に溜まっていたササパンダーたちは蜘蛛の子を散らすように逃げていく。本来は進んで人を襲うような魔獣ではない。どうやら大きいのが出て気が大きくなっていただけらしい。

額から流れ落ちる汗を拭ったエリオットは、何かを思い出したように懐を漁ると、頭上の岩から突き出るように身体を乗り出した騎士像を、ARCUSのカメラ機能でパシャリと撮影する。

画面を覗き込めば、直下ならではの迫力がこれでもかと出た構図になっていた。どうやら騎士様は下から見てもいい男らしい。

 

「はい、課題3個目おしまい」

「街道の点検はここに来るまでに終わらせていたな」

「うむ。後は手配魔獣が二つだ」

 

マキアスの言葉にラウラが頷く。

 

「それにしても、ホントに遺跡まみれだね」

「そりゃ名高きブリオニア島だからな。暗黒時代には人も住んでたらしいが」

 

草むらに寝転がり、足を組む。このまま寝てしまえそうだが、ギガントササパンダーが居なくなったことに気づいた他の魔獣たちがすぐに戻ってくるだろう。

よっこらせ、と軽い動作で起き上がったラフィは放り出していた長剣を隣に置いた鞘に戻し、立ち上がる。

 

実習二日目。突き抜けるような晴天の空から、ジリジリとラマールの太陽が7人を照らしつけていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

前回、前々回と違い、無人島での実習。

一日中歩き回り、狭い島の地理は完璧に把握したものの、人との交流がない分、少年少女は小屋の中で夕方早くからレポートに向き合うしかなかった。

 

「追加の課題は明日来るんだっけ」

「そう聞いてる……フィー、そこのスペル間違ってるぞ」

「あ、ホントだ。サンクス」

 

静かに双子にチラリと視線をやり、二人背中合わせで持ってきた本を読む姿を見て安心し、改めてフィーのレポートに視線を通す。

文学めいた文章を書かせると面倒くさがりがちなので、箇条書きで埋めていく手法を提案すれば、猟兵少女は存外スラスラと書き始める。「団でもたまにこういうの書いてたから」とのこと。

 

一方ラウラは、先ほどから筆が止まったままだ。

そりゃあ人との交流もなく、わかったことと言えばこのブリオニア島が暗黒時代の遺跡ということのみ。

半分ほどは手配魔獣との戦闘についてで埋めたようだが、さて。

 

黙ってスラスラと書き連ねるマキアスは流石準主席としか言いようがない。文の運び方にも迷いがなく、それでいてわかりやすい纏め方をしている。

すでに既定文字数は超えているが、それでもなお筆を止めないあたり真面目さが窺える。

 

エリオットは、至って平凡といったところか。

よく見る学生のレポート。得意分野ということで、暗黒時代の居住区に放置されていた楽器らしき物体について書きながら文章を引き延ばしているらしい。

 

「というか。ラフィだけレポートないの、ずるくない?」

「監督役だからな。生徒じゃないから成績とかないし」

 

エリオットの苦言にラフィは肩をすくめ返事をする。

 

「アドバイスしてるんだから許せよ。事件屋の報告書ノウハウだぞ」

「む、確かに助かっているが」

「同じ制服着てるのに、なんだか納得いかないなぁ」

 

ラウラの言葉に、ぷくりとエリオットは頬を膨らませる。

それを見てケラケラと笑った監督役は、イクスとヨルダの名を呼び、簡易設置されたキッチンへと向かう。

 

「晩飯作ってやるからそれまでに終わらせな」

「ラフィの手料理?」

「ほう」

 

ラフィの言葉に反応した二人は椅子の背もたれを掴んで振り返り、キラキラとした眼差しを向ける。

 

「そんな手ェ込んだやつは作れないからな!」

「冷蔵庫の中身次第だよね」

「つーかウチの冷蔵庫大丈夫だっけ」

「昨日の晩ヤバそうなのは使い切ったから大丈夫だ……っと。基礎調味料はあるな。玉ねぎ、トマト……ふーん、パプリカもあんじゃん」

 

あれやこれやメニューについて話し合う事件屋の三人に、学生たちは思わず目を合わせて顔を綻ばせた。ラウラとフィーは目があったことに気づくとすぐにそっぽを向いてしまったが。

 

「気分転換にアジ釣りにいく人ー」

「ん、行く」

「僕も行こう」

 

イクスの言葉に手をあげたフィーとマキアス。

そう来なくっちゃ、とにっぱり笑ったイクスは、自分より大きな釣竿を肩に乗せて小屋の外へと駆け出した。

慌てて追いかけるマキアスとフィーを見届けた後、ヨルダは机に駆け寄って、ぽんと空いた椅子へと座った。

 

「今日はカルパッチョ」

「え、こんな限られた整備でできるの?」

「ラフィができるって判断したから、多分できる」

「そうか……うむ、楽しみにしておこう」

 

そう言って笑ったラウラの隣で、ヨルダも小さく微笑む。そして手元の小説に目を落とし、またすっかり黙ってしまった。

小説の題名は陽だまりのアニエス。共和国で隠れて暮らす魔法使いの存在を巡る物語だ。

ヨルダのツボにハマったのか、すでにページはかなり進んでいる。ちょうど半分くらいだろうか。

 

「ホンットに本好きだなお前」

 

手際良く野菜類の下拵えを終わらせたラフィが、魚待ちの間に軽く手を洗ってヨルダの隣の席に座った。

するとヨルダは顔を上げてからもう一度本に目を落とし、こてんと姉にもたれかかる。

 

「読んだことなかったのに、ラフィが沼に突き落としたんじゃん」

「あたしが持ってたのはカーネリアだけだっつの。ジャックもロゼもアニエスも自分の給料で買ったんだろ」

「〜♪」

 

無駄にうまい口笛を吹いた妹は、姉に撫でられるままふんと満足げに鼻を鳴らす。

そこに向かい側に座るエリオットがひとつ口を挟んだ。

 

「給料……お小遣いじゃないんだ」

「あァ、こいつもイクスも働いてるよ。こないだ目の前で休暇をもぎ取ってきたところだけど」

「あの管理人、容赦なく仕事入れてきてたし。ホンットうざい」

「ふむ。二人とも大人びている、問題はなさそうだが……何の仕事を?」

 

ラウラの質問に、ヨルダはふいと顔を上げた。

視界の端で心配そうにこちらを見る姉に小さく笑いかけ、なんともないようにあっさりと答えを告げる。

 

「────殺し屋だよ。わたしも、イクスも」

 

その一瞬で、ラウラの顔が一気に強張る。

 

「ラフィは違うけど。正真正銘、表の人間」

「あたしだって察した上で受け入れてたんだから殆ど黒だろ」

「そこは本当に感謝してる。嫌われたらどうしようって、最初はちょっとだけ怖かったから」

 

陽だまりのアニエスに栞を挟んで、机の上に置く。

足元で蠢く影から、ぬるりと異能の手が這い出した。

 

「ターゲットは勿論、達成率を上げるために周りの人間も巻き込む最悪の殺し屋組織……それがわたしたち。猟兵よりタチが悪いって言われたこともある。殺すのだって忌避感はないよ。むしろちょっとアガるし」

 

頬杖をついて、ヨルダはラウラに向かってにっこりと笑った。

 

「どう?怖い?理解できない? いいよ、それでも。わたしだって“正道”のヒトとは分かり合えないって解ってる」

 

ただ、わたしたちがそういう人間だってこと、覚えておいてね。

その言葉を最後に、ヨルダは影の手を元に戻した。

隣で大きくため息をつく“姉”にいつも通りもたれかかり、少女は再び小説へと目を落とした。

 

「ラフィはなぜ受け入れられる。そなたも元とはいえ、誇りある四大名門の令嬢であろう」

「誇りなんかねェよ。あたしはこの街を勝手な理由で捨てたんだぞ」

「嘘を言うな。そなたのオルディスを眺めるあの目────レグラムを眺める父上と全く同じだった。未だあの街をカイエンの娘(・・・・・・)として愛しているのではないか」

 

ラウラの言葉に、白夜が丸く小さくなり、瞳孔が開く。

そして目を伏せ、後頭部をガシガシと掻いて、はぁとため息をついた。

 

「……それとこれとは話が別だ。あのなラウラ、愛とクソみたいな人間性は両立するんだよ」

 

そしてそのまま、「ただ、まぁ、」と続ける。

 

「あたしはオルディスを捨てた分、アンタよりいろんな経験がある。師匠たちに連れられていろんな国を回ったし、リベールの異変だって当事者だった。出会ったヤツらにもいいヤツとか、悪いヤツとか、しょーもない野心を持ったヤツとか、仕方なく罪を犯してるヤツだっていた」

 

仕方なく罪を犯している人間の中には、それ以外に生き方を知らない人間だっている。双子はその最たる事例だろう。

 

「ラウラ、お前は正しすぎるんだよ。正しすぎて、闇を知らない。あたしも昔はそうだった」

「……私は……」

「だから、ちょっとくらい悪いコトを学んでみな。一気に世界が広がるぞ」

 

に、と笑ったラフィの背後で、勢いよく扉がバコンと壊れそうな勢いで開かれる。

 

「ラフィーっ!でっけぇの釣れた!!」

「あと小アジが6匹」

「マキアスはボウズ!」

「別に言わなくてもいいだろう!?」

 

大きなアジを満面の笑みで見せびらかすイクスと、数匹の小さなアジの入ったバケツを抱えたフィー、どうやら一匹も釣れなかったらしいマキアスが続いて小屋へと入ってきた。

 

「はいはい、捌くから手伝え!ほらヨルダも」

「んー……あと3ページ……」

 

ずりずりと姉に引きずられていくヨルダをぼうっと眺めながら、ラウラはため息をついた。

自分もいい加減レポートを片付けようと立ち上がり、ふと隣を見る。

散らばったレポート。机に広がる綺麗な赤毛。手放されたペン。

 

「……え、エリオット─────────ッ!!!!」

 

側から見れば、立派な事件現場であった。

 

「あ、気絶してる」

「釣りをしている間に一体何が……?いや、とにかくベッドに運ぶぞ!」

 

ラウラの叫び声を皮切りにドタドタと騒がしくなった小屋の中。簡易キッチンの前で魚を捌くラフィの隣で、ぼそりとヨルダが「やりすぎたかな」と呟いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




界‼️‼️双子‼️‼️‼️ハミルトン博士‼️‼️‼️アニエス‼️‼️‼️‼️
ぐわーーーーーーーーーーーッ‼️‼️‼️‼️‼️‼️‼️
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