事件屋ウィステル   作:フッ軽布教女サッチ

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三十話 鬼と天使

「キャ────────ッ!!」

「ぐッ……! エリゼ嬢ちゃん!!」

 

巨大な金属製の剣が床へと叩きつけられる。

幅広の剣は動くだけで強風を発生させる。戦いに慣れてないエリゼは吹き飛ばされ、体を地面へと叩きつけられた。

 

「ボクが見てる!ラフィはソイツなんとかして!」

「わかった、傷一つ付けんなよ!」

「了解!」

 

気を失ったエリゼを背負って走りだしたイクスを確認してから、再び首なし巨人へと向き直る。

悪魔の類ではなさそうだ。暗黒時代の遺物だろうか。師に連れられて訪れたクロスベルの星見の塔にも似たようなのがいた記憶がある。

 

「っと、あぶねェな」

 

エリゼを狙うより先にこちらを片付けた方がいいと判断したのだろう。振り下ろされた剣を軽々と避け、剣を鎧へと向かわせる。

 

(こういうタイプはどこかに核が隠れてるはず……)

 

する、と鎧の隙間をすり抜けた剣に舌打ちをして、戻ってきたそれをパシリと掴む。

法術やアーツがよく効くだろうが、1対1では詠唱している暇がない。いっそ鎧表面をボコボコに凹ませてしまった方がやりやすいだろうか。

繰り出される攻撃を避けつつ、じ、と巨人を観察する。

 

(よくあるのは胴の中央。ヒトガタを動かす動力を置く場所としては心臓の位置が最適解)

 

振り下ろされた金属塊をなんとかいなし、延伸力を利用してぐる、と勢いよく巨人の脛へと剣を叩きつける。

カァン、と鮮やかな鐘のような音色が鳴るも、少し凹んだくらいでダメージは全く入っていない。

見ていた限り、動力は各関節の中央部にも設置されているらしい。めんどうだな、とひとつ舌打ちをして横から振り抜かれた巨剣をギリギリで避ける。あと少し遅かったら首を跳ね飛ばされていた。

 

剣を一度手放し、垂れてきた冷や汗を乱暴に拭う。お利口にその場で止まっていた相棒を再びパシリと掴み、巨人を見上げた。

巨人は何やら剣を天へと掲げている。不審に思い眉を顰めた、次の瞬間。

 

「あ゛ァッ!?」

 

自身を雷が貫いた。

突然の高圧電流に身体が耐えられなかったのか、足ががくりと折れ、その場に座り込んだ。

 

「ラフィっ!!」

 

声を荒げたイクスがこちらへ向かってくるのが見える。

ダメだ、来るな。そう口にしようとするも、雷のせいで声すら出ない。

弟の背にいるエリゼは未だ気絶したまま。正面には全員を刈り取ろうと横から剣を振り翳した巨人。

せめて二人だけでも。そう考えて、痺れる身体を必死に動かし、二人を抱きしめる。

 

あぁ、ここでおしまいか。割と悪くない人生だったな。

 

他人事のように考え、目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オオオオオオオオオッ!!!!」

 

視界を、白いナニカが駆け抜けていった。

気がつけば、横から振り切られるはずだった剣は大きく弾かれていて。

ナニカの正体を探ろうと顔を上げ、視界に映ったのは────

 

「……リィン……?」

 

様子のおかしい友人の姿だった。

黒かったはずの髪は真っ白に。不気味な赤色のオーラを纏った青年は、フウフウと野生動物のように肩で息をして、巨人へ向かって敵意を丸出しにしている。

……どうやら正気を保てていないようだ。

 

「ラファエラ!!エリゼお嬢さんをこっちに!!」

「! 行け、イクス!」

「わかった!」

 

パトリックの呼びかけでエレベーターが復活していることに気がつき、イクスに下がるように促す。

エリゼを背負ったまま駆け出した弟を見送り、ようやく動くようになってきた身体を起こし、リィンの肩をひっつかんで揺さぶった。

 

「リィン、聞こえてるか!?」

「ガァアアッ!!!!」

「チッ、一旦抑えるぞ……!!」

 

胸元から七耀教会のシンボルが刻まれたペンダントを取り出し、長剣を両手で構える。

そして────あの時のように力を解放する

背からうっすらの気配を感じる。どうやら師から授かったペンダントがうまく作用しているようだ。

待ってくれなどしない巨人の攻撃を避けつつ、リィンの背中にドンと手をつき、早口で詠唱を開始する。

 

我が深淵に宿し天の御使よ……光となって昏き瘴気を祓い、迷い子の道を指し示せ────!

 

とある神父から教わった、呑まれたヒトを元の道へと少しだけ引き寄せる術。

羽の付け根があるであろう場所が一際熱くなり、術の成功を知らせる。

勝手にアレンジをかけたが、なんとか発動してくれたようだ。仕方がないだろう、ラフィには聖痕などないのだから。無いものに命じても何も起きない。

 

「ウ……ら、ふぃ……」

「へっ、ちったァ正気に戻ったかよ! このまま押し切るぞ、いいな!!」

 

コクリと頷いたリィンにニィ、と笑いかけ、改めて巨人へと向き直る。

ラフィ自身も抑制されているとはいえ翼を解放したことで多少力は強くなっている。二人揃っている今なら……絶対に押し切れる!

 

ぱん、と二人の間に戦術リンクが結ばれる。

思考がやり取りされるが故に、夥しい量の呪詛がリンクを辿ってラフィの脳へと流れ込もうとするが、天使の加護がそれを相殺する。

結果的に必要な情報のみが互いの脳へと届く。戦術リンクの最高率・最速化が、意図せず外部的要因から行われていた。

 

「ちょっとエリゼおねーさんのこと見てて!」

「はぁ!? ちょっと、君!」

「わり、頼んだわパトリック坊や!」

「坊やはやめろ!……じゃなくて!あぁもう、わかったから行け!!」

 

身の丈ほどもある長銃を召喚したイクスが飛び出すと同時に、リィンと共に降りてきていたらしい銀髪の青年も双銃を構えて走り出す。

 

(右から剣)

(左足核露出)

(転ばせる)

(わかった)

 

淡々とやり取りされる戦術リンクの恩恵を感じながら、長剣を核の露出していない右足へと“力”を込めて投げつける。

 

「おらッ!!」

 

長剣は“力”によって蒼い鳥の幻影を纏い、そのまま込めた“力”を全てぶつけるように巨人の右足を貫く。

体制を崩した所でリィンの力任せの刀が露出した左足の核を切り裂いた。巨人は両足をついて直、巨大な剣を振り翳す。

 

「やらせるかよ!」

「邪魔すんなっての!!」

 

割入ってきた銀髪の青年と遠くから銃を構えるイクス、二人の弾丸、計三発が巨人の剣を弾き返す。

 

「ナイスアシスト!!そこだ!!」

「シャアッ!!」

 

翼によって飛び上がったラフィが左腕を、地上からはリィンが右腕を、それぞれの剣によって切り落とす。

残るは胴体の核のみ。

 

(仕留める!)

(わかった!)

 

「────着いてこいよ、リィン!!」

「オオオオッ……!!」

 

リミッターを外すように翼の力を解放する。

初めて発現した時よりはマシではあるが、身体中を捩じ切られるような痛みと共に、背を突き破ってが生まれる。どういう原理かは知らないが、今回は濡れ羽ではなく、最初から乾き切った、立派ながそこに存在していた。

 

同時に赤色のオーラを一際強く発したリィンを確認し、鉄巨人の周囲を翻弄するように剣を飛ばし、自身も飛び立つ。

指を鳴らし、“力”の塊をそのままぶつけ、剣も執拗に一箇所だけを狙い……ようやく、鎧の中心が砕けた。

 

「ホロビヨッ!!」

 

ずっと剣気を溜めていたが動き出す。

剣を上段に構え、おおきく振りかぶって────残った鎧ごと切り飛ばした。

袈裟斬りにされた巨人は床へと大きな音を立てて沈み、沈黙する。

 

「っはぁ……あたしいらなかったんじゃねェの、これ……」

「グ、ウ……」

「あ、悪ィ。ほら、戻ってこい

 

が一度羽撃き、光を放つ。

その光に数秒もがき苦しんだだったが、一度心臓を抑えた後、スン、と髪色は黒に戻り、いつも通りのリィンが苦しそうに呼吸を繰り返していた。

それと同時にも光と共に散って、その光は長剣へと吸収されていった。カタリ、と鞘の中で動いたのを確認して、過呼吸のような状態になったリィンの背を摩る。

 

「……戻し方、少し雑すぎないか……?」

「本業じゃないんだから仕方ねェだろ、文句垂れんな。その力、後で詳しく聞かせてもらうからな」

「それは……こっちのセリフだよ……」

 

ふらついて、ラフィの方へと頭を預けたリィンは、小さく笑った。

落ち着かせるようにリィンの背を叩いていると、ふと腰あたりに衝撃が走った。

きゅう、と締め付けるそれの正体は、考えるまでもなく弟の腕だった。

 

「ん?どうした、イクス」

「……体、いたくねーの」

「痛いぞ。現在進行形で」

 

実際痛い。前よりマシだけど、と笑ってみせると、イクスは涙目で姉を見上げ、そしてそのまま姉のパーカーへと顔を埋めた。

心配してくれているのだろう。そっとピンクの混じる水色の髪を撫でれば、イクスはさらに腕の力を強めた。ヨルダほどベッタリではないが、イクスも大概甘えん坊だ。

 

「ラファエラ!!」

 

そんな空間に入ってきてパーカーのフードをむんずと掴んだパトリックが、ガクガクとラフィを揺さぶる。

 

「あ、あの翼はなんだ!? 病気か、何処か悪いのか!?」

「おーい、落ち着け落ち着け」

「馬鹿、落ち着いてなどいられるか!! その剣も、この5年間どこへ行っていたかも、そこの子供は何なのかも全部洗いざらい吐いてもらうからな!?」

「げェ、めんどくせ」

「幼馴染に向かってなんだその態度はぁ─────────ッ!!!!」

「あだだだだだ」

 

べ、と舌を出すと再び全力で揺さぶられた。軋んだ体がギリギリと痛む。

揺さぶりの余波を受けつつも事件屋の耳元でリィンがクスクスと笑う。そして、パトリックに押し付けられたらしいエリゼを連れて歩いてくる銀髪の青年を視界に入れたリィンは「クロウ先輩」と呟いた。

エリゼはついさっき目覚めたようで、しゅん、とした表情で兄を見つめていた。

 

「嬢ちゃんは無事だぜ」

「よかった……イクスが守ってくれたおかげだな」

「別に……ボクはなんもしてないし」

 

揺さぶられ続けるラフィから離れ、ヨタつきながらもエリゼの元へと近づくリィン。

心配したエリゼは咄嗟に兄の体をそっと支える。先程まで刀を握っていた手が、妹の頭をそっと撫でた。

 

「……兄様、ごめんなさい……」

「無事でいてくれたなら、それで良い。今後は危険な場所には立ち入らないことと、ラフィとイクスにもきちんと礼を言うんだぞ」

「はいっ……!」

 

微笑ましい兄妹のやり取りを小さく微笑みながら眺めていたラフィが、ふと思いついたようにパトリックへと向き直る。

そしてイクスの頭へとぽんと手を乗せ、にぱっと笑ってなんともないように告げた。

 

「あ、そうそう。こいつ弟。今は別行動だけど妹もいる」

「は、え……」

「ラフィ、義理。ボクたち義理だから」

「関係ねェよ、どっちにしろお前はあたしの弟だろ」

「弟……ラフィに、弟……? ミルディーヌ嬢ではなく……?」

 

ミルディーヌはゼムリア一可憐な少女である。弟は男の子だ。そこのところ間違えないでほしい。

満更でもなさそうな表情で大人しくラフィの撫で回してくる手を享受するイクスは、キャパオーバーするパトリックと優しく微笑むラフィを見上げて、ケラケラと笑った。

 

 

「そっか、ボク、姉ちゃんの弟だもんな!」

 

 

エレベーターが降りてくる音が響く旧校舎の中。

イクスは、“当たり前”の事を再確認していた。

 

 

 

 




オル・ガディア戦、さっくり終了。
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