事件屋ウィステル   作:フッ軽布教女サッチ

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三十七話 竜とテロリストとカタコンベ

帝都地下墓地(カタコンベ)、最奥付近。

だんだんと繋がりの強くなる戦術リンクを頼りに、ラフィとオリヴァルトは石畳を蹴り続けていた。

進んでも進んでも景色の変わらない地下道に少し嫌気がさしてきた頃、白夜の瞳が奥から飛んでくる赤い何かを捉える。

 

「ッ、オリビエさん!!」

「わかっているよ!!」

 

咄嗟に背後の青年に合図を送り、自身は飛び退く。

赤い何かを正確に捉えたオリヴァルトは導力銃で的確に撃ち抜き、その軌道をずらした。

続いて奥の闇から屈強な男が飛び出し、オリヴァルトに腕のガトリングを向けて襲いかかる────が、その前に青く輝く切先が男の太い首に向かって向けられていた。

 

「ただのガキかと思ったが……イイ動きするじゃねぇか」

「テロリストに褒められても嬉しくないね」

 

男の言葉に微妙な表情で返事をしたラフィ。

 

「フフ、放蕩皇子殿下も侮れないわね」

「伊達に修羅場を乗り越えていないからね。ボクだってやる時はやるさ」

 

赤い法剣を構えた女に、オリヴァルトは肩をすくめて言い返した。

それぞれがそれぞれに武器を突きつけている状況。このまま折れるまで待っても良いが、と長期戦を覚悟したラフィの背に、ひんやりとした何かが触れた。

どうやらもう一人居たらしい。人の気配を感じる。

どことなく懐かしい潮の香りがふわりと漂った。

 

『これで我々の形勢有利だな』

 

黒マントの男。明らかに怪しい風貌の人間の手には、暗黒時代の遺物────双刃が握られていた。

その切先はラフィの背に向けられており、少しでも力を込めればそのまま差し貫いてしまいそうなほどだ。

 

「……それはどうかなァ」

 

完全に勝利を確信しているこの黒マントに目に物見せてやる。

空いている左手でペンダントを引っ張り出し、ラフィはほんの少しだけ力を解放した

翼を模した力が背から溢れ出し、黒マントの男の仮面スレスレを蒼い光が走り抜ける。

力を帯びて光出した剣を警戒してかガトリングの男も飛び退き、法剣の女も警戒するように切先をこちらへ向けている。

解放されたオリヴァルトも後衛らしくすぐにラフィの背後へと飛び退き、牽制するようにテロリスト三人の足元へ何発か撃ち込んだ。

 

「それは……ようやく一人で使いこなせるようになったんだね」

「補助輪アリだけどな。だいぶ言うことは聞いてくれるよ」

「四輪の塔の時と比べれば見違えるようだ」

「そこほじくり返すのはやめてくれって……」

 

半透明の翼を霧散させ、力を押さえ込む。これの使い方もかなり慣れてきた。

いつも通りカタカタ震え出す長剣を宙に放り投げ、体の隣で浮かせる。なんだか妙にやる気を出しているが、あまり張り切られると今度はラフィの肉体が持たないので勘弁してほしい。

 

「その剣……そうだわ、あなた、オルテシア卿の……!」

 

浮いた長剣を見て、法剣使いの女が思い出したように声を上げる。

 

「ん?師匠知ってんの? っつーことは騎士団関係者か」

「えぇ……昔、ちょっとね」

 

それなら法剣を扱っているのも納得だ。

騎士団関係者がテロリストに堕ちていると知れば、あのおっかない紅耀石は何を言うだろうか。

……目を閉じれば、リンク越しにリィンの様子が伝わってくる。どうやら向こうも追いついたらしい。

 

「────じゃ、すぐに片付けてリィンの応援に行こう、オリビエさん!!」

「フッ、任せたまえ! ボクとラフィくんが組めば敵なしだからね!!」

 

「すぐに片付くだァ? 舐められたもんだなァ……!!」

「気をつけて、彼女は星杯騎士の直弟子よ」

『いいだろう……相手にとって不足はない』

 

それぞれがそれぞれの得物を構え、向き合う。

そして、どこかで崩れた小さな瓦礫が地面に落ちた瞬間────戦い始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────そこまでだ!!」

 

テロリスト達に捕まり、あっけなく攫われたエリゼの鼓膜を、この世で最も安心する声が震わせた。

兄様、と小さく呟くと共に、テロリスト達の足元にはマキアスの銃弾が着弾し、行き先にはエリオットの導力魔法が撃ち込まれる。

躊躇った無法者達をラウラとフィーが行手を阻み、赤服達が取り囲んだ。

 

「ここまでだ、殿下とエリゼを解放してもらおうか」

「あまりの不敬……見過ごすのは躊躇われるが」

「大人しく解放するなら見逃さないでもないぞ?」

「5対3……勝ち目はないと思うけど」

 

異様に鋭い目つきの兄に、エリゼは思わず苦笑した。相変わらずエリゼのことになると周りが見えなくなるのだから。

そう心配しなくとも、今回は“彼女”がいると言うのに。普段なら流石に不安になっているであろうアルフィンも、テロリストの腕の中で朗らかに微笑んでいる。

 

「ふふ、やっぱり貴女のお兄様は優しいわね、エリゼ」

「姫様! ……まぁ、私もそうは思いますけれども」

「で、殿下……お嬢さんも、攫われていると言う自覚はおありで?」

 

何やら不安になったのか、アルフィンに向かってテロリストのリーダー格らしき男……《G》が問いかける。

すると皇女はクスクス笑って、えぇと頷いた。

 

「わかっていますが、そこまで怖くはありません。なので────そろそろ良いですよ、ヨルダちゃん」

 

鈴の鳴るような可愛らしい声が、その名を呼ぶ。

 

「……もう終わり? つまんないな」

 

どこからともなく、地の下から響いた声と共に、テロリストの腕の中にいたエリゼとアルフィンがでろりと闇に溶けた。

あぁ彼女か、と理解したⅦ組の面々は、その成り行きを静かに見守っている。

 

「うわぁああああっ!?!?」

「こ、皇女殿下が、殿下が溶けたッ!!!!」

「ええい、狼狽えるな!! くそ、何者だ!?」

 

狼狽えるテロリスト達をよそに、少女達はリィンの背後に再び出現した。

影の手に守られるように現れた二人を見て改めて安心したリィンは、刀をテロリスト達に向けたまま、今回の功労者に声をかける。

 

「助かったよ。流石だな、ヨルダ」

「別に……皇女サマが許してくれるならアジトまで突き止めるつもりだったんだけど」

「私も面白そうとは思ったのだけれど、流石にお父様やお兄様に心配をかけてしまうもの」

「そもそも面白そうと思わないでください!」

 

クスクスと笑うアルフィンに、ぽっぽと怒るエリゼ。

いつも通りの二人に小さく笑って、ヨルダは二人を守るように大きく影の手を広げた。

 

「地下は私の独断場……二人は絶対に守る。好きなように暴れて良いよ」

「うむ、頼んだ!!」

「手加減する理由がなくなったね」

 

影に影が重なる地下墓所はヨルダの異能のポテンシャルが最大限活かされる場所。器用に異能を操作し、幾つも小さな手を生やし、一瞬でいつでも支援できるような状態にまで場を育て上げた。

いかにも今すぐ戦闘を始めそうなⅦ組を眺め、やけくそになったらしい《G》は大きな高笑いを挙げた。

 

「ははははははは!! 良いだろう、降参だ……彼に勝てたらな!!!!」

 

まずい、と言ったのは誰だろうか。

彼の構えた横笛が不思議な音色を奏でると共に、広間奥の謎の骨が次々と組み上がり────不気味な気配と共に、その形が浮き上がってくる。

 

 

長い首に連なる骨は死体故か気味悪く蠢き、背には地獄の剣山のように突き出た棘がびっしりと生えそろっている。

かつて都を滅ぼした瘴気がその身体中から溢れ出し、周囲の空気を染め上げていく。

がああ、と背筋が震え上がるような咆哮を挙げたそれは、巨大な尻尾を振り回しながら、その何もはまっていない虚な眼孔で一行を見下ろしていた。

 

ゾロ=アグルーガ────正真正銘、過去の帝都を瘴気の渦に閉じ込めた暗黒竜、そのものである。

 

 

「うわあああああっ!?」

「な、なん、ななななっ……」

 

口をはくはくとさせるマキアスとエリオット。ラウラとフィーは警戒を強め、二人とも冷や汗をたらりと垂らした。

 

「リィンおにーさん、お姉ちゃんは!?」

「! そうだ、ラフィっ……!!」

 

ヨルダの叫びによって戦術リンクの存在を思い出したリィンは意識を集中させ、ラフィの居場所を探る。

随分と強固になったリンクの端っこは割とすぐそこにいる────が、飛んでくるイメージは返事などではなく、必死に複数の人間と戦っている思考だった。

既に彼女はボロボロであり、身体中に傷をこさえている。それでもなお同行者を怪我させまいと必死に庇う動きを模索している。

 

(駄目だ、今頼るとラフィの頭がパンクしてしまう……!)

 

リンクから思考を引き上げ、ふぅと深呼吸をした。

彼女が無理ならば、やることは一つだ。

成功するかどうかは五分五分だが、やらない選択肢などない。

 

「クク、ハハハハハッ!! これぞ古代遺物・降魔の笛の力!!」

 

《G》の高笑いが脳に響く。

邪魔だと追い出して、さらに意識を一点に集めた。

あの時感じたを、思い出すように。

 

「さぁ、それでは……今度こそ死出の旅へ────」

「はぁあああああああああッ!!!!」

 

そうして集めた気を刀に閉じ込め────振り下ろす。

すると、室内に燻っていた妙な気配が一気に霧散し、爽やかなが吹き荒れた。

 

「皆、気合を入れろ!! 今回の実習で得たものを考えれば─────勝てない相手じゃ、ない!!」

 

足がすくんでいた仲間達が、リィンの発破に応じて再び勇気を取り戻す。

 

「……あぁ!!」

「うむ、その通りだ!!」

 

立ち上がった少年少女。

それを援護するかのように、一本の影の手がぐるりと渦巻き、その内側に星空を作り出す。

そうして降り注いだ癒しの光はⅦ組を癒し、気力を回復させた。

 

「少しくらいなら援護もしてあげる。頑張って」

 

それぞれが振り返った先にいた少女はそう言って姉によく似た顔で笑う。

強力な援護もついている。若き勇者達が老竜に勝てぬ理由などなにもない。

竜の咆哮を切っ掛けに、その刃は蠢く骨に向かって振り下ろされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

必死だった。

襲いくる双刃をいなし、飛んでくる幾つもの弾丸を弾き、時折導力魔法の詠唱を耳にしては妨害を入れる。

オリヴァルトが最大限支援してくれてはいるものの……

 

(オーバーワークだ……!!)

 

3対2。どう足掻いても形成不利である。

既に何度も攻撃を受けている。破れたパーカーは腰に巻いて、必死にメインで攻撃を仕掛けてくる黒マントの男の斬撃を防いでいた。

 

『その程度か』

「ンなわけねェだろ! 事件屋舐めんなッ!!」

 

吠えた女は向かってきた双刃をブーツで蹴り上げ、そのまま距離をとる。

そして胸元で揺れるペンダントを握りしめ、右手に握った長剣を前に突き出す。

 

我が深淵に宿りし天の御使よ────!

 

ぶわり。

爽やかなが吹き荒れ、オリヴァルトに向かっていた法剣の先や弾丸までもを吹き飛ばし、ラフィの攻撃によってボロボロになった黒マントすらも吹き飛ばす。

 

「そのふざけたフルフェイスも今すぐ剥いでやるよ!!」

『いいだろう……やれるものならな!!』

 

短期間で解放しすぎだと師に怒られる様を脳裏に描き、天使は口端を上げた。

狭い通路の中に広がるを大きく羽撃かせ、一気に男へと切りかかる。

 

難なく剣をいなした男はを狙って双刃を振り下ろすも、スカッと空を切るような感覚と共にバランスを崩す。

 

「まだ実体化してねェよ、残念だった……なッ!!

 

受け身を取った男に向かって、を固めた弾丸を雨のように降らせる。

まだ肉体に痛みはきていない。もう少し広い場所にさえ出れば、一気に勝率がこちらに傾くだろう。

双刃を勢いよく回して蒼い雨を凌いだらしい男と切り結びながら、周囲の出入り口を探す。

 

「……なんだ、丁度いいところ居るじゃん

 

その瞬間、朧げだった足元の戦術リンクが一気に実態を持ち、光が弾け飛び、線が繋がる。

 

そして女は切り結んでいた男の腹に蹴りを入れ、同じ場所に野球バットを振り抜くように長剣の腹で殴りつけた。

 

「《C》!?」

「なるほど、そういうことかい……!」

 

状況を即座に理解したオリビエも飛び出していったラフィに続き、彼女の消えた出入り口に向かって走り出す。

蹴り飛ばされた男のヘルメットに反射する二つの光源は、正反対の色をしていた。

 

天より顕れ、闇を祓い給へ────

「焔よ、我が剣に集え────」

 

が交差し、入れ替わる。

光は骨竜へ、焔は男へ。

 

 

消し飛べ!ネメシス=ブリンガー!!

「オオオオオオオオオオオオオッ!!!! 斬ッッ!!!!」

 

 

 

大量の長剣が骨竜を貫き。

 

焔を纏った刀がテロリストを吹き飛ばし。

 

完全に崩れた骨の中央で、天使と鬼は、背中合わせで平然と立っていた。

 

 

 

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