事件屋ウィステル   作:フッ軽布教女サッチ

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四十四話 遊撃士協会

────皆様の依頼はプロフェッショナルの方にまとめて頂いております。広場にある“遊撃士協会”をお尋ねくださいませ。

 

 

ラフィにとって遊撃士といえば、あの太陽のような彼女と、その相棒たる漆黒の彼が真っ先に思い当たる。

今は確か、クロスベルからリベールに帰って来たのだったか。手紙が数日前に届いて、返事も返した記憶がある。

二人以外にも遊撃士の知り合いは居るにはいるが、帝国勤務の遊撃士といえば一人しか思い当たらない。まぁ、あくまでもラフィの知り合いに限った話なので、今目の前に建っている遊撃士協会で待つ人物が“彼”なのかどうかはさっぱりわからないが。

 

「遊撃士か……仕事を邪魔された思い出しかないね」

「そのせいで何人か逃したこともあったしな。代わりに管理人が行ってくれたけど」

「あ、わかる! ボクも何回か任務を邪魔されたことあってさ〜」

 

ヨルダの呟きに、すっかり目が覚めたらしいイクスとミリアムが同調する。

やれ標的を逃がされただの、情報を抜いたところを見つかっただの、物騒な話が飛び交う。

……その場に居合わせた遊撃士が死んでいなければいいが。

 

「む……やはり耳障りの良いものではないな、裏の話は」

「仕方ねェよ。遊撃士といえば裏の人間や腐った権力者にとっちゃ目障りなモンだからな」

「そうだな。バリアハート支部も公爵家から圧力をかけて解体されている。今帝国に残っている支部はここくらいのものだろう」

 

その気になれば軍や警察なんかは権力や金で黙らせることができるが、遊撃士は正義の味方らしく、金にも権力にも靡かずに民間人の保護を第一に動く。

唯一の弱点は政治不介入の決まりだろう。民間人に危機が迫っていない限り、どう足掻いても首を突っ込めないのだ。故に、そこを突いて遊撃士の介入を拒む勢力も多いが──────

 

「ったく、さっきから聞いてりゃ耳の痛いことばっか言いやがって」

 

聞き覚えのある声が、ラフィの鼓膜を震わせた。

ガチャリと開いた扉から覗くのは、短い金髪に白いコート。怠そうに後頭部を掻いてから、彼はラフィの頭にぽんと手を乗せた。

 

「よっ。久しぶりだな、ラフィ。ラウラお嬢さんも」

「やっぱり、トビー先輩だったんだ!」

「トビーはやめろっての」

 

わしゃわしゃと乱されるミルクティー色の髪と、にぃと笑う男性を眺め、リィンはポカンと口を開けた。

男性は紛れもなく、バリアハートで公爵邸に乗り込んで行ったらフィをどう迎えにいくかを話し合うリィン達に地下水道の存在を教えた人で。

 

「トヴァル殿、ラフィと知り合いだったのか」

「ま、ちとおっかねぇ姉さん絡みでな」

「トビ……じゃなくて、トヴァル先輩にはアルテリアにいた頃に良くしてもらったんだ」

 

好き勝手される頭を気にもせずに、ラフィはラウラに答えた。

そのまま男性は遊撃士協会の扉を開き、一行を室内へと促す。

 

「ま、立ち話もなんだ。中に入れよ、トールズⅦ組の諸君」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、バリアハートの時にすれ違ったのは偶然じゃなかったんですね?」

 

リィンの問いかけに、男性────トヴァルは「あぁ」と頷いた。

トヴァル・ランドナー。ラフィが唯一持っていた小説であるカーネリアの主人公(のモデル)にして、あらゆる意味でラフィの先輩たる人だ。

遊撃士という仕事の都合上、偶にしか会えなかったが、その少ない機会でラフィに戦術導力器の扱い方を叩き込んだ人でもある。

 

「サラからフォローを頼まれていてな。ラフィも居たから心配はしてなかったんだが」

「……結局助けてもらっちまったからなァ」

「ハハッ、お前さんもまだまだってことだ」

 

むう、とむくれるラフィの頬をむにむにと弄るトヴァル。どうやら結構柔らかいようで、好き勝手にされる頬はそこそこ自由自在に伸びている。

その下では今度はイクスがラフィの手で頬をもちもちと弄られており、これはいつものことなのかもう黙って虚無の表情をしている。まだ幼いだけあって、イクスの方が頬は柔らかそうだ。

 

「私も外に出るまで知らなかったが、ここ2年ほどで遊撃士協会はかなり収縮してしまっているようだな」

「あぁ、あちこち閉まってるよ。そっちの坊ちゃんが言った通り政府からの圧力でな。そのせいでただでさえ少ない遊撃士が他国に散らばっちまったんだ、これ以上は勘弁してほしいぜ」

 

そう言ってトヴァルは肩をすくめた。

確かに、エステル達と共にリベールを出る直前に入れ替わりで元帝国所属の遊撃士が数人ロレントへと転属してきていた。早速ロレント支部に棲む酒飲み妖怪たちに潰されようとしていたが、彼らはまだ無事だろうか。

 

「ま、いずれ活動を再開したら皆戻ってくる約束でな。それまでの辛抱ってわけだ」

「それは……大変そうですね」

「しかし、そうなると仕事量も膨大になりそうなものだが」

 

そこまで言って、ガイウスがはたと姪弟子に視線を向けた。

ボサボサになった癖っ毛を整える彼女はガイウスの視線に気付き、頷いた。

 

「帝都の皺寄せはあたしに来てるけど、他のとこはクレアさん達が頑張ってるよ」

「いや〜手伝いに行けなくて悪いな! 夏至祭時期とかとんでもなかっただろ」

「ウン。本気で死ぬかと思った」

「思い出させないでほしいんだけど……」

 

あたりを埋め尽くす依頼書、依頼書、依頼書。

猫探し、夏至祭の飾り付け、夏至祭特別メニューの材料調達。そんな物理的に部屋中に溢れていた依頼を思い出し、姉弟達は遠い目をした。イクスは元々虚無顔だったけれども。

 

「クレア、ホントに助かってるって言ってたよ? おかげで夏至祭期間も警備に集中できたってさ」

「そりゃ良かった。軍人さんには軍人さんの本分を全うして欲しいからな」

 

ただでさえ忙しそうなクレアの仕事を減らせているなら良かった。

基本的には帝都へ常駐しているクレアではあるが、鉄道憲兵隊の性質上、列車に乗ってありこち駆けずり回っているのはラフィも知っていたから。

 

「ま、そんな訳で細々とこのレグラム支部で活動を続けているんだ。許可をくださっている子爵閣下にはあたまが上がらねぇよ」

「へぇ……子爵閣下は随分ギルドに協力的みたいですね」

「どうやら在り方が父上の気風と似ているようでな。立場さえなければ遊撃士になりたいと仰っていた」

「……本当に自由な方だな……」

 

光の剣匠とまで呼ばれる実力者が遊撃士に、なんて聞くと、頭の隅っこにどこかの不良中年親父(娘談)が過ぎる。

あの人も確か剣聖とか大層な名で呼ばれてはいなかっただろうか。

 

「もし入ったとしたら……実力と格を考えるとカシウス・ブライト並みだろうし、いきなりS級でもおかしく無いよねー」

 

ちょうど考えていた名を挙げられ、思わずミリアムを見下ろす。

 

「知ってんのか、ミリアム」

「うん。ラフィはタイミング的にリベールの異変の時に会ったんじゃない?」

「まァ、浮遊都市から帰ってきた時に会いはしたけど」

 

あの時は准将としてより、二児の父としての顔が強かった。

まさか聖獣たる竜に乗って駆けつけてくるとは思いもしなかったし、崩落する浮遊都市に取り残されたと思った二人がその父と共に竜の背に立っている光景を見た時は、その場にいた人間皆が目を向いて驚いたものだ。

 

「会ったのか、カシウス師兄に!!」

「うおびっくりした……って、そっか。あの人八葉だっけ」

 

身を乗り出したリィンに一度落ち着けと言って肩を押す。

剣聖といえば八葉の皆伝者につくあだ名である。最も彼が剣を抜いた所は“影の国”含め見たことはない。

 

「会ったのは会ったけど、碌に会話すらしてないからな。剣も捨てたって言ってたし」

「いやっ……うん……それでも羨ましいっ……!!」

「リィンさんがここまで動揺するなんて……」

「あぁ、珍しいな」

 

……“影の国”で強制的に戦わされた話はしない方がいいだろう。一生恨まれそうだ。

目を逸らしたラフィと未だ羨ましがるリィンをべり、とユーシスが引き剥がす。

 

「まったく、話が脱線しているぞ」

「あ。すみません、つい」

「ハハ、仕方ないさ。コイツの旅路は誰が聞いても非常識だからな」

「あちこち連れ回した師匠に言ってくださァい」

 

つんとそっぽをむいたラフィに笑い、トヴァルは机の端に置いていた封筒を手元に引き寄せ、リィンに向かって差し出した。

リィンは一言「ありがとうございます」と礼を告げ、仲間達と向かい合って封筒を開いた。

 

「手配魔獣に、街灯の一斉交換……」

「門下生との手合わせは爺からの要請か」

「へー、特別実習ってこんなカンジで進めるんだ」

 

一通り確認し終わった後、リィンは課題一覧を封筒にしまい、片脇に抱え込む。

 

「明日からの課題も俺から出すぜ。溜まりに溜まってたからな、せいぜいラクさせてくれよ?」

「はは……了解しました」

「それじゃ、レッツゴー!」

 

ミリアムの元気な号令に頷き、赤服達はぞろぞろと連れ立って遊撃士協会から出ていく。

 

「あぁそうだ、ラフィ」

「え?」

 

双子の背を押し、自身も出て行こうとしたラフィをトヴァルが呼び止める。そして振り向いたラフィに向けて、何か小さなものを放り投げた。

難なくパシリと掴んだ手を開けば、幻属性のクォーツ────それも第四世代用の、銀耀珠と呼ばれる最上位クォーツが光を反射してキラリと輝いていた。

 

「俺もENIGMAに乗り換えたところだ。噂の新型にも使えねぇだろうけど、御守りがわりにやるよ」

「え、いいの!? ありがと、トビー先輩!」

「トビーはやめろって。ほら行った行った!」

 

昔導力器の扱いを叩き込んだ頃と変わらぬ笑顔を見せ、事件屋は短いスカートをひらりと翻し、遊撃士協会を飛び出して行った。

 

────こんなのわかんないよ、トビー先輩! 属性値がややこしすぎるって!!

 

「……はは、デカくなりやがって」

 

さて、俺も仕事すっかね。

Ⅶ組に分けても尚残った仕事をいつも通り掲示板に貼り、トヴァルは大きく伸びをした。

 

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