事件屋ウィステル   作:フッ軽布教女サッチ

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四十五話 大事な内緒話

街道に置かれた導力灯には、街道の安全確保も兼ねて魔獣除けがついている。

導力が続く間は絶対に切れない代物ではあるが、経年劣化で導力を失えばその限りではない。

一度そうなってしまえば、そこら辺を彷徨く小型魔獣にとっては絶好の餌となる。導力器に使われている七耀石に惹かれてくるのだ。

 

「……うし、これで最後だな」

「やっぱり速いですね。こういう依頼は多いんですか?

 

導力灯の整備ドアを閉じ、薄ぼんやり輝き始めたのを確認してから、ラフィは隣で杖を縮めるエマを見上げた。

 

「あァ。地下水路とかオスティア街道とか、割と頻繁に変えにいくよ。最近はイクス達も手伝ってくれるから楽させてもらってるし」

 

女は立ち上がり、傍に置いていた長剣を紐で引っ張り上げてそのまま背負う。

 

「さて、あっちは……」

「ふふっ、心配なさそうですね」

 

二人の視線の先には、残りのメンバーと大型の鮫型魔獣がドンパチと戦いを繰り広げていた。

二体いたはずだが、すでに一体は倒したようで、全員で残り一体に総攻撃を仕掛けている。

 

「あの調子ならガイウスさん達が帰ってくる前に終わりそうです」

「あたしらが手を出すまでもない、か」

 

刀に大剣……ここまではいい。

白い傀儡、曲がる銃弾、影の手……イロモノばかりのバラエティ豊かな攻撃が魔獣を襲う。明らかに混乱しているであろう魔獣を見て、二人は視線をを合わせて肩をすくめた。

 

「……で?何が聞きたいんだ」

 

たった今輝き始めた街灯にもたれかかったラフィの言葉に、エマは少し驚き、少し赤くなった頬を掻いた。

 

「わかり、ました?」

「そりゃアレだけ露骨に組もうとされたらな」

 

街道に出る前。せっかく人数がいるのだから分担しようとなった時、エマは真っ先にラフィの手を取った。

特に不都合もないからと頷いたが、二人の接点といえばバリアハートで犬型魔獣と戦った時くらいだ。

きっとあの時リンクで知った、彼女特有の技が関係しているのだろう。

しばらく黙ってイロモノバトルを眺めていると、ようやくエマが口を開いた。

 

「ラフィさんは……星杯騎士団の従騎士、でしたね」

「ウン。元な上に見習いがつくけど」

「帝国の伝承についてはどこまで?」

「一通り。出身なら知っとけって、騎士団の副長に叩き込まれた」

 

ニナとワジと一緒に並んで授業を受けたのを覚えている。

副長は歴史のあれこれを教えるのが上手くて、本当にいろんなことを教えてくれた。地精とか竜とか騎士人形とか、戦役付近以外は正直子供の御伽話のようなものばかりだったけれど。

だが、今は……自分がその伝承の一端を担っているから、受け入れるしかない。

 

「だから、エマの正体についてもなんとなく検討はついてるよ」

「……やっぱり、バレちゃいましたか」

 

あの時唱えていた呪文。“天使”の力との相性の良さ。何より、士官学院において初心者用の武器としてメジャーな導力銃を選ばずにわざわざ魔導杖を選んだ理由。

そして今の質問のおかげで、ある程度自身の中でついていた予想が確信と化した。

不安そうなエマを見上げ、女はその背をぱしんと叩く。

 

「そんな顔すんなって。言いふらしたりなんかしないから」

「いえ……自分の未熟さを嘆いていただけです……」

「なら咄嗟に呪文を唱える癖を無くしな。詠唱破棄とかできねェの?」

「ラフィさんは出来るんですか? 法術で」

「……ゴメン、出来たら人間卒業だわ」

 

両手をあげて降参のポーズを取るラフィに、エマはクスクスと笑う。

ラフィの知る限り、法術を詠唱破棄で放てるのはたった一人だけだ。その彼女だって、詠唱破棄では効果が落ちるとぼやいていた。

 

「とりあえず、これからも秘密にしておいてもらえると嬉しいです。万が一の時は呪文だって使いますけれど」

「わかってるよ。リンクを結んだ時のあの感覚……あたしたちの暴走も抑える術があるんだろ」

「はい。厳密に言えばラフィさんのソレだけですが……私は暴走する心配もないので、最後のストッパーは任せてください」

「ん、頼りにしてる」

 

エマに向かって拳を突き出すと、彼女は数秒考え込んだ後、理解したように顔を上げ、はにかんで同じように拳を作り、ぶつけた。

 

「エマ、ラフィ。そちらも終わったのか」

「まったく、街灯の整備パネルなど初めて開けたぞ……」

 

十字槍を肩に引っ掛けたガイウスとゴキゴキと肩を回すユーシスが後ろから声をかけてくる。振り返って軽く右手をあげて会釈をすれば、ユーシスはじと、とラフィを睨み、不機嫌そうにそっぽを向いた。

……その視線の先で、子供達が鮫型魔獣を弄んでいてさらに気が滅入ったようだが。

 

「あ、あはは……後で胃薬でも差し入れましょうか」

「あたしもちょっと振り回すの我慢しようかな……」

 

魔獣にラウラがトドメを刺す様を眺めながら呟いた言葉に、エマが目を丸くしてラフィを見下ろした。

 

「振り回している自覚、あったんですね」

「だってあいつの反応面白いだろ?」

 

そう言った女は悪戯っ子のようにニィと笑う。

まさにこの双子にしてこの姉あり、といった返事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

正直言って、ラフィ自身はそこまで強くはない。

そりゃあ踏んだ場数が多い上に“力”のおかげで未だ未熟なⅦ組の上澄であるリィンやラウラと同等には打ち合える。だが、彼らがこれから様々な事を経験し、様々な人間と対峙し、成長すれば……いつかはきっと追いつかれ、抜かされてしまうだろう。

ぼーっと、アルゼイドの門下生たちと手合わせする彼らを眺めながら、体温の高い双子たちとミリアムに囲まれて、そんな事を考えていた。

 

「……あ、ガイウスおにーさんがバランス崩した」

「ユーシスもいざって時にあんまり踏み込めてないよねー」

「今のリィンオニーサン、実戦だったら殺られてたぜ」

 

まだまだだねー。 ねー。と顔を合わせてニコニコ笑う物騒な子供達の頭を順繰りに撫でる。本当にこの子達は可愛い顔をして怖いことを言う。

散々ダメ出しを食らう男子陣と比べ、エマはどうやら安定して立ち回れているようだ。魔導杖の特性である無詠唱での簡易魔法を利用し、回避ついでに杖を振ってのヒットアンドアウェイが板についている。

 

「ふむ……あちらの皆様は勿論、どうやらあなた方もやはり腕が立つようですな」

「ウチの弟妹は特別ですから」

 

素直に暗殺者と吐いてはいけない。お嬢様の安全のため、と言われて追い出されてもおかしくはないからだ。

するとクラウスはラフィに向き直り、にこりと笑う。

 

「おや、私は貴女も含めて申し上げたのですが」

「ア……アハハ、冗談はよしてくださいよ」

 

イクスが抱き枕にしている己の長剣を眺め、女は首を振る。やはり双子と違って自分はあまり戦闘は得意ではないと再確認した。

先日の実技試験のような模擬戦ならともかく、実戦の殺し合いなど出来ればもう二度とやりたくはない。事件屋稼業をやっている時点で避けられないものなら仕方がないと割り切るけれども。

 

「お姉ちゃんって実は弱いよ」

「多分ボクら二人でかかったら確実にいけるよな」

「うーん、確かに。ラフィ単独なら剣の軌道と力にさえ気をつけてれば勝てるかも!」

「……お前らなァ……」

 

しかし、こう面と向かって弱いと言われると少し精神的に来るものがある。別に鍛錬を欠かした事は……あまりないはずなのだが。

しかしここでしたり顔のラウラが横から顔を出し、腕を組んで会話に入ってきた。

 

「フフ、わかっていないな……三人とも。ラフィは聞き齧りの我流でここまでの強さを手に入れているのだから、本気で武術を習えばどうなることか」

「あ、たしかに」

「姉ちゃん、セリスおば……オネーサン達にちゃんと教えてもらってよ」

 

師匠本人の前で言えばどうなることかわからない発言を咄嗟に言い直したイクスに、ラフィは口端を引き攣らせた。

 

「師匠はほぼ我流の不良戦術だし、先生は法剣術と宮廷剣術がごちゃ混ぜなんだよ。これ以上あの二人から学んでも余計に邪道戦法になるだけだぞ」

「ならばアルゼイドを学べばよい。幸いその長剣ならば大剣扱いもできるぞ!」

「ラウラ……お前さ、最初からそれ言いたかっただけだろ……」

 

ばれたか、と嬉しそうに笑うラウラ。

確かにアルゼイドに興味がないと言えば嘘になるが、すでにごちゃ混ぜ教会法剣術(空飛ぶ長剣で代用)が身に染み付いているラフィが今から学んでも、というのも本音だ。

 

「でもまぁ……」

 

子供達の山から立ち上がり、離れ、イクスから没収した長剣を腰へと携える。

ゆっくりと剣を引き抜き、現在進行形で戦っているアルゼイドの門下生の動きをじっと観察し、カカシ相手に真似てみる。

膝をバネ代わりに、剣をしっかりと握って。

そうして高く飛び上がり────思い切り剣をカカシに叩きつける。

その光景が視界の端に映ってしまったらしい門下生が固まると同時に、女は長剣を軽々と回し、鞘へと納めた。

 

見様見真似ならできるけど

「鉄砕刃か!」

「実技試験で何回か喰らったし、ちょっと覚えてたんだよ。違うとこも多いだろ」

 

駆け寄ってきた友人に、女はへらりと笑いかける。

 

「いや、上手くできていた。あとは飛び上がった後の姿勢だな」

「空中での姿勢制御なら割と慣れてきたけど……やっぱもう少し前傾した方がいい?」

「逆だ。もっと体を後ろに伸ばしてもいい。剣の遠心力を利用するように……」

 

結局剣の話が始まり、子供達は空いた真ん中越しに顔を合わせ、同時に頬を膨らませた。

 

「ヨルダ、影で剣とかつくれねーの」

「ちょっとやってみる……むむむ」

「ガーちゃんもオジサンに頼んで剣形態作ってもらう?」

「Ез егй кицсит」

 

足元でぐるぐる蠢く影を操って、ぽこんと丸っこい剣を作り出すヨルダに、光学迷彩で隠れたアガートラムに話しかけるミリアム。

ぽこぽこ出来上がった剣をふんふんと振り回し、軽く自身の“力”を注いて銃弾のように扱ってみるも、やはり途中で落下してしまうイクスは、ムキになって練習を始める。

 

「────両者、そこまで!」

 

各々が好きなことをし始めたその時、クラウスの声が道場内に響き渡る。同時にラフィが放ったなんちゃって鉄砕刃がカカシを頭から真っ二つにした。

やべ、と恐る恐るラウラを見上げる。

 

「……弁償?」

「いや、カカシはよく壊れる消耗品だ。予備はたくさんある」

「なら後で場所教えて。流石に自分で替える」

「フフ、心得た」

 

ラウラの横に立ち、リィン達を見る。

思ったよりピンピンしている。全員最初の頃に比べれば、かなり体力がついてきたようだ。

鞘に納めた長剣を見下ろす。なんだかレグラムに来てからやけに静かだが────それはそれとして。

 

「終わった!? じゃあボクも戦りたーいっ!!」

「ちょうど新技出来たとこだし……わたしたちもやりたい」

「やっぱ見てるだけってつまんねーし!」

 

アガートラムの光学迷彩を切ったミリアムをきっかけに、割と様になっている影の短剣を握ったヨルダと、同じものを顔の隣で浮かせたイクスが立ち上がる。

自分が名乗りをあげようとして剣にかけた手をそっと下ろし、ラフィは静観の構えをとった。

 

「ふむ、ならば私めが相手をいたしましょうか」

「む。爺が出るのか。ならば私も参加しよう」

 

壁に立てかけていた大剣を取りに行ったラウラを見送り、完全に剣を背に背負う。

それにしても、あの老齢にして師範代とは。

 

(……どの国でも執事の爺さんって強いもんなんだな)

 

カイエン邸には老執事はいなかったから知らなかった。

子供達に戯れ付かれるリィンを眺めながら、ラフィはその間に座って、頬杖をついたのだった。

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