事件屋ウィステル   作:フッ軽布教女サッチ

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五話 取引

ラファエラ・カイエン。

クロワール・ド・カイエン公爵の実子。社交界デビューしてからは気立の良い優秀な娘として有名だったが、5年前に「探すな」とだけ残し、突如失踪。母親が不明なのをいいことに他の貴族からは庶子やら拾い子やら好き勝手言われているようだ。

また、本性はガサツで脳筋のお人好しであり、粗野な格好で家のお膝元である海都オルディスへと降り、遊撃士の手伝いや真似事を好んで行っていた。

 

手元の資料(+知り合いの生徒からのの証言)から顔を上げ、サラは目の前の貴族息女を視界に収める。

先程、連れていた双子にミラを渡して大市へ解き放った彼女は、そこら辺で暮らしている平民ですと言われてもわからないほど一般的な格好をしている。事実、宿酒場の雰囲気には異様に馴染んでおり、成人していますと言われても違和感はない。

 

腕に青いラインの入ったよくある黒パーカーに、襟を立たせた軽そうなシャツ、腰に下げた傷だらけの旧型戦術導力器。極め付けは100ミラで買えそうな安っぽいフェイクレザーの腕時計。

そんな彼女は今、腕を組み足を組み、背もたれに全力でもたれ……とても教師に対してする格好ではなかった。

 

「あのねぇ、もう少しきちんと座りなさいよ」

「キチっとすると実家思い出してヤだ」

「変なとこでワガママね」

 

つん、とそっぽを向く目の前の不良貴族息女は確かに己の生徒から聞いていた情報と一致している。机に立てかけたロングソードは、憲兵隊が居る帝都で暮らしている以上使用用途は無いというのに随分と使い込まれており、青色の中にある細かい傷跡が光を反射して少し目立っていた。

 

「昨日も言ったが、あたしは学院なんぞに通うつもりはない。今だって双子を養える程度には稼いでるし。その上で、どうしてアンタはあたしと話をしたいんだ」

 

ラファエラは面倒くさそうにそう尋ねる。チラチラと外を気にするあたり、女子二人────アリサとラウラが付き添い、大市に繰り出した双子を心配しているのだろう。

そもそもサラはなぜ彼女が双子と共に暮らしているのかは知らない。ラファエラの家族構成は父のみの筈だし、外部に腹違いの兄弟がいると言う話も聞いたことがない。

……ひとまず、本題に入るとしよう。

 

「まずはこれを見て欲しいの」

「ンだコレ……適性報告書?A、R……?」

「ARCUS。新型の戦術導力器よ。ウチのⅦ組は、このために作られた、身分関係なくコレの適性を持つ生徒が集められたクラスなの」

 

彼女に差し出したのは、彼女自身の適性報告書だ。

その右上に大きく赤色で、テストの点数のように書かれている英字はA。Sを最高ランクとする中では高ランクに値する。

 

「替え玉の身体検査の間違いじゃねェの」

「それじゃあ……ここ。あなたのその導力器と同じ盤面じゃない?」

 

検査の結果、最適な導力器盤のクォーツを繋ぐラインは2本。それも、片方がほとんど全てを繋ぎ、もう片方が一つだけ繋いでいる。ARCUSだけでなく、アーツ適性も高いことを示している。

ラファエラは渋々腰の導力器を取り外し、真鍮で出来たカバーを開く。長いラインと、極端に短いライン。ミリ単位で全く同じものだ。

 

「……確かにあたしのみたいだな。どこで検査されたのやら」

「さぁ。少なくとも貴女のお父上からの書類であることは間違いないわ」

 

じっとこちらを睨む白夜色に、サラは一つの導力器を差し出す。

ラファエラが使っている第4世代の戦術導力器よりも大きいものだ。赤を基調としたカバーの真ん中には、有角の獅子────トールズ士官学院の紋章がしかと刻まれている。

 

「一つ、提案があるの……いえ、貴女に合わせるなら依頼と言うべきかしら」

 

受けてくれるなら、コレを渡すわ。

サラはそう言って、目の前の生徒を見つめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ」

 

サラとの話し合いの途中で勢いよく乱入し、遊び疲れたのかすっかり眠ってしまった双子を小脇に抱え、すっかり日の落ち切ったケルディックに足を踏み入れる。

そこでラフィを待っていたのは、赤い制服を纏った黒髪の青年だった。

 

「律儀にセンセイ待ってたのか? 残りの奴らはさっさと部屋に戻ってったっつーのに」

「いや、少し君と話をしたくて」

「……新手のナンパか?」

「ナンっ!?いや違う違うっ!」

 

慌てて否定する青年を見てケラケラ笑うラフィ。

「付き合ってやるよ」と、サラに見つかったあたりの花壇に座り、双子を右脇に設置する。そして己の黒パーカーを二人の肩にかけ、青年へと向き合った。

 

「そういや名乗ってなかったな。ラフィだ。ラフィ・ウィステル」

「リィン・シュバルツァーだ……あれ、カイエンじゃないのか?」

「あー、クソ親父とは縁切ってンだ。ウィステルは母さんの旧姓、らしい」

 

書類上じゃしつこく繋がってるがな、と女は吐き捨てる。

どうやら父親は縁を切ったとは思っていないようで、アパートの郵便箱には度々贈り物やら手紙やらが届く。全く良い迷惑だ。毎回高いものを売ったりお焚き上げしたりするこちらの身にもなって欲しい。

 

「シュバルツァー……ユミルの領主だったっけ」

「よく知ってるな。知名度はあまりないと思ってたんだけど」

「元四大名門舐めんなよ、チビの時にド田舎の貴族までしっかり覚えさせられたわ」

 

実家での日々を思い出しげんなりするラフィに苦笑するリィン。

見た目は不良そのものだが、ラフィという人間は存外話しやすいものだ。会話のテンポが心地良いし、打てば響くような返しをしてくれる。

 

「そういえば、教官とは何を話してたんだ? 結構言い争ってたみたいだったけど」

「一つ依頼を受けてな。代金は入学取消しと、クソジジィへの牽制、あとARCUS」

「教官が……というより、その代金なら学院から、って感じか」

「鋭いな坊ちゃん。確かに学院の理事長方からの依頼だよ」

「ぼ、坊ちゃんって……同い年だろ」

「ハン、経験が違うんだよ経験が」

 

また、最初に提示された条件であるARCUSは定期的にレポートも書いて提出することになっている。

ラフィ自身たまにテスターの依頼も受けるため、報告書を書くことには慣れている。故にそこまで苦ではないが、まぁもう一つ……依頼の本体が厄介なこと。

 

「依頼っつーのがな、お前らの特別実習の付き添い」

「特別実習の、って、えぇっ!?」

「バカ、声がデケェ!……そこまで驚くことでもなくないか? サラキョーカンだけで離れた土地で活動する2組を監修するのは厳しいだろ」

「あぁ……それもそうだな。さっきだってこの後パルムまで行くってげっそりしてたし」

「そういうこと。もう今回からの依頼だから明日もよろしくな」

 

キョトンとした後、また叫びかけたリィンの口を寸でのところでラフィの豆だらけの手が塞ぐ。

先程から双子も身じろぎしている。どうやら眠りが浅くなってしまったらしい。

ラフィは初めて出会ったあの日のように、イクスを背中にくくりつけ、ヨルダを抱き上げた。

 

「まァそういうワケで。あたしは今から荷物取りに一回帰るけど、お前は早く寝ろよシュバルツァー」

「……なあ、もう一つ聞いていいか」

 

ん? と振り返るラフィに、リィンは少し気まずそうに尋ねる。

 

「その双子は?」

「あァ、こいつらか。拾った」

「ひ、拾ったって……」

「丁度3週間くらい前にな。路地裏で変態に襲われてたトコを保護した」

「……親御さんは居ないんだろうか」

「あァ、親か。考えたこと無かった」

 

正確には変態の死体に囲まれていたのだが。

それに二人の様子からして、きっと孤児か、親がまともじゃないか、だろう。

ならば。

 

「ま、二人が帰りたいって言わない限りは置いとくつもり。留守番は流石にさせられんから、実習にも連れてく。仲良くしてやってくれ」

「……はは、わかった。よろしく、ラフィ」

「おう、ヨロシク」

 

突き出された拳に、ラフィはニィと笑い、ヨルダを支える右手をグーにして叩きつけた。




難産でした
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