事件屋ウィステル   作:フッ軽布教女サッチ

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五十一話 不死の王

先ほど手に入れた宝珠で結界を解いた、その先。

ふよふよと浮く霊魂が、何かを見ていた。

 

「まさか……」

「ッ、まずい!!」

 

大声を上げたラウラの視線の先。

4体の霊魂が二人の少年を取り囲んでいた。おそらく捜索対象の子供達だろう。

 

「ゆ、ユリアン〜っ!!」

「ば、ばば化け物め、あああっちにいけってのー!!カルノに手を出したら、この騎士ユリアン様が相手になるからなぁーっ!!」

 

少年たちは隅に追いやられ、絶体絶命のピンチだった。

咄嗟に結んだ戦術リンクはラウラと繋がった。走りながらラウラの大剣に触れ、"力"を込める。

 

「ラウラ!!」

「任せろ────下がるがよい!!!!」

 

ぼう、と刀身が輝いたあたり成功らしい。武器に直接注ぎ込んだからか威力は落ちているが問題はないだろう。それを確認してから、自身もラウラの切り掛かった二体とは違う二体に向かって剣を思い切り放り投げた。

 

どうやら思った以上にしっかりと効いていたらしく、その二撃で子供達を追い詰めていた霊魂は消え去った。

助かった、とへたり込む子供たちに怪我がないことを確認し、ほっと安心する。これであとはこの城から出るだけだ。

 

「ラウラ姉さん……!」

「す、すっげ〜!! 姉さんたち、めっちゃつえーな!!」

 

大興奮して跳ねる少年────ユリアン。もう一人の気弱そうな少年がカルノだろう。

全くこの状況で呑気なものだ。先ほどまで死にかけていたと言うのに。

まぁこれくらいの歳の子供ならばこんなものかとラフィは微笑んだ。

 

「二人とも、言うことがあるだろう」

 

ふと、ラウラが眉間に皺を寄せてそう言った。

きょとんとした子供達はしばらく顔を見合わせて悩んだ。そしてユリアンがハッとして、「そうだお礼!」と手を叩いて言った。

 

「助けてくれてありがとうな、姉さんたち!」

「はぁ……そうではない」

「え……」

 

ラウラは少年二人の前へと屈み、その肩へと手を置いた。

 

「大人たちに黙って、勝手にボートを持ち出して、こんな所に入り込んで……私たちが助けに来なければどうするつもりだったのだ」

「あ……」

「それは……」

「そなたたちの家族や街の皆がどれほど心配したと思っている!?」

 

厳しく叱りつける姉貴分に、少年二人は俯いた。

そしてじわりと目尻に涙を浮かべながら、「ごめんなさい」と謝罪を告げる。

 

「……わかれば良い」

 

そうしてそれぞれの肩に置いた手を、そっと二人の頭に乗せ、ゆっくりと撫でた。

 

「ユリアン。先ほどカルノを守ろうと前に出た気概は良かった。だが、そなたもまだまだ未熟だ……私と同じようにな」

 

騎士を目指すのならば精進することだ。

ラウラの言葉に、ユリアンは頷いた。

そしてカルノがこちらを見上げ、ペコリとお辞儀をする。

 

「あの、お兄さんたちもありがとうございました」

「フフ、気にしなくて良い」

「お前たちを助けたのはラウラとラファエラだ。礼を言われる筋合いはない」

「よく言うよ、ユーシスも追撃の準備してたくせに〜」

「……このガキ……」

 

つんつんと脇腹をつついたミリアムを、ユーシスがギロリと睨み下ろす。

人の口の悪さ言えないよなコイツ、と思いながらも、ラフィは増援を警戒して出しっぱなしにしていた剣を鞘へと戻した。

 

子供達はどうやらこの部屋に入った瞬間に結界で閉じ込められてしまったらしい。

他の脱出ルートがあるでもなし。正門の結界を解く方法を探ろうとエマが霊視を始めたところで、ラフィは胸元からペンダントを引き摺り出した。

 

「ラフィ、どーしたの?」

「んにゃ、たまにはシスター見習いらしいことでもするかと思って。ガキンチョども、じっとしてろよ」

 

ミリアムの問いかけに答え、ペンダントを子供達に向かって掲げる。見覚えのある星杯のシンボルに安心したのか、子供達はぱちくりと瞬きした。

 

「────空の女神の名において聖別されし七耀、ここにあり」

 

簡単な法術だ。

セリスに一番最初に教えてもらった、魔の者からその姿を隠す術。

 

「水の蒼耀、風の翠耀、識の銀耀……赫灼の光とその融合をもって、彼の者の姿を悪しき魂から隠したまえ」

 

詠唱を終えた途端、赤が周囲を包んだかと思えば、少年達がぼうっと光に包まれる。

見回すユリアンにしっかりとペンダントを握らせ、しゃがんで子供達と目を合わせる。

 

「ユリアンにカルノだったか。これで霊魂達から認識されづらくなったから、なるべく物音を立てずにあたしらの後ろにしっかり着いてこいよ」

「は、はい!」「わかった!」

「うし、良い返事だ」

 

元気よく返事をした子供達の頭を荒く撫で、ラフィはニィと笑った。

それを見た双子がじとりと姉を睨む。

 

「またそうやってさぁ……」

「……お姉ちゃんの子供たらし」

「あ? なんか悪いか」

「「別にー?」」

 

ぷいっとそっぽを向いた双子に首を傾げながら、ラフィはゆっくりと立ち上がる。

出会った頃と比べれば随分と子供らしくなったが、いまだに何を考えているのかわからない時がある。

とりあえず二人の背を叩いてみれば、そっくりな顔を見合わせてズンズンと城の奥へと進んでいってしまった。

 

「あ、こら! 二人だけで先に行くな!」

 

それを慌てて追いかける後ろ姿を眺め、ミリアムは後頭部で腕を組んだ。

 

「アレはラフィが悪いね」

「ああ。昔からそうだ、全くタチの悪い」

「その言い方……やはりユーシスも振り回されていたようだな」

 

そう問いかけたガイウスに、ユーシスは苦々しい顔で頷いた。

子供たらしというより、人たらしだろう。老若男女誰だってたらし込む。双子だって、自分たちだって、そのあまりにもお人好しで、ぬるま湯のような心地いい人間性に惚れ込んでいる。

 

「……俺の話はいいだろう。さっさと追いかけるぞ」

「わっ、みんなもういない!? お、置いてかないでよ〜! いいんちょー、ラフィ〜〜っ!」

「そんなに走ったら転けるぞ、ミリアム」

 

冷静なガイウスの言う通り、ぺしょっとコケたミリアム。

はぁとため息をついたユーシスはひょいとミリアムを抱え、通路の先で待つ友人達の元へガイウスと歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

「間違いありません、アレが結界の大元です」

 

ローエングリン城、最上階。

エマが指し示した先に浮いているのは、今までのものとは違って二回りほど大きなオーブだった。

内側には青白い炎がゆらめき、周囲に妙な気を纏っている。

 

「さて、専門家殿。アレをどうすればいいんだ」

「専門家じゃねーって。だがまァ、そうだな……」

 

リィンの問いかけに、顎に手を当て考え込む。

法術で効力を弱めるとか、無理やり封印するとか、色々やりようはあるが、どれも今のラフィの力では不可能だろう。エマの魔法を頼ればなんとかはなるだろうが、皆には正体を隠そうとしているようだからそれも難しい。

 

「ま、手っ取り早いのは破壊だろうな」

「それじゃ、ボクの出番だねっ!」

 

ミリアムが手を挙げ、アガートラムを召喚する。

 

「阿呆、もう少し慎重に……!」

「ガーちゃん、いっけぇ────ッ!!!!」

 

ユーシスの静止も間に合わず、アガートラムはオーブに向かってパンチを繰り出した。

────当然のように結界に弾かれ、反動でミリアムも尻餅をつくことになったのだが。

 

「にゃあああっ!?」

「言わんことじゃないな……」

「ふむ……まぁ間違いなく結界は張ってあるとは思ったが」

「わ、わかってたなら止めてよ〜っ!」

「あはは、悪ィ悪ィ」

 

ミリアムの手を引いて起こし、女はオーブを睨み上げた。

 

「待て、何か様子がおかしい」

「あァ。お出ましだぞ」

「凄まじい力の奔流……! 来ます、構えてください!!」

 

ガイウスとエマの忠告に応えるように頷き、剣を引き抜く。

長剣は爛々と輝いている。どうやらやる気満々らしい。

 

ごう、とオーブが輝き、中空に青白く透き通ったナニカが召喚される。

教会の司祭のような装いをした、骨の怪物。その手には長い杖を持ち、威圧するように空洞の眼で子供達を見下ろしていた。

 

「《不死の王》!? こんなものまで顕現するなんて……!」

「今までとは格が段違いのようだな……イクス、ヨルダ! ユリアン達を頼んだ!」

「オッケー」「任せな!」

 

子供達を後ろへと下がらせ、ラウラは大剣を不死の王へと向ける。

いくら《影の国》で戦った魔王たちよりマシとはいえ、名持ちの霊魂はやはり威圧感がとんでもない。

垂れてきた冷や汗を拭い、ラフィは無理やり口角を上げた。

 

「こういうヤツらは案外物理も通る! 勝てない相手じゃねェ!」

「ああ!ここが正念場だ……死力を尽くすぞ!!」

「「「「「「応!!」」」」」」

 

リィンの号令で一気に士気が上がり、戦術リンクが幾つも出来上がる。

どうやら自分が繋がった相手はガイウスだったらしい。槍のリーチをうまく活かした戦術が一気に傾れ込んできた。

 

(まずは周りの取り巻きを!)

(わかった!!)

 

リンクでの思考共有に加え、アイコンタクトで考えを合わせる。

そして左右に分かれ、周囲を漂う霊魂へと照準を合わせるように手を突き出した。

 

「飛んでけッ!!」

「竜巻よ、薙ぎ払え!!」

 

リンクを通じてガイウスの槍にも分け与えられたが霊魂を吹き飛ばす。

跡形もなく散った取り巻きたちを一瞥もせず、不死の王はその杖尻を床へと叩きつけた。

瞬間、青い霊界の炎がユーシスの周囲に広がる。

 

「ぐっ……」

「ユーシス!?」

 

ユーシスとリンクを組んでいたらしいミリアムが異変に気づいて声を上げる。

振り返れば、ユーシスはフラフラと眠気に振り回されるようにヨタついている。すぐにアガートラムに乗って近づいたミリアムに任せ、どうやらあの青い炎はヒトを眠りに誘う効果があるようだと認識した。

 

(チッ、こんなヤツ爺さんや師匠なら一発だっただろうに……!!)

(無いものねだりをしても仕方がないだろう。今は俺たちで対処するしかないのだから)

 

そんなことはわかっていると悪態をつきながら、女は叩きつけられた不死の王の長杖を咄嗟に跳ねて避ける。

今はペンダントを子供達に預けている。無闇に天使の力で無理やり祓うわけにも行くまい。

 

「────解析完了、やはり上位三属性がよく通るようです!!」

 

エマの叫びで、咄嗟にARCUSを開く。

ついているのは強化系のクオーツと、風の範囲回復アーツであるブレス、そして水属性のマスタークオーツのみ。上位三属性のアーツはこちらでは使えないらしい。

 

(っつーことは、こっちの出番か)

 

念の為とARCUSと同じポケットに入れていた第四世代の戦術導力器の蓋をぱかりと開ける。

整備は怠っていない。クオーツだってトヴァルのおかげで更新したばかりだ。

 

「うし、駆動開始……!!」

 

立ち止まって導力器のラインをなぞり、詠唱を始める。

 

「させるか!!」

 

気がついたらしい不死の王が再び長杖を振るうが、あっさりとガイウスによって阻まれる。

リンクを通じて感謝を伝え、導力の渡り切った戦術導力器を不死の王へ向かって掲げた。

 

「これでも喰らいやがれ!!」

 

発動したのはシルバーソーン。本来ならばARCUSでも発動できる幻属性の中位攻撃アーツだ。

不死の王の周囲に幾つも銀色の針が突き刺さり、魔法陣を作り上げる。幻属性特有の怪光が発され、不死の王のあるかどうかもわからない精神へとダメージを突き刺した。

 

「チッ、流石に混乱はしねェか……なら!!」

 

普通の魔獣に使えばある程度混乱させられるアーツではあるが、やはり大物には少々効きづらいきらいがある。

さて、せっかく旧型を持っているのだから思い切り活用してしまおう。

 

(飛ばしていくぞ!!)

(ああ……!!)

 

ラウラとミリアムが攻撃したタイミングを見計らって、ガイウスに向かってクロックアップ改を発動し、 その身体時間を一気に早める。

わかってはいたがEPの消費はキツい。もう使わないからとクローゼに譲ってもらった省EP4を念の為つけておいて良かったと心から安堵した。

 

ふと、視界の端に何やら詠唱しているエマの姿が映る。

どうやら大技を放とうとしているらしい。すぐさま戦術リンクでガイウスにその旨を伝え、不死の王の姿勢を崩そうと次のアーツの詠唱を始めた。

おそらくエマの大技が決まれば、もうそれでこの不死の王は倒し切れるだろう。ならばEPを出し惜しみしている暇などない。

 

「もらった!!」

「そこだ……二の型、疾風!!」

 

大きく飛び上がり、不死の王の足元へと槍を突き刺し、その衝撃波で足を掬うガイウスと、リィンの疾風が見事に決まり、不死の王は大きく体勢を崩した。

 

「開け────アヴァロンゲート!!」

 

ラフィの旧型の詠唱も終了する。

体勢を崩した不死の王相手に、天井スレスレに顕現した幻の扉から放たれた光がまるで矢のようにその胸を貫いた。

 

「皆さん、離れてください!!」

 

呪文の詠唱が終わったのか、エマが皆にそう呼びかける。

 

「待ってましたっと!!」

「わわっ、ラフィ!?」

 

たまたま近くにいたミリアムの首根っこを引っ掴み、不死の王から距離を取る。

 

「聳え立て、大いなる塔────」

 

先ほどアヴァロンゲートが燦然と輝いていた場所まで、異空間から召喚された魔法仕かけの塔が迫り出してくる。

そうして何やら力を溜めた塔の中央に向かって光線が伸び、中央で大きな力の球体が生成される。

 

 

「────ロード・アルべリオン!!」

 

 

エマの号令で、球体は直下にそのまま力を吐き出し、城を大きく揺らしながら不死の王を光の柱へと飲み込んでいった。

 

ようやく光が収まり、暗闇の静寂が戻った時。

視界に映ったのは、静かに浮いている大きなオーブだけだった。

 

 

 

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