事件屋ウィステル   作:フッ軽布教女サッチ

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六十二話 趣味は変わるもの

帝都の自室は、なるべくシックな家具で揃えている。

白と黒、差し色で青。その方が落ち着くし、好みにも合っているからだ。

……まぁ、そんな人様に見せられるような好みになったのはそこそこ成長してからで。

 

「それでは皆様、こちらでお待ちくださいまし」

 

────5年前、衝動で家出した時そのままの自室に今の趣味は適用されない。

 

「ちょっっっっっとまった婆や!!!!」

「どうされましたの?」

「どうされましたの?じゃなくて!! なんでこの部屋!?」

「ああ! ふふ、ご安心ください。お嬢様が帰ってくると聞いて侍女一同張り切って掃除いたしましたのよ」

 

そうじゃない!!

朗らかに微笑む老女にラフィは奥歯を噛み締めた。

それでは旦那様を呼んできますわね、と去っていったアデリナの背中をダラダラ冷や汗かきながら見送る。

 

絶対に見られたくない。あまりにも恥がすぎるだろう。

特にラウラと双子は帝都の自宅を見ているから、昔の趣味全開の部屋なんか見られたら絶対に笑われる!!

 

「と、とにかく! 2階に応接室があったはずだからそっちで────」

「別に恥じることでもないだろう。入るぞ」

「あっちょっおまっ」

 

幼馴染が故に特に抵抗なくラファエラの部屋の大きな扉を開いたユーシス。

止める暇もなく開け放たれた部屋の中。一行の視界の中に飛び込んできたのは……

 

「わぁ」

「これは……」

「ウワ─────────ッッッ!?!?!?」

 

────白と青。その二色で構成された、眩しい部屋。

あらゆるものにフリルが付き、ふわふわな天蓋付きのベッドの上には海の生物を模したぬいぐるみが綺麗に並んでいる。

日曜学校を卒業していない女の子が一度は夢見るファンシー部屋。それがラファエラ・カイエンの個人部屋だった。

 

「わぁっ!! すっごーい!! かわいー!!」

「……!!(コクコク)」

 

真っ先に飛び込んでいったのは、まだ幼いミリアムとヨルダだった。

キラキラふわふわした部屋を見渡し、クッションをつついてみたり、ベッドへダイブしてみたり。

 

「頼むからみないでくれ……」

「恥ずかしがることはないだろう。末の妹も似たようなものをよく強請ってくる」

「妹さんいくつ?」

「……ヨルダと同じくらいだな」

 

生暖かい視線を向けてくるガイウスの背をドンとどつき、ラフィは再び天井を仰いだ。

……いや、家出るちょっと前に流石にそろそろ模様替えしよっかなって思ってたし。12歳にもなってこれはちょっと恥ずかしいかなって思ってたし。家出たから片付ける時間なかっただけで。

 

「ふふ、ラフィさんにも可愛らしい時期があったんですね」

「確か昔は髪も長かったのだろう? うむ、この部屋にも良く似合いそうだ」

「この辺にアルバムを置いていただろう。どこへやった」

「な、なんか二人とも寛いでるし……ユーシスは家探しすんな! 仮にも乙女の部屋だぞ!?」

 

勉強机を漁り出した遠慮知らずのユーシスにかかわりついて止める。

そこまで本気ではなかったのか、あっさり引っ張られた、珍しく笑いが止まらない様子のユーシスをソファに放り投げた。

 

「これ、小さい頃の姉ちゃん?」

「ああ。そこにあるものは全て5年前の写真だ」

「なんでお前が答えるんだよ……いや間違いじゃねェけども」

 

イクスが興味を示したのは、先ほどユーシスが漁っていた勉強机の上に並べた写真立ての数々だった。

大抵がアンゼリカが導力カメラにハマっていた時期のものだから、殴り合いの証拠写真を含めほとんど同じ時期の写真だが。

ドレスのまま海に飛び込んでべしょべしょになった時や、パーティーのデザートをつまみ食いして怒られた時。クロワール公爵の机に拾ってきた綺麗な貝殻を並べて遊んだ時。

 

────今考えれば、たった3年でよくここまで共に遊び倒したものだ。

 

『お嬢様、皆様。旦那様がお会いになられるそうですわ』

 

こんこん、と扉がノックされ、アデリナがそう告げた。

ベッドで飛び跳ねていたチビっ娘二人を回収し、ラフィは返事を扉の向こうへと告げた。

 

「はァい、今行く! おらテメェらさっさと出ろーッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

西ラングドック峡谷道の手配魔獣。

リヴィエラコートの臨時バイト。

薬草の材料採取。

 

手渡された課題の内容を皆で覗き込む。

正面でニコニコ笑う父の視線を鬱陶しく感じながらも、ラフィは仲間達と目配せして、頷いた。

 

「……確かに受け取った。ラクウェルまで範囲に入ってるとは思わなかったけど」

「あの街も私の治める領地だからね。歩くのが大変ならば馬を貸し出そう」

「いえ、構いなく。徒歩での移動も鍛錬になります故」

 

ラウラがぴしゃりとそう断った隣で、エマが「えっ」と悲しげな声を出す。そういえばこの中で一番体力がなさそうなのはエマである。峡谷道に入るとむしろ馬での移動は逆に煩わしくなるから、ラウラの判断は正しいのだが。

 

「……あの人が、姉ちゃんの親父……」

「むむ……」

「お前らな……警戒する気持ちはわかるけど」

 

ラフィの影に隠れるようにぴょこりと顔を出した双子が、じろしろとクロワール公爵を眺める。

それに気がついたらしい公爵がにこりと笑いかければ、双子はぴゃっと驚き姉の背に隠れた。

 

「おや、怖がらせてしまったかな」

「仕事してる時の父さん胡散臭いから仕方ないよ」

「……流石に実の娘にそう言われると、少しキツイものがあるね……」

「事実だし」

 

ぷい、とそっぽを向いた娘に、クロワールは困って頬をポリポリと掻いた。

実際、父の仕事中の笑顔の貼り付け具合はすごい。一目見ただけで胡散臭い。整えた立派なヒゲと派手な孔雀のようなファッションのせいもあるのだろうが。

 

「とにかく、確かに実習課題は渡した。部屋はオルテンシアの302と303を自由に使うといい」

「はい、わかりました」

 

こくんと頷いたエマの次に、ユーシスが一歩前に出て丁寧にお辞儀をする。

 

「ご丁寧な対応に感謝します、公爵閣下」

「暫く見ない間に随分と硬くなったな、ユーシスくん。君さえよければ昔のように呼んでくれたまえ」

「それは……いえ。わかりました、クロワールさん」

 

ニコリと笑った公爵の圧に耐えられなかったのか、ユーシスは眉間に皺を刻んだまま弱々しくそう言った。

 

「うわ、パワハラ現場見ちゃったァ。革新派にチクっちゃお」

「ラファエラ」

「冗談。じゃ、行ってくる」

「まったく……見繕った身で言うのもなんだが、魔獣退治もある。くれぐれも気をつけることだ」

 

はァい、というだるそうな返事と共に、ラフィはそそくさと執務室の外へ出ようと背を向ける。

そしてⅦ組の面々がぞろぞろと執務室から出ていく中、思い出したようにクロワールが声をかけた。

 

「ああそうだ、ラファエラ」

「なに」

「実習課題が終わったら、一度帰ってきなさい。あの部屋を開けておく。……パパも、覚悟を決めたよ」

 

穏やかにそう告げた父に白夜を見開き、数秒呼吸を忘れる。

そして脳がようやく整理を終えた頃、娘はふっと笑って頷いた。

 

「……ん、わかった」

 

昔と比べればすっかり短くなったミルクティー色が振り返った拍子にふわりと靡き、去っていく。

ばたん、と閉じられた豪勢な扉を見つめ、クロワールは机の上に置いた貝殻を見つめた。

 

────が、その視線はどさりと置かれた書類によって遮られる。

 

「さぁ旦那様、お仕事再開ですわ」

「……アデリナ。少しは手加減してくれても」

「だ・め・で・す。アルフレッド様も旦那様も少し目を離すとサボっていらしているのですから」

「今日提出の分は終わっているだろうっ」

「明日の分も終わらせてしまいなさい」

「……ハイ……」

 

年上の女性は強いものである。

クロワールは泣く泣く、ペンとハンコを手に取った。

 

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