事件屋ウィステル   作:フッ軽布教女サッチ

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七十話 士官学院祭、1日目

士官学院祭に訪れる客は、想像以上に多い。

普段は生徒と教官しかいないはずのこの学舎に、今日は一般人が山と言うほど溢れかえっていた。

正面玄関前で商売勝負をする二人の生徒を筆頭に屋台も多く、ラフィは飴を口の中で転がしながらゲンナリと背中を丸めていた。

 

「いや人多すぎね?」

「各地の有力貴族の子息も多い。領主の子の晴れ姿となれば観にくる平民も多いだろう」

「それを君が言うか」

「フ、妾の子など慕っている民は居るまい」

「自信満々に言うなよ悲しくなっちゃうだろ」

「そうだそうだ」

 

腕を組んで自虐ネタを挟んできたユーシスをパトリックとラフィが左右から肘でつつく。

バリアハート職人街の人は先ほどから度々見かける。ユーシス目当てで来ている人も居るはずだ。

 

「ところで、その。ラファエラの交際相手はまだなのか……?」

「まだだからこうしてあたしが待ってンだよ」

「奴のことだ、どうせ寝坊でもしたのだろう。俺は先約があるからもう行くぞ」

「ン、また後でな〜」

「むぅ、僕は絶対に見てやるぞ……!!」

「阿呆。お前も来い」

「えっ!?」

 

張り込みをすると張り切るパトリックの首根っこを引っ掴み、ユーシスは人混みの中に消えていった。

ひらひらと手を振り、その姿を見送る。

……分かりづらいが、きっと気遣ってくれたのだろう。一応、こんなでも彼氏持ちだ。待ち合わせに他の男と居ては格好がつかない。

 

人の流れる校門脇で、薬指のリングを陽にかざす。

きらりと煌めく銀色のそれは、彼曰くラクウェルで買った安物のペアリングらしい。

 

────僕の経歴じゃ、君の夫には成れないだろうから。せめてこれをつけていて欲しいんだ。

 

(随分重い枷をつけられちまったな)

 

だが、悪い気分ではない。

下手に高いものを贈られるより、ずっと絆を感じられる。そんな気がしたからだ。

 

「……っと、噂をすれば」

 

駅方面から歩いてくる、分かりやすい人影が3つ。

赤いストールに、よく似た双子。双子はラフィに気づくと、トテトテまっすぐ駆けてきた。

 

「姉ちゃんっ!」「お姉ちゃんっ」

「イクス、ヨルダ!ここまで迷わずに来れたか?」

「トーゼン! なんなら管理人引っ張ってきたぜ」

「すぐフラフラするから、イクスと一緒にストール引っ張って連れてきた」

 

だからあんなにキツキツにストールを巻いているのか。

こちらに歩いてきながら、キツい巻きを緩めるメルキオルを見つめながら、ラフィは双子をぎゅうと抱きしめた。

 

「おはよう、ラフィ」

「ン、おはよ、メル。随分遅かったじゃん」

「ちょっと昨日、色々あってさぁ……ふぁ……」

 

眠そうに欠伸をするメルキオル。

またこいつ夜更かししやがったな。ラフィは呆れた視線を彼に送った。

そして、はたと一つの憶測に辿り着く。

 

「独立宣言絡み?」

「ご明察……活動資金の口座、半分くらいはIBCで作ってたから凍結されちゃってさぁ……」

「『僕には関係ないね』って余裕ぶっこいてたら、皇帝から通信かかってきたんだよな」

「あの時の管理人の慌てよう、おもしろかった。朝に帰ってきた時も萎れてたし」

 

双子の証言通り、どうやらかなり疲弊しているらしい。

立ち上がったラフィの肩口に顔を埋め、メルキオルはスゥ、と息を吸って、吐く。

「吸うな」と背中を叩かれるも、離れず逆に背へと手を回した。

 

「ま、なんつーかお疲れ。今日は無理しなくて良かったのに」

「君といる方がリフレッシュできる」

「……ふーん、そ」

 

ふっと微笑んで、女は1秒だけ男を抱きしめ返した。

そしてパッと離れると、双子の手を取って歩き出す。

 

「出し物、事前にリサーチしといたから。今日で全部回っちまおうな」

「さんせー!」

「明日は本番だもんね」

 

ウキウキの双子に幸せを感じながら、隣を歩くメルキオルと笑い合う。

ああ、いまが一番幸せかも。

そう感じながら、賑やかな学院祭の喧騒に身を任せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、俺たちの勝ちだな」

「ナイス、リィンオニーサン!」

「っだー! 負けたァ!」

「やっぱりこういうゲームは苦手かも……」

 

大体遊び回った、夕方ごろ。

4人はたまたま同じアトラクションに遊びに来ていたリィンと合流し、ブレードカフェ《ゲート・オブ・アヴァロン》でブレードに興じていた。

 

「ボルトの使い方が上手いよね、リィンって」

「そういうメルキオルこそ、最初にいきなり数字を盛って来て度肝を抜かれたぞ」

「セオリーは低い数字からなんだっけ? まだるっこしいじゃん」

「普段からまだるっこしい戦い方してる奴がなんか言ってら……」

 

ジトリとメルキオルを見上げたラフィに、当の本人はくすくす笑う。

この戦法で毎回勝っているのだから、まぁ強いこと強いこと。今の所、この5人の中ではメルキオルとリィンがトップ争いを繰り広げていた。

 

「うし、次はお前だメル! ぎゃふんと言わせて────」

「お楽しみ中失礼しますわ♡」

「ぎゃ───────────ッ!?!?」

 

腕まくりをして、ブレードのカードに手を伸ばしたラフィは、背後からトンと肩を掴まれる。

部屋中に響き渡った悲鳴に、何事かと客たちの注目を集め、へたり込んだラフィを、クスクスと下手人が笑う。

 

「シャロンさん!?どうしてここに」

「ふふ、クロウ様より『ブレードマスター』役を拝命いたしまして。連勝を重ねたお客様に、強者としてお相手する……そんな役回りですわ」

 

第三学生寮管理人、シャロン・クルーガー。ここ数日ラフィをいじり倒してくれた年上のお姉さんだ。

今まで出会った中でも特に癖の強い人で、なんだか手玉に取られて遊ばれているような、そんな気分になる人。ラフィにとってはあまり得意とは言えない人でもある。

 

「さて。わたくしのお相手……リィン様はまだしも、まさか貴方とは」

「……その、クルーガー。僕もびっくりしてるんだけど。こんな所で何してるのさ」

「それはこちらのセリフですわ、メルキオル」

「へ? 何、知り合い?」

 

イクスの問いかけに、メルキオルは頬をカリカリと掻く。

 

「あえて言うとすれば、古巣の先輩、かな。僕のナイフ術は彼女から教わったものでね」

「まだ稼業を続けている、と噂で聞いていたのですが……随分と陽だまりに引き寄せられましたわね」

「クルーガーこそ、メイド服なんか着ちゃってさ。すっかり平和ボケしてるんじゃないの?」

 

バチバチと争い始めそうな勢いの二人の間に「落ち着け」とラフィが割って入る。

目を丸くした二人を交互に見て、止まったことを確認し、ふぅと息を吐いた。

 

「《庭園》の棘の管理人は今日明日お休みだよな」

「? そうだけど」

 

首を傾げたメルキオルの肩にがばりと腕を回し、女はピッとその顔に人差し指を向けた。

導力灯の灯りを受けて、キラリと指輪が輝く。

 

「シャロンさん。今はコイツ、あたしの彼氏」

「まぁ♡」

「ちょっラフィ!?」

「陽だまりも陽だまり、いまど真ん中に引き摺り出してるから。ケンカするなら物理じゃなくてブレードで叩きのめしてやって」

 

そしてブレードのカードの束を差し出せば、ラインフォルトが誇る最強メイドはニッコリ微笑んで、メルキオルの正面の席についた。

 

「良いでしょう。久々に揉んでさしあげます」

「絶対強いじゃん! 絶対強いじゃん!! なんで焚き付けたのさ!!」

 

悲鳴をあげたメルキオルにニッコリ笑って、ラフィは弟妹と共に周囲に集まってきた観客の後ろ、空いた席へとつく。

 

「うし、やるか、ヨルダ」

「ん。次は負けない」

「ボク管理人のバトル見てくる」

「あんまりはしゃぐなよ?」

「はーいっ」

 

そう言って、結局イクスはメルキオルの隣にトテトテ戻っていった。なんだかんだ、イクスはメルキオルと居る方が楽しいようだ。男同士というのもあるのだろう。

 

リィンも立ちあがろうとしていたが、シャロンにガッツリ腕を掴まれ立ち上がれないようだ。次のターゲットにされているらしい。

捨てられた子犬のような目でこちらを見てきたが、まぁ。あいつならなんとかなるだろう。

 

「何枚ボルト持ってるんだい!? もうこっちの手札ボロボロで────あ゛ーっ、負けた!!」

「まだまだこれからですわ。構えなさい、メルキオル!」

「1戦だけじゃないの!?!?」

 

悲鳴をあげる彼氏をニコニコと眺めながら、穏やかな気分を噛み締める。

 

「はい、ミラー」

「むー……そうきたか……」

 

昨日から妙に騒めく心を落ち着かせながら、女は妹にも容赦なくミラーをしかけるのだった。

 

 

 

 

 




ちょっと みじかめ
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