事件屋ウィステル   作:フッ軽布教女サッチ

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七十六話 ポムりますか?

11月30日。

デュバリィに分けてもらった、写真集か? というレベルで彼女のマスターばかりが映った日めくりカレンダーがそう告げた。

 

クロウに負けて、この艦に軟禁されてから一ヶ月。

魔女────ヴィータの張った、天使の動きを鈍らせ、眠らせる結界によって、ラフィの活動時間は一日に3時間程度となっていた。

だからだろうか。もうこんなに日にちが経っていたのかと、焦燥感に襲われた。

 

廊下がダメなら部屋からとばりんと割った窓ガラスはいつのまにか修理されている。

こんこんとクロウとデュバリィに説教され、結局その日は説教だけで活動時間が終わってしまったことが悔やまれる。

 

覚醒した後は、いつも通り少し伸びた髪を縛って、父の用意した普段着に着替え、パーカーを羽織る。

よ〜し今日も元気に脱走脱走! と意気込み、何故か没収されなかった剣を片手にいつも通り扉を蹴破った。

 

「きゃっ!?」

 

軽やかな少女の声。

スカートであることも気にせずハイキックを放ったラフィの正面には、ふわふわの長い金髪と、まっすぐ降りた美しい黒髪の少女達がアルティナと魔女に連れられていた。

 

「やっべ」

「あら、タイミングが悪かったわね」

「おはようございます、ラファエラ様」

 

……仕方がない。今日の脱走は中止だ。

ため息をついて、剣をベッド横まで飛ばす。

 

「おはよう、アルティナ。それと……久しぶりだな、エリゼ嬢ちゃんに皇女殿下」

「ラフィ、さん……」

「私には挨拶してくれないの? お姉さん悲しいわ」

「寝言は結界解いてからほざいてもらっていいスか」

 

剣を手放したことで脱走の意思が無くなったと取られたのか、魔女にもにこやかに対応される。

全く、結界があるせいで怪我の治りも遅いというのに。まだ包帯が取れていないのはこの魔女のせいだ。

 

ポケットに手を突っ込み、飴を取ろうとして……全部没収されたことを思い出す。

行き先のなくなった手を宙で泳がせていると、どすりと腹に衝撃が走った。

 

「ラフィさんっ!!」

「うぐッ!? な、ナイスタックル……」

「無事で、無事でよかった……!!」

「……思ったより心配かけてたみたいだな」

 

結局行き先を無くした手を抱きついてきたエリゼの頭にぽんと乗せる。

そのまま魔女に誘導される形で、ずっと空室だった2階廊下の奥の部屋へと二人を連れて行った。

……途中、アルティナが羨ましそうに見てきたから、反対側に抱き寄せるなどしながら。

 

 

「……そうか、リィンは無事なんだな」

「はい。無事にユミルまで帰って来ました」

 

ラフィの言葉に、エリゼはうんと頷く。ボロボロの体を張って逃がした甲斐があったものだ。

 

あの士官学院の決戦の後。"灰"────ヴァリマールは、帝国北端であるアイゼンガルド連峰までひとっとびし、リィンをその内側に匿っていたそうだ。

そして、一ヶ月をそのまま過ごし、目覚めたリィンが里に帰ってきた矢先に、貴族連合軍の手先である猟兵の襲撃があった。そのどさくさに紛れて、アルフィンとエリゼはアルティナに攫われてきたそうだ。

 

「さぞ非日常でスリルがあったんじゃないか?」

「さすがの私もこんな国を巻き込んだスリルは求めていません」

 

ぷいとそっぽを向いてしまった帝国の至宝に、ラフィは軽い調子で「悪い悪い」と謝罪する。

 

「二人とも、怖かっただろ」

「……はい」

「少し、だけ」

「ごめんな。うちのクソ親父が」

 

そっと二人の正反対の質をした頭を撫でる。

はっと目を見開き、こちらを見上げる二人にラフィは微笑みかけた。

 

「大丈夫、きっと助けが来る。まァ来なくても、あたしが脱出ルートを見つけて見せるさ」

「……ふふ、それは頼もしいですね」

「ええ。本当にお姉さまみたい。ミルディーヌとヨルダちゃんには悪いけれど、私もそう呼んでしまおうかしら」

「それで殿下の気が済むならいくらでも」

 

そうしてずっと頭を撫でていると、二人────特にアルフィンがうつらうつらと頭を揺らし始める。

ただでさえ気を張っていたところに、この誘拐騒ぎだ。肉体も精神も疲労困憊だろう。

しばらくして、すうすうと寝息を立て始めた二人をベッドへ移し、ラフィは部屋の電気を消してから、外への扉を開いた。

 

昨日割ったガラスはいつの間にやらすっかり修理されている。また割って父のへそくりを減らすのもまた一興かと思ったが、ここから風が入ってはアルフィンとエリゼが寒い思いをするだろうとあきらめた。

 

「子供たらし」

「うるせ」

 

廊下で待っていたであろうクロウがじとりと睨みながらそう言った。

 

「リィンの女たらしよかマシだろ」

「じゃあこう言いかえるか。近所の少年の初恋キラー」

「あいにく初恋を搔っ攫ったことは無ェよ」

 

いや搔っ攫ってるだろ。幼馴染のを。

そう突っ込みかけて、やめる。本人が昔のことだと割り切っていることを知っているからだ。

二人して並びながら階段を下りる。

ラフィに許された自由行動区画はこの貴賓区画のみ。探検はすでにし尽して、すでに退屈の象徴となっていた。

 

「あ~あ、せっかくクソ親父の管理下にいるんだから婆やのマフィン食いてェな~」

「甘いもんならいくらでも出るだろ、ここ」

「チッチッチ、わかってねェな。婆やのマフィンは特別なんだよ」

「そりゃ食ったことねぇし」

 

婆や────アデリナ・モントローズ。

笑顔が高圧的……ではなく、素敵な老婦人。

どうも今回、この貴族連合の大型飛空艇ことパンタグリュエルには乗船していないようだが、クロウも騎神の試練に挑むときに何度かお世話になった記憶がある。

あの時出されたのは普通のクッキーだったが、どうやら可愛いお嬢様には手作りのマフィンを捧げているようだ。

 

「なァクロウ」

「なんだよ」

「お前、ポムっと!って知ってるか」

 

懐からマスタークォーツ以外のクォーツをすべて抜かれてしまったARCUSを取り出し、ラフィはクロウを見上げた。

問われた男は当然のようにARCUSを取り出し、その画面を見せる。

────ポムっと!の軽快な音楽が二重に重なって、広間に響いた。

 

「強いぞ。オレは」

「エイオン付きのティオよりは弱いだろ」

「ティオが誰だかは知らんが聞き捨てならねぇな」

 

ばちり、と二人の間に火花が散る。

 

「2点先取、負けた方が明日のオヤツ献上な」

「上等」

 

負けられない戦いが、そこにある。

ARCUSのスピーカーが、ポムっと!の試合開始を告げた。

 

「何をやっていますの、あの二人」

「若者のノリ、というやつね。貴女もそんなに歳は離れていないでしょう、混ざってきたら?」

「わたくしはあそこまでガキではありませんわっ!!」

 

遠くから見ていたヴィータの揶揄いに、デュバリィは頬を膨らませて反抗する。

だが、どうやら嫌ではなかったらしく。ぶつくさと文句を言いながら、デュバリィは白熱する明日のオヤツ争奪戦に茶々を入れに行った。

2,3言ARCUSを握ったままの二人と会話し、何やら激昂しながら彼女はラフィの肩を持った。どうやらクロウは鉄機隊筆頭殿の機嫌を損ねてしまったらしい。

 

「さぁラフィ! この生意気な男をボッコボコにしますわよ!!」

「っしゃァ任せろ!!」

「そう簡単にやられるかよ!!」

 

カタカタと争う三人を見つめながら、ヴィータは何だか妙な心地になっていた。

青春を棒に振り、闇に身を落とした二人が、一人の女の子に引っ張られて年相応に振舞うさまを初めて見たからだろうか。

 

これが、善と悪の狭間にいる、白夜の彼女の力なのだろう。

たとえどんな闇に浸かった人間でも、優しく引っ張り上げて、隣でただ笑っていてくれる。

そんな人は……どうにも自分たち(闇の住人)には心地が良すぎる。

 

「っしゃオラ!! まず一点!!」

「っだーーーー負けたァ!!」

「何をやっていますの!! 一回わたくしも入れなさい!!」

 

今度は自分のENIGMAを取り出したデュバリィがクロウの正面に移動する。ポムっと!の軽快な音楽が三重に重なった。

おかしいわね。クロウにデュバリィはともかく、ラファエラ様は軟禁対象なのだけれど。

そんなヴィータの疑問も空しく、三人の少年少女の争い(ポムっと!)はさらに白熱していく。

 

「魔女さァん!結界解除して!!勝てない!!」

「ダメよ。……じゃなくて。貴女まさかゲームで天使に頼っていたの?」

「クク、生身じゃ所詮その程度ってことか!!おらっ喰らえ!!」

「うおおおおおお!? あ、あたしのショコラトルテがぁぁぁああ!!」

 

衝撃の事実が発覚したが、無事ラフィは敗北し、明日のオヤツであるショコラトルテはクロウの元へ収まってしまったらしい。

 

「フン、オヤツ程度でそこまで騒げるとは。一周回って感心しますわ」

「お? そう言う筆頭殿は結構ピンチなんじゃねぇの?」

「ふっふっふ……あまり舐めるんじゃねーですわ。さぁ喰らいなさい!!」

 

デュバリィのENIGMAからどんどんポムが消える音が連なる。それが数十回鳴った後、クロウがどかんと机に突っ伏した。どうやら大連鎖によって一気に負けたらしい。

 

「そんなんアリかよぉおおおお!!!!」

「落ちモノは連鎖を組んでナンボ。これで明日のショコラトルテはわたくしのものですわね」

「アレでもデュバリィさんさっきオヤツ程度って」

「貰えるものは貰っておくだけですっ」

 

ラフィが眠るまで、あと2時間。

その間にめいいっぱい遊ぶぞとまるで日曜学校の帰り道の子供達のように、三人は遊びに没頭する。

 

「次何賭ける?」

「なんかあったかねぇ……」

「貴方達純粋な勝負は出来ませんの?」

 

デュバリィの問いかけに、二人は「何か賭けてた方がアツい」と答えた。

このギャンブラーどもめ。デュバリィはため息をつき、再びENIGMAを構えた。

 

 

 

 

 

 

 

11月30日

 

脱出は失敗。 出た瞬間に魔女とアルティナが居た。 最悪。

 

ただ、皇女殿下とエリゼに会えたことは嬉しい。 喜んで良いのか微妙なところだけど、まぁ私が脱出ルートを見つければ問題ないだろう。

だから今日は一日中クロウとデュバリィさんと ポムっと で遊び倒した。 ショコラトルテは持っていかれたが、デュバリィさんが賭けたマスターさんの今月の会心の一枚をゲットした。 部屋がどんどんマスターさんで埋まっていく。 なんで?

 

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