事件屋ウィステル   作:フッ軽布教女サッチ

8 / 76
八話 癒着現場、目撃

case4 行き倒れの酔っ払い

 

あ〜? なんだおまえさんらぁ……学生かぁ?

ひっく……酒、酒……

 

事件〜?しらねえなあ……ずっとここで飲んでたからよぉ……

おじさんはなぁ、いきなり仕事クビになっちまったんだよぉ。ほんとにいきなりさぁ。

あ〜んなに熱心にやってたってのによぉ……生きがいだったのによぉ、自然公園の管理はよぉ……

奪われちまったから飲むしかなくなっちまったぁ!がっはっは

 

お?坊ちゃんら自然公園しってんのかぁ〜?

そうさぁ、おじさんはあそこの管理人やってたのさぁ

いっしょうけんめい頑張ってたのに、いきなり州の役人さんが来て解雇通知ってわけよぉ!

あんなチャラチャラした若造よりもおじさんの方がよっぽど良い仕事するってのによぉ……

 

ん?若造のことかぁ?

おじさんねぇ、昨日も夜通しここで飲んでたの。そしたら、前までおじさんが着てたはずの服を着た若造どもが数人西口から出てったのさぁ。

あんな夜中に、木箱やらなんやらかかえてよぉ……ひっく、あんな急ぐようなモン運び込むって、何はいってたんだろぉなぁ……

 

ん?ハッカ飴かぁ……嬢ちゃん、ありがとなぁ。

酒潰れした喉に、ちょうどいいよ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へへ、結構な稼ぎになったな」

 

自然公園、最奥。

管理人の制服を着た男たちは、生鮮食品や装飾品の詰まった箱の前で駄弁っていた。

箱の中身は盗品────夜中にケルディックの大市から盗んできたものである。

 

「盗んだものを好きにして良い上に報酬上乗せだろ?」

「あぁ。しかも陳情が取り消されねぇうちはおんなじことを繰り返せるっつー話だ」

「……ちょっと出来すぎな気もするし、今回限りにしねぇ?」

「何弱気になってんだよ。たんまり稼げるんだ、まだまだやってやるさ」

 

弱気な男をよそに、残りの3人はゲラゲラと笑う。

しかし、そんな彼らの足元に忍び寄る闇がひとつ。

木陰に紛れ進むソレは真っ直ぐに盗品の足元へと伸びる。

そして、幼い少女の声で、一言。

 

「ヘルターオニキス」

 

その声を皮切りに、盗品は一気に闇に包まれる。

 

「なっ!?」

「ひぃっ!! な、なんだぁ!?」

「くそ……このっ、返せ!!」

 

男のうちの一人が持っていた導力銃で闇を思い切り殴りつける。

しかし闇は剥がれることなく成立し、盗品はただそこに浮かぶ暗闇と成り果てた。

 

「ダンスと行こうぜっ!」

「燃え尽きなさい!」

「アクアブリード!」

 

しかし、途方に暮れる男たちに休憩は許されなかった。

追い打ちをかけるように、軌道がコロコロ変わる銃弾と一本の導力魔法が付与された矢、そして水属性の導力魔法が導力銃を森の中へと弾き飛ばす。

 

「わわっ!? 何アレ、黒い球体!?」

「ほんとは敵を閉じ込める技なんだけど……まぁいっか」

「ナイスよ、イクスくん!まさか2本も落としちゃうなんて」

「くんはキモいからつけんなって言ったろ!……まぁ、おねーさんもやる方なんじゃねーの?」

 

「き、昨日の学生!?」

「おい!レント、しっかりしろ!おい!」

 

突如として入口方面から現れた赤服の学生と子供達に窃盗犯はぽっかりと大口を開ける。

ただでさえ弱気だった男は目の前をよりによって軌道の変わる銃弾を目の前で目撃したせいか気を失い、白目を剥いて倒れていた。

窃盗犯たちに近づくラウラとリィンと共にゆっくり歩むラフィは、背から腰に移動させた鞘から長剣を引き抜き、いつも通り肩に担いだ。

 

「さァて……動機に実行計画、キリキリ吐けよ?」

「大市の人たちへの謝罪もきっちりやってもらうからな」

「盗難品も全て回収する。諦めて大人しくするがよい」

 

そう告げた三人に向かって、窃盗犯の一人が「なんでこんな学生なんかに」と悪態をつく。

しかし場慣れしたラフィが股間のすぐ隣に思い切り金属でできたブーツのヒールを振り下ろし、にっこりと悪い笑顔を浮かべる。窃盗犯はヒィと悲鳴をあげ、ビクビク怯え出した。

 

「なんていうか……ゾッとするな……」

「うむ。少々真似るには抵抗がある」

「覚えといて損はないけど、まぁ使わんに越したことはねェよ」

 

そんな彼らを苦笑いで見つめていたエリオットと無表情だったヨルダが、突如はっと顔を上げる。

 

「……笛の音」

「あ、ヨルダちゃんも聞こえたんだ」

「鍛えてるから。あと、おっきい足音も」

 

しゅる、と足元から影の手を出すヨルダに合わせ、エリオットもなんとなしに魔導杖を構える。

数秒後、確かに地鳴りのような一定テンポの打撃音と、木を薙ぎ倒すような音がエリオットの耳へ飛び込んできた。

その足音は気づいた時にはすぐそこまでやってきており、既にその特徴的な角が視認できるまでに迫っている。咄嗟にエリオットはリィンへと叫んだ。

 

「り、リィンッ!!右ッ!!」

「なっ……!?」

 

リィンたちから見て右手の森。そこから飛び出してきた獣は、勢いを利用してぐるりと広場を一周し、唯一の出入り口を塞ぐように収まる。

そうして獣はその巨体に見合った咆哮を上げ、周囲に止まっていたらしき小鳥たちがザワザワと飛び立つ。

 

「うお……でっけー」

「きょ、巨大なヒヒ……!?」

「この自然公園のヌシと言ったところか!」

 

見たところ、ヌシはどうやら道中にも徘徊していたゴーディオッサーが極端に成長した姿らしい。若干面影を残している上に、その背後では道中で突っかかってきたゴーディオッサーが大人しく巨獣に付き従っている。

 

さて、正面────逃げ道は塞がれている。背後には疲弊し腰を抜かした窃盗犯たち。

Ⅶ組とラフィたちだけならばきっと突破できるだろうが、さて。

 

「わかってンな? シュバルツァー」

「あぁ、ここで彼らを放り出すわけにはいかない」

「ハッ、上等! 獣如きにやられてちゃ雲行き最悪だからな!」

 

「よし────みんな、行くぞ!」

「「「「「「応!!」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エリオット、回復を頼む! アリサは後方から援護、ラウラは俺が隙を作るからその間に技を叩き込んでくれ!」

 

Ⅶ組の面々にリィンが指示を出す。

それぞれが了承の返事を返す中、窃盗犯達の服から剣を引き抜いたラフィは双子に一つ問いかけた。

 

「1対多。行けるか?」

「余裕」「まかせて」

 

大きな長銃を召喚したイクスと、影の手を自在に操るヨルダが両脇で獰猛に笑う。

そんな双子の様子にニタリと笑った事件屋はリィンへと声を張り上げた。

 

「後ろの雑魚どもは任せろ!!」

「わかった!」

 

それだけ告げて開戦だとばかりにヒヒへと刀を構えて走り出したリィンを横目に、事件屋達は前方のゴーディオッサーの群れへと突っ込んでいった。

 

(一体一体の毛皮は結構分厚い。それでも全力でやれば獲れる……!!)

 

まずは一匹。大きく振りかぶって、脳天を叩き割る。刺さりきらなかったものの、戦闘不能にはできた。

続いて背後から迫ってきた一匹。振りかぶってきた拳を軽く避け、逆に踏み台にして踵落としを決め、気絶させる。

そのまま流れで気絶した個体を再び踏み台にして、次のゴーディオッサーに向けて剣を真っ直ぐ構える。

 

「食らえッ!」

 

真っ直ぐ巨猿の左胸を貫いた蒼の剣をすぐさま引き抜き、背後に迫っていた三体を一気に切り払う。

そうしてよろけた三体の脳天を、横から一筋の光筋が貫く────イクスの銃弾だ。

どうやら流れ弾を操作したらしい。ラフィの視線に気づいた少年は軽くウィンクを決め、次の獲物へと向き合った。

どうやらちょくちょく同じようなことをあのボスヒヒに対して繰り返しているらしい。ゴーディオッサーを薙ぎ倒しながら観察したところ、いくつかの流れ弾が急に曲がり、巨大ヒヒの足やら脳天やらに飛んでいっていた。

 

(余裕ぶっこいてんな)

 

戦闘中にポーズを取ったりする余裕がある“弟”に少々イラつき、ラフィはゴーディオッサーを一体イクスの方へと剣圧でぶっ飛ばした。

少々驚いたらしいイクスは一度目を丸くした後、落ち着いて巨猿の肉体に大穴を開け対処する。

 

「余分なの飛ばしてくんなよ!」

「そんだけ余裕があるなら大丈夫だろ!!」

「それはそうだけど……さぁっ!!」

 

まぁ、お遊びはこれくらいにしておこう。

そう言えばヨルダは大丈夫だろうか、と一匹敵を薙ぎ倒しちらりと様子を伺う。

少女の周囲にはゴロゴロと黒い球体が転がっており、それをつまらなさそうに一つずつ影の手で割っていっていた。どうやらアレが“ヘルターオニキス”の本来の使い方のようだ。

 

「ヨルダ暇してる!?じゃあ一匹あげるよ!」

「暇してない。仕事増やさないでよ、イクス」

 

双子による巨猿の投げ合いが始まったあたりで気を取り直して、自分に担当の群れに向き直る。数十匹はどうやら逃げ帰っていったようで、数はずいぶんと減っていた。

 

「……ん?」

 

また一匹一匹蹴散らし始めたラフィの足元に、ヴンと音を立てて一つの光る陣が現れる。

 

『─────背中』

 

その声が聞こえた瞬間、ラフィは即座に長剣を投げ放った。行き先は声のとおり、巨大ヒヒの背。そしてそれを隙と見たらしいゴーディオッサーを一匹蹴り飛ばし、剣の行方を見届ける。

ぼんやりと青白く光った長剣は見事に左肩甲骨の辺りに突き刺さり、巨獣が痛みの雄叫びをあげ、大地へと突っ伏した。その様をしっかりと確認して 、ラフィはにぃと口角を上げ、視線を青髪の少女へと向け、陣を通じて呼びかける。

 

『行け!』

『感謝する!!』

 

そのままラウラは勢いをつけて、大剣を思い切り振り下ろした。ころん、とヒヒの首が胴体の影から転がり落ち────光となって消えた。

 

(さて、あとはコイツを片付ければ終いか)

 

左手をポケットに突っ込んだラフィは右手で棒付き飴を持ち上げ、咥える。

大半が逃げ出し始めたゴーディオッサーの中でも勇敢に女へと襲いかかってくる一体の左胸を、主人の首筋を掠めて飛んできた長剣が突き刺した。

存外あっけないものだとため息をつく。これならば帝都地下のあの鰐型魔獣の方がよっぽど強かった。

光となって消えゆく巨猿の左胸から剣を抜き取る。刃こぼれがないかだけ確認して、腰の鞘へと静かに収めた。

 

(やたら心臓ばっか狙いやがって……そういう気分だったのか? 手入れ面倒だからやめろっつの)

 

じと、と腰を見下ろしたラフィは一発咎めるように長剣を叩き、飴をがりっと噛み砕いた。

疲弊したのか膝をついて肩で息をするⅦ組へと近づき、しゃがんで目線を合わせる。

 

「大丈夫か? デケェやつ任せちまって悪かったな」

「本当よ……死ぬかと、思ったわ……」

 

一際疲弊しているらしいアリサに手を貸し、引き上げる。

残りの面子……特に剣術コンビは息を切らしてこそいるものの存外サッと立ち上がっていた。

 

「最後の連携、助かった」

「……なんだアレ。心の声みたいなン聞こえたけど」

「ふむ。サラ教官から聞いていないのか?」

「なんも聞いてねェよ」

 

ラフィはガシガシと後頭部を掻き、そう告げる。そこに横から「説明書すら読んで無かったものね」とニヤついたアリサが茶々を入れた。

むすっとした事件屋に苦笑いしたラウラが、生徒手帳を開き先ほどの現象について解説する。

 

「アレはARCUSの主機能、戦術リンクだ」

 

曰く、思考を共有することによって言葉を交わさず、タイムロスもなく連携できるという機能だそうだ。

無言で視線も交わさず、一切動きの読めないコンビネーション最高のバディを組める……といった思想の元作られたという。

彼ら────Ⅶ組はそのテスターために“身分関係なく”適合者が集められたクラスである。

 

(まぁそこだけサラキョーカンから聞いてるけどな。ホントにそこだけ)

 

ARCUSのリンクとやらも先程のが初見、初体験だ。まさかあそこまで直接的に作戦やら感情やらが流れ込んでくるとは。懐から赤いカバーのついたそれを取り出し、じっと眺める。

 

自分の思考が漏れるのは、少し怖い。

秘密が全てばれてしまいそうだから。

 

「────というわけだ。少し長くなってしまった、すまぬ」

「や、別に大丈夫。とんでもないもんに巻き込まれたなァって思ってただけ」

 

「そうか」とラウラが納得し、にこりと笑う。

とっくに飴など消え失せた只の白い棒を咥え、事件屋は苦笑いを浮かべる。

 

(……いやホント、面倒くさいことに巻き込まれたな……覚えてろよクソ親父)

 

ラフィが怒りと共にARCUSを懐にしまったところで、入り口付近にいたイクスとヨルダが声を上げる。

 

「ラフィ!誰か来た!」

「多分兵隊さん」

「え、えぇっ!?」

「ほんっとに最悪なタイミングね!」

 

双子が此方に駆けてきてぎゅうとラフィの腰にしがみつくと同時に、甲高いホイッスルが森中に響き渡る。

そしてやってきたのは、白と青の隊服を纏った兵士たち────領邦軍。

彼らは広場に乗り込んでくるなり、Ⅶ組の面々を円状に取り囲む。

 

「手を上げろ!」

「抵抗は無駄だ」

 

(……あぁ、本当に面倒だ)

 

それもこれも、こんなことに巻き込まれたのも全部あのチョビ髭ダンディ気取りクソ親父のせいである。

責任を全部父親になすりつけ、双子を庇うように立つラフィは遠い目で空を見上げたのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。