急いで帰って、汗を拭って少し考えていた。
時計を見れば時間は七時過ぎ。
考えていたと言うよりかは、受け止めていたと言うのが正しい。
幻覚と彼の奇行との関係性…
怖いんじゃなくて、気味が悪かった。
あれは人としてと言うより、人形やおもちゃの様な挙動であって、良く人に似たマネキンとかを怖がる気持ちを引き出すのであった。
彼の纏った幻覚は他の人達と決定的に違う。
動きの不安定な幻覚なんてそう珍しくもないが、見ていて消えやしないかと不安になる様なのは見た事がない。思うに、彼には人で言う肌や膜がないんじゃないだろうか。だから今にも霧散してしまいそうに感じるのだ。
境界線がハッキリとしていない。
いや、それも重要だが、最優先に考える事じゃない。
問題は、幻覚が直接的に自分達人間に影響を及ぼし得るって事だ。視覚だけでは他人事の域を出なくとも、行動に関わってくれば話は変わる。
問題がもっと身近に変わったのだ。
早急に条件を解明しなければならない。彼が膜を持たないのは何故なのか、膜を持たない事で何故行動に影響を及ぼすのか…
そういえばだ、何となく今まで、幻覚を纏った人と纏われている幻覚との関係をちゃんと考えた事が無かった。幻覚がただ付き纏っているのか、幻覚側の選択無しに引っ付いているのか、はたまた別か…
今回の件を考慮するに、あの幻覚達は生み出されているんじゃないだろうか。しかも、人と強い繋がりを持って。
人は幻覚を作り出し、何らかの影響を与えて、幻覚もまた人に影響を与える事もある…いや、今までもそうで、あくまでも妄想とかの域を出ないのだけれども。
結局、これも観察を続けるしかないだろう。あの不安定な状態が続くのか、安定するのか、はたまた火が消えるのか…消えた場合はどうなるのか。揺れただけであの変わり様だから、消えた時に無事であるとは思えない。
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夕飯を食べていた時も、お風呂に入っていた時も、布団に入ってアラームをセットしている今もずっと頭の片隅で考えていた。
何か見逃しはないか…
一際大きい幻覚が勉強机を飲み込む様子をじーっと見ていたら、思い出した。
彼、カレー食べてたな。
食器の汚れを見るに半分は食べられていたし、スプーンも彼の方に持ち手があった。もしや、俺が来る少し前には安定していた時間があったんじゃないか?
介護する人がいるにしてはあんな中途半端な状態で放っておくとは思えないし、もしいるにしても貴重な話が聞けるかもしれない。
できる限り毎日行くことにしようか。
新しい発見があると次々と見つかるもので、さっきとは違うがある事にも気がついた。それもかなり大きなものだ。
かなり前に自分は瞼は幻覚情報を遮断するとか、サングラスがどうだとかと考えたしメモにも書いておいたのだが、そもそも壁越しに幻覚は見えないのだ。自分の腕とか綿とかは貫通したのに。
どうして気が付かなかったのかと驚くばかりだ。もし全ての幻覚が見えるんだったら、カーテンなんか開けなくても幻覚だけ浮かんで見えるし、横断歩道の奴等だってここから見える。
「ほんとにどういう事だ…?」
ますます分からない、条件が複雑すぎる。
気になる事ばかり増えて処理が全く追いついていないし、やっぱり独力じゃ厳しい所がある。
でも、たとえ似た様な人を見つけたとしても、主観的な事しか言えないんじゃないか? 本当かどうかなんて互いに証明ができない。
するならせめて、複数人が必要だ。