ある日幻覚が見えるようになった   作:アカシヤ

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まだ一つ渡っただけなんですがね

 発光モジャ男に午後の眠気を覚まされながらも放課後、ホームルームが終わるとすぐに卯月の元へいく。

 

「卯月ー、一緒に帰らない?」

「あーごめん、俺この後部活があるんだわ」

 

 言われてみれば確かにそうだ、卯月の入っているサッカー部は週に5日あるから下校時はあてにできない。つまり、俺はあの通学路を独力で通らなければならない訳だ。

 

「卯月の代わり・・・なんて居てほしくないし、本当に一人・・・?」

 

 卯月の部活が終わるのを待とうかとも考えたが、流石にそれは気持ち悪い。今度卯月の髪の毛でも効果があるのか確かめてみた方がいいか?いや、それならとっくのとうにこの町から幻覚なんていなくなっているよな。

 

 ふと自分の状況を確認してみると、本人からしてみたら一大事だが他人からしたらただ一人で下校するだけである。大の高校生が情け無い限りだ。

 

「そう考えるとヤバい奴だな俺・・・それに登下校以外の外出はどうするんだって話だ」

 

 よし、諦めて一人で帰ろう。「はじめてのおつかい」ならぬ「はじめてのげこう」だ。そもそも今日の朝もそうするはずだったのだから。

 

ーーー

 

「またやってるよ・・・」

 

 俺は再び横断歩道に犇く幻覚達を前に立ち止まっていた。結局克服しないまま卯月というチートに頼ったのだから当たり前だ。

 

「大丈夫だ、他の人はなんともなかったじゃないか。無害で、精神的に悪いだけだ」

 

 自信を鼓舞し、幻覚内を通る心の準備をする。はたして中は内臓が有るのか、はたまた真っ暗闇なのか・・・俺の視界を遮っている以上暗闇なのが妥当か。

 

「よしっ、覚悟を決めろ高橋大志!男は度胸!女も度胸!」

 

 ちゃんとLGBTにも配慮した後、幻覚達と一緒に歩きだす。最初に俺がすり抜けるのは二足歩行のウサギ擬きだった。

 

「っ・・はぁ!?」

 

 予想していた暗闇では無く、中は鼠色と桃色が混ざり合った色彩をしていた。水と油の様に弾きあう混ざり方だ。

 言いたい事は色々あったが、揉みくちゃになった幻覚達は次々と俺をすり抜けていく。   

 それは白一色や黒一色、はたまた虹色なんて個体も居て正に多種多様。特に大きい幻覚内で10歩程歩いた時はまるで夢の中にいる様な心地がした。もちろん悪夢の方だ。

 

 信号を一つ渡り終えた後目の前にあった塀によりかかり、取り出したメモ帳へ個体と色の組み合わせを出来る限り書き出す。これで何か導き出せるかなんて分からなかったが、あの体験に何かしらの意味を見出さないとこの先どころか今日渡る横断歩道の数個ですら心が折れてしまう気がした。

 

「何で中は暗闇じゃないんだ!全くもって訳がわからない・・・」

 

 まず、光が有るという事は、幻覚の表面が光を通しているという事だ。それなら仮病をした日に見た芋虫モドキに薄い影があったのも頷ける。

 しかし、幻影は表面の色に使われていない、つまりは吸収されていない色だけが内部の色を構成しているわけではない。例えば光の三原色である赤の色をハッキリと表面に出している幻覚も、内部の色がそのまま濃い赤だったりした。

 もしあの時芋虫モドキの中を見てみても、有るのは薄暗い光景ではなく青や茶色だったりしたのではないだろうか?

 

「んん?いや待て、幻覚は他の人には見えない。つまり光は吸収していない事になるのだからこれで良いのか?そもそも俺の幻覚の色は太陽の光に依存しているという考えの方がおかしいのか」

 

 芋虫モドキの薄い影も、芋虫モドキの一部だったと考えれば納得出来る。いや、空を飛んでいる幻覚の影全てが同一の幻覚とは考えにくい。もしかしたらモジャ男の様に影型の幻覚と一緒に行動しているのかも知れないが。

 

 そうして結局は良くわからないという結果にまた落ち着いてしまった。科学や数学もそうだが、逆に哲学の様な物理現象に依存しない考え方を知れる本も読む様にすれば何か見えるかも知れない。

 

 なんだか幻覚が見える様になってからは「知れない」とか「気がする」なんていう断言しない言葉を良く使っている気がする。

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