【因果一角】 ユニコーン   作:可能性の獣

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続いた。



第三話 追跡・蒼い遊星

□ドライフ皇国 某日某所

 

一機の【マーシャル】の前で火花が散った。

【整備士】の手にした溶接機が機体の溝をゆっくりとなぞり、噛み合わせだけでは埋められないパーツの隙間を溶かしていく。

 

実のところ〈マジンギア〉の組み立てにこの工程は必要ない。多少隙間が空いたとて、機体の耐久値にはそれほど影響がないからだ。

それでも黙々と隙間を潰していくのは完璧に仕上げたい【整備士】としての矜恃か、はたまた彼の単なる手癖なのか。

 

そうして無心に続けていた作業は工房の扉を叩く音で中断される。

職人は溶接マスクを外し、壁掛け時計を確認する。薄めた目に映った針は約束の時間から既に20度ほど回転していた。

 

「少し遅いんじゃないか?」

 

請負人は形こそ詫びるような言葉を並べたが、さほど反省の様子はない。

上気している顔から察するに、何か運動でもしてきたのだろうか。

 

「まあいい、契約書さえ違えなければ俺から言う文句はねぇ」

 

彼は隅にある棚からアイテムボックスを取り出した。

依頼はこれをアルター王国の────まで配送することだ。

 

職人からの最終確認に請負人はモチのロン!と元気いっぱいに返答した。

彼女は試作装備の一つをレンタルし、一目散に外へ駆け出そうとして、止められた。

 

「待て。ついでにもう一つ頼まれちゃくれねぇか」

 

配送のついでで構わないし、無理にやる必要もない。

だが、達成できれば報酬に色を付けよう。

 

最後の言葉にもう八割身体が外に出ていた彼女の足は行儀よくUターン。

それ、詳しく!と言わんばかりに中へ戻ってきた。

 

「恐らくお前も平原ルートで王国に向かうはずだ。そこでもし、もしだ。角持ちの〈マジンギア〉を見かけた時は、そいつの力になってくれ」

 

配送者は一も二もなく承諾した。

運送ついでの手助けだけでお賃金アップだ。彼女がやらぬ手はなかった。

 

「頼んだぞ」

 

職人(フィック)()()()()()()()()()──一刻も早く装備してみたかったのだろう──の旅立ちを見届けた。

 

彼女が地平線の彼方へ消えていくまで、その背をずっと見続けていた。

 

 

 

 

 

 

□■国境 カルチェラタン付近

 

RX-0(ユニコーン)を象った装甲──UCアーマーのバイザー、その内にある【マーシャル】のヘルム越しから観測できる視界は悪い。

 

『第六感』は対象の五感を鋭敏にさせ、そこから獲得、集積したデータから限定的な直感を誘発させるスキルである。

そのためバナージの視覚は相応に強化されているものの、今外部を認識しているのは瞬くデュアルアイ・センサーではなく彼自身の肉眼である。

 

対して、〈ゴブリン・ストリート〉は夜闇や影、視界の悪い状況で十全に活動することが彼らが身を置く状況の前提だ。

少なくとも頭数とこの点において、彼らはバナージを上回っていた。

 

加えて言えば、この地帯は背丈のある草が生い茂り、射線と視線が切れる大木や岩石が点在している。

オブジェクトに隠れ潜み、不意を打つにはこれ以上なく適した自然環境だった。

 

天と地が味方したはずの奇襲。

〈ゴブリン・ストリート〉がここを狩場と定めてからの必勝パターン。

 

しかし、相手はそれを見事打ち破ってみせた。

 

 

リアルの自動車は多くの場合資産価値がついてまわる。銀行の頭取の御曹司であるエルドリッジはそれをよくよく理解していた。

 

車を担保にローンを組む融資の類では外車などに代表される価値が高い固定資産であれば、貸し出せる金額の上限も相応の額になるのは当然だ。

 

外車の市場価値はあちら(リアル)こちら(ゲーム)も変わらない。エルドリッジの感性はそう睨んでいた。

竜車が幅を利かせる王国であればこそ、機械式の車は高額になる可能性がある。

 

もちろん修理や整備は難しいかもしれないが、それを加味しても外車に心惹かれる人種の存在を彼は承知していた。

実際それに関連する融資を申し入れる顧客も少なくないため、尚更だ。

 

傷物の価値は往々にして下がるものだ。クランメンバーにはある程度は仕方ないにしろ、なるべくかすり傷程度で行動を制限するように牽制を行うことを指示していた。

 

(中々どうして、テクがいい)

 

相手は素人の自分でさえ舌を巻くようなドライビングテクニック──往年の映画に登場したタイムマシーンのような、思わず視線が引き寄せられるドリフト走行で巧みに奇襲を回避してみせた。

 

エルドリッジは心中拍手を送った。

おかげで車体には傷一つない。競売にかければかなりの額が見込めるだろう。

 

そうして泥を弾きながら停車した魔動モービルから出てきたのは一人の青年だった。

手の甲にある紋章はマスターの印である。ならば遠慮する理由もない。

 

わざわざ矢面に立ったのは攻撃に対する防衛手段があるためか。

エルドリッジは後方で待機していた【弓手】にハンドサインで威力偵察を指示する。

あわよくばそれでくたばってくれ、そんな願望はターゲットが傍らに抱えていた半球によって打ち砕かれた。

 

(【星喰機心】……?)

 

彼の『看破』は触手から鉄のカーテンを装ったそれが特典武具であることを示していた。

しかし現在はサービス開始からまだ日が浅い。マスターの多くにその情報が広まるまではもうしばらく時間が必要だった。

 

数秒で幕を降ろしたカーテンは装甲へと変わり、風変わりな【マーシャル】がその姿を晒す。

白い装甲に一本角、人型のシルエットながらその風貌にエルドリッジは御伽噺に語られる一角獣(ユニコーン)を思い出す。

 

「──バナージ・リンクス、ユニコーンガンダム」

 

そうして、彼らの前に現れた機甲を纏う『バナージ・リンクス』は彼が想像した通りの幻獣を冠した機体名を口にする。

ガンダム、それがこの甲冑が戴いたネームらしい。

 

(名乗りは確か、日本の武士道(ブシドー)だったか)

 

……彼は間違っても乙女座の旗乗り(フラッグファイター)ではなく、心の管制室に出撃の旨を伝えただけである。

 

「──〈ゴブリン・ストリート〉オーナー、エルドリッジ」

 

ターゲットの口上に、狩人たる彼も自然と応えた。

降りしきる雨の中、一方はゆるりと腕を掲げ、もう一方は鎧のバーニアに魔力を焚べた。

 

「──行きます!」

「仕事の時間だ。総員、かかれ」

 

振り下ろされた手が簒奪を命じる。

吹き上がる焔が推力となる。

 

一角獣と簒奪者、両者の戦いの火蓋は切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

□国境 カルチェラタン付近 【操縦士】 バナージ・リンクス

 

雨中を駆けるは白き星。

背部推進器によって実現された爆発的な加速力は獲物を縫いとめるはずだった前衛を置き去りにした。

 

自らを囲む数多の円、その最も後方に配置された魔法職に向かい機体は一直線に疾駆する。

 

グゥによるUCアーマーは物理攻撃に対しては滅法強いものの、魔法に対してはその真逆だ。

常ならば周囲の環境を捕食することで数を増やせるが、今は装甲としての役割に徹しているため、少しの魔法被弾が命取りとなってしまう。

 

ぬかるみで踏み込みが浅ければ過剰に吹かした推進機構で補い、瞬きの間に対象の目前に到達する。

これから敵とはいえマスター(人間)の殺害に一瞬躊躇うものの、野放しにすればノヴァが危険だと気を持ち直し、脚部の噴射装置の補助を受けた鋭い回し蹴りをお見舞いした。

 

「──やらせねぇ」

 

全体に指示をするため支援職と共に後方で待機していたエルドリッジが横合いから味方を庇い、スキルが発動した。

 

「《スティール》!」

「──《スティール》っす!」

『──《Stehlen》』

 

オーナーによって動きに空白が生まれたターゲット。

その足元から現れた半透明の四本腕、そして軽装備にしては耐久のあるオーナーの手により数えて五度の《スティール》が行われた。

 

奇しくもそれはマスターよりもティアンに適性があるとされる『累ね』と呼ばれる技術(テクニック)だった。

エルドリッジとフェイ、その他《スティール》持ちのクランメンバーが行う常套戦術であり、〈ゴブリン・ストリート〉の強みの一つである。

 

機体の上から装甲を纏おうが、元の機体を取り払ってしまえば外も瓦解するだろう。

そのような目論見から《スティール》は放たれた。

 

しかし、思い出して欲しい。

バナージが【星蝕機蝗⠀ドゥームズグレイ】を打倒した時、UBMの頭上に表示された名称が何を示していたのかを。

 

(盗難対策か……?いや、違う!)

 

開幕から妙だとは思っていた。

『看破』が主に提出したデータは『バナージ・リンクス』という表記だ。

まず『看破』持ちの目に飛び込むのは装備品情報のはずなのに、目の前の機体は『バナージ・リンクス』としか表示されていない。

 

「まさか、一体化か!?」

 

マスターは機体で、機体はマスター。

『人機一体』は接続した機体とマスターを同一データとして扱うため、()()()()()()()()()()()()()()

 

〈ゴブリン・ストリート〉の行為はシステム上、“身体全ての強奪”として処理された。

強盗系統超級職の【強奪王】のスキル《グレーターテイクオーバー》でさえその手に収まる部位が奪取できる限界だ。

 

生きた人間の全てをアイテムボックスに収める芸当は、今のところ彼らには不可能である。

 

「そんな攻撃で!」

 

ウィンドウで戦闘続行に支障がないことを確認したバナージは地を蹴って距離を取る。

 

両腕にマウントされたジェムから放つ《ヒート・ジャベリン》──雨天なので以前より効果は薄い──で牽制。

加速と静止を繰り返して〈ゴブリン・ストリート〉の円陣をかき乱し、速さに対応しきれなかった者から蹴打が撃ち込まれる。

 

下級職の域を超えたスピードで繰り出される蹴撃に耐えうるENDのあるプレイヤーはオーナーを含めて一人握り。

一人、また一人とカバーし切れなかった〈ゴブリン・ストリート〉のメンバーが沈んでいくが、余裕がないのはバナージも同様だった。

 

(ユニコーン、連絡は?)

『まだ入ってない。というか、ボクらが分かるタイミングって同時じゃないか?』

(それは、そうなんだが)

 

バナージが待っていたのはグゥからの連絡だ。

装甲にしている方ではなく、ノヴァに託したグゥである。

 

彼女が安全地帯まで無事に撤退するか、襲われるか、その他必要と判断した時に連絡を入れるよう頼んでいたのだ。

 

その彼らからの連絡がない。

つまり、ノヴァが危険地帯から脱出できずにいる。

傍受の危険もあるためバナージはあえて自分からは連絡をせずにいた。

 

『この通信を探知できるジョブはいなさそうだけど、〈エンブリオ〉は分からないよ。これだけ人数がいれば一人くらい持ってたって不自然じゃない』

(盗賊ギルドだしな。そういうタイプは目ざとく集めてる気はする。けど、おちおち待ってもいられない……)

 

彼の視界に展開されたウィンドウ、HPバーは少なからず削られている。

攻撃はなるべく躱し、防いでいるにも関わらずだ。

 

バナージの【マーシャル】は戦場での速度に重きを置いたタイプであり、背部や脚部にブースターが取り付けられている。

しかし、それを扱う身体はあまりに脆弱だった。

 

【操縦士】や生産職系統のジョブはENDやSTRがほとんど伸びないことはご承知の通り。

《操縦》によって強化された【マーシャル】のAGIを頼りに、それも物理で高速戦闘を仕掛ければ、肉体が耐えきれずダメージを受けてしまうのだ。

つまるところ、未来で機竜を駆るであろう【器神】と同様の状態である。

 

(ユニコーン、制限時間は?)

『今の状況なら五分が限界だね』

 

現状敵の数は半分も削れていない上、人数が減れば減るほどエルドリッジをはじめとした高END持ちがダメージソースの魔法職をカバーしやすくなってしまう。

 

彼らを全員倒して完勝することは不可能。

バナージの〈エンブリオ〉は言外に告げた。

 

せめて残りのジェム全部をつぎ込んでエルドリッジを焼き切れば指揮系統は崩せるか、などと考えていたバナージの感覚は頭上を過ぎる気配をキャッチした。

頭上を取られたか!とMPをブースターに回そうとして、止まった。

 

「──」

 

グゥは危険が迫っていたから連絡しなかったのではかった。

連絡できるほどの余裕がなかったからだ。

 

跳んでいた。

人によく似たシルエットをした灰色の物体を抱えた蒼い〈マジンギア〉が、この雨の中でも目立つように空を跳んでいた。

 

バナージの目はそれがノヴァを保護するために防護膜となった【ドゥームズグレイ】であることを正しく理解し、そして──

 

「っ待てぇ!」

 

バナージは不埒な〈マジンギア〉へと加速を開始した。

彼がここに留まる意味を、たった今失ったからである。




ゴブストの最初期はどんな戦法が十八番だったのかな〜と考えて、「累ね使ってたんじゃね?」というところから思いついた今回。

①スケルトンの高耐久を活かして敵の隙を作る。
②オーナー、クランメンバーの同時〈スティール〉で身ぐるみを剥がす。
③無防備になった相手に総攻撃。

みたいな。

まあバナージ君の〈マジンギア〉は肉体扱いになってたので不発に終わってしまったんですが。
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