【因果一角】 ユニコーン   作:可能性の獣

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続いた()



第四話 ドゥームズ・グレイ侵撃

□■〈フィックの整備店〉【高位操縦士】フィック・シュミット

 

「分が悪ぃな、オイ!」

 

鋼鉄の車輪が悲鳴を上げて走り抜ける。ドゥームズグレイは蛇行する轍ごと地面を喰らい、機械甲冑(マシンアーマー)の背を追いかけた。

脚部に搭載された一足二輪、合計四輪のローラー。高速戦闘や連続カーブに耐えうる装備だったはずが、ドゥームズグレイの【星喰】による損壊でその性能はじわじわと削られつつある。

 

「何だったら効くんだよグゥテメェ!」

 

投擲、着弾、発光。

振り向きざまにお手本のようなフォームで放物線を描いたグレネードが夜闇に映える火花を咲かせる。

両腕部にマウントされていた魔力(MP)式グレネードはこれが最後の弾だった。

安全弁もなく、ただ注ぎ込まれた魔力に反応して炸裂する欠陥品。流入させる量で起爆時間が前後するように作られているが、フィックの知る限り誤爆自爆の危険性が高いこれを常用する馬鹿は今の【マーシャル】の持ち主しか知らなかった。

 

が、今回ばかりはその馬鹿の装備に助けられたと言えよう。

 

『・・・- -・--- ・-・ ・- ・-・-・- ・・・- -・--- ・-・ ・- 』

 

しかしドゥームズグレイに対してグレネードは有効打になり得ない。

ダメージこそ与えているものの、すぐに周囲を平らげることで減った分を補われてしまうのだ。

皇国に存在するナノマシンは本来土壌を再生するために最低限必要な機能しかなく、周囲一帯を喰い散らかす悪食を発揮するほどの余分なリソースは存在しない。

 

が、シュミット家で半ば飼育されていたドゥームズグレイは多くの最終処理を強要されたことで無駄な──〈UBM〉となりフィックの猛攻を受ける今では格別に有用な──分解吸収機能を兼ね備えてしまったのだ。

 

「手持ちは……これだけか」

 

最後にフィックの手元に残ったのは腰部装甲に帯剣された重厚な両刃の実体剣だった。

眼前で蠢く〈UBM〉がモノを喰らう特性を持っていることは明白で、最初から使う意味はないと捨て置いていたものだ。

 

「姫さんとバナージは、多分逃げられただろうな。よし」

 

もとより勝つ腹積もりはない。そもそも単なる技術屋の自分が最盛期で万全だとしても、このドゥームズグレイに勝利できるビジョンは見えないだろう。

フィックはこの降って湧いた厄災から二人を逃がすことが、遠ざけることができれば十分御の字だった。

 

既に甲冑は草が虫に食われるように蝕まれ、中身が露出している箇所もある。

自動補修なんて特典武具のような機能があるはずもなく、彼は自己再生を繰り返す相手に限られた耐久とHPで挑まなければならなかった。

 

「──ハ、だったらどうしたよ。どうせ老い先短い身の上だ。将来有望な若人の礎になれんなら、そりゃ本望ってもんだ!」

 

呵々と笑ってガタのきている肉体と機体にムチを入れた。

もうちょっとだけ付き合ってくれ、どうせこれで最後なんだからよと。

 

「行くぞグゥ!まだまだお前も喰い足りねぇんだろぉ!!」

 

空を裂かんばかりの気合いと共にフィックの〈マジンギア〉が疾駆する。

両手に携えしは無骨な実体剣。背部の推進装置を吹かし、愚直なまでに真っ直ぐドゥームズグレイへの突撃を敢行した。

 

彼らは自らに迫る餌を前にぶわ、と自身を拡散させた。

虫を捕らえる網のように、獣を閉ざす檻のように、鉄のカーテンがその顎をキチキチと震わせる。

 

それでもフィックは止まらない、止めるつもりがない。

もうMPも底が見え始め、機体の損傷も限界だ。満足な継戦能力のない自分ができる最後の時間稼ぎで、少々の間ドゥームズグレイを押し留めることができる──はずだった。

 

「──!!?」

 

瞬間、世界が回転する。

独楽のように暴れ回る視界の端がつい少し前に手を尽くしていた【マーシャル】を捉えた。どうやら横合いから自分の機体を勢いよく突き飛ばしてきたらしい。何やら淡い光を帯びているようだが。

 

そのまま地面を二転三転、そうしてようやく停止した身体を持ち上げると聞き覚えのある声が耳朶を打つ。

こんな状況で聞きたくはなかった若人の音だった。

 

「なにをやってるんです!フィックさん!」

 

純白の〈マジンギア〉の頭上には【バナージ・リンクス】と表示されている。

職業柄習得していた〈看破〉は〈マジンギア〉の性能を表示せず、彼が纏う機械甲冑そのものを【バナージ・リンクス】と認識していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

□■〈フィックの整備店〉【操縦士(ドライバー)】バナージ・リンクス

 

『マスター。ボクの詳細ステータス、見れるよね?』

 

介入直前、バナージが言われるままに開いたウィンドウには彼女──〈エンブリオ〉のユニコーンの姿とパラメーターが並んでいた。

 

 

ユニコーン

TYPE:メイデンwithアームズ

到達形態:Ⅰ

 

装備攻撃力:-

装備防御力:-

 

ステータス補正

HP補正:-

MP補正:E

SP補正:-

STR補正:-

END補正:-

DEX補正:E

AGI補正:-

LUC補正:-

 

 

『ボクは自分で戦えるタイプのエンブリオじゃない。マスターもボクも、扱ったものでそれを成す』

「今回の機体じゃあれは倒せない、けど……」

『うん、()()()()には必要だ』

 

保有スキルの欄を確認して二人は頷き合う。

ユニコーンはT字型のペンダントへと形を変えてバナージの首にぶら下がっているため、その身をふよふよと浮かすことでしか動きで肯定を示せなかったが。

 

 

 

 

「なにやってるはこっちの台詞だバナージ!さっさとここから出ていけ!!」

「絶対行きませんよ!死ぬのは俺一人で十分です!」

 

フィックの怒声が返る前にバシュ、とバナージの背部についたバーニアが輝き、〈マジンギア〉が空中へと跳躍する。

新たな獲物へターゲットを移したドゥームズグレイは先ほどと同様に網を張って獲物がかかるのを待った。

 

姿勢制御に難儀しながら何とか着地体勢を整えたバナージは両腕に込められたジェムの中身を解放した。

 

「──っああああああああぁ!!!」

 

腕の装甲に付けられた筒のような部分から圧縮された火炎が放出される。《ヒート・ジャベリン》を収めたジェムの連続使用によって実現した、敵を焼き切る非実体剣だ。

 

交差した両腕に従って炎が奔り、十文字がドゥームズグレイへ刻まれる。

網目状になって脆さが生まれたナノマシンは容易に切り裂かれ、蜘蛛の子を散らすように霧散した。

 

(全然減ってないな)

『正攻法で倒せる相手ではないね。多分この辺り一帯、それも地中ごと焼き払うくらいじゃないと止められないと思うよ』

 

表示されているドゥームズグレイのHPバーは既に再生を始めている。

このまま攻撃しても焼け石に水だ。

 

(──マズい!)

 

声ではない、しかし今の人類には声としか形容できない何かが光のようにバナージの脳裏を掠め、咄嗟に〈マジンギア〉を旋回させた。

 

膝を着いて動きを止めたフィックの【マーシャル】、その後ろの地面が幼年期の樹木が芽吹くように盛り上がり、鋼の蔓を覗かせた。

 

「やめろぉぉおぉ!!!」

 

脚部のバーニアが唸りを上げ、地中から這い出るドゥームズグレイの端末を蹴り飛ばす。

それと同時に喰われた装甲と肉体がバナージの少ないHPを削っていった。

 

繋がりを絶たれて散り散りになったナノマシンはその働きを一時停止するが、“親”と繋がった端末に触れられればまた自らの機能を復帰させる。

厄介なことこの上なく、生き足掻く力としてもこの上ない。

 

(ユニコーン!()()()()()!?)

『……もっと削ってからじゃないと厳しいね。できるだけ近くまで引っ張り出さないと』

「──分かった。やってみせるさ!」

 

バナージの【マーシャル】は再びジェム・ヒート・ジャベリンを狙いを定めずに放ってドゥームズグレイを牽制。こちらの機体にも搭載されていたローラーも使い、派手に地面を抉り返した。

 

熱線と鋼鞭が交錯する。

機甲は焼かれ、機体は喰われ、その度両者の動きは粗雑になっていく。

 

それでも、バナージは叫ぶ。

手を尽くし、弾を撃ち、体力(HP)が燃え尽きるその時まで。

 

 

対して、数奇な運命を辿り〈UBM〉に認定されたドゥームズグレイは困惑していた。

何故当機はこの機体(バナージ・リンクス)を喰らうことができないのかと。

 

フィックはほとんど遠距離非実体兵装での攻撃だったためにかすり傷程度しか負わせることができなかったが、バナージは明らかに近接格闘を叩き込んでくる。

叩き込んだところから食い破ればいいと、何度も試しているが、不自然な不発や致命傷の回避を同じ回数だけ繰り返されている。

 

自我が生まれたばかりのドゥームズグレイは困惑することはあれど、それを解決するために動き出すことはない。

長いか短いかの違いだ。生存力なら確実に勝っていると理解しているからである。

 

それは間違いではない。

事実、ドゥームズグレイは〈UBM〉の中でも自己保存の特性が突出して高い。ナノマシンという出自ゆえ、ある種当然と言ってもいい。

 

だからドゥームズグレイは幾ら末端が消し飛ぼうが焼き切られようが、()()()()()()()()()()()()()気にしない、そんな無駄な機能はない。

足りなくなれば喰らい、また作ればいいのだから。

 

 

両者の動きの粗が殊更顕著になった時、不意にバナージの機体が膝を折って地面に倒れ伏した。

 

達人が見れば露骨すぎる隙──されど、ドゥームズグレイにとっては千載一遇の好機。

地中に潜行させた端末が聳立し、バナージを鳥籠のように取り囲む。

 

そのままバナージは針の(むしろ)になった。

四方八方を鉄鞭が貫通し、四肢の風穴からは止めどなく血潮が流れ、HPを削っていく。

バナージの命はもはや風前の灯火よりも儚き命。吹かずともひとりでにその生を終えてしまうだろう。

 

 

『──マスター!!』

 

 

これがティアンではない生物の成分か。

初めて喰べるタイプの生物の組成を確かめながら、ドゥームズグレイはメインディッシュとばかりに最後に残った急所──心臓へと己を一突きさせた。

 

バナージ・リンクスは【致死ダメージ】を負った。

どのような回復魔法でも彼を癒せず、間に合うこともないだろう。

 

 

()()()()──』

 

 

聞こえるはずのない〈エンブリオ〉の声が響く。

何だこれは、どこから聞こえたのか、疑問を呈する前にそれ以上の異常が〈UBM〉──いや、かつてそうだったものに現れた。

 

マスター、そして彼が纏う〈マジンギア〉、彼の半身たる〈エンブリオ〉、そして()()()()()()()()が光の粒子となって消え始めていたのだ。

 

フィックの眼に【星蝕機蝗 ドゥームズグレイ】という〈UBM〉はもう映っていない。

その代わりにHPが全損した【バナージ・リンクス】の文字が、〈UBM〉の表示に上書きされるようにしてデスペナルティを示していた。

 

かつてドゥームズグレイだったものは理解できず、飲み込めず、最後まで何が起こったのかを解することができないまま、その短い終末機構としての使用期間に幕を下ろしたのだった。

 

 

【致死ダメージ】

【パーティ全滅】

【蘇生可能時間経過】

【デスペナルティ:ログイン制限24h】

 

【<UBM>【星蝕機蝗 ドゥームズグレイ】が消滅しました】

【MVPを選出します】

【【バナージ・リンクス】がMVPに選出されました】

【【バナージ・リンクス】にMVP特典【星骸機心 ドゥームズグレイ】を贈与します】

 




こんなに好評だったの初めてだったので夜なべして続きを書きました。くぅ疲(禁断の二度打ち)。
もう本当にストック切らしたんで今度こそ遅くなります。

頭がぼんやりしてミスを見落としてるかもしれません。
後で直すので大目に見てください。


『保有スキル』
《人機一体》:
エンブリオを中継して接触した機体を思考で操縦する。
スキル使用時、接続機体とマスターを同一個体として扱い、機体全損時はデスペナルティとなる。
機体内部のマスターがデスペナルティとなった場合も同様の処理を行う。
アクティブスキル

《第六感》Lv1:
身に迫る危険、殺気、敵の動きを直感的に感じ取る。
パッシブスキル


余談①:
やってることの半分くらいはサイコミュ・ジャック。
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