【因果一角】 ユニコーン   作:可能性の獣

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(続きを)書いちゃうんだなぁ これが!



エピローグ①

□そして誰でもなくなった

 

 

──貴女は生きなさい。

 

 

そう言って強く抱きしめ、曖昧な笑みを浮かべて、彼等は私の前から消えていった。

 

母が、叔父が、祖母が、父が。

知らぬ間に身内は数を減らし、私と最後まで残った侍従からは都度「遠くへお出かけになりました」と震えた声で伝えられた。

そんなこと、言わなくたって分かっているのに。

 

 

ある姫君の家系はザナファルド・ヴォルフガング・ドライフ──現皇王の政策や方針に異を唱えてきた。

皇国の利となるのであればあらゆる手段を容認するその姿勢、上に立つものとして有るまじきものであると。

 

ザナファルドは一時、彼らの活動を容認していた。

画一的な考えのみが蔓延し、自国の発展を妨げるのであれば、イデオロギーの対立とその趨勢を眺めるのもやぶさかでなかった。

 

新たな観念を民衆は好意を持って受け取り、それは瞬く間に広がった。しかし、それだけだ。

反対を声高に叫ぶだけで彼等は何も行動しない。対立する立場にある自分を打倒するための武力も身に付けず、他の領を出し抜いてやろうという気概もない。

 

二つの思想が互いに互いを高めあう、ザナファルドが期待した役目をそれは果たさなかった。

利になるどころか弱くなるだけの愚民に見出す価値はない。皇王は彼等を切り捨てることにした。

決断と実行は速やかに。プロパガンダを喧伝する者の首は徐々にその数を減らしていった。

 

 

姫君の家族は過ちを受け入れるも、掲げた旗を降ろすことを選ばない。

媚びへつらったところでザナファルドが玉座を退く頃にはとっくに不審死を遂げていることだろう。

 

だが責任能力を育む最中の幼き彼女を巻き込むことは躊躇われた。

彼女は何も知らない。我々の行動の意味を理解していない。

しかし皇王はその若芽さえ価値無しと断じ、諸共に焼き払ってしまうことは容易に想像できた。

 

 

付き合わせてしまってごめんなさい。

だけど、我々はもう止められないところまできてしまった。

だからせめて、貴女だけは──

 

 

姫君の重荷は彼らの命と引き換えに取り払われ、彼女は“なんでもない少女”になることができた。

 

「あは」

 

少女は泣いた。

笑いながら泣いた。

なんでもないなんて要らなかった。みんなと一緒に歳をとりたかった。

 

「あは、あは」

 

故人の願いに引きずられた頬は引きつり、取りこぼした幸せの数だけ涙が滑り落ちる。

消えた意味は分かっていた。どこに行ったかも分かっていた。

ただ、それを受け入れるだけの心の余白が致命的に足りていなかった。

 

「あははははは!!」

 

仮面をつけよう。笑顔の眩しい仮面をつけよう。

暗い自分を、恐れる自分を閉じ込めるための喜劇の仮面を。

だってそうじゃないとまたどこかに行ってしまう。

同じことをしていたら、また私の前からみんなが消えてしまう。

笑っていないと、私が砕けてしまう。

 

姫君の家族は最期まで知らなかった。

彼女がその齢にして正しく自分たちを理解できてしまっていたことを。

 

 

 

 

 

 

 

 

□皇都郊外【操縦士】バナージ・リンクス

 

自殺判定による24時間のログイン禁止ペナルティを与えられるも、バナージ・リンクスは見事〈UBM〉を打倒した。

相性の差こそあったものの、偉業を成し遂げたと言って差し支えないだろう。

少なくとも、バナージ・リンクスに恥じない働きはできたはずだ。そんな自負を心中に抱えたバナージはデスペナルティが明けてすぐ、意気揚々に勤務先へ向かった。

 

「……そういえば深夜だな」

『確かに、今行っても迷惑になるだけかもね』

 

到着前に気づいてよかったとバナージは足を緩めると、聞き覚えのある声が首にさげたT字型のペンダントから聞こえてくる。

それはひとりでに外れ、元の姿へと戻った。

【因果一角‌ ‌ユニコーン】、バナージ・リンクスの〈エンブリオ〉である。

 

「や、一日ぶりで三日ぶり。忘れたりしてないよね、ボクのこと」

「死んだって忘れないさ」

 

さも当然とばかりに、当たり前だろ?とマスターは言う。

ユニコーンは知っている。誇張でも強がりでもない、それを成し遂げた人間が彼であると。

そうだった、だからボクはここにいるんだった。

 

「ユニコーン」

「何かな?」

 

誇らしさを胸いっぱいに広げていた一角獣にマスターの右手が差し出される。

 

「ありがとう。お前が来てくれて、本当に助かった」

「……うん、ボクも君の〈エンブリオ〉になれて良かった」

 

互いの右手が握られ、どちらからともなく笑顔をこぼした。

このまま画面が引いてエンドロールが流れ始めてもおかしくなかったが、もう少しだけ話は続く。

 

「そうだ、ちょっと見に行ってみてもいいか?」

「見に行くって、フィックさんの店を?」

「俺が守れたんだってこと、この目で確かめたいんだ」

 

遠目に見るだけだからと頼むバナージに、まあそのくらいならいいでしょうとユニコーンは頷いた。

マスターが抱いている不安や心配も、彼女にはしっかり伝わってきているのだから。

 

そうして二人は皇都のセーブポイントから歩き詰めて、〈フィックの整備店〉にたどり着いた。

不思議なことにまだ店の玄関の灯りは消えていなかった。

 

「ついてるな」

「ついてるね」

 

しかし営みの光があるなら、バナージは世話になった二人をきっと守れたのだろう。

良かった良かった、また明日折を見て訪ねてみようか。そうして踵を返そうとしたが──

 

「待って」

 

影が揺れる。

バナージは第六感──額を貫いた予感に従い身体を翻した。

ざらついた、〈UBM〉と戦った時のような冷や汗が吹き出る感覚はない。

その代わりにHPの二割程度をかっさらう突撃を正面から受け止めることになった。

 

「バナージ」

「あ゛っ、う……ジェーン、さん?」

 

地面に押し倒されたバナージはむせ込みながら彼女を見上げた。

いつもの活発さはどこへやら、彼を見下ろす表情は能面のように凍りついている。

 

「ねぇ、バナージ、バナージなんだよね」

「そう、です」

 

むせ込みながら答えるとジェーンは口角を上げた。いつもより下手な笑顔だった。

 

「……心配、したんだよ。また私、私は、失っちゃうのかなって、大事な人が消えちゃうのかなって」

 

ぼたぼたと、バナージの服が涙に濡れていく。

押さえつけていた仮面はついに剥がれ、肩は震え、もう我慢することができなかった。

 

ジェーン──ジェーン・シュミット(誰でもない少女)の口から渾然一体となった感情が溢れ出す。

バナージは何も言わず、彼女の収まりがつくまでその胸を貸した。

 




うぉ……評価デカすぎ……。
ランキング上位に食い込めたのは皆様のおかげです。ありがとうございます。

ここからはこの章のエピローグです。まだ続きは考えてませんが、ひとまずの区切りをつけたかったので。


Q.ミネバ?
A.ミネバ(違う)。

前皇王さんが生きてるのでコロシアイ皇室生活は始まってませんが、生前からド外道だったらしいので、そのあおりを受けた辺境伯もいらっしゃったことでしょう。いた。

そんな不幸な家族の中で彼女はただ一人の生存者となりました。
妙にSTRが高かったり、一般人なら確実に取り乱すだろう〈UBM〉の出現にも冷静だったのはそのためです。
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