【因果一角】 ユニコーン 作:可能性の獣
第一話 エゴ
□国境 平原地帯【操縦士】バナージ・リンクス
ドライフ皇国とアルター王国を行き来する時、人間が比較的安全に通過できるルートは二つある。
王国のルニングス公爵領と皇国のエルドーナ領の境にあたる山道か、王国のカルチェラタン伯爵領と皇国のバルバロス辺境伯領の狭間にある平野か。
バナージたちは後者を選び、比較的のんびりと旅を続けている。
「何か目標にしてることって、あるの?」
国と国を隔てる平野、いずれ権謀術数が巡らされる街までもう数日といったところで魔動モービルからグゥが引き抜かれる。
手持ち無沙汰になった鈍色の触手が器用にテントを組み立てているのをよそに、ノヴァは助手席から外のバナージに声を投げかけた。
「あるよ。一応理由を聞いてもいいかな」
「理由?えーと……貴方を知りたいから、じゃ駄目かな」
二人はここに来るまでに幾人かのマスターに出会っていた。彼らは往々にしてこの世界に目的を持った来訪者たちだった。
飽くなき戦いか、心の休息を求めてか、ここでしか叶わぬ望みがあるのか……十人十色に理由はあった。
しかし、ノヴァの一番近くにいるマスターの口からはそのような願いが漏れたことがここまでなかったのである。
もし、自分が彼の願いの助けになれるのなら、可能な限りその手伝いをしたいというのがノヴァの──彼女にしてはとても珍しい──嘘偽りない心情だった。
自分という重荷を背負わせてしまったバナージに対して彼女が思い付くことのできた恩返し。
とはいえあからさまに恩を返しますよとアピールするのもどうかと思い、こうして迂遠なアクションをする他なかったのだが。
バナージはノヴァの解答にゆっくりと頷いた。
「いいよ、そんなに長くなることでもないし。でも、面白くはないかもしれない」
前置きしたバナージは積み降ろした薪を火に焚べながらぽつぽつと語り始めた。
ずっと望んでいたものが“別の世界”に存在しなかったこと。
それを再現できるかもしれない世界がここだったこと。
そして存在しなかったもの──
「ユニコーンって──」ハッとしたノヴァは木に寄りかかってノートに何やら記している〈エンブリオ〉に目をやった。
彼女は嬉しそうに三色の髪を揺らしていた。姫君に背を向けたままだがどうやら聞き耳を立てていたらしい。
「RX-0は20m近くある特殊な【マーシャル】だと思ってくれていい。だけど、今の皇国の技術レベルじゃ多分無理だ」
「先々期文明くらいまで遡ればある……かもしれないけど。うん、確かに今はダメそうだね」
デンドロのサービス開始前に存在したとされる先々期文明。彼らが高度な技術体系を有していたことは〈UBM〉だったグゥが証明している。
しかしその技術のほとんどは失伝して久しい。再現するとなれば世界各所に散らばる迷宮や遺跡を漁って遺物を鹵獲するか、天文学的確率で残された設計図の発見を祈ったりしなければならない。
「じゃあ、どうするの?」
是が非でも、例え未曾有のテロで小惑星が星に墜落しかねないとしても実現しなければとバナージが考えていることはノヴァにも分かる。
マスターの願望を反映する〈エンブリオ〉がその願いと同じ名を冠しているのだから尚更だ。
「それを今から会議しようと思ってたんだ。ユニコーン、頼む」
「了解だよマスター。ひとまずボクの目線から今実現できるもの、足りないもの、多分当分無理なものを洗い出してみた」
ユニコーンはノートを二人に見えるように広げる。
そこには以下のようなことが書き記されていた。
実現できていること
・ニュータイプ能力の一部、直感・洞察力
→スキル『第六感』
※成長の余地あり。
・NT-D(手動によらない機体制御)
→スキル『人機一体』
・ミノフスキー・イヨネスコ型熱核反応炉に準ずる炉心
→特典武具【星喰機心 ドゥームズグレイ】
※改良必須
実現できそうなこと
・RX-0の形だけ
→特典武具【星喰機心 ドゥームズグレイ】による外装再現。
・エネルギー兵装全般
→魔法職習得による擬似的なビーム兵装の再現。
※ビーム・ガトリングガンについては再現難易度高。そもそもどうやって盾を浮かせるのか。
・実弾兵装
→特典武具【星喰機心 ドゥームズグレイ】による再現。
※頭部バルカン砲の威力は保証できない。
時間がかかること
・RX-0本体、並びに巨大ロボットの建造。
→現在のドライフ皇国の技術力では不可能。先々期文明の遺跡を頼るか、今後増えていくだろうマスターによるブレイクスルーを待つか。
・サイコフレーム(MP浸透、ないし他外部手段による機体装甲の剛性獲得)
→【星喰機心 ドゥームズグレイ】のナノマシンの自己改良が現状最有力候補。
・ニュータイプ能力の一部、非言語コミュニケーション
→〈エンブリオ〉の進化によって獲得?他手段の模索を推奨。
※必殺スキル枠を消費する可能性あり。
・Iフィールド(魔法、魔力に対する防護)
→特典武具レベルの代物が必要。達成難度が高すぎるため優先度低。
・MP式の銃
→高い。ビーム・マグナム並の威力は特典武具レベルの代物でないと難しい。一から作成するとなればさらに難易度は跳ね上がる。
・浮遊、飛行能力等の機動性
→既に【マーシャル】に内蔵されているスラスターは飛行というよりは“跳躍”。
これをRX-0にそのまま適用すると単なる大きな的に成り下がってしまう。
宇宙ではなく大気圏内で活動することを考えれば機動性の確保は必須。
総評
『時間がかかること』については現状考えるだけ時間の無駄なので隅に置き、取り掛かれる『実現できそうなこと』を進めるのが無難だと思われる。
機体建造は現在の技術力では不可能。ブレイクスルーか先々期文明の技術が発見されるまでは素材集めに注力するべき。
メモ──と言うにはあまりに長い書き物──の全てに目を通したノヴァは空を見上げた。夕日はいつの間にか沈んでおり、満天の星々がきらきらと輝いている。
(……明らかに水準がおかしいよね!?)
声には出さなかった。顔にも出さなかった。人や自分を偽ることを続けていなければすぐにでも心の内が露見していたかもしれない。
まずバナージがRX-0なる兵器に強い憧れがあるのはよく分かる。
整備士や操縦士をやっていた手前、その手の浪漫にノヴァはある程度の理解はあった。
魔法を散らす盾に強力な魔力式銃器、実弾兵器や装甲強化──これはまだいい。
だが何故、何故機体を駆る人間に非言語コミュニケーション能力──テレパシーに準ずるものが必要なのだろうか。
そのような類の能力者がレジェンダリアにいることは小耳に挟んでいるが、操縦士にとって必要不可欠かと言われると、ノヴァは首を傾げざるを得ない。
そして、どうしてか浮遊して戦闘することに対して猛烈なこだわりがあるようだ。
基本的にこの世界で空中戦はとても珍しいものである。飛べない、というのもあるがこの世界の制空権は基本的にモンスターのものである。
天高く飛べたとてむざむざ蜂の巣になりに行く必要もない。
しかも文脈を見るに、明らかに空どころか宙で活動することがこの兵器の前提となっているようだ。
星が光を放つ重力のない暗黒の領域。モンスターも人間もいない場所で何をしようというのか。
一体彼らはどこに向かっているのだろうか。
残念なことにそれを言い出す勇気はノヴァの手元から消え去ってしまっている。
「とりあえずボクとマスターで出せるのはこのくらいかな」
(まだあるの!?)
情報を噛み砕くのに高速回転する脳は限界を訴えている。
今も自分の分からない用語だらけで──頭がオーバヒートして適切に受け取れていないだけかもしれないが──会話をしている二人を見て、ノヴァは思う。
(私、ついていける?)
疑問を呈した頭をぶんぶんと振るう。
元よりそのために話を持ちかけたのに、分からないからと逃げに走るのは良くない。
洪水のように流れ込む情報を何とか、懸命に精査する。
恐らく自分は機械関連では役に立てない。その辺りはユニコーンの方がマスターと思考を共有し、理解できているだけ随分と上手だ。
であれば、バナージに渡せるものといえば情報くらいなものだが──
「あ」
エネルギー兵装全般の項目にあった『魔法職習得による擬似的なビーム兵装の再現』を見て、額に稲妻が走った。
ノヴァがまだ実家にいた時に耳にした、とある魔術師系統のジョブについて思い出したのだ。
「バナージ、ユニコーン、ここのジョブの事なんだけど……」
「何か知ってるのか?」
「うん。まだ実家にいた時にお父さんから聞いたことがあったの。王都郊外にいる【
少し間を置いて、やっぱ言わなきゃ良かったかも、などと思いながらノヴァは諦観気味に意を決した。
「お弟子さんが使った魔法で
現状の確認、それと王国に何しに行くかという回。
こう書いてみると実現不可能なこと多すぎ問題。ですが頑張って達成してしていきましょう。
【
クラウソラスマンサーは収まりが悪すぎるのでクラウだけにしたもののコレジャナイ感が凄い。良さげなものを見繕えたら変えます。
グラムマンサーとか語呂がスッキリしてるけど光の剣じゃないし、ネクロマンサーだと死霊術師で邪聖剣だし、レーザーマンサーは何かこう、うん。
王国編が終わったら次はアンケートに則ってレジェンダリアに行きます。もうしばらく王国での旅にお付き合い下さい。