幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】 作:鳳卵
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まず始まるのは、『夢』での戦いだ。
地下アイドルは、夢の中、女教師ラクルラールと向かい合う。
これはある意味、宿命の師弟対決と言えるのかもしれない。
しかし、敵であるはずの師からまず投げかけられたのは、予想外の言葉だった。
「教えろ。
どうやって私の呪縛を打ち破った?
きちんと説明出来たら、仕置きは半殺し程度で済ませてやろう」
どうやら、ラクルラールは、今回の勝敗より自身の術式の不備に対して興味があるようだ。
考えてみれば、それも当たり前のことかもしれない。
通常、弟子や生徒とは、教師より劣った存在である。
自らと、同等以上の実力を持つ相手に教えることなど、何も無いからだ。
ゆえに本来、教師と生徒の性分というのは本来なら成立し得ない。
なにしろ、生徒などは余裕で打ち負かせるという自信、そしてその自信の礎(いしずえ)となる実力こそが、教師たる者の資格なのだから。
よって、教師を自認する者が、生徒に敗北する可能性を認めるわけがない。
ラクルラールが、生徒たるラリスキャニアを端(はな)から相手にしないのは、当然のことであった。
だが、そこにも例外はある。
確かに、通常時は生徒は教師に劣っているものだ。
けれど同時に、その力関係(ヒエラルキー)は、いつまでも続きはしないものでもある。
なぜならば…
「そんなに、ボクに負けたことを認めるのが怖いですか?」
「何?」
「それとも逆でしょうか?
御自分の、教師としての未熟さが明らかになるのが怖いとか?」
そう、そうした論理にも関わらず、最終的には、生徒は教師に匹敵しなければならない。
それこそが、『教育』の目的なのだから。
始めこそ、自らの生徒を圧倒出来なければ教師足り得ないけれども、最後には逆に乗り越えられなければならない。
それが、教師という職務の矛盾なのである。
自らを上回れないような生徒しか育てられない教師は、その資質を疑われても仕方ないのであろう。
それゆえに、ラクルラールは…
「違う!
そんなわけがあるものか!
良いだろう…お前の『挑発』に乗ってやる!
だが覚悟しておけ、私の試験の不合格者には生存の道などない。
私の黄金のように貴重な授業を受けておきながら、その内容を取りこぼす『欠陥製品』(できそこない)など、生徒とは断じて認めないからな!」
こうして、応えざるを得ない。
これをチャンスと見て、地下アイドルは、すかさず切り込む。
「では、一つお聞きしてよろしいですか?」
「なんだ?」
「先生には、こちらは不要ですか?」
そして、ラリスキャニアは懐(ふところ)に手を入れ、何かを取り出した。
それを目撃したラクルラールが、その完璧に整えられた眉を動かす。
それは、十分に彼女を驚かすモノであった。
※
ーーけれど、戦いは『夢中』だけでは収まらない。
同時に、『現実』でも戦いは起こっている。
いや、正確にはずっと続いていたのだ。
地下アイドルが、己が煩悶(はんもん)から女神触手(ディスペータ)を生み出したときから、彼女たちの闘争は始まっていた。
現実、洞窟状に飾られた地下アイドルの自室(マイルーム)
そこでは、先程までラリスキャニアが吸血樹に縛られていた。
だが、戦いが始まった以上、もはや彼女はそんな状態にはいない。
固く彼女を拘束していたはずの、吸血樹のツタが宙をかく。
それもそのはず。
ツタでは、影を縛ることなど出来はしない。
影との入れ替わり。
『夜の民』が得意とする呪術によって、地下アイドルは、束縛から脱出していたのだ。
そして彼女は、そのまま高速で床を移動して距離を取る。
回転、全身を触手に見立てた這(は)い這い移動、そして、ヘッドスプリングからの立位への体勢変化まで、ラリスキャニアは奇妙な動きで、隙なく移動することに成功していた。
「蛞蝓(ナメクジ)か何かですか、貴女は!?」
それは、罵声じみた吸血樹の問いかけだったが……
それに対しても、地下アイドルはぬるりと躱(かわ)した。
「ご存知だろう?
蛇さ」
「くっ!」
歯噛みする悪魔の左手(ディスペータ)をよそに、ラリスキャニアは身構える。
床を転がったその姿は、当然ながら埃(ほこり)だらけではあったが、それもある意味問題は無かった。
なぜなら、彼女がまとっていたのは、既に薄汚れたマントだったから。
しかし、それも今、この時をもって終わる。
地下アイドルは、マントを大きく広げ、左手に一枚の紙切れを掲げる。
【清掃】の呪符。
それによって清められたその姿を見て、元女神は息を飲んだ。
「その格好は…!」
結果として、一瞬、わずか一瞬だけ隙が生じる。
もちろん、それを見逃すラリスキャニアではない。