幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】 作:鳳卵
彼女の左手には先程の呪符があった。
では、右手には何があるのか?
そこには、その手には古びたマイクスタンド が握られている。
縛られていたときも床を転がっていたときも、地下アイドルがけっして手放さなかったその『杖』が。
もちろん、それはただのがらくたではない。
握り手を少し捻(ひね)れば、途端に仕掛けが顔を出す。
まるで、チョコレートバーの包み紙のように迷彩と呪力遮断の中級呪符が外れると、中から現れるのは、マイクと呼ぶにはあまりに大き過ぎるヘッドパーツ。
どう見ても凶器にしか見えないその武骨さの通り、それは間違いなく凶器ーー武器であった。
しかもその形態は、現在ゼオーティアで一、ニを争う著名な代物だ。
その正体は、次の変形で判明した。
大きなヘッドーーいやもう断言してしまおう。
『槌矛(英雄アズーリアモデル・再現カスタマイズ済み』 の先端が花のように開き、幾本もの光条が伸びる!
そしてそれは、迷い無く吸血樹へと襲い掛かったのだ!
その奇襲があまりに予想外だったからだろうか、古き女神の対応は、やや遅れてしまった。
とっさに打ち払ったまでは良かったが、それはあくまで反射的な防御、経験と修練がもたらした無意識的な反射行動に過ぎなかった。
だから、気づいたときには、もう遅く。
「こ、これはあの時の…!?」
そう、それは紛(まぎ)れもなく、かの英雄の著名な武器。
つまりこれは、あの有名な戦いを再現、いや『再演』している状況ということでーー
すなわち、次の瞬間に再度伸びた新たなる光の帯によって、元女神は、見事に縛り上げられてしまったのだった!
立場逆転!
それはまるで、先程までの状況を逆さまにしたような立ち位置(ポジション)交換であった……
※
そのタイミングで、『現実』と『夢』、二つの世界に存在する二人のラリスキャニアは、同時に手に持ったモノを差し出した。
それは、単なる紙の束。
しかし、彼女にとっては世界の何にも代えがたい品物であった。
出した紙の内容だけは、それぞれ異なる。
『現実』で差し出した紙は、本の形に綴(と)じられていた。
ラリスキャニアが第五階層の『創造』能力で作り出したその“台本”からは光が放たれ、それはすぐに像を結び、どこか見覚えのある情景を描き出す。
一方、『夢』ではまた違う。
手に現れたのは、ただ一枚の紙。
それは何故(なぜ)か、学園生活を懐(なつ)かしむ言葉や、感謝のメッセージと共に目の前の魔女に差し出される。
更に、無数の分身たちがその背後で泣きじゃくり、けれどそれでも一心にこちらを見つめてその動向を窺(うかが)ってくる。
ラクルラールは戸惑ったが、生徒を前に迷いを見せるわけにはいかない。
彼女は、厳格なスパルタ教師。
よって、謎の既視感や誤作動であるに違いない『虫の知らせ』などは捻(ね)じ伏せて、迷いなくその紙切れを受け取るしかないのだ。
が、それでも次の瞬間、女教師は激怒した。
その紙には、悪口雑言、卑猥(ヒワイ)な冗談などが書かれていたのか?
いや、違う。
それともそれは新手の攻撃呪術、呪符の類(たぐ)いであったのか?
それは正解であり同時に間違いでもある。
つまるところそれは、その紙切れはーー
「『卒業証書』だと!
馬鹿にするのもいい加減にしろ!」
そう、それはそんな特殊な書類だった。
別れを告げる手紙、技能の修了と勉学の達成を告げる証明書。
更に今回は、そこに更なる文脈(じゅりょく)が加わる。
その、呪術的な書類は、通常とは逆に生徒から教師へ、しかもアイドル技能の達人へと手渡されたのだ。
それがどれほど相手を馬鹿にしたメッセージなのか、その侮辱の度合いは、一般的には伝わりにくいかもしれない。
それを認識出来るのは、アイドル教育に詳(くわ)しい者だけであろう。
そう、そんなレアな人材は、例(たと)えばここにいるアイドル教育の専門家、ラクルラールのような者しか居ないのかもしれない。
…だから、それだけで十分だった。
今、怒り心頭に発した女教師が、思わず力任せに手渡された紙を叩き返した、その理由も…これで十分、納得がつくことであろう。
その激怒、その反射的な行動には、そうせざるを得ないだけの確かな『文脈』があったのだ。
それゆえに、
「はい、確かに受け取りました。
今日を限りで、ボクは先生の支配から『卒業』させていただきますね」
と、地下アイドルの計略は、見事に成立してしまったのだ。
こうなれば、もはや
「くっ!
図(はか)ったな!」
と、後でいくら怒っても、もはや後の祭りである。
教師からの『卒業証書』の授与。
これ以上に確実な『教育』支配からの離脱方法は、存在しない。
とは言え、この程度の挫折で諦(あきら)めるようなラクルラールではない。
この女教師は、仮にも世界の半分でその名を轟かせた実力者なのだ。
多少の苦境で諦めるはずがない。
「ならば、これはどうだ!」