幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】   作:鳳卵

105 / 272
第105話(85~86の途中まで)

これまであれほど恐れていた女教師相手だというのに…すらすらと、その問いは、ラリスキャニアの口から滑り出ていったのだ。

 

そして、それを迎え撃つ言葉も、もちろんなめらかである。

 

「三つの問いか?」

 

聞き返すのは、相(あい)も変わらず、万年雪を思わせる冷徹な女教師の声。

 

「ええ、そうです。

最後の三、始まりのための終わり。

世界を完結させ、新しい始まりへと向かうために必要な、まとめと別離の問答です」

 

「見苦しい悪あがきだな!

それで、それが終わったのなら、納得するんだろうな?

それとも、可哀想な転生者アイドルちゃんは、また延々と泣き喚(わめ)くのか?」

 

それは意地が悪い返しだったが……

 

「ええ、これで最後です

けれど、これは貴女にとって貴重な機会ではありませんか?」

 

と地下アイドルは、きっぱりと答え、逆に問い返す。

 

「なに!?」

 

「ラクルラール先生、貴女は実は、舞台上の悪役を演じたことは無いのではないですか?

ディベート上の『仮想敵』…実にやりがいのある役だとは思いませんか?」

 

困惑した女教師相手に、ラリスキャニアは、言外に既に悪役を完遂した女神の存在を匂わせてきた。

 

彼女の推測が正しければ、女教師は、宿敵の動向を見過ごせないはずだ。

 

とりわけ、それが自分が、宿敵より下の序列に位置付けられる(マウントされる)ような案件であるならば。

 

すると案の定(あんのじょう)、

 

「フン、『悪魔の代弁者』、か。

まあ、それも良いだろう。

今度は貴様が誘おうというのか、なるほど、面白い」

 

相手は、狙いに乗ってきた。

 

そして、ラクルラールは、こちらに手を差し伸べてくる。

 

それは、上から慈悲を垂れる聖母の如(ごと)き傲慢(ごうまん)さであり…実際に、半神たる女教師に良く似合うスタイルでもあったのだ。

 

そして聖母は、託宣を下した。

 

「また思い知らせてやろう!

お前は、自身の非才に怯(おび)え、他のアイドルを恐れているだけだと言うことをな!」

 

が、しかし

 

「ええ、そこは先生のおっしゃる通りでした」

 

もはや、そんな指摘に傷つくラリスキャニアではない。

 

そこで素直に答えたところ…返ってきたのは驚きの表情だった。

 

それが、なんだかちょっと可愛く見えて、地下アイドルは密かに微笑む。

 

「何だと?

やけに殊勝(しゅしょう)なことを言うじゃないか」

 

そして、訝(いぶか)しげな女教師相手に、笑って応えてみせる。

今のラリスキャニアには、そう出来るだけの余裕があるからだ。

 

「ボクは実際に、他のアイドルたちを、そしてなにより自分の無力さを恐れていました。

それは確かにそうです。

先生、ボクは、そんな自分をちゃんと受け入れていくことにしたのですよ」

 

それを聞くや否や、ラクルラールから垣間見えた可愛さは消え失せた。

また、厳格な教師の顔に戻る。

 

「ならば、問いなどやめておけ。

そして這いつくばって敬意を示せ!

命乞いをして、我が軍門に戻るのだ!

そうすれば、私の素晴らしい教えによって、その無力さも少しはマシになるかもしれないぞ?」

 

これでもまだ、一度反逆した生徒に対しては、絶大なまでに寛大な誘いであろう。

 

だが、それでも地下アイドルは、きっぱりと首を振る。

 

「いいえ、ボクにはもはや学園で過ごす時間はありません。

加速し続けるアイドル業界でやっていくには、一分一秒が惜しいのです。

そう、このラリスキャニアが学ぶ場所は、もはやアイドルたちが競い合う『現場』でしかあり得ない!」

 

それは当然のように女教師を怒らせ…

 

「よく吠(ほ)えた!

ならば問うてみよ、三つの問いとやらを!

ただし、まずは私が問う番だ!

見事答えて、己の価値を証明してみせろよ我が生徒!

さあ、良く聞け我が問いかけを!

この『キュトスの姉妹』第六位代理が!

『人形師』が!

『異界学園都市ラクルラール学園長』が!

貴様の資格を、試験(テスト)してやろう!」

 

当然のように、本気の反撃を引き出させた。

 

その名乗り、正式な『宣名』が放たれると同時に、猛烈な風が吹き荒ぶ。

 

そう、やっとここに来て、そして今こそ…教師と生徒が演じる、本気の戦いが始まるのだ。

 

賽(さい)は投げられた。

もう賭け金(ウェイジャー)は引っ込められない。

 

後は皆、舞台(ルーレット)の上で踊るしかないのだ。

 

それでも、ラリスキャニアは、予測する。

これから起こるであろう物事を。

恩師にして、越えるべき敵たるラクルラールの動向を。

 

なぜなら、予測からこそ全てが始まるからだ。

アイドルの予測、いや希望(ユメ)は必ず叶う。

 

いや、どこまでも叶うまで続けていくのがアイドル道というものなのだから。

少なくとも、ラリスキャニアのファンたちはそう信じている。

もちろん、彼女自身も。

 

しかも、今回の質問については、その予測が極めて容易である。

なにしろ『三度の質問』というのは、論戦(ディベート)の基本だからだ。

 

どんな複雑で曖昧模糊(あいまいもこ)に見える事柄も、『三』にまとめれば、大体整理して片付づけることが出来る。

これは、とても便利な形式なのだ。

 

そしてそれ故(ゆえ)に、その様式(パターン)も、かなり限定される。

 

使い古された手段や決闘(ゲーム)形式といったものは、だいたいにおいて『必勝法』が存在するからだ。

 

もちろん、その程度のこと、女教師は熟知しているだろうし、対策もしているだろう。

 

けれどそれでも、これなら戦える。

 

『戦い』という形式、互いに実力を比較し合う『競技』という形態であれば、いきなり反則的な呪術によって殺されたり支配される可能性については、かなり減少する。

必然的に、それぞれが名声をかける勝負形式となるため、参加者は、不名誉だったり後で物言いがつきそうな奇襲攻撃を、避けがちになるのだ。

 

それでもある程度の実力者であれば、正面から堂々と『邪視』や『呪文』で己の勝利を押し付けて来る可能性は否定できないが……

 

まあ、それでも真にルール無用の戦いになるよりは、だいぶマシなのだった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。