幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】   作:鳳卵

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第107話(87~88の頭まで)

「では、次だ!

その自信はどこから来る!

ファンなど所詮は移り気なもの。

お前自身もいつまでも自信を持ち続けられるとは限らない!

ある日突然鏡に映った自分に“お前は駄目だ。存在すべきではない”と否定されたらお前は一体どうする気なのだ!?」

 

この言動、これは明らかに本気に違いない。

 

一体何が女教師の琴線(もしくは逆鱗)に触れたのかはよく分からないが、どうやら相手の核心に響く返答が出来た、ということのようだ。

まあ、それゆえにここまで怒らせてしまったということでもあるが

 

女教師の圧迫が強まってきた。

しかも更に、そこへ追い打ちが加わる。

 

「ほうれ、こんなふうにな!」

 

なんと、ラクルラールが宙を手で軽く薙(な)ぐと、彼女の足元から影が膨(ふく)れ上がり、無数の人影が形成されたのだ!

 

つい先程もーー今では遥か太古のことにも思えるがーー女教師が呼び出した“ ラリスキャニア軍団”である。

 

生徒は教師に従うもの。

そうした観念は、世界に広く定着している。

 

その文脈こそが、夢世界でも強固で操作しやすい人形軍団の形成を、可能としているのだ。

 

そして、現れた軍団は何をするかと言えば…何もしなかった。

いや、それは正確ではない。

 

おしゃべりをするもの、誰もいない空中に素振りをするもの、もはや歩く焼死体しかいない校庭を眺(なが)めるもの…それらには、ある共通の要素があった。

 

全員、ラリスキャニアのことを認識していないのだ。

正確には、あえて『相手を認識しない演技』をしている、と言うべきか。

 

これぞ、かの有名な邪悪呪術『使い魔』版の【静謐】である。

 

その別名を【無視】(シカト)と言う。

 

それは、相手の自尊心と存在意義(アイデンティティ)を削る攻撃であり、最終的に相手の生存本能を破壊(クラッキング)して自滅に追い込む、恐るべき集団戦術である。

 

どうやら、間違いがないようだ。

これは、ラクルラールの本気に違いない。

 

女教師が得意とするのは、『呪文』ではなく『杖』

 

それゆえに、論戦はあくまで見せかけであり、人形軍団という確固とした実体をもってこちらを追い詰めるのが、彼女の本命の策謀なのだろう。

 

どれだけ口達者な『呪文』使いであろうとも、しゃべる前にその心を折られてしまえば、その舌は硬直してしまう。

 

これこそは、『杖』と『使い魔』を併せ持つ『人形師』の本領発揮、最強の戦術というわけだ。

 

だが、もし本当に思わず本気を出させるほどあの女教師の弱点を突くことが出来たというのなら…それは、明白な朗報であると言える。

 

つまり、今こそが攻め時!

あの鉄血教師に反逆する、絶好のタイミングであるはずなのだ!

 

そこで、ラリスキャニアは戦場のプレッシャーを逆に漲(みなぎ)る力に変え、軍団に向けて迷わず突撃していった!

 

心は、あたかも流氷に飛び込む白鳥のように。

その心境は澄み渡り、今や迷いは皆無だった。

 

まずは大きく身体を動かして【旋回】(ウォールウインド)移動。

 

手近な『ラリスキャニア』人形を、軽やかな躍動(ステップ)で集団から切断、引きはがす。

 

そして、右手の端末を突きつけると同時に、左手から触手を伸ばして有線接続(ワイヤード・コネクト)完成。

より親密な関係を構築した。

 

別の言い方をするなら、これは握手(フィッシング)である。

 

熟練した地下アイドルの手腕、もとい握手と近接アピールは、瞬く間(またたくま)に『釣り』を成立させることを可能とする。

 

もちろん、今回も問題無し。

 

ラリスキャニアに魅了された影人形は、あっという間に彼女の子豚(ファン)となり、それまで所属していた軍団との縁を切った。

 

本来、影人形は自我が弱い、依存心の塊のような存在だ。

 

“彼女たち”は、集団に依存し、“顔の無い一員”として振る舞う。

 

そして、上位者の気に障らないように目立たないようにしながら、同時におべっかに励(はげ)むことでしか、己の存在価値を確保することが出来ない。

 

だが、ラリスキャニアの子豚(ファン)は違う。

なぜなら、その主人からの『認知』があるからだ。

趣味、性格、そしてその貢献度、地下アイドルはその全てを把握する。

五分前に作られた人形だから、誕生日が存在しない?

 

でも大丈夫、ボクと出会った今日が、貴女の新しい誕生日だ!

 

アイドルとの関係は、それ以前の経歴や地位、役割の全てに優先する。

 

ラクルラールが『不特定多数』(かおのないしゅうだん)を再演するため、製造番号すら割り振っていなかったことも災い/幸いした。

 

新しいファンには、今度こそしっかりと会員番号が割り振られ、愛称(ファンネーム)という名前が付けられる。

 

もはや、顔の無い一個人、組織の歯車でしかない兵士(どうぐ)は、どこにもいない。

 

新会員は、ファンクラブの会員証を誇らしげに掲げ、今日これから、新たなる人生を生き始めるのだ。

 

一本釣り、成功である。

 

そして当然、これだけでは終わらない。

なんだか今の一瞬で、前世でひたすらこだわった地位(カーティス)を乗り越えてしまったような気がするが、それはそれ。

 

ラリスキャニアちゃんのアイドル花道(ロード)は、まだ始まったばかりなのだから!

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