幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】   作:鳳卵

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第108話(88の途中まで)

だからこそ、彼女は高らかに叫んだ。

 

「二回転!暗黒触手渦巻!(ダーク・テンタクル・ヴォルテックス!)」

 

ラリスキャニアには、手が足りないということが無い。

 

なぜなら彼女には、常に新たな手足が、応援してくれるファンという、自己を持つ触手が居てくれるのだから。

 

イメージするのは、あの“夢の中の夢”で見た不思議な存在、千変万化する春の大樹。

 

それを再演するには、地下アイドル一人だけでは、到底不可能だ。

だけど、今のラリスキャニアは一人ではない。

 

だから彼女は、今も脳裏から薄れゆく幻の印象を必死につなぎ止め、それを自分と支えてくれるファンの『芸』を以(も)って体現せんと試みるのだ!

 

求めるのは、『使い魔』の技術。

ティリビナ人の秘技であると言う、集団大樹にインスパイアされた組体操的なムーヴ。

 

それを完全に実現するには、『青い鳥』(ペリュトン)の触手だけでなく、『吸血鬼』の魅了と感染の特性(ワザ)が必要だ。

 

だから、彼女は重ねて宣言、いや『宣名』した。

その行為の別名を……

 

「ボクは、『夜の民』二種族の混血(ハイブリッド)!

当然、吸血鬼性質(アイデンティティ)も『誇大妄想狂』(メガロマニアックス)と『陰謀論』(コンスピラシーセオリスト)の二種混合!

さあみんな!

この吸血鬼だらけの第五階層に誕生した、新たなる始祖吸血鬼(ルートヴァンパイア)『歓迎!毒電波協会!』(ウェルカム・トゥ・ザ・アンダーグラウンド・アソシエーション!)の感染を広げたいコはこの指とーまれ!

今なら、お友だち紹介特典がついてくるよー!」

 

『外破』、という。

 

それは、母子、血液、経口、接触、飛沫、空気に続く、現代の吸血鬼の繁殖法。

 

ある者は、それを電波と呼び、またある者はワクチン、脳内チップ、ケムトレイル、どこかの異常な愛情を誇る博士やその将軍なら、敵国に汚染された水道水だとするかもしれない。

 

その実態こそは、模倣子(ミーム)である。

 

 

模倣子感染。

 

光り輝く頂点があり、その『地位』を規定する序列がある限り、そうした栄光に恵まれない陰もまた永久に消えることはない。

 

それは、地下水脈のように脈々と受け継がれ、密(ひそ)かに生き抜いてきた地下文化(サブカルチャー)の種子にして菌糸。

 

憧(あこが)れ、妬(ねた)み、劣等感、演技、妄想、猜疑心。

そして、絶望。

 

それらが、時代全体が地下(サブカル)化したことによって、裏返り、逆に主流の文化となったのだ。

 

世界全体を縮める情報化社会は、あらゆるコミュニティの『一番』を零落させ、最大にして唯一の基準だけで計量する。

 

村で一番の絵描き、町一番の歌い手、辺境一番の選手、そしてある迷宮でそれなりのアイドル。

世界基準は、全てを包む共通言語となって、それら全ての『一番』を滅ぼし尽くす。

 

そこに、害意や悪意は無い。

わずかな関心すら、有りはしない。

 

 

単一価値観という巨大な槍は、ただその穂先を維持するためにだけ、存在するのだから。

『世界一』を規定可能な栄光の序列は、同時に、それを登ることが出来ない無数の悲しみや絶望と常に共にある。

 

だがしかし、それは決して全てではない。

 

光あるところ、陰あり。

 

輝かしい主流文化(メインカルチャー)があれば、それに含まれない副流文化(サブカルチャー)あり。

 

そして、表立って称賛される価値に抗(あらが)う対抗文化(カウンターカルチャー)もまた…主流の序列あらばこそ、存在するのだ。

 

そして伝統的に、『地下』(アンダーグラウンド)こそは、その対抗の聖地である。

 

上品に対する下品、華麗に対する武骨、正統に対する奇怪…『地下』は、常にそうした日の光を浴びれない者たちのために、存在し続けてきた。

 

ある時はそれは、苦しみの世に踊りながら救いを求める流行であり、またある時は外道(アウトロー)な音楽、実験的な芝居、エログロな漫画雑誌、妄想を形にした同人誌、そしてまたある時は…地下に集うアイドルのための会場であったのだ。

 

やがて妄想の伝染は、ネット時代という絶好の土壌を得て、大きく繁栄し花開いた。

 

今や、膨大な『地下』の記憶と力は、ラリスキャニアに受け継がれている。

そして、場の状況はこれ以上ないほど整っていた。

 

本来なら『地下』全体を統(す)べる力と資格を持つカーティス=リールエルバが、現在は休養中であること、機械女王が『ファッション』で吸血鬼たちをカジュアルかつ安全なミームに零落させたこと、そして何より、ラクルラールという分かりやすい『公共の敵』(パブリックエネミー)がここに顕現し、世界的な価値基準を自ら代表しようとしていること……

 

それら全てが、地下アイドルにとっての後押し(アド)となった。

 

ただそれでも、実際のところラリスキャニア=始祖吸血鬼説は、成立するかどうかで言えば微妙なところだ。

いくら彼女が、始祖吸血鬼コレクターの六王カーティスとつながりがあるとは言っても、そのつながり自体が、あって無いようなものだからだ。

 

だが、ここは幻想呪術世界・ゼオーティア。

関連性や類似性がわずかにでもあれば、それは立派につながりとして認められ、呪力を発生させる。

 

しかも、現在は、賛同者がたくさんいるのだ。

そう、地下アイドルは先程からずっと端末を持ったままであり、しかもそれは、稼働を続けていた。

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