幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】 作:鳳卵
そう、地下アイドルは、とっくの昔に罠にかけられていたのだ!
ただ、その靴音はどこか鈍かった。
それでようやく気づく。
本来なら爽快に硬く響き渡るはずの音、それを遮(さえぎ)りくぐもらせる何かがあるのだと。
障害物が、あたりに設置されている。
いつの間に張り巡(めぐ)らされたのだろうか。
青い網は、そこら中(じゅう)にあった。
校庭に、机に、電灯に、窓に、ロッカーに、階段に。
それは全てを覆い、支配する強大なる魔女の影響力。
けれど、真に恐るべき変異は、それに留まらなかった。
その時ついに、ラクルラールが本気になったのだ。
夜が来た。
いや、あるいは月蝕か。
それは一瞬のことだった。
そう錯覚させてしまうほどの闇が、あっという間に広がったのだ。
それは、山のごとく。
天を衝(つ)くその背は、世界槍に並ばんとする威容。
地下アイドルの前に立ちはだかったのは、大きな、あまりにも大きすぎる影であった。
巨人だ。
ありとあらゆる瓦礫(ガレキ)学校設備、そして用途不明になるまで壊れたがらくたが、青の色によってつながれ、巨大なヒトガタを作っているのだ。
そして、一閃。
巨人の姿が観測者の脳裏に定着したかどうかという頃合いで、津波のような衝撃が辺(あた)りを横切る。
高速で動く巨大な影が、視界全てを薙ぎ払ったのだ。
たった一瞬。
それこそ、瞬(まばた)きをする間に全ては始まり、終わっていた。
闇が切り替わることで落差によって光が生じ、すぐに立ち昇った土煙が、その強大なる衝撃の威力を保証する。
ただ一つの動作、それだけで…世界は見違えるように切り替わっていた。
今のは攻撃だった、ときちんと認識出来たのは、とっさに分身によって投げ上げられた、ラリスキャニアただ一人。
後に残ったのも、彼女ただ一人だけ。
それは、あらゆる比喩によっても言い表すのが難しい、超絶の一撃だった。
半神は、天災を自在に引き起こす。
どれだけ弱り、また補正(めいせい)を失っていようと、やはりラクルラールは神域に在る者なのだ。
彼女の怒りは、まさに災害そのものであった。
果たして、それを生き抜いた…いや、生き残ってしまった地下アイドルは、その孤独な生存に何を思うのか?
女教師は、巨人の肩に仁王立ちしながらそれを観る。
腕を組みながら眼下をにらみつけるその姿、まさに異界の闘神の如(ごと)し。
続けてニ撃目を放ちもしないで、糸を使いワイヤー登攀(とうはん)の要領で飛び乗っているのは…別に私なら特撮アクション映画なんて、容易に再演することが出来る!という、己が技量の自慢ではない。
それは、こうして高みから敵状を視察しつつ、彼我の格差を視覚(ヴィジュアル)的にはっきりと知らしめるためであった。
この一事だけでも、元学園長の気位の高さが良く分かる。
あるいは、かつて散々見下ろされた記憶があるゆえの、深い劣等感の裏返しなのか。
いずれにせよ、ラクルラールは、にやりと顔を歪ませる。
計測し、データ化出来る圧倒的な破壊、確かな物量、右肩急上昇の折れ線グラフ、そして高い時価総額。
女教師の信ずる力は、常に具体的で、誰も否定することが出来ない『杖』の暴力だ。
子象しか縛れない鎖でも決して逃れられない象のように、見えない天井を跳躍の限度に定めるノミのように、それは、心を折り従属させる『調教』の呪力。
こうして再び示された、元学園長の実力と権威の前に、あらゆる生徒は跪(ひざまず)き、涙ながらに許しを乞いながら服従を誓う…はずだった。
だが、だが肝心の地下アイドルは…ただ一人、それでも優雅に回っていたのだ。
それは、あまりにも悠然とした、何よりも強くしなやかな立ち振る舞い。
そして、彼女が語るは、ただ一言。
「今のは…あの女神の真似ですか?」
「なんだと!」
あまりの侮辱に、すかさず返る怒声(どせい)
それに対しても、地下アイドルはあくまで余裕の構えを崩さない。
「どれだけ貴女が舞台(ステージ)を崩しても、ボクの可愛い子豚ちゃんたちはそう簡単には打ち崩せませんよ。
だってーー」
そして、彼女は優雅に片手を振った。
すると、どうだろうか。
あちらから、そしてまたこちらから。
あちこちの物影から、次々と影人形たちがまるで雨後のキノコのように湧(わ)き出してくるではないか!
「ーー地下アイドル(ボク)もそのファンも、この程度の苦難(トラブル)なんて、もうとっくに慣れっこなのですから!」
「【影沼】だと!?
わざわざ高度な呪術を用いてまで、木偶(デク)人形どもを助けるとは…なんという呪力の浪費だ!
その程度のファン数から回収出来る呪力で、この私と戦い続けられるつもりなのか?
不健全極まりない会計だな!」
「先生、貴女の質問(ターン)はとうの昔に終わったはずですよ!
まあ、どうしてもというならお答えしますが、」
そこで、地下アイドルは、見栄を切った。
異界ミーム溢(あふ)れる構えが、場面転換を告げる。
それはすなわち、