幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】 作:鳳卵
「ファン数が問題なら、消費した呪力を賄(まかな)えるだけ増やせばいいだけのこと!
ここからは、ボクらの反撃(ターン)です!
さあ、質問に答えてもらいますよ!」
状況はまた逆戻り。
これで、絶望を突きつける側と突きつけられる側が見事に入れ替わり、攻守逆転したかと思われたが…ところがどうして、やはりそう簡単にいくわけがない。
女教師は、声を低め、囁(ささや)きかけてきた。
巨大な増幅機(アンプ)となった巨人が、それを倍増させ、あたり一面に響かせる。
それは、大音量の小声という矛盾。
まるで遠雷のような轟(とどろ)きが、地下アイドルに絶望を告げる。
「随分と威勢が良いじゃないか。
さて、この短時間でやけにはしゃいだようだが…今頃『現実』はどうなっているだろうな?」
それは、決して悔し紛(まぎ)れの挑発ではなかった。
今夜のラリスキャニアは、あまりに呪力を使い過ぎていたのだ。
それは、慣れない高等呪術の連発に止(とど)まらない。
そもそも、『夢』と『現実』その両方にまたがって覚醒し、自在に行動すること自体、『朱』の色号の呪術の中でもかなり高度な業(ワザ)である。
かの夢使いの魔将サイザクタートでさえ、こんなことはあえてやろうとしなかった、と言えば、その難易度と消費呪力が窺(うかが)えるであろうか。
そして、ことここに至って、女教師がなぜわざわざ『現実』に言及するのかと言えば….
「やはり、ボクの自室にあの“青いスパゲッティ”を置いたのは貴女の仕業でしたか。
アレが保険というわけですね」
「ようやく気づいたか。
アレは最初から実体の無い幻ではあるが同時にお前という対象の呪的な記憶を引き出す引き金(トリガー)でもある。
念写の仕組みを応用した呪いのビデオテープ作成装置…と言ってもお前には何のことか分かるまい。
アレこそは悪夢から目覚めたはずがその先もまた悪夢という状況を再演する呪的構成物(エクトプラズム)
いわば悪夢の抽出機だよ。
夢を念写する機構は既に一般的だがこれならば呪術的な攻撃力すらを持たせられる。
たとえお前がこれから夢で何度かこの私を倒したらとしてもあの“テープ”ある限りそれは無意味。
そして『現実』でもヤツと戦ったお前にはもはや“テープ”を破壊する余力など皆無だろう。
いやもう負けているか?
残念だったな同時に倒そうという視点だけは悪くなかったが所詮これがお前の限界というわけだ。
さあ絶望しろ土下座しろどうした早く私に下らなければアイツに根こそぎ吸われてゾンビになるだけだぞ」
これで優勢を確信したか、女教師は、怒涛(どとう)のようにしゃべりまくった。
さて、では実際『現実』はどうなっているかというとーー
※
そこは、木下闇のような、不自然なまでに暗い闇に満ちていた。
『現実』、洞窟を模したラリスキャニアの自室。
そこで部屋の主と相対する影がある。
彼女が握りしめる端末の灯火(ともしび)だけでは、到底照らし出すことの叶わぬ陰。
それは光を食い尽くす闇。
生に対する死。
かつての死の女神ディスペータは、ただそこに存在している。
たったそれだけ。
だが、その事実が既に呪術的な圧力となって、地下アイドルを圧迫していた。
今の悪魔の左手(ディスペータ)は、ラリスキャニアによる拘束状態にある。
この、地下アイドルが操っている光の帯こそは、かの恐るべき魔将、エスフェイルの猛攻をも食い止めたという代物である。
それに縛られている以上、これはかなりの危機である…はずなのだが……
「あら、やけにお疲れのようですが、どうされました?」
意外にも、その反応は極めて気軽(フランク)なものであった。
「別に、ちょっと深呼吸してただけですよ」
ここで、隙を見せるわけにはいかない。
ラリスキャニアは、矛鎚を強く握ったまま、こちらも気軽な雰囲気を装う。
けれど、注意深い者が見れば分かるだろう。
その首には、汗が滴(したた)っている。
束縛されているのは、元女神の方のはずなのだが、これではまるでその逆のようだ。
それは、次に悪魔の左手(ディスペータ)がかけた言葉からして、そうだった。
「降伏しなさい。
今ならまだ許してあげましょう。
なるほど、貴女の試みは悪くありません。
『死人の森の支配者』である私を、魔将エスフェイルに重ね、その打倒エピソードを利用して束縛して倒す…素晴らしい計画ですね…それが実行不可能だと言うことを除けば」
これには、流石の地下アイドルもたまらず叫んだ。
「なぜですか!
ボクの業(ワザ)は上手くいっています!
呪力も術式も十分なはず!
そのこと自体は、貴女も認めたではありませんか!」
「簡単なことですよ」
動揺のあまり、必死に訴えるような口調になってしまったアイドル呪術師。
それに対し、麗しい魔女は、含み笑いを浮かべながら静かに答える。
それはつまり…