幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】 作:鳳卵
「再演呪術に実効力を持たせるには、何よりも参照先との類似性が必要です。
確かに、貴方の演技力や変身能力、そして小道具の再現度は見事なものです。
ですが…肝心の“貴方自身の性質”が、あまりに参照先とは掛け離れている。
問題は、吸血鬼の模倣子(ミーム)という差異の存在だけではありません。
何より、貴方とあの『英雄』さんとでは、性格から何から全てが異なっている。
彼女は、貴方のように本心から自信たっぷりではありませんでしたし…『アイドル』という枠組みによって、自らを強く規定してもいなかった。
公演の座興としてならともかく、それだけの不一致を抱えたままでは、呪術として実効力を持った再演など不可能です。
断言しましょう。
貴方(地下アイドル)には、『英雄』(ヒーロー)の演技は、荷が重すぎたのです」
悪魔の左手(ディスペータ)は、むしろ優しく子供を諭(さと)すかのように語りかける。
そう語る彼女は『現実』でも人面樹の形をとっている。
つまりこれは、彼女の『本体』、第五階層の『英雄』を模した悪魔(シナモリアキラ)触手を床に組み敷き、その精力を吸い取りながら行われていること…いわば、彼女にとって、片手間の雑談に過ぎないのだ。
「諦(あきら)めなさい。
不幸や不運は、常に突然訪れる。
どれだけ努力を積み重ねても、何度挑戦を繰り返しても…夢を叶えられるとは限らない。
生まれ持った格差、生来の資質や権力の庇護の差は不変で不可逆。
大きな力とぶつかれば、どんなに努力しても敗北は不可避です。
だから、大切なモノは、ただ一つに限定しなければ何も守ることは出来ないのですよ。
前進して、二つ以上のモノを獲得しようとする発想こそが、何よりも大きな間違いだったのです。
停止し、本当に大切なモノただ一つだけを守り、それ以外のもの全てを切り捨てるのです。
それだけが…激動の時代に生まれてしまった私たちが生き抜くための…唯一の生き方なのですよ」
「そんなことあるもんか!」
「いいえ、『槍』の頂点には誰も敵(かな)いません。
根源(オリジン)たる一者(スタァ)の威光(かがやき)は、世界の全てを影(エピゴーネン)と従えて君臨する。
最も大きく強い愛、あるいは執着や妄執。
それらを持つ者こそが、あらゆるものを支配し、世界や個人の有り様(よう)すら自在に決められる。
それこそがこの呪術世界(ゼオーティア)における絶対の事実…圧倒的な力の格差によって確証される、この世界の『真実』なのです」
「くっ…!
ならば、ボクがそれより美しく、魅力的な舞台(レビュー)を演じるだけのこと!
多くの人に愛される舞台を作れれば、たとえボク自身が弱くても、頂点に打ち勝てるはず…!
お生憎さま!
この場面は、何度も繰り返し読んで練習を重ねているのです!
今回も、練習通りにやるだけですよ!
さあ、最高の再演!至高の二次創作の開幕です!」
地下アイドルは、最低限の自負を誇示し、『フラグ』にならないギリギリの範囲内で全力で呪文(ことば)を紡(つむ)いで自分を強化する。
後はそれこそ自動的に、脊髄反射のように演技(スキル)を繰り出すだけ。
だから、彼女はあえて勝敗や成功率のことを脳内から切り捨て、宣戦の宣言を放つことに集中するのだ…!
そう、この場面で必勝を期す再演となれば、それはただ一つの決め台詞(キーワード)でしかあり得ない…!
彼女が、左手に隠されたギミックを作動させるとーー模造された金色の鎖が弾け飛ぶ!
そして今こそラリスキャニアは、伝説となった英雄の事績(エピック)を声高らかに謡(うた)うのだ。
すなわちーー
「言理の妖…」
「私には、【何も聞こえません】」
「…!?
…!
…!
…!」
まさかの妨害。
そして、発生する異常事態!
混乱するラリスキャニアに対し、悪魔の左手(ディスペータ)は、相変わらず労(いた)わるかのように、優しく解説する。
「この私が『ことわりの呪い』に対して、何の対策もしていないと思いましたか?
言葉なんて、【無視】してしまえば【静謐】に飲み込まれるだけです。
それに、ほら」
いつの間にか、悪魔の左手(ディスペータ)の、その巨大な手首に大きな変化が生じていた。
白いブレスレットが、かかっていたのだ。
それは、連なった小さな骸骨の輪。
よく見れば、それらがもごもごと絶えず口を動かしているのが分かることだろう。
その正体とは……
「この子たちは、かつての『死人の森』の歌い手。
彼女たちには、例の呪文が発動する兆候を読み取ると、その決まり文句に対して逆位相の音波を放つように命じてあります。
あらゆる音は、逆位相の双子と出会うとかき消されてしまう…皮肉が過ぎますし、嫌なことを思い出すので、この対策だけはなるべくは使いたくなかったのですが…ともかく、これであの忌まわしい呪いはもう使えません。
貴方の詰み(チェックメイト)です」