幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】 作:鳳卵
「ま…まだ…」
それでも、なおも食い下がろうとするラリスキャニア。
だが、先代の第五階層女王は、軽く身震(ぶる)いするだけでそれを否定する。
ただそれだけ。
それはたったそれだけの、拒絶の動作でしかなかった。
しかし、次の瞬間、人面樹を束縛していた光の帯は軽く弾け飛んだ。
金色の飛沫が一瞬だけ飛び散り…後には何も残らない。
そして彼女は、宣(のたも)うた。
「ほら、汗の色がもう変わってしまっているじゃないですか。
呪力を消耗し過ぎて、人型を保てなくなっている証拠です。
そのまま続けると、貴方は完全に自我が崩壊してしまいますよ。
いくら今のハグレスが『青い鳥』(ペリュトン)を避けがちだといっても、それでは踏み台にされるのは時間の問題です。
あるいは、今の貴方の資質では、それにすら耐えきれずに擬似細胞が崩壊してしまうかもしれません」
はっとした地下アイドルが、自分の首筋をハンカチで拭う。
見れば、確かに黒く変色している。
汗が、黒いのだ。
それこそまさに、擬似細胞が、徐々に通常形態を保てなくなっている証であった。
そんなラリスキャニアに対し、元女王は宣告を下す。
「さあ、ここで敗北を認め、私に貴方の意志と全ての資源(リソース)を委(ユダ)ねなさい。
もはや、大きな序列の頂点を目指すことなど止めて、
それが、残された唯一の道です。
助けなんて、来ないのですから」
だが、地下アイドルはその程度ではへこたれない。
彼女は、堂々と反論する。
「いいやボクは勝つ!
必ずや最高の再演劇をお披露目して、貴女を納得させ、前へ進んでみせる!
二つ以上のものを手に入れてやる!」
「まだそんなことをおっしゃるのですか…
貴方に再演など不可能です。
そもそも、あらゆるヒトの解釈や理解は、当然のように異なります。
ヒトそれぞれの視座の違い、絶対的で越えられない感性(クオリア)の差異は決して等しくすることは出来ません。
『オリジナル』以外の誰が演じても、それは、本来とは異なる解釈によって歪まされた、別物にしか成りません。
全ての再演、あらゆる複製芸術は、その始まりを歪(いびつ)に再現した『偽物』に過ぎないのです。
それらは皆、悪にして罪。
『本物』のちょっとした午睡(うたた寝)によって見過ごされているだけの、海賊版の二次創作に過ぎないのです。
もちろん、全てを制圧する『邪視』なり『呪文』なりによって、己こそが『紀源(オリジナル)』だと歴史を書き換えられれば、話は違いますが…貴方程度の実力では、それは不可能ですよね?
下手な覚悟や稚拙な技量しか持たない身で、強大な『邪視』(りそう)に立ち向かえば…車輪の前の蛙のように、あっさりと潰されるのがオチです。
そして私は、容赦しません。
アキラ様と私の間に入り込む邪魔者は、ことごとくすり潰して投げ捨ててましょう。
貴方に、その覚悟があるというのですか?」
そう語る悪魔の左手(ディスペータ)は、強く睨(にら)みつけてきた。
冷たさを通り越して、文字通り白熱した視線が、地下アイドルを極北の風のようになぶる。
だが、そうして凍傷と火傷を同時に負いながらも、ラリスキャニアの眼は、諦めていなかった。
彼女は、血を吐くように叫ぶ。
「貴女の言うことは、ただの、トラウマに対する過剰防衛反応に過ぎませんよ!
アイドルは、その名の通り誰もが理想(イデアール)を目指す者!
ボクたちに、『偽物』なんて誰一人いません!
既定の『定型』(テンプレート)や先輩の物真似で有名な『SNA333』だって、やがてただの『複製』(コピーキャット)を卒業していきます!
全裸を禁じられてもラバースーツ着たり、ジュウニヒトエを一着ずつ脱いだり、再現度の低さを左手に乳母役の相方をぶら下げて補ったり!
みんな必死で『本物』になっていっているんです!
『理想』を追い続けるかぎり、アイドルは『本物』に成り続けるものなんですよ!」
「乳母…?」
「あっ」
失言に気づいた地下アイドルは、それをカバーしようと、とっさに猛烈な弁舌を放った。
「そしてもちろん、覚悟はあります!
さっきのリーナの劇と同じですよ!
ボクはただ、全力で再演に取り組むだけ!
二次創作は、再演とは、原作の楽しみの共有!
『オリジナル』が唯一無二だというのなら、その魅力を広めることは不可能になります!
だから、ボクらは再演をするのです。
自分なりの全力の理解と解釈、自分なりの全力の表現!
それでもって、失われた過去を呼び戻し、観客(みんな)のいる現在(いま)とのつながりを活性化させて生命と尊厳を、そして承認を取り戻すのです!
だから、たとえ何もかもが足りないとしても…そのために全力を尽くします!
だって、それだけがボクに出来ることですし、それこそが、全ての表現者の限界なのですから!
あるいは、ボクの再演劇は、おっしゃるとおり侮辱的で暴力的な二次創作に過ぎないのかもしれません。
けれど、たとえそうであっても関係ありません!
アイドルには、芸人には特権があります!
観客を説得することが出来れば、楽しませることが出来れば、許されることもあるのです!
そうなれば、暴力は暴力ではなくなります!
それをボクは、学園で学びました…学んだような気がします。
だから…」