幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】 作:鳳卵
「「そうは思いません!」」
骨の牢内で完全に拘束されながらも、地下アイドルは、叫ぶように反論を続ける。
だが、
「本当にそう思いますか?
貴方だって、少し前まで、奪われる恐怖に怯(おび)えていたというのに?」
「「そ、それは…」」
続く反撃には立ち向かえず、思わず腰砕けになってしまった。
元女王(ディスペータ)がこの機を逃すわけもない。
すかさず、畳み掛ける。
「これまでは、『上』の略奪主義と『下』の魔将たちの偽善的な収奪の恐怖に、ずいぶん苦しめられてきたのでしょう?
だから、貴方はもう休んで良いのです。
肩肘張るのをやめて、楽になりましょう。
頼りにならなかったり、こちらを利用し搾取(さくしゅ)してくるだけの同盟相手など、放っておけば良い。
依存はやめて、自然体に戻りましょう。
今の貴方を認めてくれている、ファンの承認だけで満足して、戦いをやめるのです」
元女王は、再三にわたって語りかけてくる。
その声は、まるで子守唄のように優しい。
それを聞いたラリスキャニアは、思わず母を幻視してしまう。
偶発的な転生者の彼女は、母親なんて、産まれてから一度も見たことがないというのに……
しかし、ここで押し負けるわけにもいかない。
地下アイドルは、頭を振って余計な幻想を追い出し、反論を続けた。
「「確かにボクは一度は持っているものを奪われる恐怖に怯え、陰謀を語るだけの無為(むい)な時を過ごしていました」」
やはり、そのことについては、認めざるを得ない。
「それなら…」
過去は、決して変えられない。
この夢と現実が混淆(こんこう)する第五階層でさえ、大多数の人類(ロマンカインド)にとってはそれは厳然たる真実である。
少なくとも、ラリスキャニア程度の呪術使いにとっては、過去は相変わらず不可逆なままだ。
「けれど!」
地下アイドルは何度でも食い下がる。
「けれど、よりによって貴女にそんなことは言われたくありませんね」
「…それは、どういう意味ですか?」
こちらに詰め寄る元女神は、確かにとても恐ろしい。
しかし、ラリスキャニアは、それでも胸を張って言い返す。
何度も、何度でも。
聞き返す悪魔の左手(ディスペータ)に対し、ラリスキャニアは、一つの動作を以(も)ってその返答とした。
彼女は、元女王のその巨大な手首を、そこに行儀良く並んでいる髑髏(ドクロ)たちのブレスレットを指差したのだ。
「ほら、それだけ『死人の森』の住人たちから助力を得られているというのは、貴女が愛されているという、何より確かな証拠なのではありませんか?
そう、先程までの貴女の言動は、激しく矛盾しています!
貴女はその地位を追われた今も、彼女たちにそんなに慕(した)われているじゃないですか。
もし、貴女の統治が、彼女たち臣民に幸福をもたらしていなかったのなら…そんなふうに、大変な"作業"に従事してくれるわけがありません。
間違いなく貴女からの愛は、確かに彼女たちに届き、彼女たちもまた、貴女をしっかりと愛しているのです!
それは、貴女が今もなお、女王にふさわしい精神を持ち続けているという、何よりの証ではないでしょうか?
つまり、貴女は、彼女たちへの愛を捨てられてはいない!
『死人の森』の王権にこだわり、かつての古王国ヒュールサスの女王を潜伏時も要職につけていたこと、六人もの王たちを傅(かしず)かせていたこと…その全てが、貴女が配下を大事にする女王であることを、示しています!
結局、捨てろ切り捨てろとおっしゃっている貴女だって、"二つ以上"を求める“強欲”をまだ捨てられてないじゃないですか!
そしてきっと…いや、絶対!
貴女の“再演は悪”だと言う主張の方も、その露悪な言動と同じように、間違っているのです!」
長々とした演説。
そして、それに返されたのは…
「それが、何だと言うのですか?」
それは、怒りではなかった。
その声から感じられたのは……
美しい唇が静かに動き、紡(つむ)がれるその言葉は、
「それらは全て、"アキラ様"という唯一無二の価値を得るための"材料"
いわば、"引換券"のようなものに過ぎません。
『貨幣』と同じく、愛しく眼差(まなざ)せる対象が無ければ、それは無意味な増減する数値の表現でしかない。
私がどのように臣民に思われようが、そんなことは関係ありません。
私には、アキラ様さえあれば良い
彼を所有し守り続けられれば満足です」
とてつもなく重く、切ない感情に満ちていた。
ラリスキャニアは勘違いしていた。
そこにあるのは、彼女が予想していたような、不運からくるひねくれと暴走(ツッパリ)などではなかった。
元女王(ディスペータ)が抱いていたのは、深い悲しみ。
そして、どうしようもない諦観(あきらめ)の意志だったのだ。