幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】   作:鳳卵

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第126話(101~その2の1の途中まで)

「「そうは思いません!」」

 

骨の牢内で完全に拘束されながらも、地下アイドルは、叫ぶように反論を続ける。

だが、

 

「本当にそう思いますか?

貴方だって、少し前まで、奪われる恐怖に怯(おび)えていたというのに?」

 

「「そ、それは…」」

 

続く反撃には立ち向かえず、思わず腰砕けになってしまった。

 

元女王(ディスペータ)がこの機を逃すわけもない。

すかさず、畳み掛ける。

 

「これまでは、『上』の略奪主義と『下』の魔将たちの偽善的な収奪の恐怖に、ずいぶん苦しめられてきたのでしょう?

だから、貴方はもう休んで良いのです。

肩肘張るのをやめて、楽になりましょう。

頼りにならなかったり、こちらを利用し搾取(さくしゅ)してくるだけの同盟相手など、放っておけば良い。

依存はやめて、自然体に戻りましょう。

今の貴方を認めてくれている、ファンの承認だけで満足して、戦いをやめるのです」

 

元女王は、再三にわたって語りかけてくる。

その声は、まるで子守唄のように優しい。

 

それを聞いたラリスキャニアは、思わず母を幻視してしまう。

偶発的な転生者の彼女は、母親なんて、産まれてから一度も見たことがないというのに……

 

しかし、ここで押し負けるわけにもいかない。

地下アイドルは、頭を振って余計な幻想を追い出し、反論を続けた。

 

「「確かにボクは一度は持っているものを奪われる恐怖に怯え、陰謀を語るだけの無為(むい)な時を過ごしていました」」

 

やはり、そのことについては、認めざるを得ない。

 

「それなら…」

 

過去は、決して変えられない。

この夢と現実が混淆(こんこう)する第五階層でさえ、大多数の人類(ロマンカインド)にとってはそれは厳然たる真実である。

少なくとも、ラリスキャニア程度の呪術使いにとっては、過去は相変わらず不可逆なままだ。

 

「けれど!」

 

地下アイドルは何度でも食い下がる。

 

「けれど、よりによって貴女にそんなことは言われたくありませんね」

「…それは、どういう意味ですか?」

 

こちらに詰め寄る元女神は、確かにとても恐ろしい。

 

しかし、ラリスキャニアは、それでも胸を張って言い返す。

何度も、何度でも。

 

聞き返す悪魔の左手(ディスペータ)に対し、ラリスキャニアは、一つの動作を以(も)ってその返答とした。

彼女は、元女王のその巨大な手首を、そこに行儀良く並んでいる髑髏(ドクロ)たちのブレスレットを指差したのだ。

 

「ほら、それだけ『死人の森』の住人たちから助力を得られているというのは、貴女が愛されているという、何より確かな証拠なのではありませんか?

そう、先程までの貴女の言動は、激しく矛盾しています!

貴女はその地位を追われた今も、彼女たちにそんなに慕(した)われているじゃないですか。

もし、貴女の統治が、彼女たち臣民に幸福をもたらしていなかったのなら…そんなふうに、大変な"作業"に従事してくれるわけがありません。

間違いなく貴女からの愛は、確かに彼女たちに届き、彼女たちもまた、貴女をしっかりと愛しているのです!

それは、貴女が今もなお、女王にふさわしい精神を持ち続けているという、何よりの証ではないでしょうか?

つまり、貴女は、彼女たちへの愛を捨てられてはいない!

『死人の森』の王権にこだわり、かつての古王国ヒュールサスの女王を潜伏時も要職につけていたこと、六人もの王たちを傅(かしず)かせていたこと…その全てが、貴女が配下を大事にする女王であることを、示しています!

結局、捨てろ切り捨てろとおっしゃっている貴女だって、"二つ以上"を求める“強欲”をまだ捨てられてないじゃないですか!

そしてきっと…いや、絶対!

貴女の“再演は悪”だと言う主張の方も、その露悪な言動と同じように、間違っているのです!」

 

長々とした演説。

そして、それに返されたのは…

 

「それが、何だと言うのですか?」

 

それは、怒りではなかった。

その声から感じられたのは……

 

美しい唇が静かに動き、紡(つむ)がれるその言葉は、

 

「それらは全て、"アキラ様"という唯一無二の価値を得るための"材料"

いわば、"引換券"のようなものに過ぎません。

『貨幣』と同じく、愛しく眼差(まなざ)せる対象が無ければ、それは無意味な増減する数値の表現でしかない。

私がどのように臣民に思われようが、そんなことは関係ありません。

私には、アキラ様さえあれば良い

彼を所有し守り続けられれば満足です」

 

とてつもなく重く、切ない感情に満ちていた。

 

ラリスキャニアは勘違いしていた。

そこにあるのは、彼女が予想していたような、不運からくるひねくれと暴走(ツッパリ)などではなかった。

元女王(ディスペータ)が抱いていたのは、深い悲しみ。

そして、どうしようもない諦観(あきらめ)の意志だったのだ。

 

 

 

 

 

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