幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】 作:鳳卵
異形の姿と成り果てたかつての王者は、その決意を静かに語る。
「それら全ては、ただ一つの大切なものを守り抜くための…必要な犠牲、代価(イケニエ)でしかありません。
それを自己中心主義者(エゴイスト)と罵(ののし)りたければ、存分に罵れば良いでしょう。
望むものを唯一に絞り、それ以外を踏み台にしなければならない私を、無力で愚(おろ)かと非難したければ、すれば良い。
私はもう十分に欲をかき、無限に近いほどの失敗を繰り返しました。
もはや二兎を追ったり一石で二鳥をとろうとして、全てを失うのはゴメンです。
“兎”は閉じ込め“鳥”はシメて、どちらも冷凍して保存すれば、永久に手の内に留めておけます。
強大な力の専制支配に対抗するには、自らも強大な力を以(も)って支配するしかない。
それが唯一の選択肢なのです」
語り終えた太古の魔女は、口を閉じる。
あまりにも強く、そして悲痛な意思。
その静謐に込められたのは、一体いかなる感慨か。
少なくとも、本音をしゃべりすぎて後悔したり、炎上を恐れているわけではないだろう。
人面樹から感じられるのは、何ものにも揺るがすことの出来ない不動の確信、それだけなのだから。
その前には、さしもの地下アイドルも、沈黙するしかないように見えた。
だが、彼女はなおも語り続けた。
骨の“有刺骨線”に縛られ、一語ごとに真っ赤な血を吹き出しながらも…それでも、なお。
「やっと分かった。
ボクが貴女に、いや、“貴方方”に何を求めていたのかを。
それは、死に向かい合う意志、その証明をすることだったんだ」
「貴方はまた、唐突に何をおっしゃっているのですか?」
あまりに呆(あき)れたためか、なぜか攻撃の手を止め、元女王(ディスペータ)は、またもや質問に転じていた。
あるいはそれは、地下アイドルが指摘した通り、彼女が持つ生来の世話焼き気質に、由来するものだったのかもしれない。
ともかく、その隙とも言えない間を狙い、ラリスキャニアは語り続けた。
「ボクは本当は、失敗したり、負けたくないんじゃない。
“死にたくない”んじゃあないのです!
ボクは、"ボクら"は、生きたい!
本当の本物として生きて、輝いていたいんだ!
けれど、アイドルは死にます。
どうしようもなく、死んでしまいます。
たとえ戦争がなくても、暴力にさらされなくても!
ひとたび発揮された技芸(アート)は、たちまちのうちに人気を失い、飽(あ)きられていく!
敗れ去り、飽きられ、忘れ去られること。
それは、死です。
アイドルは、牙猪(パビルサ)のように、常に死に直面しています。
けれど、だからこそ…アイドルは、ボクたちは、転生していくんです!
一秒一秒、一瞬一瞬新しく、より新鮮で美しい輝きを目指して、生まれ変わっていくんですよ!
究極の先!
一瞬一瞬の全力の、更にその上を目指していく!
それが、悪だったり、醜いわけがありません!
アイドルは、みんな全力で生まれ変わるのです!
ボクらの舞台を観た全てのヒトビトが、新たな舞台を観るたびに、再会するたびに毎回、"時よ止まれ、あなたは美しい"と、そう語れるような、ずっと語り続けられるような永劫の飛翔を目指して!」
また突然の熱弁。
それを最古の女神は、更なる諦観を以(も)ってまたも迎え撃つ。
「世迷(よま)い言を。
いくら転生を、繰り返しを続けたところで、絶対的な力の差はそうそう変わりません。
デビュー作を超えられなかったり、新しいアイディアを思いつけない作家なんて、いくらでもいますし、若い頃の記録を更新出来ないスポーツ選手は、リアルでも『e』でも珍しくありません。
生来持ち合わせた、本質的な魂の質と格。
それが圧倒的なまなざしの力の差となって、世界における序列を、勝敗を決めていく。
それでも貴方は、挑戦こそが善であると、思考停止した積極性(ポジティブ)さを押し付けようというのですか?
そして、大切なものを限って引きこもることを、いかにもな魔女の邪『悪』だと罵(ののし)るのですか?」
地吹雪のように叩きつけられる、疑問の形をとった否定(アンチテーゼ)の数々。
それらは、呪文となってラリスキャニアを打ちのめす。
けれどやはり、地下アイドルはそれでも立ち上がる。
いや、実を言うと倒されてはいる。
けれど彼女は、打ちのめされるたびに『再転生』によって復活しているのだ。
そして、その反撃は、復活から間を置くことなく放たれる。
「ですから、そのために"死"が必要なのです
本当に、きちんと死ななければ、本当に生き直すことなんか、転生なんか出来るわけがありません!
確かに、この第五階層でなら、たとえ死んでも転生出来るかもしれません。
けれど!
ボクは思うのです。
それだけじゃ、本当に助かることには、古い自分の業(けってん)を捨てて、生まれ変わることにはならないんだ、と。
命をかけなければ…
完全燃焼して死の淵に近づき、自分の力量の果て、自身の限界(りんかく)を確認しなければ、最高の演技(ひょうげん)なんて出来るわけがありません!
だから、ボクは…ボクらアイドルは、いつだって生死の淵で自分の限界を覗いているのです!
『現場』で転生を続ける生き様!
ボクらアイドルが持つ、限界を除く力!
それこそが、これから貴女を打ち倒す、ボクの決め業(ワザ)です!」