幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】 作:鳳卵
「仮にも『死の女神』ーー元・死の女神たるこの私に『死』を説きますか。
本当に身の程知らずですね。
あるいは既に、貴方の芸術的センスは『死んで』いるのではありませんか?」
静かなる圧迫。
それは実際の『死』に至る脅威だった。
圧倒的な力を持つ視線が、地下アイドルを押し潰さんとする。
そこへ更に、駄目押し のように追加で問いが投げかけられた。
「そして、ずいぶんとおしゃべりが長いようですが…“助っ人”とやらは、どうしたのですか?」
地下アイドルのあまりの長広舌に、すっかり毒気を抜かれてしまったのだろうか。
先程までの怒りはどこへやら、人面樹(ディスペータ)は、すっかり余裕の構えだ。
まあ、それも当然。
この実力差では、何をしたところで形勢(けいせい)を覆(くつがえす)すことは不可能だろう。
しかし、それでも元女王様は、その質問だけは、せずにはいられなかった。
なにしろ、目の前のアイドルは、一度は己と宿敵を出し抜いたのだ。
たとえそれが偶然であるにしろ、少なくとも“その偶然を打ち破った”という実績は作っておかねばならない。
呪術世界ゼオーティアでは、偶然は容易(たやす)く必然へと変わってしまうのだから。
ここでは、牽強付会(けんきょうふかい)が『事実』となり、思い込まれた妄想こそが『現実』になってしまう。
この世界において公的印象(パブリックイメージ)の操作は、完全な勝利を得るためには不可欠なのである。
そうした思いが、最後の最後で未練となり、かつての女神に一手を誤らせ、攻撃より質問を優先させてしまった。
けれど…それは、悪手だった。
幼き日、好奇心だけを胸に冒険を繰り返していた前世/来世に戻ってしまったかのような、反射的な対応(うっかり)であったのだ。
そして、その落ち度の結果は既にーー
「いやそういえば、貴方、“もう一人”は、一体どこにいきました?
いつから、分身を解除していたのですか?」
ーー彼女の重大な見落としという形で、現れていたのである!
※
その時、地下アイドルは、自らの特技を追加で発動させていた。
『心の抽斗』(こころのひきだし)
それは、『夜の民』特有の収納能力。
この能力には特徴がある。
ーー取り出すだけなら、何の動作も不要なのである。
なにしろ、早着替えに使っている英雄もいるくらいだ。
だから、いくら全身を拘束されていても、ラリスキャニアが一つの物体を取り出すことに、何の問題もなかったのだ。
それは、全ての拘束を押し退けて出現した。
流石(さすが)の女王も、こんな戦法は予想出来なかっただろう。
そもそも、『夜の民』が『心の抽斗』にこれほど大きいものを入れていること自体が極めて例外的なケースである。
呪力回復のため、大量のお菓子を迷宮に持ち込む探索者でさえ、階層を一つ越える頃には、『抽斗』の中身もほぼ空になっているのが、当たり前なのである(※探索者協会調べ)
だが、彼女が取り出したその物体は、持ち運ぶのも難しいほどの、大きさと体積を誇っていた。
それは霊長類型の形状(シルエット)を持ち、手も足もあった。
けれど同時に、明らかに生命ではなかった。
タイトなスーツ、眼鏡、セミロングの髪、やけに描き手の力が入っている嫌味な表情。
そして、そこらの木や布、がらくたを集めて適当に組み上げられかのような、粗雑なボディ。
それら全てが、それがある一つの存在の模造物であることを示していた。
つまりそれは…ラクルラール人形であったのだ。
「やはり、そういうことですか!」
それを見て、人面樹(ディスペータ)は、猛(たけ)りたった。
自分に対抗出来るような相手なんて、そしていちいち邪魔をしてくるような敵手なんて、この世にただ一人しかいないに違いない。
それこそ、彼女の根幹を成す思い込みであり、『信念』であった。
だからこそ、次の瞬間、彼女は全力で攻撃を仕掛けていた。
高速で骨の枝が伸び、人形を大きく薙(な)ぎ払ったのだ!
一撃だった。
その一撃で、人形はあっけなく壊れて…ボールのように首が飛んでいく。
「これで…いや、あっけなさすぎる…?」
そう、その首は、あまりにも無抵抗に飛んでいった。
まるで、最初からそのように『設計』されていたかのように。
そして…その軽すぎる感触は、熟練の術師が己が失態に気づくには、十分なヒントであった。
元女神の驚愕(きょうがく)が、また思わず口から漏(も)れ出す。
「まさか、それが狙いで!?」
彼女は気づいた。
人形は、他の何かを引き出すカギ、一種の『索引』だったのだ。
言ってみれば、罠である。
つまり、首を無くすことで、初めて意味を持つスイッチ式のトラップ。
それが今、起動する…!
「傷口から、血!?いや、この“色”は!」
それはまるで、悪質なパロディだった。
切断された人形の首。
そこから、『朱』色が一斉(いっせい)に辺(あた)りに溢(あふ)れ出したのだ。
それは、血ではない。
それどころか、液体ですらなかった。