幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】   作:鳳卵

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第129話(その2の2~3の途中まで)

「この『光』は…!?」

 

溢れ出したのは、部屋全てを満たさんとする怪光。

夕焼けを思わせる色彩が、洞窟のような部屋を溶岩のように染め上げる。

 

まるでワインボトルを落としたかのような有り様だが、

もちろん、事実は異なる。

 

そこで、どさくさに紛(まぎ)れていつの間にか牢(ろう)から脱出した“興行主”が、朗々とした声で

事態の説明を語り出した。

 

「夢へと繋がる“絆の扉”!

それを通じて舞台を開き、再演を以(も)って、観客と一緒に生まれ直す!

これが“ボクら”の転生です!」

 

そしてなぜか、その背後では、牢獄の役割を抜け出した二本の腕が、揃って黒い短光槍(サイリウム)を振っている。

 

瞬間、奇怪な状況に思考が追いつかず、またもや呆然(ぼうぜん)とするしかない元女王(ディスペータ)

 

もちろん、逆転を目指す地下アイドルが、その隙を逃(のが)すわけもない。

 

すると、

 

ガチリ

 

という音が部屋に響いた。

どこかで、歯車の動く音がする。

 

その作用は、すぐに現れた、

これまでもひっそりとラリスキャニアの自室に飾られていた品、その留め具が外れたのだ。

 

狩人の絵が、落ちる。

 

ラリスキャニアの恐怖の、そして見事コンクールに受賞した名誉の象徴が。

床に叩きつけられ、塵芥(ゴミ)のように打ち捨てられる。

 

だが、地下アイドルはそれに目も向けない。

そんな余裕は、どこにもないからだ。

 

今、見るべきは、絵が飾られていた場所。

そこに隠されていたのは……

 

「黒い丸…『夜月』(スキリシア)ですか!?」

 

そう、それは呪術の基礎の基礎、類感の業(ワザ)

かつて、原始の狩人たちが、失われた獲物を乞(こ)い願って行ったという、最古の呪術。

 

あらゆる分類が渾然一体(こんぜんいったい)となっていた洞窟の呪い。

 

理想を観る『邪視』(まなざし)、それを具現化し有り得ざる奇跡をただの事実へと引き下ろすための『杖』(ぐげんか)、狩人と獲物の『使い魔』(かんけいせい)

 

そして、最後に……

 

「具象化された図像は、異界へと、未知なる明日へと続く“扉”

そしてボクが、その“扉”の案内人に、世界を変える蝶になってやります!」

 

大仰(おおぎょうな)『呪文』(MC)が、それを補完する!

 

地下アイドルは、そこで再度『大見得』を切った。

黒い月を背景にしたその背からは、はっきりと、青い羽が広がっている。

 

だが当然、不用意な発言には、即座に批判(ツッコミ)が入る。

 

「夜に飛ぶのは蛾ですよ!」

「では、両者に差が無いことは、ご存知ですか?

スキリシアでは、夜に蝶が飛ぶこともーー!」

 

しかし、ラリスキャニアはそれを軽く躱(かわ)す。

 

あえて弱所を用意しておくことで、肝心の大言壮語への半畳(まぜっかえし)を防ぎ、主導権を握り続けるという、『呪文』戦の基本技術である。

 

とはいえ、この程度は幼年学校の生徒でも容易にこなす技法。

元女神(ディスペータ)も、本気で阻害しようと思ったのではないだろう。

 

この程度の牽制(ジャブ)は、相手の真髄を暴くための弱い“打診”に過ぎないはずだ。

その証拠に、“幹”に浮かぶその表情には、一切の動揺が見られない。

 

しかし、地下アイドルがその次にとった行動への反応(リアクション)は、大きく異なった。

 

なにしろ、ラリスキャニアは、その時、ずっとマントの隠し(ポケット)に持っていた紙の束を、彼女のファンからの手紙を突然取り出してーー

 

ーーそれらの手紙を、食べたのだ。

その顔は青い鹿となり、むしゃむしゃと何通もの封筒、幾枚ものハガキを咀嚼(そしゃく)していく。

 

かくして、呪術が進行する。

唖然(あぜん)とする人面樹(ディスペータ)を、その精神を置き去りにしたまま。

 

見れば、鹿頭の後ろには鉄願の民の頭が生えていて、ちょうど鹿頭が帽子のようだ。

 

いや、むしろ逆なのかもしれない。

鉄願の民の方が、鹿頭の背後を守護する魔除けの飾りなのか。

 

ともかく、もうひとつの頭は語った。

 

「死を司る魔女に、死に抗うものはただ一つ。

そう、『生命』!

そしてその象徴たる現象!

春、過剰な消費、流行ファッション、植物の繁茂(はんも)といった『生育』や『成長』を表す振る舞い!

更にそこへ付け加えるなら、それは『生育』を前提としてそれを消費する行為!

すなわち『食』こそが、偉大にして強大なる貴女への理想的な対抗手段なのですよ!

魔女ディスペータ!」

 

堂々たる宣告。

だが、それを受けた相手は……

 

「そ、そんなものを食べたらおなかを壊しますよ!」

 

どうやら、まだ異様な振る舞いを目撃した衝撃からは、立ち直れていなかったようだ。

 

人間(ロマンカインド)、狼狽(うろた)えると本性が出るというが…元女王(ディスペータ)は、再生者たちの母。

ならば、彼女の『地』が、かなりの母性愛(オカン)気質であると言うのは、別に驚くべきことではないのかもしれない。

 

 

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