幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】   作:鳳卵

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第13話(10の途中〜11の途中)

「ボクが『大アイドル時代』の概念にたどり着いたのは、この三人の関係に気づいた時だった」

 

アイドル迷宮から出たことがない地下アイドルが端末のスイッチを入れると、洞窟マイルームの壁に再び幻影が映し出された。

 

それは、三人の美少女だった。

 

満面の笑みを浮かべるもの、神秘的な雰囲気でたたずむもの、他と一線を画した異形の美を持つもの。

彼女たちは、三者三様ながらもいずれ劣らぬ魅力を持っていた。

 

天使(レオ)触手は、彼女たちが唯一持つと思われる共通点に気づき、それを指摘する。

 

「【黒百合】(チョコレートリリー)の皆さんですね!あれ、でも三人だけですね。この三人、ユニットでもないし・・・」

 

「良いところに気づいたな」

 

まあ、私自身なのだから当然か、とラリスキャニアは天使(レオ)触手を褒めた。

この場合は、やはり自画自賛になってしまうのだろうか?

ともかく、今は思考の整理が先決だ。

地下アイドルは、触手と共に画像を観ながら話を続ける。

 

「確かに、この【黒百合】の三人には、ほとんど共通点が無いように見える。一人はアイドルですらないし、もちろんユニットを組んでいるわけでもない。同じ探索者集団のメンバーであるというだけだ。今は、まだね」

 

「つまり、これからユニットを組む可能性がある、とラリスキャニアは考えているんだろう?そんなの気にしても仕方ないんじゃないか?」

相変わらず撫でられ続けたままの悪魔(アキラ)触手も、ここで合いの手を入れてきた。

 

だが、ラリスキャニアは、悪魔触手の方をにらみながらかぶりを振った。

 

「いいや、その答えは確かに正解ではある。だが同時に不正確だ。ボクが気にしているのは、単なる大型新人アイドルグループ結成の可能性じゃあない。

それだけでもかなりの脅威ではあるが、この三人、いやこの三人が組み込まれるであろうアイドルプロジェクトは、世界の有り様をまるごと変えるほどの脅威に成り得るんだよ」

 

「どういうことですか?」

 

天使(レオ)触手の再度の問いに、地下アイドルは左端の画像を指さしながら告げた。

 

「カギはこの【街路樹の民】、いやティリビナ人の少女だ。『歌姫Spear』のライブは、いくら人気があるとは言え、今のままでは単なる『地上』のイベントに過ぎない。

だが、彼女とコルセスカ、そして新たに登場するであろうもう一人がアイドルとしてそこに加わることで、それはこのゼオーティア全土を包み込む一大ムーブメントなるんだ。おそらく、それこそが『空使い』リーナ・ゾラ・クロウサー、クロウサー家当主の計画なんだよ」

 

「でも、リーナさんが、別にこれまで暴力的だったり、悪いことをしたという話は聞いたことありませんよ。僕は、リーナさんは良い人だと思います」

 

天使(レオ)触手は、悪魔(アキラ)触手を撫でながら説明マニアな地下アイドルに静かに反論した。

 

その悪魔(アキラ)触手はと言えば、先程のラリスキャニアの一撃によって地に伏したまま、猫耳美少年触手と自分の左腕から撫でられて介抱されているようだ。

さらに、地に伏している悪魔触手のあたりから、しくしくと泣き声まで聞こえ始めた。

 

再演の都合とは言え、呪術で悪魔触手を黙らせたのは失敗だったかも知れない。

そう考えたラリスキャニアは、治癒符を悪魔触手に放った。

 

「ごめん、やりすぎた。これを使え」

 

だが、治癒符を放った先からは泣き声はなりやまなかった。

 

「いんぼう好きな暴力地下アイドルに暴力をふるわれたよーいたいよー。治癒符五千億枚ぶんの慰謝料がほしいよー」

 

「…どうやら、大したことは無いようだな。あと【七色表情筋トレーニング】と泣きマネをやめろ。それじゃまるで、ボクが演技ヘタみたいだろ!」

ラリスキャニアがクレームを入れると、とたんに泣き声がやんだ。

 

「それで、お前はリーナがどんな陰謀を練っていると思うんだ?」

 

泣き声と入れ替わりに響いたのは、いかなる感情をも伺わせないフラットな声であった。

どうやら、やはりさっきのはただの泣き真似であったらしい。

 

「陰謀というか、さっきも言ったが。アイドルプロデュースによる世界制覇だな。それ自体はありふれていると言っても良い試みだ」

 

気を取り直して、ラリスキャニアは説明を再開した。

リーナ・ゾラ・クロウサーと同盟関係にある人物の再現(再演)体である悪魔(アキラ)触手は、地に伏しながらも冷たい目でこちらをしっかりと観察している。

その視線を感じながら、彼女は語り続けた。

 

「やはりなんと言っても、一番違和感があるのはプリエステラだ。【黒百合】の中で、彼女だけが『上』の出身ではない」

「でも、プリエステラさんたち『ティリビナの民』は、もう『地上』のひとですよ。他ならぬ【黒百合】皆さんも、それを支援してます!」

 

天使(レオ)触手が再度反論する。

 

「そうだ。そこにこそ違和感がある」

 

そう語りながら、ラリスキャニアは、洞窟の壁の中央に映し出されているプリエステラの画像に『地上』における慰霊祭の念写動画を重ねた。

動画の中では、頭部を大きな花弁で飾られた少女が杖を振り、小さな苗を大きな黒檀の樹に成長させている。

 

「『ティリビナの民』は、この慰霊祭の直前まで【異獣】だった。差別され迫害される、序列の外側(アウトカースト)の存在だったんだ。それが、突然クロウサーの娘がいる探索者集団に受け入れられ、あまつさえこうして大舞台で演技をすることを許されている。いくらなんでもおかしすぎないか?」

「その理由が【アイドル】だって言うのか?」

悪魔(アキラ)触手の問いかけに対し、ラリスキャニアはうなずく。

 

「そうだ。『樹妖精』(アルラウネ)プリエステラの名前が初めて表に出てくるのは、【黒百合】による舌獣イキューの討伐時だ。

だが、彼女とリーナの関わりがこれが初めてとは到底信じられない。何か…あるはずだ。【異獣】だった少女とクロウサーの令嬢を結びつける線が」

 

「だが、その二人がどうやって知り合ったのか、なんてどうやって調べるんだ?お前はここから出たことがないんだろう?」

 

悪魔(アキラ)触手は、重要な前提を地下アイドルに問う。

それに対して、いまや安楽椅子探偵と化したラリスキャニアは、こともなげに答えた。

 

「もちろん、限界はあるさ。だが、今は情報の時代、そしてここは、広まった情報がそのまま真実となる世界(ゼオーティア)だ。いくらでも方法はある。

リーナの学友、教師、探索者協会の受付嬢や同時期に活動していた他の探索者、そうした知人友人に加え、ただ単に彼女とすれ違っただけの一般人まで、クロウサーの長に関する情報なんてアストラルネットに溢れている。

どちらかと言えば、情報を集めるより、それを精査して分析するほうが難しい。

まあ、自称元カレとか怪しげな奴らは、マスコミなんかの手で自動的に排除されてるみたいだけどね」

 

そう語りながらラリスキャニアが端末を操作すると、洞窟マイルームの壁にまた新たな念写映像が次々と現れた。

 

洞窟の壁に映し出された映像窓の中では、三角帽子を被った若き魔女たち、汗だくになりながらリーナを称賛する教授たち、わずかな遭遇経験を大げさに語って自分を箔付けしようとする探索者たちなどが、次々と語り出していて、実に賑やかだ。

 

「数多の虚言、妄想、自慢話をより分けて解ったことがある。リーナ・ゾラ・クロウサーは、昔から『樹妖精』の少女と、プリエステラと繋がりがある。【黒百合】の結成で初対面だったわけじゃないんだ」

 

「どういうことだ?」

 

ラリスキャニアの言葉に対し、悪魔(アキラ)触手は相槌を…打ったようだが、なんだかその声音は妙だった。

見ると、"彼"はなぜか自分の左腕を抑えている。

 

その下には何が?と続けて見るに、"彼"は左腕を抑えていた右手を浮かせ、すぐさま左腕の元の位置に戻した。

「どういうことだ?」

 

また、相槌。

だが、これだけでは終わらない。

 

悪魔(アキラ)触手は、続けざまに右手を振り上げ振り下ろす行為を繰り返す。

そのたびに

 

「どういうことだ?」

 

と悪魔(アキラ)の声が、洞窟マイルームに響いた。

同じ言葉を繰り返すだけではない。

続けるうちに、相槌には次々とバリエーションが増えていった。

 

「へぇー」

「なるほどー」

「そだねー」

「そうなのかー」

「さようでございますな」

「それからどうした」

「感動した!」

「バブリー!」

 

「すげー」

「やべぇ」

「ラリスキャニア様のおっしゃる通りですな」

「アキラ!感激!」

 

そして、どんどん雑になっていった。

 

ラリスキャニアは、見た。

悪魔触手がさっきから抑えて…いや押している左腕には、一つのイボがあった。

悪魔と契約した魔女の身体にはイボが出来ると言うが、アレはもっと分かりやすい存在であろう。

 

あの"イボ"は、悪魔(アキラ)触手が、相槌役としての自分の役割をアウトソーシングするために創り出したものと見て相違ない。

あれこそは、押すたびに"本体"に代わって、相槌ボイスを発生するボタン、いわば"相槌ボタン"と呼ぶべきものだろう。

 

あの怠け者の悪魔(アキラ)触手、ラリスキャニアの話に付き合うのがついに嫌になったと見える。

 

疑似再演されているラリスキャニアの配下、そして身体の一部に過ぎないくせに、自分の役割をアウトソーシングするとは何事か。

 

ラリスキャニアは、悪魔(アキラ)触手をどなりつけてやろうとしたが、やっぱりやめることにした。

結局、重要なのはこの擬似的な対話劇(ダイアローグ)を続けていくことだけだ。

 

相槌が機械的なボタンになること自体はやりづらいが、相手役はまだ天使(レオ)触手もいるので十分事足りる。

反抗的だからといって、いちいち自分で自分の触手をシバくのも、それはそれで面倒だ。

結局自分の身体だから、実は痛かったりするし…。

 

仕方ないので、ラリスキャニアはとりあえずひたすらまくしたてて話を進めることにした。

別にそれは、悪魔(アキラ)触手を敬遠しているとか、彼がひたすら"イボ"を押すたびに、彼の左手に浮かんだ美女の顔が変なふうに歪んだりなんか艶っぽい声を出すことに深く関わりたくないとかではないのだ。

 

たぶん。

 

 

 

 

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