幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】   作:鳳卵

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第130話(その2の3の途中まで)

ともかく、その『母』の危惧は当たっていた。

 

なにしろ、バクバクと手紙を食べ続ける地下アイドルの口から、紫色の煙が漏(も)れ出している。

耳からも身体からも吹き出しているアレは、誰がどう見ても悪質な呪詛であろう。

 

もっとも、呪術研究が進んだ今日日(きょうび)そんなものを仕掛けるのは、よほどの例外的な事例(ケース)でしかあり得ない。

 

こんな古式ゆかしい呪いは、効果が不明瞭(ふめいりょう)なうえに、非効率なまでに大量の呪力を要求してくるからだ。

 

現代でわざわざそんなものを試みるのは、よっぽどの専門家(プロ)か、運任せの嫌がらせか、あるいはとてつもなく執念深く恨みを抱いた者ぐらいであろう。

 

それは例(たと)えば…そう、地下アイドルの反発者(アンチ)やストーカーや、ライバルのような。

 

つまり、ラリスキャニアにこうして"ファンレター"を送ってきてもおかしくない者たちであり…だからまあ、そういうことであった。

 

と言うよりこの場合、それを熟知していながらも、あえてその呪詛をむしゃむしゃする地下アイドルの方が、よっぽどおかしいのかもしれない。

 

そもそも彼女は、最初からそれらが反発者(アンチ)私信(メール)であることを分かったうえで、それを保管し続けていたのだ。

こちらの方が、よほど驚くべき反応(リアクション)である。

類は友を呼ぶのだろうか。

 

あまりの異常事態を目撃して、とっさに更(さら)なる『母』の叱責が飛ぶ。

 

「ほら見なさい、何でも手当たり次第に口に放り込むからです!

下手すると魂まで損壊して、復活も転生も出来なくなりますよ!

早くぺっしなさい!ぺっ!」

 

とても、少し前まで全力で殺し合おうとしていた者の台詞(セリフ)とは思えない。

 

「大丈夫!

ファンからの想いこそ、アイドルの動力源!

反発者(アンチ)も強火オタに変えてこその地下アイドルです!

『猫の国』(いせかい)でも言うそうですよ、”毒も皿ごと喰らえば無問題(モウマンタイ)”だと!」

 

ラリスキャニアは、相変わらず力強く反論するが、その口からは黒っぽい液体がこぼれている。

そして『猫の国』(いせかい)にそんな語句は無い。

 

思わず顔をしかめた『母』は、次の瞬間、別の要因で更に顔を歪めることになる。

 

これは…!

そして、こ、この甘い香りは…?」

 

こぼれた液体は、またもや文字の形を描いていた。

その静謐な呪文が何を意味するのか、それはもちろん――

 

ゲンリノヨウセイカタリテイワク

 

もう、"とりあえずこれを使っておけばなんとかなる"という扱いになってきた妖精呪文である。

 

実際には、そんなことは無いはずなのだが…寄生異獣よろしく己を蝕(むしば)む呪詛をも力に変えたラリスキャニアが、強引にその呪力を注ぎ込んで、効果を発動させているのだ。

 

その結果、事象は書き換えられる。

口から漏れた液体は、甘いチョコのプレゼントであり、身体から出た煙はファン特製の香水である。

 

愛憎を反転させることにより、その効果も逆転。

 

結果、地下アイドルの呪力と技量に大幅な増幅(ブースト)がかけられ…今、“もう一人”のラリスキャニアが待つ場所へ、夢世界への扉が、【門】が開かれる!

 

朱色が辺りを覆う中、人形の不在の頭部を通して、異界の光景が漏れ出していた。

それは、高度な端末を必要としない、原始的な映像の受信。

疑似的で間に合わせ(ブリコラージュ)な生贄を用いた、コスト踏み倒しの接続呪術。

すなわちーー

 

「中継、繋がってますかー!」

 

『夢』世界の実況中継である!

 

そして、言葉と同時に、実況者の背からもう一対の青い翼が勢いよく飛び出す!

 

二対の翼は上下真逆の方向に向かい、構造色の輝きを放ち始めた。

その姿は、あたかも珍しき蝶のようであった。

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