幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】   作:鳳卵

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第134話(その2の5~6)

ラリスキャニアは単に既定の動作(ムーブ)をなぞっているわけではない。

 

それは、外部性に依存した即興的な踊り(ダンス)

 

混沌(ランダム)な変化を、そしてその変化の変化としての性質ーー度合いと評価ーーを判断するための基準としての継続する律動(リズム)を、地下アイドルは、ファンの声援や芸から得ていたのだ。

 

もちろん、それだけではない。

『ファンサ』が存在する。

その、個々のアイドルやグループごとに異なるその身振りは、いわば認識を、承認を示す合図のようなもの。

 

地下アイドルは、それを周囲に展開し始めた無数の動画窓に向かって…野次馬を含めた全ての視聴者を対象として、繰り出していた。

 

しかも、分身をフル活用して。

 

けれど当然、巨人もそれを、ただ黙って見ているだけなわけもない。

 

校舎の残骸を丸ごと使った巨体は、戦場の響きを書き換え主導権を握らんと、目に映る全ての影に襲いかかってくる。

 

「このっ!このっ!」

 

だが、それも…

 

「「「みんなー!」」」

 

「そこかっ!」

 

「「「今日は、このラリスキャニアちゃんの練習ライブを見に来てくれて、」」」

「こざかしいっ!」

 

「「「本当にありがとう!」」」

 

「これでどうだっ!」

「「「ゆっくりしていってね!!!」」」

 

いくら攻撃したところで、まるで『暖簾(のれん)に腕押し』

紙や布のように宙を舞う地下アイドルによって、さらりと受け流され、ひらりと躱(かわ)されてしまう。

 

しまいには、生首のようなボール状になって、そこら中を跳(は)ね回る始末だ。

 

これにはたまらず、女教師も怒鳴(どな)った。

 

「何故(なぜ)だ!

何故そんな動きが出来る!

そんな動き出来るわけがない!

何の支援も無い状態でそんなに大量の客をさばくなど不可能だ!」

 

そう、ラリスキャニアの動きは、明らかにおかしかった。

 

たとえ彼女が、並列的な思考をしたところで、到底処理しきれるとは思えない。

 

おそらくは、反射なのだ。

訓練によって身についた、アイドルとしての反射的な動き。

 

恐怖や脅威に対し回避や停止を呼びかける本能を、更に上回って身体を突き動かす、第二の天性。

 

それはいわば、“アイドル反射神経”とでも呼ぶべき業(ワザ)であった。

 

そもそも、彼女のマジカルアピールは、触手によるファンそれぞれに合わせた、熱烈な握手(まきつき)である。

それを見れば分かるように、各個人に対応した奉仕(ほうし)こそ、ラリスキャニアの得意技なのだ。

 

もちろん、そうした『ファンサ』は彼女の専売特許ではない。

例(たと)えば、シナモリアキラ(サイバーカラテ使い)のアイドル集団(グループ)である『SNA333』にも、同様のことは可能だ。

 

だが、ラリスキャニアは、ちびシューラの補助も無しにそれを行っている。

 

初見の観客にも、その好みを分析して即応、それぞれのオリジナル・ファンサを即座に組み上げ、全体に行き渡るように満遍(まんべん)なく反応(リアクション)を返しているのだ。

 

そして地下アイドルは、まるで常に視界に無二の親友が写っているかのように、安心した微笑(ほほえ)みを欠かさない。

 

これほどの大量の奉仕を、しかも個別への『最適化』を行える者は、アイドル迷宮においてもそうはいないことであろう。

 

サイバーカラテのお株を奪うような、まさにファンサービスの大盤振る舞い。

 

もちろん、それは完璧ではない。

 

その相互反応(リアクティブ・ダイアローグ)には、どうしようもなく限界がある。

 

当然だ。

 

なにしろラリスキャニアは、SFに出てくるような理想の人工知能でも無ければ、神話に謳(うた)われる魔女でも、貴い血を引き英才教育を受けた天才歌姫、というわけでもないのだから。

 

彼女は、ただの一人の、世界全体では無名に過ぎないいちアイドル。

ただ、それだけだ。

 

だから、いくら熱意を込め努力したところで…そんなラリスキャニアの業(サービス)が、完全無欠になるわけがない。

 

けれどそれでも、それでもだ。

 

両手に葉っぱの翼をくくりつけた、鉄願の民の奇人でも、信じ続ければついには空を飛べるように…たとえ、最新型の箒のようなスマートさが無くても、いかなる才覚(ギフト)に見放されていても…アイドルも、きっと飛べるはずだ。

 

言うまでもなく、彼女が置かれた環境はとても厳しい。

例えばほら、今もラリスキャニアが飛び退(の)いた先には、恐ろしい糸の網が張り巡らされ、彼女を待ち受けている!

 

「かかったな!馬鹿めが!」

そして歓喜の声を上げて、巨人が獲物ごと網を握りつぶす…!

 

だが、それでも……

 

「どうだ思い知っ…これは何だ?」

 

それは、確かに“ラリスキャニア”ではあった。

ただ、それは異様に平たい。

手のひらを開いてみれば、残っていたのは一枚の大きな紙。

 

「ミヒトネッセの変わり身だと!」

 

驚愕するラクルラール。

 

男装メイド本人が気軽に乱用しているため、忘れられがちではあるが【変わり身の忍術】は、異界知識に長けた『塔』の秘伝である。

いくら“興行主”が、地下アイドルの研究に力を注いでいるとしても、そう簡単に真似られるわけがない。

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