幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】   作:鳳卵

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第135話(その2の6~7の途中)

もちろん、そこにはそれを成り立たせるための“仕掛け”があった。

 

てらてらと光るそれは、明らかに大量生産された印刷物であり…おまけに光る油性ペンで何かが走り書きされていた。

 

しかも、末尾にあるのは(ひどく変形してはいるが)飾り文字による署名らしい。

 

それには、こうある。

 

〈ラクルラール先生へ愛を込めて、ラリスキャニアより♡ 〉

 

無言で破り捨てるラクルラール。

 

更に、一瞬のうちに宙空を無数の線が走り、一枚の紙だったものをあっという間に紙吹雪へ、そして目に映らないほど細かい塵へと変えていく。

 

それについては、罠を仕掛けた当人から解説のコメントがあった。

 

「ああー、“ラリスキャニアちゃんテニヌプレイヤー限定版ポスター”が!

でも大丈夫、まだあと80枚ありますからね!

先生なら、特別に最高会員価格でお譲りしますよ!」

 

「いるかっ!」

 

追加の一撃。

 

だがそれも、新しい【変わり身】によって、当然のように退けられてしまう。

 

今度残ったのは、小さなフィギュアだった。

よく見れば、それにも、何やら製造刻印(シリアルナンバー)らしきものがあるのが分かる。

 

「なるほど、使用する物品の質で技術を補ったか!」

 

そういうことであった。

 

言うまでもなく、ポスターやフィギュアは本人(アイドル)の代用品、すなわち呪術的な形代(カタシロ)である。

 

それらのアイドルグッズは、元々、オリジナルの代用として作られた品である上に、限定販売されることで、希少性という普遍的な価値が昇華されていた。

 

そもそも、いくら秘伝とはいえ【身代わりの術】に使われている原理はごくありふれた(ゼオータイル)類感の呪術である。

 

似ているのなら、同じもの。

 

つまるところ、人形(フィギュア)によって偶像(アイドル)を代替出来るのは、呪術的には当然の術理であった。

 

加えてもちろん、これらは既にファンの手に渡った彼らの愛用品である。

 

『猫の国』(いかい)より伝わった伝承に曰く、愛用されたモノには魂が宿る。

これもまた、第五階層ではもはや常識である。

 

なにしろここは、アストラル体を持つ人形で溢(あふ)れ、機械女王に支配されている国なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「このっ!この!このォォオ!」

その攻防は、延々と続くかと思われた。

 

だが、鋭い言葉がそれを止める。

 

「下僕から呪力を吸収するだけでなく、一度与えた財物まで奉納させて、糧(かて)にするとはな……

この私でもなかなかそこまではやらんぞ。

良い心がけだ弱肉強食の社会ルールが身についてきたかそれも私の指導の賜物(たまもの)だろさあ認めろさあさあさあ!」

 

痛烈なる非難。

そして、すかさず自己の優位性を主張する。

呪文による舌戦は、あらゆる競技における基本である。

 

おまけに、今回張り合っている二人は、師弟の間柄。

 

当然、『指導』という形であらゆる指摘、非難、正論に見せかけた嫌がらせなどは、幾(いく)らでも行うことが出来るのだ。

 

「そんなことはありません!

単に協力してもらっているだけ、これは、あくまで任意参加のお祭り(イベント)です!

グッズを提供してもらった子豚ちゃんたちには、値段相当以上の、価値ある新しい記念品やスペシャルな体験(アクティビティ)をお返しする約束になっています!

みんなに提供してもらった以上の価値を、ボクが返す!

これは、そうした循環なのですよ!」

 

「詭弁だな。

全ての運動はエントロピーを増大させ、磨耗させていく!

どんなに互恵性(WINWIN)があるように見える関係でも、やがては破綻(はたん)し、支配と略奪へと変わる!

さてその“循環”とやらは一体いつまで続くのだろうな?」

「!?」

 

痛いところを突かれた表情を、指導を専門とする女教師は見逃さない。

この敵は、シナモリアキラ(サイバーカラテ使い)ではない。

『七色表情筋トレーニング』なんて、便利な呪術アプリが使えるはずもない。

 

だから、こんなにも簡単に…ボロを出す。

そう、その指摘は、地下アイドルにとっての急所を突いていた。

いかなる攻撃も、無効化する『身代わり』は、確かにとても強力だ。

だが当然、そんなものが無制限(タダ)で使えるわけがない。

臨死の危機を脱するためには、それ相応の対価が求められる。

 

『身代わり』に使える品に相応の価値が求められる以上、それだけの品を、どこかまたは誰かから“供出”させなければならない。

 

それはつまり、その犠牲に対し、ラリスキャニアにそれだけの価値があるのか?と言う点を、否応無く問われることになる、というわけだ。

 

「アイドルとファンの関係は、未来永劫(えいごう)に続きます!

ボクは、ボクのファンを何よりも大切にしています!

みんなみんな、ボクの大事な子豚ちゃんたちなのです!」

 

必死に抗弁する地下アイドル。

だが、

 

「それは大事な“消費財”、お前に必要な金蔓(カネヅル)の対(てい)の良い※言い換えに過ぎない。

お前という小国の王を支えるための、犠牲(いけにえ)

花を咲かせるために肥やしになる死体のような、“養分”というわけだ」

 

ラクルラールの弁舌は、的確に悪意的な解釈をぶつけてくる。

それは、絡みつく蜘蛛の糸のような粘着性。

滴(したた)る毒が、じわじわと力を奪っていく魔言の網だった。

 

 

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