幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】   作:鳳卵

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第136話(その2の7~8の途中)

ラリスキャニアは、それでも必死に言い返した。

 

「違います!そんなことありません!」

 

けれど、その発言は、いかにも苦し紛(まぎ)れに聞こえた。

だが、退くわけにはいかない。

 

ここでラリスキャニアが退いたら、彼女を今も支えているファンたちの献身が、それこそただの使い捨ての消費財に、貶(おとし)められてしまうのだから……

 

そうして、地下アイドルは踊りながらも、なんとか舌戦を繰り広げていた。

 

それでも、ラクルラール巨人からの回避が安定してきたこともあり、なんとか凌(しの)ぎきれる…はずだと、当人はそのように思っていたことであろう。

 

だが、そうは問屋(とんや)が卸(おろ)さない。

 

「こ、これは…!」

 

「気付いたか。

そうだ。

貴様には、もったいない処刑台(ステージ)をくれてやろう」

 

そう、ラリスキャニアは、その時ようやく気付いたのだ。

巨大な拳を掻(か)い潜(くぐ)る最中も、視界の端をよぎる、拭(ぬぐ)えない違和感。

 

ふと見上げれば、空が、ひび割れていた。

 

天井の破壊!?

まさか、崩落罠か!?

ここは夢世界なのに!?

 

いや、違う。

間隙(かんげき)なく襲いくる魔手を逃れながらも、深呼吸して観察すれば、しっかりと分かった。

 

これは、芸術だ。

 

全天を覆うは、数多(あまた)の模様。

菱形(ひしがた)、放射線、平行四辺形。

 

空を走るは、無数の線。

幾何学模様の連なりは、様々な形を描き出し、それはときに、錯視によって、色さえも幻として浮き上がらせている。

 

その表現、まさに千変万化。

描かれた”糸の絵"は、花や山岳などの自然から、ここにて戦う二人を戯画化(カリカチュア)した漫画まで実に多種多様。

 

その“業”(ワザ)は、遂(つい)には、四つの月を完全に再演し、四方に飾りたてるまでに至っていた。

 

そう、それは“業”(ワザ)

人域ならぬ魔域の技量。

神業ならぬ、魔業(マギ)なれば、いかなることも思いのまま。

 

ステンドグラス、インテリア、絵画、壁画、念写写真、彫刻、現代アート。

絨毯(じゅうたん)、照明、タペストリー。

 

どれにも似ていて、どれとも違う。

誓って初見の業なれど、この作風(タッチ)なら、一目瞭然(いちもくりょうぜん)

 

すなわちこれぞ、現在相対している敵手、女教師ラクルラールの仕掛けに他ならない。

 

この演目の“興業主”は、否応なく気付かされた。

縦横無尽(じゅうおうむじん)に逃げ切ってきたはずが、とんだ隘路(デッドエンド)に追い込まれていたことに。

 

つまるところ…ラリスキャニアは、とっくのとうに、閉じ込められていた。

 

青い糸が、天地を覆う。

それは、たった一匹の虫を捕らえるために用意された、巨大なる虫籠。

其(そ)が描き出すは、全世界。

 

その網籠(あみかご)は、究極の結界であり封印だった。

 

そもそも、糸紡ぎは、古来より女性と関連づけられる高度な専門技術である。

 

糸は、古代における最先端の工業製品であり、それを製作する“業”は、真の専門家(プロフェッショナル)だけに許されたもの。

 

それは、母から子へ、祖母から孫へと代々受け継がれてきた。

もちろん、そうしたときに教えられるのは、それだけに留(とど)まらない。

糸紡ぎのときに歌う『紡ぎ歌』、それに込められた教訓、文化、伝統、昔話や神話、そして神秘。

 

そう、呪術は女たちの間で、糸紡ぎと共に伝えられてきたのである。

 

ゆえに、糸と編み物は、古来より伝わる呪いなのだ。

世界で最も糸の呪術に長けた半神が、それを自在に操ることに、何の不思議があろうか。

 

古代より生き続ける不死の魔女、キュトスの姉妹の中で、最も神に近い九柱。

これが、その『守護の九姉』たる確かな所以(ゆえん)であった。

 

籠(カゴ)の中、ラクルラールは、巨人の肩の上で糸を繰(く)る。

 

手の中で橋のように渡されたその青い線は、果たしていかなる異界の業か。

 

天知れ地知れ人よ知れ、至高の魔女はこれにあり。

 

その掌中(しょうちゅう)で千変万化し、多様に、そして瞬(またた)く間に形を変えるその糸の群れはそのまま世界であり、『社会の厳しさ』を弟子に叩き込む彼女ならではの『愛の鞭』

 

体罰否定論など、なんのその。

 

女教師は、巨大な編を次々と変形させて、地下アイドルめがけて攻撃を繰り出していく。

 

そこから繰り出されるのは、嵐のように激しく、傘をくぐる雨のように逃(のが)れがたい連撃だった。

もちろん、ラリスキャニアは、それでも避ける。

避けて、跳(と)んで、逃れ続ける。

 

けれど、そこへ追加の攻撃が加えられた。

殺傷力は皆無だが、ある意味致命的なまでに強力な一撃。

言ってみればそれは…ただの動画でしかなかったけれど。

 

要するに女教師は、一枚の動画窓を乗っ取り、彼女の生徒に叩きつけたのだ。

 

 

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